はじめてのせいれいまじゅつ
ちまちま改訂中…
さて、今日からは修行が始まる予定だ。いっちょやったりますか!って、その前に時計の話をしよう。
とりあえず砂時計は概ね完成したようだ。恐らくズレが出ると思うが、仮に1日が24時間だと仮定する。比較的安定した生活リズムを保てているであろかアズに、一日の終わりと始まりを俺に告げてもらうことにした。
このサイクルを24時間周期として強引に決めた。つまり、一日に二回とアズと顔を合わせ、「おはよう」と「おやすみ」を告げてもらうことにしたわけだ。
やましい気持ちはある。もちろんその気になればそういうこともあるだろう。
だがアズと毎日顔を合わせたいというのは本心だ。
アズもそう思ってくれると信じて、俺は自分の「ルーム」で待つことにした。
「おはようございます、善一さん」
「ホウセンが来たらどうしようと思ってたわ」
アズは約束通り来てくれた。
フラグになりそうなことを言ってしまったが、アズは誰かが自分より先に俺の「ルーム」に誰かが訪れることは、恐らく無いのではないかと言っていた。
どうやら、アズは俺が創造神の魂の化身であるといった旨を他の神に伝えたようだ。てっきりシェラやラピュータ辺りは知ってるものだと思ってたが。
その結果、他の神は、俺に対して少なからず畏怖の感情を持ってしまったらしい。例外はヨシュアとホウセン、まあ性格的なものだろう。
ヨシュアには一日一回は訪問することを約束したし、ホウセンに関しては……うん、そういうことに畏怖したりするタイプじゃないよな、多分。
「ホウセンさんは、善一さんに大変興味を持っているようです」
「戦闘狂ってことかね」
やる気満々だったし、突然押しかけてくることも有り得るのではなかろうか。
そう尋ねると、アズは少しばかり悩んでみせる、やっぱそういう神なん?
すると、「名案」とばかりに思いつきを述べる。
「ホウセンさんは、あまり睡眠を取られないと聞きました。ホウセンさんは元々他の神が眠っている間、警戒のために起きていることが多かったようです。善一さんが睡眠を必要としないのであれば、私たちが眠っている間にホウセンさんに教わってはいかがでしょうか」
なるほど、俺しか起きていない時間でもホウセンは起きてるのか。
その間にホウセンに教われ、と。
しかしそれは少しばかり危険ではないだろうか?マンツーマンは怖いんだが。
「そもそも俺はホウセンに殺されたりとかしないだろうな?」
それを聞いたアズは目を逸らしてみせる。うん、何となく分かってた。
神族は精霊体にバッチリダメージを与えられるワケね。
そもそも生命力が0なんだから何を以てダメージとするかかなり謎なんだが、血っぽいものは出るし、ならば死ぬこともあったりするのだろう。
少なくとも体液が出るのは確認済みだし……。
「……ヴァニスちゃんから早めに治癒魔術を教わってください。それから致命傷になりそうなダメージをなるべく避けて、あっ、アインさんの協力も得ましょう!リソースで回復薬を作ってもらっておいた方がいいと思います!」
何とも先行き不安だなあ。
まあ優先順位はこれで決まったか。
というわけでアズと話合い、元々まとめたメモと見比べながら、真っ先にやることを決める。
当面の優先は、ヴァニスとの訓練だな。魔術だっけか。そっからだな。
