43 限界 後悔 破壊
「くっ……」
『気配察知』で感知していた魔物の気配がなくなる。たぶん……死んだのだろうか。
『地獄炎』を遮断して、慌てて手を引き抜く。直後、魔法の膜が消失してあちらこちらに飛び散って来た。
「あぶっ!」
舌を噛んで痛みが走るものの、それを無視して即座に後方に下がる。ついさっきまでいた場所を炎が舐める。
ジュワという音が足元から聞え、そちらを見ると炎が足元まで迫っていて肌をなめていた。
慌てて足を引いて炎から退散する。だが、その必要はなかったのか炎は少しずつ勢力を小さくしていって、ついには消えてしまう。
「……っ」
炎が消えた瞬間……右腕に猛烈な痛みが走る。アドレナリンで本能的に痛みを感じないようにしていたのかもしれないけど……これは相当やばいかもしれない。
腕は一応繋がっている。だが、肉が思いっきりえぐれていて、骨はあらぬ方向へ曲がっている。炎に舐められた足とは桁違いの怪我だ。
無事な左手を動かして、魔空間の袋から魔空間の瓶を取り出して、傷口に容赦なく振りかける。
「っ!」
浸みる痛みをこらえきれずに苦悶の声が喉から洩れる。このまま腕が戻らなかったら、これからは絶望だろう。
治れ……治れ!頭の中に元の腕が戻るイメージを浮かべて祈り続ける。
だが、えぐれていた傷口から……赤い靄が飛び出してきた。
「……なんだよっ……これは……」
赤い靄は傷口を覆って……直後に軽い電流の様な物が走る感覚と共に右腕が熱を帯び始める。
数秒後、赤い靄は晴れて……綺麗な状態になった腕が残っていた。
「……なんなんだよ……」
一瞬呆れてしまうが、それよりも大事な事が脳裏に浮かんだ。
「スカレアっ!」
慌てて石のかけらとなっているスカレアの元に駆け寄る。
もともと無残に腕とかがバラバラになっていたスカレアが、戦闘の余波を受けてさらに無残になり、残っているのは胴体と、もげてしまった首だけ。あとは……細かいかけらになってしまっている。
「スカ……レア……」
首を持ち上げようと、触るが、熱で加熱されたように熱くなっていて、手が火傷しそうになる。だが、何とか堪えてもちあげる。
「嘘……だろ……」
熱を感じるが……それも生の熱ではない。
ただの……無機質な熱。鼓動も……感じられない。
「また……またかよっ!」
喉の奥から絞り出すように声が漏れる。目からこぼれ出た水が、首の上にぽたりと落ちて、ジュッという音を立てる。
「くそがっ……!」
治った右腕を地面に向かって突き刺す。ぼこりという鈍い音が響き、うでにじんじんという感覚が襲ってくる。
「また……またっ!」
守れなかった。守りたいと思ったものも……守れなかった。
「くそっ!」
拳を振るい、近くにあった箱を粉砕する。
中に入っていた瓶が足元にころころところがってきて、コツリという音を立てる。
「なんなんだよっ!なんで守れないんだよっ!」
地面を思いっきり殴る。ストレスを発散するためだけに殴る。
「なんで……人ひとり助けられないんだよ!」
自己嫌悪。
俺がもっとしっかりしていれば。
ただ、その事だけが脳裏によぎり続ける。
「くっそがっ!」
目からあふれてくる涙が手元にも落ちてくる。
「なんでだよっ!!!」
力を込めて、地面を思いっきり殴る。
拳が地面に転がっていた瓶に直撃して、中に入っていた液体と瓶のかけらが飛び散ってくる。
破片が皮膚を軽く裂き、薄く血がにじむ。
だが……ここで一つの大きな変化が起きた。
「……何なんだよっ!」
地面にもう一度振り下ろした拳が、地面に当たって鈍い音を立てる。
その時、視界に……自分の物ではない肌の色が見えた。




