33 信頼の後の……
「な、なんで泣いているの!?ちょ、ちょっと!?」
「なんでもない……何でもないから気にしないでくれ」
強がっても……涙はポロポロと垂れ続ける。
早く……早く止まれよ!
「……おりゃっ!」
「うわっ!」
突然、頭をスカレアが掴んで、ぐいと引き寄せる。
器は慌てておいたから無事だが、体に力を入れることもできずそのままスカレアの体のところまで引っ張られてしまった。
「うわっ!」
強制的に一回転。結果的に膝枕。
「っておい!」
「元気がないからしてあげただけなのに……まぁ、どっちでもいいけど」
慌てて俺は体を起こそうとする。だが、何か大きな力が働いているのか、体を動かす事がまったくと言っていいほどできない。
「たまには……ゆっくり休んでもいいから。私は別に膝枕でもかまわないけど……別にソラだからやっているわけじゃないんだから」
やさしげな声が上からひびいてくる。流れる涙も少しずつゆるまり、首筋にあたる温かみが心を和らげていく。
昔も……おばあちゃんに良くこんな事をしてもらったな……
ただ……そんな事しか思えなくなっていた。
「まぁ、なんだから過去話でもしようか。ソラは何をしてここまで来たの?それとも私から言った方がいい?」
「じゃぁ……俺から……」
言葉を紡ぎ出すように、俺は過去の出来事を全て話した。
勇者として召喚され……だれかに裏切られた事。そして、その誰かは国の可能性が一番高い事。
結果的に、勇者の力は奪われ、牢にたたきこまれたところで隠していた転移結晶で、牢獄で会ったリヒテンと脱走した事。
そのまま、力も何もないままにダンジョンの下層に来て……リヒテンが死んだ事。
リヒテンの事を話しているときは……目のふちが熱くなってしまった。
「元勇者……ソラも大変だったのね」
「まぁ……な」
スカレアの事は、なんというか信用していいという気になってしまった。
根拠もなにもない。でも……なんか嘘をついていい相手とも思えないのだ。
「ソラが話したなら……私も話した方がいいよね」
スカレアの表情に一瞬だけ陰がさし、あまり話したくないのかと、俺は話す事を止めさせようとしたが……スカレアは話し始めてしまった。
「過去の話より……一回実演したほうがいいよね」
そう言った直後……スカレアは俺を膝枕した状態から体を前に倒して……俺の首筋にキスをした。
「――っ!?」
声にならない驚きが漏れた直後……首筋からチクリという感覚が響き……じんじんとした痛みが頭に届く。
たらりと何かが一滴こぼれおち、首の後ろまで流れて……ぽたりと落ちる。生温かくて……嫌な感じのするもの。
これは……吸血されている。血が抜かれて……そのまま死んでしまう。
たぶんこの少女は……吸血鬼とかヴァンパイアとかいう分類の物だろう。早くしないと……手遅れになる。
本能によって一瞬でそう判断し、大急ぎでその場から離脱しようと足に力を入れる。だが……足はピクリとも反応してくれない。
手で払いのけようとしても……おなじように動かない。指先も……ほんの一ミリも動かない。胴体も……金縛りのように……動かない。口さえも……動かせない。言葉も……紡ぐ事ができない。
ただ……されるがままにされ……体の中が熱くなってくる。くそが……くそが……
「ふぅ……」
謎の吐息が首に直撃してゾワゾワした感覚が体中に伝わると共に、首筋からスカレアは口を話す。それと同時に……体に重く鈍く熱い衝撃が走った。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「な、なんですか!?」
体の四肢が燃え上がり、一つ一つの遺伝子が書き換えられていくような感覚。
灼熱の炎の中に放りこまれ、全身を揚げられているような感覚。
今にも四肢が引き裂かれ、死んでしまいそうな感覚。
いくつもの激痛という名の危険信号が頭に達し、伝達回路がパンクする。
「こ、こんなことが起こるはずは……ありえない!拒絶反応……!?」
「ぐ、ぐ、ぐわあぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁあ!」
普通なら喉が一瞬で枯れてしまってもおかしくないぐらいの声が爆発し、四肢を引き裂いていく。
そして……エンジンが切れたように意識はどこかに飛んで行った。