俺も早く魔術を使ってみたい。治癒魔術って回復魔法みたいなもんなのかな。
アインに対してはアズに頼んでもらうことにした。
ホウセンにも一応伝えるが、あまり期待しないで欲しい、とのこと。
いきなり手合わせとか、そういうのはマジ勘弁していただきたい。
武神と真っ当に戦えるワケないだろ。こっちはつい先日までパンピーやで。
◆◆
ヴァニスの元へ向かったところ、まだ少しばかり立て込んでいるとのこと。
適正調査の準備をしている最中のようだ。
また、俺の方にも準備してもらいたいことがあり、
「ラピュータの元へ行って、相性のいい精霊を連れてきてください」
とのことだった、なんかよそよそしい。
何故かと聞くと、精霊魔術の適正を見るのに、精霊が少ないこの場所では難しいのだそうだ。
というわけで、まずはラピュータの元へ向かう。
辿り着いたラピュータの森は相変わらず多数の精霊が住み着いていた。
先日は木の周りに「何か」がいるという認識だったが、今はうっすらと精霊がそこにいるのが分かる。
ただ、中央で舞っていた妖精型精霊ほどはっきり認識出来るわけではない、モヤのようなものをうっすら感じるだけだ。これも一つの進歩だろうと、少し歩幅を緩めて向かう。
うっすら見える程度の精霊からは何も意思が届いてこない。
試しに(きみたちはそこにいるんだね)と【念話】を使用してみたが、反応は微弱だ。
ただ、全く無かったという感じはしない、僅かに脳にノイズが混じったし。
定期的にこの森には来るつもりなので、挨拶くらいは毎回してみるか。
精霊を連れて行くことについて、ラピュータは俺の申し出を快諾してくれた。
「精霊にとって意思疎通の出来る相手と共にすることは、最大の幸福!拒むことなどありえません!」
精霊魔術の適正について調べるつもりなので、そこに引っかかりはないのかと思ったが、そんなことはないらしい。
そもそも精霊魔術とは「精霊を使って魔術を使用する」ものではなく、「精霊と協力して魔術を行使する」ものだそうだ。
ヴァニスは前者を認めておらず、後者については理解は深いらしい。
そもそも精霊は、気まぐれではあるが、他者のために働くことが好きらしい。
それでは遠慮なく、と、俺に合う精霊を紹介してもらおうと思ったのだが。
「この子達に呼びかけてみてください。カノー様自身のお言葉で問いかけてあげてくださいまし。相性のいい相手を見つけるには最適の方法でございます」
ふむ、ならばどう話しかけてみようか。
どうも難しい言葉では伝わらない気がする。
精霊魔術を使いたい、では通じないかもしれない。
(きみたちにおねがいがある、たすけてくれる子は、おれといっしょにいてほしい)
どうやら上手く伝わったらしい……が。
無数にいた妖精達は我先にとばかり俺に擦り寄ってきてしまった。
それでもまだまだ妖精達は舞っている。
(ありがとう。きみたちは、ともだちがいっぱいいるんだね)
とりあえず近づいてきてくれた、下手すると100を超えるんじゃないかと思える妖精達に感謝を伝える。いや、視認出来るのがそれくらいって話で、実際にはもっといるのかもしれない。
(わたしたちは、みんないっしょ)
(だけど、いろんなともだちがいる)
(でも、ともだち。みんないる)
(あなたは、あたたかい)
少しばかり理解に悩む、みんないっしょ?ともだち?
