44 そして……救い
「っ!」
突然出現した生き物の気配に、慌てて地面を蹴ってその場から離脱する。
首は抱きかかえたままだ。
「っ……どこだ……」
警戒体勢をとり、どこから攻撃が来てもいいようにする。
視界にあるのは……魔物の焼死体と、宝箱の残骸の様な物。そして、スカレア……
「……あ」
あれ……か。見つけ出したのは……スカレアの胴体。
灰色のままだが、まばらに健康的な肌の色になっている。
まるで……液体が飛び散った後の様に……
「まさか!」
頭の中に一つの行動が思い浮かぶ。
地面を殴った時に……何かをたたき割ったはずだ。手には、その液体がまだ付着している。
この部屋に存在した液体の様な物は……あの瓶の中身だけ。
「くっ!」
慌ててスカレアの胴体まで近づき、近くにある液体の水たまりに手を入れて掬い取る。
手に少しだけたまった液体をスカレアの胴体にかける。
だめでもいい……生き返る可能性もないかも……でも、最期まで抗うと決めたんだ!
液体が掛かった場所から、だんだん健康的な肌色に戻っていく。
砕けた場所から段々と赤い血が流れていき、地面を再び濡らしていく。
「帰ってこい!帰ってこいよ!」
喉が潰れる様な声を出しつづける。掬ってはかける。掬ってはかける。
「たのむよ!せめて……石化だけは解けてよ!」
掬い続けられる量にも限界がある。だんだんと、一度に手で掬える液体の量は減っていく。胴体はほとんど石化が解けた状態で、血が流れてる。
「くそっ!」
無理だとは意識しなくても分かっていた。首が取れてしまって……生きている事ができるとは思えない。
でも……それだけは考えたくなかった。ほんのすぐにも切れそうな細い希望でも……縋りつきたかった。
一度希望で収まった涙が、ふたたび目からあふれ始める。
……なんで……なんだよ……
「ふざけんな!」
この世の不条理に対しての怒りを地面にたたきつける。
ぼこりとこれまでになかったような音が響く。
だが……そこで……
「っ!?」
ドクリという……大きな音が響いた。
「なんだ!?」
再び起こる……ドクリという音。
「この音は……」
心臓の……鼓動の様な音。
音の発生源を見ると……スカレアの体からこれまでよりも多い血が流れていた。
突然強大な反応が現れる。そして……スカレアの体から……赤い霧が噴出した。
「うっ!」
立ち上がる事は出来なかった。
状況に戸惑っていたのかもしれない。何かの期待を持っていたのかもしれない。
いつもは裏切られる期待も……今回は味方してくれた。
「スカレア!」
霧が晴れたところには……一糸まとわぬスカレアの……五体満足な体があった。
「む……」
小さな声と共に、ゆっくりとスカレアが体を上げる。
俺は……スカレアに抱きついた。
「生きてた……生きてた!」
目から流れる水が止まらない。
守れたとは言えない。
でも……生きていた。
ただそれだけで……いい。
横にあるスカレアの顔は、血の気が失せた様に青白く冷たさがあった。
でも……鼓動の流れと、人の微かな温かみはあった。
「血が……足りないみたい……」
軽く笑みを浮かべたスカレアも……急に脱力して、俺の体に一気に体重がかかる。
「いくらでも、飲んでいいから」
その一言だけを紡ぎ出す。そして、首をスカレアの口の前に持ってくる。
「ごめ……ん」
首筋にチクリという感覚が伝わり……俺とスカレアは繋がった。




