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転生者は創造神  作者: 柾木竜昌
第一章 天寿・そして再会~神界編~
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稀代の異才の死

「そろそろお迎えってところかねぇ」

 俺は一人、布団の中で仰向けに寝転がりつつ呟く。老年期に入ってはいるが、まだボケたりはしてない。

 人の寿命は長くなったけれど、それは高度な医療であったり、そもそもの健康チェックによるものだったりするわけで。

 少なくともこんなことがボヤけるのだから、死ぬ間際にしちゃあ上出来ってところだろう。


「やっぱあれか、定年記念とか言ってアフリカ横断一人旅とかやったからか」

 入国チェック時には特に何か感染してるとか言われなかったんだけどなー、と思いつつ、自分の腕を見つめる。

 若かりし頃に比べ、随分と細くなったものだと思う。結構ガリガリだ。ほとんど点滴と、柔らかいゼリーみたいなもんしか食ってないわけで、それで肉体が維持出来るわきゃねえわな。

 むしろこの年齢になる手前まで、よく維持できたもんだ。結構なマッチョジジイだったしなー。ジジイってほど老けて見えなかったと思うけど。


 体力の低下を感じたのはそれほど昔の話でもない。一年ほど前から体に異常を感じたが、医者にはかからなかった。面倒だったってのも無くは無いが、何となく察することは出来てた。

 厳密には友人の医者に無理矢理診せるように言われたから、三ヶ月ほど前に診せたのだが、友人は号泣した。


「自覚はあっただろう、何故早く診せなかったのか!」


 まあ薄々気づいてはいたのだが、この年齢になってくるとあまり無理が効くわけでもなく。治したところでなあ、という思いも少なからずあったわけで。天寿というには少々早いのかもしれないが、治療についてはやんわり断った。

 一応治る可能性はあるらしいのだが、俺は人生に十分満足してしまってたわけだ。やりたいことはやってきたし、心残りも全くないわけじゃないが、それは自分では踏ん切りを付けたつもりだ。



 俺に家族はいない。家族同然、という奴ならいくらでもいるけども、純粋な血筋という意味では俺の直系はいない、はずだ。

 自信がないのはまあそれなりに経験があるからだけども、出来る限り避妊したし。もしデキたら俺に連絡するようにと伝えたけど、そういうことを伝えてくる女はいなかったし。

 親戚なのか他人なのかよくわからん奴はなんぼかおるけど、少なくとも俺は誰かを親族と認めたことはない。


 よくわからん、というのは元々俺は両親すらまともに覚えてないからだ。

 物心つく頃には孤児院にいたし、孤児院の人から両親がいないことを聞いてもさして悲しんだ記憶はない。

 実際のところどういう経緯で孤児院に入ったのかすらよく知らない。いや、知ったのだが、「そっかー」と返事しただけだった気がする。


 引き取り手はいたけど、孤児院で中学生までは保障されるということだったので、それまで孤児院で過ごした。

 思えばとてもじゃないが子供らしい子供とは言えなかった気がするなぁ。子供の頃の記憶なんて曖昧なものだけど、結構覚えているもんだ。

 生意気というほどではなかったと思うが、あんまし感情を出すようなタイプではなかったかもしれん。

 なんというか、あんまし子供らしい子供にはなりきれなかった。周りを見下したことはあまりないけど、当時は冷めた子供と思われただろうな。



 中学生の頃に、外国に留学することになった。何故かはよう分からん。ちょっとした英語の単語やら文法やらくらいしか学んでないというのに、行き先はヨーロッパの某国。

 なんでも俺が外国人のお嬢様に道を尋ねられた時、すんなりと答えられたのが理由だそうだが、身に覚えは全くない。いや、覚えはあるんだが、そこで使ったのは日本語だったはずだ。それが伝わって俺も不思議に思った。