「もしかして精霊って、集合生命体みたいなものだったりする?」
この物言いが合ってるかどうかは知らないが、ラピュータは少し考えると、言いたいことが分かったようだ。
「精霊とは、「個」というものは基本的にありません。感覚を共有している部分は多々ございます」
つまり別々に見える精霊でも、大きな意味では1つということだろうか。
「厳密には、精霊にも属性がありますので、それぞれの属性を持つ集団、といったところでしょう」
なるほど、属性が違う精霊が「いろんなともだち」で、同じ属性の精霊は「わたしたちみんないっしょ」ということか。
「なるほどね、今俺の近くにいる精霊の属性は分かる?」
「全ての属性の精霊が集まっておられるご様子。やはり精霊に愛される御方なのでしょう」
ラピュータも嬉しいのかニコニコとしている。
だが俺としてはちょっと意外ではある、何かしらあまり合わない属性があったりするものかと思ったのだが。
「それほど珍しいことではありませんよ。特に、精霊は純粋ですから、【念話者】であるカノー様のお手伝いが出来るとなれば、それはとても喜ばしいことなのです。昔も【念話】スキル持ちは一流の精霊魔術者であることが多かったそうですし、カノー様もきっとそうなれますわ」
そういうもんか、と適当なところでヴァニスの元へ戻ることにする。
◆◆
「手間を取らせちゃってごめんね」
「気にするな、こっちは教わる側だ」
ヴァニスの元へ戻ると、どうやら準備が整ったらしく、何やら体育館のようなところへ案内された。
どことなくやりにくそうではあったが、今の俺はただの元人間だ。気にすることはないと告げると、言われてみれば、といった感じで昨日の調子を取り戻したようだ。微妙にチョロい。
敬うことはするが、敬われるのはあまり居心地がよろしくないのだよ。
ちなみにこの体育館、ヴァニスが一晩でやってくれました。という擬似地上界を「ルーム」に作りあげた空間だそうな。
神界で魔術を行使するのは魔力の低い俺では難しく、魔素の濃い空間を用意したとのこと。
魔素ってのはヨシュアからも聞いたけど、実際のところ何なんだ?とりあえずヴァニスに聞いてみた。
目に見えないものを説明するのは難しいけれど、というヴァニスの説明は、概ねこんなところだ。
魔素は、大気にある魔力のことを指すようだ。
魔術とは行使者の魔力を触媒にした術式を使って、大気にある魔力を様々な形にする。これが「魔術」の概要になる。
どういう形にするかというのは、簡単なものだとヨシュアの火花のようなものから、大陸全土に大地震を起こすようなものまで、相当ピンキリのようだ。
ついでに「魔法」と「魔術」の違いについて聞いてみたところ、ヴァニスからすると、「魔法」とは術式を伴わない「魔術」のことを指すのだと言う。
「魔術」の行使に最も必要なことは、正しい術式を理解することであり、俺のような低い魔力の持ち主でも、術式理解が及ぶ範囲ならばある程度は使えるようになるとのこと。
「魔法」は明瞭な「想像力」が必要で、火を起こすにしろ「どうやって火を起こすか」という想像力が必要であり、なおかつ高い魔力を持つ者でなければ行使することは難しい。
とりあえず魔素というのは、魔術なり魔法なりを発動させるための元素的なもの、という捉え方で良さそうだ。
「つまるところ、俺は魔力が低いから魔術を覚えろってこったな。実際、ヴァニスはどうなんだ?」
「ボクは魔法が使えないわけじゃないよ。[鑑定]は「対象のことを知る」っていう魔術式を組み込んだ魔法だし。ただ「知る」ってことが曖昧だから、そこを詠唱でイメージを補って魔法として使ってるんだ」
地上に「ステータスボード」を作り出したのはボクなんだよ、と胸を張る。
「ステータスボード」というのは[鑑定]の結果を表示したあの紙のことだ。
今でも何かしらの形で地上に残っている可能性は高いそうな。
ただ[鑑定]は、極めて難易度が高い魔法らしく、実際に使える魔術使いは相当限られるらしいが。
「それじゃあまず、どんな魔術に適正があるか見てみようか」
ヴァニスはそう言うと、色とりどりの丸い水晶を取り出した。
「これらに触れて、魔力を流してみて」
魔力を流せと言われても……とりあえず緑の水晶を手に取って力を込めてみるが、当然何も起こらない。
