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7 虐めからの逆転

「ソラ、大丈夫だった?」


最初に僕に対して気づかうような事を言ってきたのはリナ。足を動かしながら、僕は簡単にこたえる。


「うん、ちょっといろいろありすぎて混乱していたみたい。心配かけてごめん」

「まぁ、ソラならありそうだわね。食事に舞いあがりすぎて燃え尽きたとか」

「あはは……間違っていないかも」


笑いながら僕らは談笑する。リナもこの世界に来てからそこまで苦労はしていないようだ。


「それにしても……本当に異世界のようだわね。小説とかで読んでいた事がこんな簡単に現実になっちゃうと……処理落ちしそうになるけど、意外と早く慣れるもんだわね」

「僕もだいぶ処理できるようになってきたかな……魔法とかは今だに信じられない所があるけど」

「それは私もだわね……だけど、この世界の法則に慣れ過ぎないようにしないといけないと思うわ」


楽しそうだったリナの表情が、急に真剣になる。僕も、少しだけ心を切り替えて真面目に聞く。


「それはなんで?」

「あまりにも、この世界の法則に慣れてしまうと、元の世界に戻った時の落差が大変そうじゃない。しかも……魔法に頼っているともしもの時に大変そうだから」

「それもそうだね……まぁ、とりあえず今はいろいろな知識を集めるところからだね」

「どの小説の主人公もそこから始まっていたわね。おっと、そろそろ注目を集め過ぎているようだから」

「分かった、ばいばい」


そう言って、僕らは自然に離れる。あんまり、長く話していると変な噂が立つとかリナが言うから決めた事だが、ほとんどばれていると思っているのは僕だけだろうか。

そう思いながら、僕は歩いていると、昨日の夜もみた食堂についた。


「ソラ様ですね、こちらにどうぞ」


そうやってメイドに言われ、僕はおとなしくついていく。他のクラスメイトも一人ひとり席に案内されていく。

案内された席には、一人ひとりの料理が既に準備されていた。人によって量が調整されているようで、僕のところには多めに盛ってあった。


これって全員分の食事量を観察したのかな……


その力にほれぼれしながら、僕は食器に手を付けようとする。だが、それを止めるように後ろから声が響いてきた。


「あれ、ソラ。倒れたと聞いたんだけど大丈夫だったの?」


そう、花菜が後ろから僕に声をかけてきたのだ。しかも、座ったのは僕の右側。毎度おなじみの視線が体に突き刺さり、楽しみの食事も一瞬で気まずい食事に代わる。だが、それだけで終わらず……


「ソラ、元気になったの?」


再び後ろから飛んできた声に反応して僕は後ろを向く。すると、そこにはいつも通りの静かな佇まいの涼香がいた。席は僕の左側。おなじみの視線も倍量になり、気まずい食事から、苦痛の食事に変貌を果たす。

しかも、学校の時は三角形という感じだったが、今は一直線上だ。必然的に涼香と花菜が会話する時は僕を通してする事になる……

その事に気が付き、さらに面倒な事になってると自分を嘆く。

さらには、机を挟んだ反対側にはリナが座っている事を発見する。


完全に、運がなさすぎだろ……


ここまで、状況を分析したところで少し離れたところでヒェライさんがたっている所に気が付く。


まさか……


じっと、ヒェライさんを僕は見つめていると、その視線に気がついたのかヒェライさんはこちらを向いて……親指をぐっと立てた。


余計なお世話を……


居心地の悪い状態で食事が始まり、とりあえず気を晴らすように僕はご飯をかきこんでいく。


「そういえば、ソラは気が付いた?」


右にいる花菜から飛んできた声を聞こえないふりをしてやり過ごす。余計な会話をして憎しみの視線を増やしたくないからだ。まぁ、なんども話しかけられたら答えるしかないが。

そう思った直後、突然ポケットから振動が伝わってきた。


何だ?


伝わった感覚にしたがって、ポケットから振動する物体を取り出す。それは、こっちの世界から一度も使う事がなかったスマートフォンだ。誰からの着信のようで、とりあえず電話を受けつぐ。


「えっと?もしもしー」

「もしもしー!」


スマートフォンから流れてきた声と全く同じ声が右側から聞こえてくる。


まさか……


僕は声の聞こえてきた方向に視線を向ける。そこには……同じようにスマートフォンを持って話しかけている花菜がいた。しかも、こちらを向いた状態で。


「聞こえてる聞こえてるー」

「……」


無言で、僕はスマートフォンをいじって電源を落とす。


「あー切られちゃった……」


嘆く花菜を無視して昼食を食べ始めようとしたところで……僕はあるところに気が付く。


なんで、異世界なのに電波が伝わるんだ?