 そして向こうに行って、おぼろげながら感じていた自分の違和感を知ることになる。言語を理解していなくても、話が通じるのだ。

 他人からすれば、俺は流暢に言葉を使い分けてるらしい。俺には全部同じ言葉にしか聞こえないし、言ってるつもりもなかったんだが。


 ただ文字はてんでダメだったので、それなりに勉強するはめになった。これがもう本当に最初は苦労した。

 言葉は全部日本語に聞こえるというのに、文字だけが分からないというのは、学ぶのが大変なのだ。学校で英語を習っていた時からそうだったが、リスニングが全部日本語変換されるわけだから、頼りになるのは辞書だけだった。

 でも苦労はしたけど、文字を覚えることに苦痛を覚えたことは一度も無い。勉強することは結構好きだったし、結構な数の言語をマスターしたものだ。喋る分には知らなくても全く問題なかったし、色々な人と話すことは楽しかった。



 それから飛び級で海外の超有名大学に入ったりして、「天才」とか「異才」とか呼ばれてたけど、まあ確かにそうだったかもしれん。でもその理由については、正直言いにくいところになる。

 何というか、気付けば俺は知らない記憶を持っていた。そしてそれが知識であったり、技術であったり。あるいは、思い出した、というのが正しい気がする。それがこの時代では未知のものだったり、先進的なものだったりしたわけだ。


 そりゃあ重宝されるし、色々持て囃されたりもした。けど、俺が生み出したというわけじゃなくて、俺は知っていただけのこと。

 それを褒められても複雑なところはあったのだが、少なくとも人のためにはなるだろうということで、そこは割り切った。


 その頃からは、「自分は親戚だ」とか言い出す輩が増えてきた。まあ一切信用しなかったし、認めなかったけど。この連中はハイエナみたいなもんだし、自分の目で信用出来る奴しか信用しなかった。



 研究に飽きた俺は、大学を出て多くの国を回っていた。相当大学で引き留められたんだが、ぶっちゃけ俺のやりたいことは研究室に残ってなかった。

 色々伝えたけど、全てを伝えたわけじゃない。俺の持ってる知識全てを当てはめる、というのは何かが違う気がした。だから、ある程度以上は他の研究者や技術者に任せることにしたのだ。


 そんなわけで、色々な国々を回りつつ、畑を耕したり、土木工事をしたり、炭鉱で働いたり、石油を掘ったり。我ながら数多くの職をこなしたものだ。

 働いた場所でも知識や技術を提供した。やはり引き留められたりしたのだが、これも研究と同様に、やりたいことは済んだから後は任せた。

 どちらかといえば肉体労働してた時期が長かったけども、商社で働いてた時期もあったし、そもそも大学では研究室を与えられるような立場にいたわけで、別に拘ってたわけじゃない。

 一箇所に留まらなかったのは他人からの嫉妬だとかやっかみが面倒だった、ってのは建前。ただ単純に、色々なところに行ってみたいという俺の本能みたいなもんだったんだろうと思う。



 結局日本に帰国したのは50台半ばを過ぎてからだった。

 それからは色々やった、新旧問わずゲームやら最新のVRMMOやら、50過ぎてからやる趣味じゃねえだろうと思われたかもしれんが、結構楽しめた。

 特許やら何やらで金はとても使いきれないほど持っていたし、浪費家ってわけでもなかったので、この頃には仕事をする必要もなかったしな。



 他人にはほとんど話さないが、人を殺したこともある。とはいえ罪に問われるような状況ではなかった。滞在していた国で内戦に巻き込まれたのだ。

 他国の要人という扱いではあったものの、捕らわれた人々が殺されていくのを黙って見ていることが出来なかった。

 初めての殺人で、嫌悪感や罪悪感というのは、あまり無かった。それを不思議に思わない、というのも変な話だが、これもやはり知らない記憶が関わっていたように思う。


 内戦に巻き込まれたこと自体は、危険な土地ということも重々承知のうえだったので、そこを気にすることはなかった。だが国内だけに留まるような内戦ではなく、俺も自ら関わった部分が多大にあった。