この水晶に何かしらの力が働いてることは、なんとなく分かるのだが。
「やり方がわからん」
「あ、そっか。魔力感知は出来ても魔力操作はできないのか、どうしようか」
普通逆なんだけど。と、割と本気で困っている模様。
幼児でも出来るようなことなんだろうなあ、基本能力ってことかね。
あ、スキルでティンときた。もしかしたら、魔力操作って……。
「その、魔力を流すっていうところを、何回か見せてくれっかな」
そう伝えると、ヴァニスは青い水晶を手に取り、何度か光らせてみせる。
その光景をじっと見つめていると、何度目かの光で「何となく」出来そうな感じがしてきた。アレが効いたっぽい。
「よし、やってみるわ」
ちょっと困惑気味のヴァニスにそう伝えると、手に取った緑の水晶に力ではなく、「魔力」を込める。
すると、僅かながら緑の水晶から熱を感じ、ほのかに光り始めた。
なんか微妙に体から力が抜けていくような感じがする、むう……。
「ちゃんと操作できてるじゃないか、やればできるんだね!あ、もういいよ。一つ目は終わりってことで」
そう言われて魔力を流すのを止める、っていうか止まった。
体が疲れたってわけじゃないけど、かなりの疲労感を感じる、虚脱感半端ねーわ。
「コレなんかすごい疲れるんだけど」
「初めてだし仕方ないかもね。魔力が少ない人ほどそういう傾向にあるみたいだよ」
ヴァニスはそう言うけど、これあれだ、多分MP的なもの消費してるわ。精霊体は疲れないって思ってたけど、体力的な部分じゃないトコで疲れてる。
まだ自分に【解析】をかけるのは鏡無しじゃ出来ないから確認は出来ないけど。
「悪いんだけど昨日の鏡出してくれっかな」
ヴァニスに鏡を取り出してもらうと、自分自身を写して【解析】をかける。
魔力量の欄が「2/13」になってた。使い切ったかは不明だけど、先ほどの虚脱感はマシになった。
ただ昨日は12/12だったから、1だけ最大量が増えたっぽい。原因は不明だけど。
そんでもって、これまた予想通りに、汎用能力に【魔力操作1】という項目が増えてた。
ヴァニスに礼を言うと、鏡をしまってもらう。
何をしたのかは分かっただろうな。
「【解析】したのかい?」
俺は頷くと、恐らく魔力を使い切ったことと、魔力操作が行えるようになったことを説明した。
「カノー様の魔力が低いことは分かってたけど、出力だけじゃなくて許容量も相当低いみたいだね」
仕方のないことだけども、と続けるヴァニス。
魔力はステータスが高ければ、それだけ扱える出力や精度も高まるのだが、個人の許容出来る範囲を超えて魔力を行使すると、「魔力切れ」という症状で倒れるそうだ。
死んだりすることはまずないけれど、一度魔力切れを起こすと、自然回復を待つ必要がある。
元々体内の魔力は自然回復するものであり、個人の許容量範囲であれば、回復を促進する回復薬も存在する。
ただし、「魔力切れ」症状は、一度完全に回復しなければ魔力を扱うことが出来ないそうだ。許容量がMPで、一度尽きたらフル回復するまで魔術のリキャストは不可能、ということか。
ちなみに俺が倒れなかったのは、精神力が極めて高いから、というヴァニスの推測だ。確かに倒れそうな気持ちにはなったけど、そこまでいかなかったのは、そういう理屈か。
根性だね、気合だね。ってか、もしかしたら、ってのはあるんだけど、確信はない。
「まあ普通は魔力切れになる前に止めるんだけどね。回復するまで10日かかることもあるくらいだし、そもそも魔力が少なくなってきたら、疲労もひどいことになるからね」
「それは実体験っぽいんだが、どうなんだ?」
「ボクも若かった」
などと恥ずかしげに言う、見た目中学生。
他人の事はあんま言えないけどな、俺も青年だし。
意識も随分若くなった気はするけど、じじいの気持ちも忘れちゃおらんぞ。
「ところで魔力を流してみせたけど、それだけで魔力が扱えるようになったのかい?」
「魔力が扱える、っていう感覚はまだ掴めないけどな。多分俺の固有能力のおかげだな」
「えっと、なんつったっけ」
【模倣】は確か読めなかったんだっけ、効果についても説明したはずだけど。
「効果は聞いたけど、ボクにはよく聞き取れないスキル名だったんだよ。見ても読めなかったし」
あー、もしかして模倣じゃ伝わらないか?