こんなところに基地局とかがあるはずもないし、どう考えてもおかしい。そう思って、僕は食事を喉に流し込みながら、試しに片手でスマートフォンを使ってネットにつなごうとして見る。


やっぱり、こっちはダメか……


この時点で考えられるのは、魔力とやらが使われてスマートフォン同士が繋がっているという事だろうか。その場合だと、ネットなどの機能は使えないが、一人ひとりの連絡とかができるというところだろうか。

さらに、僕はスマートフォンを良く観察してみる。


特に変わった事はな……くわないな。


いつもの残り使用可能時間が∞と表示されている。たぶん、永遠に使えるという事だろう。これで、充電切れの心配は無くなったなと安堵する。


気が付いたら、昼食も無くなっていたので僕はスマートフォンを再びいじる。

地図機能は当然使えないが……メール機能は使えるようだ。試しにリナに送ってみたら成功したから大丈夫だろう。ただし、他の機能は全滅してしまっている。

使えるのをまとめると、メール、通話、そしてオフラインゲームとか電卓とかの小さな機能に写真撮影と動画撮影などがある。


「では、今日の午後は全て自由時間とさせていただきます。交流するなり、探索するなりご自由にどうぞ」


その言葉と共に、クラスメイト達は少しずつバラバラに散っていく。その中で、僕に近づいてくる集団があった。あの、いじめっ子五人組だ。


「おい、ちょっと来いよ」

「はいはーい……」


面倒事には逆らわず、なすがままに。逆らったところでイイ事になった事はほとんどない。

とりあえず、心配する人々を無視しながら僕は五人組に着いていった。


連れて行かれた場所は、毎度おなじみの狭い庭の場所だ。見事に人目も少なく、いじめの場所にはもってこいだろう。

付いた瞬間に僕の体は突き飛ばされ、地面に転がる。


体が強くなったからか、痛みはないな……


「最近調子を乗ってないか?ソラ」


そう八百万は言って、ポケットから何か紙を取り出す。


「お前なんかが勇者になれるわけないだろ?なれるのは俺らの様な強い奴だけだからなぁ?」


同じように他の四人も変な紙を取り出す。その紙を僕はみて……ハッとする。


あれは……魔法陣!


「少しばかり……お仕置きが必要なようだな?お前の様な雑魚が俺らよりもイイ思いなんてできるはずがないだろ?お前とは違って俺はこんなにも強いんだから」


そう言って、八百万はステータスプレートを見せびらかすようにこっちに向けてきた。


==================================

八百万 間借 16歳 男 レベル:1

種族:人間(勇者)

職業:なし

称号:ただの勇者


HP:150/150

MP:30/30


筋力:20

体力:30

耐性:10

敏捷:20

魔力:50

魔防:30

技能:火魔法適性Lv.3、火魔法耐性Lv.2、言語自動翻訳(聴覚のみ)

==================================


これって強いのか?


そう思いじっくり見るものの、自分の物よりもどのステータスも小さい。普通の人のステータスが10だから、二倍なのは強いのだろう。でも、技能も……なんだかいまいちだ。


「他の奴のはお前に見せる価値もないからな」

「……ザコッ……」


僕の喉からつい漏れてしまった声を慌てて止めようとしたけど、もう間に合わなかった。五人の視線が突き刺さり、最悪の事態になったことを自覚する。


「本当に調子乗ってるようだなぁ。やるぞ!」


その掛け声と共に、他の四人も紙をグッっと握りしめ……


「ここに火の力を生み出し、火の玉に変化を求む!『火球』」

「ここに水の力を生み出し、水の球に変化を望む!『水球』」

「ここに風の力を生み出し、風の球に変化を望む!『風球』」


各々の詠唱が響き、僕はとっさにしゃがんで回避しようとする。だが、重力に逆らう魔法陣は組まれていないらしく、予想に逆らって射線は下へずれる。


今から回避は間に合わない……なら!


僕は手を上に持ってきて頭を覆う。襲ってくるであろう痛みに対して覚悟を決める。だが……


「あれ?全然痛くない」


当たって何かがはじけたような感じがしたが、どこにも痛みが見当たらない。ゆっくりと僕は立ち上がり、五人組の様子を見る。


「き、効いていないだと!」

「なんでお前の様な雑魚が立ってられるんだよ!」


確か、僕のステータスの耐性は100ぐらいあったはずだ。そのおかげで簡単に耐えられているのだろう。

そう、僕は推測し堂々と立ち上がる。だが、それだけではなかった。


「お、お前はなんなんだよ!」


持月の悲鳴のような声で、僕は自分の体の異変にようやく気が付く。


これは何だ?