 その中で、少しばかり恋仲になった少女もいた。あるいは、この少女と共にこの国に残ろうかと思っていたほどに。

 何だかんだで、何とか内戦は終結させることが出来た。本当にこの時は色々あったのだが、ケジメをつけることが出来て良かったと思っている。


 ただ一つのしこりを残すことになった。これが俺の、人生唯一の後悔となった。



◆◆



「あの子は、救ってあげたかったな」


 気がつけば、俺は自分の人生を振り返っていた。いつの間にやら眠っていたようだ、少しばかり意識が混濁している。

 なんだか随分感傷的になっている自分を笑う。やりたいことをやってきたつもりだし、悔いなど残るはずもない。


 何を言っているのか。悔いがないとは言わない。後悔したことはある。だが失った者は、もう、戻らない。その十字架を背負って生きていくほど、俺は強くは無かった。割り切った、はずなのに。


 あらかじめ自分の財産などは処分済みだ。そもそも血縁者もいないので、あとはこの住んでいる家くらいなものだ。

 処分先に困ったが、気に入った人間や、俺を愛してくれた女性達に押し付けた。結局所帯を持たなかったのは、あの少女をそれだけ愛していた、ということなのだろうか?自分でも、よく分からない。


「あの子って誰?」


 そこでようやく枕元に見知った人物が座っていることに気づく。

 彼女は週に一回、俺の家にやってくる。俺の病気の進行を見た友人の医者がつけた孫娘らしいが、今はもう名前すら思い出せない。


「加納さん、苦しいの?」


 彼女は心配そうに俺の顔を見つめてくる。可愛らしい娘さん、だったと思う。今はもうよく分からない。

 苦しい、といえば苦しい。しかし、これが最後だと本能が告げる。

 この場にはいないが、世話になったヘルパーさん達ではなく、彼女が最後になるとは思わなかったな。


「俺の遺言は、中田という弁護士に預けてある。君の祖父にそう伝えれば、分かるはずだ。いいか、今から君はこの部屋を出て、祖父に俺の最後の言葉を伝えておくれ。加納善一は、幸せだった、と」


 彼女は泣きながら頷くと、俺の手を取る。

 出て行くように言ったのだが、最期を看取ってくれるのだろうか?あまり、死に際を年端もいかない少女に見せたくないんだけどな。


 あの少女のことを、思い出す。今回は、俺が、看取られる側、か。


「ねえ、あの子って誰なの?」


 それが聞きたいのか?彼女のことを思い出す。あの優しい少女の名を。あの兄弟思いの、他人のことを第一に考えられた、あの少女のことを。


「アズ、と呼んでたね」

「あず?」


 フルネームはなんだったか?あの少女はアズ、内戦で失われた、俺が守れなかった存在。俺の唯一の、後悔。

 混濁する意識の中、彼女の顔を思い出す。


「アズリンド・レリック。気になるなら、君の祖父に聞いてみるといい、もう、話す時間は、ないから」


 急に意識がクリアになる。

 いや、クリアになるというより、これが、死に際、か。


「……お別れだ、さあ、出て行きなさい、最後は一人で逝きたいんだ、いいね?」


 取られた手を抜くようにするが、力が入らない。

 彼女の表情は最初から分からない、何しろもう顔すらよく見えない。

 何か言ってるようだが、もうまばらにしか聞こえない。


 ただ、泣いているのだろうと、悲しんでくれているのだろうと、思う。


 最後は一人で、静かに死ぬつもりだった。でもこうして看取られるのも、そう悪い気分はしない。彼女には悲しい思いをさせることになるだろう。


 だからこそ、悲しまないで欲しい。俺は確かに、幸せだったのだから。

 完璧な人生だったとは言わないが、十分すぎるほど楽しんだ。


 意識が薄れていく。死後の世界、って、どんな、感じ、なんだろうな。


 そんな、もの、ある、とは、思って、ないけど、な……。

 


◆◆◆


 加納善一 享年68歳

 

 人類の歴史に多大な功績を残したとされるが、細やかな実績については彼の残した研究結果のみである。

 その研究結果は「30年は飛び越す、とてつもない偉業」とされている。

 更にその後、加納善一は諸国を回り、知識や技術を提供し続けたという。

 その痕跡は多数の国々に残しており、彼の死が伝わった翌日、多くの人類が彼の死を悲しむこととなった。


 稀代の異才と呼ばれた英雄は、この日、この世を去った。

4/14 改訂しました

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