「えーっと、【模倣】、つったら分かる?」
【解析】がアナライズだったんだから、そんなに外してもいないはずだ。
「なるほど、【模倣】、か。何となく察しは付くね。というか、物凄く都合のいいスキルに聞こえるんだけど気のせいかな?」
「昨日も効果については説明したが、【固有能力】がコピー出来るわけじゃない。それに【汎用能力】はそもそも俺しか知りえないんだから、物凄い、とまではいかないんじゃないか」
ただ理論的に知る必要がなさそうってところが、便利ではあると思う。とっかかりやすくなるとでも言うべきか。
人真似が上手いというか、人がやってるところを見てコツを掴むのが早まるとか、その程度の話じゃないかと思うんだけど。
そんな感じで伝えてみたのだが、ヴァニスは神妙な表情で何かを考え込んでいる。【模倣】の可能性について考えているようだが、俺から説明出来ることはもう話したしな。
やがて考えがまとまったのか、ヴァニスは首を振りながら言う。
「もしかしたらボクが魔術をいくつか見せることでカノー様も覚えるかなって思ったけど、そもそも【汎用能力】が何なのかよくわからないし、やはり基本的なところから始めた方がよさそうだね」
「俺もその方がいいと思う」
【模倣】で一気に1から10まで知ることは出来ないっぽいし、【魔力操作1】を取得しても、ぶっちゃけ魔力を流すだけで止めることが出来なかったことから、どのみち訓練は必要だ。
ただ、どういうものか、という概念を何となく感覚で掴める、という程度に過ぎないと見るべきだろう。
「そもそも術式とは何か、っていう根本的なところから説明してもらわんとなあ」
「そうだね……でも魔術って本来は学問だから、とっつきくらいは【模倣】で得られた方がいいかもしれないけど」
「術式ってのはあれか、数学とか物理学とかそういう類のものなのか」
「そういうところは分かるんだね。まあそれより高度な学問だと思ってくれればいいよ」
難しそうだな。文字の習得を先にした方がよさげかなあ。
「とりあえずは予定通り、魔術適正を見ていこう。魔力は回復したかい?」
「よく分からんが、魔力を流すだけなら問題なさげだな」
「じゃあ、次にコレを……」
4つ目の水晶から、何とか魔力を止める、ということが出来るようになった。
全部で12個の水晶に魔力を流したところで、適正についての調査は完了となったようだ。
結果として、全ての水晶を光らせることが出来た。
「少なくとも、ボクの知る限りの魔術については、ちゃんと行使することが出来るようになるよ。もっとも、ボクが知らない魔術なんて、今の地上にあるとは思わないけどね」
「ほう、それはレアな存在なのか?」
「たまに一つに突き抜けて適正を持ってる魔術使いがいて、それ以外の適正が極端に低いとか、そういうことはあるけど」
向き不向きの問題だね、とヴァニス談。
しかしそれだと適正無しってことは有り得ないんじゃないか?