体の前に黒い魔法陣が五つが浮いた状態で出現している。媒体はどこにあるんだ?と疑問に思ったところで黒い魔法陣が禍々しく輝き、黒い球が生成される。

そのまま、その黒い球は各々の方向へ飛んでいく。もちろん、球の向かっている先は……いじめっ子達だ。


「ちょ……ぐわっ!」


小さな悲鳴と共に、いじめっ子たちは遠くに吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。


これって……まさか……


頭の中に浮かび上がって来た答えはただ一つ。


闇属性魔法の派生魔法の自動反撃!


たぶん、この様子からして受けた攻撃を何倍かにして返したか、それとも彼らの耐性がとてつもなく低いか。

そこまで考えたところで、八百万のステータスプレートが手から離れて地面に落ちている事に気が付く。

そこに書いてあったのは……


==================================

八百万 間借 16歳 男 レベル:1

種族:人間(勇者)

職業:なし

称号:ザコに打ちのめされた勇者


HP:50/150

MP:20/30


筋力:20

体力:30

耐性:10

敏捷:20

魔力:50

魔防:30

技能:火魔法適性Lv.3、火魔法耐性Lv.2、言語自動翻訳(聴覚のみ)

==================================


体力が残り三分の一まで減少している。ちょっと、反撃の威力が強すぎないかと思ったが、死んでいないからよしとしようと心を切り替える。


それにしても……いじめっ子を吹き飛ばすってすっきりするな。


そう思いながら、倒れたいじめっ子達を眺めているとバタバタと何人かの足音が聞こえてくる。たぶん、壁に衝突したときの音が響いていたのであろう。


「だ、大丈夫ですか?」


巡回をしていた兵士の様な人が慌てていじめっ子達に駆け寄る。


「お、お前は何者だ!」


僕に向かって一人の兵士が槍を向けながら近寄ってくる。


何者かと言われても……ただの勇者なんですけれど……


そう思ったところで、ステータスプレートが身分証代わりに使えるという事を僕は思いだす。


「えっと、これでいいですか?」


おそるおそるといった感じに僕は持っていたステータスプレートを兵士に差し出す。

兵士は、ステータスプレートをみて……一瞬の動作で敬礼を取る。


「勇者様でしたか、疑って申し訳ございません!」

「いえいえ、見た目はただの一般人ですから」

「それで、ここで何があったのか教えていただけますか?」


一瞬で切り替えてお世辞などもなしに本題に入る兵士の手際にほれぼれとするものの、僕はこの状況を簡潔に説明しようとする。


「えっと、彼らが逆上して襲ってきたのでちょっと、対処したら手加減に失敗してこんな事に……」

「わかりました、とりあえず念のために彼らを救護室に連れて行きます。お時間を取らせて申し訳ございませんでした」


ここで、僕が怒られたりしないのも勇者の特権というところだろうか。とりあえず……


「その前に、少しだけで良いでしょうか」

「はい、何でしょうか」

「この城の中に書庫とかはありますか?」

「もちろんございます。あちらから、中に入っていただいてそのまままっすぐ。そして、そのまま壁に突き当たったら左に進んだ所にあります」

「ありがとうございます」

「いえいえ、ごゆっくり」


案内された通りに僕は突き進んでいく。すると、他の部屋よりも少し大き目な扉があった。


「よいしょっと」


僕はゆっくりと扉を押しあける。すると、そこには軽い装飾の施された机がパラパラと置かれている広い空間に、二階の部分の中心をくりぬいて、吹き抜けになっているであろう高い天井。そして、一階にも、二階にもある大量の本棚。

ザ・ファンタジー図書館と言える風貌に、憧れのため息が漏れる。


これはすごい……


司書らしき人がカウンターでおとなしく座っていて、それもまたいい味を出しているように感じる。


完璧だ!完璧だ!


全速力で走りだしたくなる感情を図書館は静かにしないといけないというルールを守る為に押さえつけ、静かな足どりで適当に回る。

読めない文字ばかりだけど、気になるものだけを僕はポンと取り出し、パラパラと読む。


「これは……魔物図鑑かな」


禍々しい感じに描かれた生き物を眺めていると、つい解説が読みたくなるが、文字がまったく読めないからどうしようもない。


日本語の翻訳本なんて存在するはずがないし……


そう思いながら、僕は本棚に本を戻す。


「とりあえず、戦闘方法も学ばなきゃいけないけど……文字が読めるようにもならないとな……なんで技能におなじみの言語自動翻訳って物があるのに、聴覚限定何だろう……」


だれか、信頼できる人に文字を教えてもらおうと心に誓い、僕は雰囲気を楽しむために図書館を巡り回る。

一階も一通り回り終わり、中央に設置されている螺旋階段を上って二階の本棚を巡る。


「この本もよさそうだな……」


こんこん、と僕は適当に本の背表紙を叩きながらゆっくりとみていく。

だが、途中でカンと変わった音が響いた。

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