9 晩御飯は面倒事と共に
さて、ここで質問。
女子に後ろを向いてと言って着替えて、それが終わって振り向くと、女子がこっちを凝視していた。
さて、この状況。答えは……
「えっと……涼香さん?見てませんよね?見てませんよね!?」
「……」
無言を貫く涼香に、冷や汗が自分の顔に垂れていくのを感じる。
みてないよね!本当に見てないよね!と心の中で絶叫を僕は繰り返している間、涼香はずっとこちらを凝視していた。
下着は濡れてなかったから変えなかったけど、大丈夫だよね!本当に!
涼香の顔を見ていると、一瞬だけエロ親父の様な顔が再び浮かんだ気がした。
「……意外と上半身、鍛えているわね……」
「見ていたのがそこだけだよね……本当にそこだけだよね……」
ここで、心配していても意味がないと切り替え、とりあえずこれから何をするべきかを考える。
「そういえば、そろそろ晩御飯だから全員集合だって」
「あ、ありがとう。えっと、食堂は……」
「こっち、付いてきて」
言われるがままに僕は涼香に付いていく。なかなか早い足に頑張って付いていく。
道を右に曲がり、さらに左に曲がる。
「まさか、涼香って全ての道を覚えているの?」
「うん、頑張って今日一日で全ての場所を覚えた。まぁ、入れない場所もあったけど」
「……記憶力が高いね……」
「これだけは得意だから」
得意げな顔をする涼香を見て、僕もつい微笑んでしまう。
涼香って、他の人より遠慮しがちな人だけど気づかいのできるイイ人だよな……冷静に見えて、反応が面白くて見ていて飽きないというのもあるけど。
涼香の評価を心の中で上げながら、僕たちはたわいのない会話を交わしながら食堂へ到着する。
「もう、先にみんなは着いているって」
「僕らが一番最後か……目立つのは嫌だな……」
「ソラってそういうところがあるから……別に目立ってもいいと思うけど」
「何もない、平和が一番って所もあるけどね」
会話を切り上げて、僕らは扉を押しあけて中に入る。
そこでは、既に大勢があつまってバイキングを楽しんでいた。
「まぁ、自然に入れば大丈夫かな」
「そう……じゃぁ」
自然な流れで別れ、僕はバイキングの中にまぎれる。
とりあえず、この料理と……この料理も捨てがたいから……というより、先に食器を持ってこないと……
心の中で一人漫才をしながら皿を取りに行く。だが、その途中で……突然、何者かに肩を掴まれた。
「おい、ソラ」
「ん?だれ?」
後ろを振り向くと、目の前には真剣な表情の慎太。
あ、面倒事だ。
一瞬でそう判断し、僕は即座にその場から離れようとする。だが、しっかりと肩は掴まれていて前に進みずらい。
「で?何の用?」
「とぼけるな!全部分かってるんだぞ!不意打ちで八百万たちを襲って卑怯な手を使って、怪我をさせたという事を!理由もなく襲って、しかも卑怯な手で倒すなんて最低だぞ!」
慎太の大声は食堂中に響き渡り、クラスメイトの視線から、兵士や偉い人、さらにはコックやメイドの視線まで僕たちに突き刺さる。
負けたからって、慎太に泣きついたのか……
僕に直接負けたという事をわざと隠して、僕が強制的に悪者になるように仕組んだのだろう。慎太の正義感がいつものように暴走して僕が悪者と決めつけているのであろう。
「何の事か、知らないな」
「ふざけるな!勇者としての自覚はないのか!」
「勇者?だからどうしたの?」
ここは、とぼけるに限ると思いとりあえず、何も知らないふりして僕は押し通していく。確実に慎太はストレスがたまっているようだが、真っ向から戦う気はない。
だが、番狂わせはいつでも起きる様で、
「こいつが、悪いんだ!不意打ちなんかしやがって!」
突然叫ぶ声が響き渡り、僕は反射でそちらを向く。そこには……悲壮な顔をした八百万たち五人組が立っていた。
うわ……もっと面倒に……
「お前が悪いんだよ!」
「被害者がそう言ってるんだ!間違いのはずはないだろ!」
こうなったら、もう慎太は止まらないだろう。でも……ここは貫いておこうと僕は決める
「知らないな」
「いいかげんに……しろ!」
その声と共に、拳が高速で飛んでくる。僕はよけようとするものの、拳の方がわずかに速く、頬に衝撃が走る。
体中に衝撃が走り、僕の体は吹き飛ばされて料理を巻き込んで床に叩きつけられる。
「いった……」
勇者になって強化された体でも、ダメージを食らうほどの拳。
こいつ……強い……
そう確信した瞬間、見覚えのある魔法陣が体の前に浮かび始めた。黒い……禍々しい魔法陣だ。
「な、なんだよそれ」
「お前への……罰ってところかな」
少しだけかっこつけて僕は言ってみる。
魔法陣は高速で完成し、黒い球が慎太の方向へまっすぐに飛んでいく。
「う、ぐわっ!」
黒い球は慎太の体にのめり込み、そのまま彼の体を机を巻き込んで吹き飛ばしていく。
そのまま、体が壁に衝突して鈍い音が響き渡る。
「て、てめぇ……何をしたんだ……」
「言ったでしょ?ただの反撃だって」
とりあえず、慎太が吹き飛ばされた時に落としたステータスプレートを拾って中を見てみる。
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正上 慎太 16歳 男 レベル:1
種族:人間(勇者)
職業:なし
称号:栄光の勇者
HP:100/300
MP:300/300
筋力:150
体力:150
耐性:150
敏捷:150
魔力:150
魔防:150
技能:基本全属性魔法適性Lv.1、光魔法適性Lv.7、自動魔力回復Lv.5、魔法複合、限界超越、言語自動翻訳(聴覚のみ)
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全体的に自分よりは、ステータスは高そうだ。局地的にみれば、僕のがとてつもなく高いところもあるが他の所は全部慎太の方が高い。
技能は、僕のより少しだけ劣っているが、光魔法というのが存在しているのに気が付く。
たしか、ヒェライさんが言っていたような……
闇魔法の対極に存在する魔法……だったかと思う。
「お前は……何なんだよ……」
「別に?慎太と同じ、勇者だけど?」
そう言って、ステータスプレートを僕は見せつける。それを見て絶句したような表情になる慎太。
「なんで……お前の様なザコが……」
「しらないけどね」
そう言って、僕は食堂から出ようとする。
なにも食べていないけど、なんか食べるという気分ではなくなったからだ。
「ちょっと、ソラさん!」
通路に出たところで、後ろからヒェライさんが走ってきた。
「大丈夫でしたか?」
「えぇ、面倒事に巻き込まれただけです」
「そうですか……わかりました、私が対処しておきます。あと、食事は取れなかったようなので後でお部屋に運ばせて頂きますね」
「あ、お気づかいありがとうございます」
ちゃちゃっと会話を済ませて、僕はこの場所からそそくさと退散する。覚えた道を突っ走って自分の部屋に飛び込む。
本当に……面倒だったな……
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