「その魔術の適正が無いと出るのは、その魔術を学ぶ気が無いか、その魔術より格上のスキル持ちかのどちらかだね」
少なくともこの水晶郡は、そういう風に調べるものであるそうな。
ってかそれだったら俺がこの適正調査をする意味はあったのだろうか。
「とりあえず向いてる魔術から覚えた方が効率がいいからね。カノー様は魔力の問題もあるし」
なるほど、それは一理ありそうだ。
ならば向いてる魔術が何になるか知りたいところだが…。
「正直見た目では分からなかったよ。法術系はちょっと低めかな?って感じ」
というガッカリな返答を頂いた。
ただ、魔力を流した水晶を解析することで、およその向き不向きを調べることは可能だと言う。
ならば、と【解析】を試しに赤い水晶に実行してみたのだが、「魔術適正鑑定水晶(火)」という名前しか出てこなかった。【解析】の仕様もまだまだ検証が必要そうだな。
水晶の解析はアインと共同して行うということで、2~3日かかるそうだ。
治癒魔術を優先して覚えるというのは、解析が済んでからの方がいいとのこと、残念。ホウセンが速攻殺しにくることがありませんように。
「でも、今すぐ使える魔術はあるよ?」
ちょっと落胆していた俺にフォロー気味に伝えてくるヴァニス。
「精霊魔術なら、多分カノー様でもある程度はすぐに使えるんじゃないかな」
「ほう?精霊魔術ってのは精霊と協力して行使する魔術と聞いたが」
「うん、そういう認識で合ってるよ。本当なら精霊に協力してもらうための術式を組んで、それから発動させる魔術なんだけど……」
俺の場合、その術式は知らなくても問題ないらしい。
高度な精霊魔術にはどうしても術式が必要になってくるそうだが、簡単なものであれば、精霊に直接「お願い」が出来ればいいそうな。
精霊魔術ってのは結構アバウトだったりするのだろうかとか思ったが、魔術神としては、魔術の中でもかなり難易度は高いらしい。
「試しにやってみたらどうかな?精霊連れてきてるっぽいし」
ヴァニスも精霊がいる事は分かっても、存在まではっきり見えるものではないらしい。
実のところ、俺もさっきまで妖精の存在を忘れてたりするんだよな。居ると思わないと見えない存在ってのは不思議なもんだ。
「試しにやってみるっつってもなあ」
何をどうお願いするか、かなりファジーになりそうなんだが。
「じゃあ、今から的を作るから、それに攻撃するってのはどうかな」
ヴァニスがそう言うと、10メートルくらい先に人型の人形が現れた。
「どの属性の精霊を連れてきてるか分からないけど、その属性に応じた矢を放つイメージで攻撃するといいんじゃないかな」
「どの、って言われても……」
そもそもどんな属性があるんだ?そういう説明は受けてないのだが。
「ラピュータから聞いてないの?」
「全部、って聞いてるけど」
へ?という間抜け声がヴァニスから流れた。
うん、そういう仕草は年相応に見えて可愛いと思うよ。
「ごめん、ちょっと意味が分からなかった。普通の精霊魔術は術式を使って特定属性の精霊に呼びかけるものだから……」
全属性が揃ってここに存在していることがイレギュラーだ、と。
属性としては、火・風・土・水・光・闇の6種類とされており、ラピュータもそれを肯定しているのだが、俺にはもっと種類がいるように見える。
むう、これはあれか、むしろ妖精に聞いてみる方がいいのか?
とりあえず緑の子に呼びかけてみる。
属性は何か、と問いかけても返事が来ない、何言ってるの?って感じだ。
特定の子に話しても通じないか。
(火をつけられる子は、いるかな?)
アプローチを変えてみる、すると何人かの返事が聞こえてきた。
(あれに火の矢をうてる子はいるかな?)
(わたし、できるよ)(わたしもできる)
うむ、だいぶ近づいたようだ、赤い子から返事が聞こえた。
(おれをてつだってくれるかな?)
あくまで気楽に、伝えたつもりだった。
2人の子が俺の体の中に入り込んできた。
なんぞこれ、身体が熱い!
(はやくしないと、やけちゃうよ)
どうしろと!?
「カノー様!的に矢を放つイメージをして!」
テンパっているのが分かったのか、ヴァニスが焦った助言をしてくる。
「火属性なんだね!?その力を矢にして放つんだ!」
この力を矢に……この熱を矢にして放つ?
考えろ、焼け付くような感覚を必死に押さえ込む。
矢を放つために必要なのは、矢だけではなく、弓も必要だ。
焼けるような体を必死に押さえ込む、想像しろ。
体内に巡る、二種類の熱を、魔力だと思い込む。
(わたしがとぶ)(わたしがとばす)
脳内に赤い弓と、青い矢が浮かんでくる。
これだけでは足りない。考えろ、何が足りない?
