34 少女の心
痛む体を……動かす。失っていた意識が少しずつ表層に現れ、体が動かせるようになる。
痛みで鈍ったような感じがしていた体は想像以上に軽く、簡単に動かす事ができる。いや、これまで以上の軽さだろうか。
何かが作り変えられたような……何かがおきかえられたような違和感もある。
「だ、大丈夫だった!?急に倒れたから……」
スカレアはずっと起きていたのか、目が充血して……少し悲しげな表情をしていた。
そこで……気絶する前の出来事を思い出した。血を……吸われたんだったな。
一瞬で足をふんばり、後方へ跳躍する。スカレアの攻撃が来ないであろう場所まで退避し、相手の出方を見守る。
「説明をしないで見せたのは……失敗だったかな……」
スカレアはずっと悲しそうな表情を続けている。だけど、いつ襲ってくるかどうかは分からない。警戒体勢を取り続け、いつ襲ってきても大丈夫なはずだ……
何を思って吸血をしたのだろうか。……殺したくはないが、場合によっては……心を鬼にしなければならない。
「私は……人間じゃないの」
「それは……これまでの行動から分かっている。俺が聞きたいのは……お前は敵か?」
「敵……ではない。ただの……呪われた者だから」
そういって……スカレアは腕を横にピンと伸ばす。何を……するつもりなのだろうか。そう思った直後……腕の周りに黒い煙が渦巻いた。
そして霧が晴れると……そこには魔物の大きな爪が手に付いていた。
「私は、人間じゃない。種族的には……獣人って分類に入るってところかな。でも……私は変異種」
「変異種……それって……まさか!」
図鑑で一度みた事がある。異種族の混血や、強力な呪いを浴びた場合など、いくつかの条件が重なった時に、普通では生まれない『異端』が生まれる事があるらしい。
それが……スカレアなのだろうか。
「変異種は忌み嫌われ……迫害される。それが現状なの。私は……迫害されて冤罪をかけられて……普通の罪人の処刑だと、処刑人が穢れるからって転移結晶でここまで飛ばされたの……」
「獣人なら……獣耳とかしっぽとかの特徴があるはずだが……」
「一応あるにはある……けど……あんまり見せたくないの」
「だめもとだが……見せてくれ」
悲しげな表情がさらに歪むが……ここは曲げられない。
もう、やけになったのか、スカレアの頭に黒い靄が渦巻き……そして消える。そこには……ぴくぴくと動き続ける猫耳があった。
「……本物?」
「本物!どっからどう見ても本物!」
スカレアは顔を真っ赤にしながら、頬をプクーと膨らませる。なごみそうになった心を……一瞬で引き締める。
油断は禁物。いつ襲ってくるかはわからない。
「私は……『血の呪縛』にかかってるの。しかも……生まれたときから」
「血の……呪縛?」
「取り入れた血を……力に変える能力。吸血鬼と似ているけど……微妙に違うの」
血を力に変える……なら……俺の血も力に変えられたのだろうか。
「例えば……特殊な能力を持っている魔物の血を飲んだなら……その特殊な能力が手に入れられるの。あとは……いや、ここまででいい?」
「……」
無言でスカレアの目を見つめる。嘘をついているような表情では……ない。
信用すべきだろうか……ここまで、真に迫った嘘が普通の人はできないだろう。
なら……本当に敵意がないか一度だけ試してみるべきだろう。
頭の中で、今持っている能力を思い浮かべ、怪我を負わせる事なく敵意の表せるものを選びぬく。
やっぱり……疑心暗鬼を思い浮かべる事ができる……これがいいかな。
「じゃぁ……これでいいか」
一言呟いて……『闇霧』を使用する。手を中心に真っ黒な煙が渦巻いて……一気に広がる。
あっという間にスカレアを黒い霧が取り囲み、姿が見えなくなる。
「……」
警戒態勢をとり、どこから攻撃されても即座に対処できるようにする。最近入手した『気配察知』をフルに活用して、敵の位置を……追い続ける。
そこで……闇霧の中心……スカレアのいた場所に……強大な反応が出た。
直後、暴風が吹いて霧が吹き飛ばされる。
「何!?」
晴れた霧の中には……ぺたりと座りこんだスファンに……黒い大きな翼が生えていた。
だが、その翼も一回ぱたりとはためいたあと、黒い霧になって消えてしまう。
「う……」
警戒体勢は続行。敵の出方をみる。攻撃してきたというわけじゃないが……怪しい事には変わりない。
だが……スカレアの反応は……
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「え!?」
急に……泣きだした。
女の子が泣くのは……ほとんど見たことがないから、どういう対処をすればいいのかわからない。一瞬だが、敵だという事を忘れてしまった。
「びさじぶりにびとどであえだのにー!!!」
「ちょっと!泣くな!泣くな!ストップ!」