そう、弓矢には弦が必要だ。
弦はどうすればいい?
(げんがない)
(わたしがなる)
俺の必死の呼びかけに、一人の妖精が応える。
ヴァニスの声はもう聞こえない。
熱とはまた、異質な感覚に、俺の体の悲鳴があがる。
これが弦の材料。弓矢が、完成した。
(あとはあなたのやるべきこと)
想像しろ、矢を引く自分を。
弦が硬すぎて引けない?
いや、引けないなんて有り得ない。
これは「引けないと思った」だけだ。
俺は引ける、この矢を撃ちだすことが出来る。
そう思い込め、この矢をあの的に届かせる。
ただそれだけを考えろ、余計なことは考えるな、イメージするんだ。
引け、引け、引け。
引けた、さあ、狙いはアレだ。
(できた)
次の瞬間、人形が消滅したことが視界に映り、俺は逆方向に吹き飛ばされた。
◆◆◆
ヴァニスは、空間が破壊されかねない程の魔力を善一から感じ取っていた。
まさかこれだけの魔力を、[火矢]ごときに注ぎ込むというのか。
精霊魔術は本人の魔力の高さは問題ではない、精霊に魔力を注いでもらって行使する魔術なのだから、この際魔力Fは関係ない。
「カノー様!今すぐ魔術を中断して!」
しかも単純な火属性の精霊魔術ではない。善一の様子は明らかに暴走間近。
精霊体といえど、これだけの魔力を込めれば魂ごと破壊されかねない。
これは自身の知る精霊魔術とは明らかに別物だ。
そもそも魔力Fの善一が扱える量とは次元が違うレベルで魔術が行使されようとしている。
火法術で使うとしたら、元魔王クラスの魔力Sの術士が数時間練り上げて作り出し、なお扱いきれるかどうか。
焦るヴァニス、だがその声は善一に届いていないのもまた明らか。危険という域は既に通り越している。
苦悶に満ちた表情の善一、しかしその異常なまでの魔力は更に膨れ上がる。
(空間が持たないっ!?)
ただの火属性ではないのはもはや感じ取るまでもない。
その上、得体の知れない何かが混じり、その魔力は更に増した。
もはや暴走寸前というより、暴走しない理由を探すことが難しい。
そして、魔術神でも制御しきれない程の魔力が、一気に収束する。
「なんと……」
既に善一の表情に苦悶の色は無い。むしろ悟りの域に達したかのような彼の目線は、人形ただ一点を見つめている。
そして、発動の声すらあげずに、「ソレ」が放たれようとしている。
「ソレ」はまぎれもなく[火矢]そのものだとヴァニスは認識した。
あの膨大な魔力を収束した結果だ。
あれは危険だ。
ヴァニスは直感を信じ、己の持つ最大級の防御結界を自身に展開する。
持っているリソースは全て空間の維持に使用済だ。
信じ難いことだが、善一は尋常ではない[火矢]の制御に成功したのだ。
そして[火矢]は放たれた。
僅差、というには少々足りないほど、際どい攻防だったように思う。
ヴァニスは空間の維持に成功した。
しかし自身の防御結界は消失してしまった。
魔力切れを起こさなかったのは、僅かな時間で魔力を練り上げることが出来なかっただけだ。
神の身ながら、少なくないダメージを負ったヴァニスは、善一の姿を探す。
周囲で見当たらないことに焦りを感じたが、自身から100mほど離れた場所に、その姿を確認することが出来た。
存在は確認出来たが、果たして魂は無事なのか。
ダメージを負った身体を無視して、彼の元へ駆けつけたその時。
「死ぬかと思ったわ」
善一は何事も無く立ち上がった。
※4/13追記 7000文字がとても短く感じられるようになってきました