22 失うものは大きい
「さて、実食といこうか」
キメラの肉をナイフでバラバラにし、食べれそうな場所を分けていく。
内臓は……いらない……顔は……目は食べた方がいいだろうか。
緑に光っている目を食べれば、何か効果があるかもしれない。
「でも……気持ち悪いな……」
ネチョネチョする目の部分に手を突っ込み、俺は中の物をほじりだす。
一つの球体が手の平に乗り、ぬるぬるとした感触が頭に送られてくる。
「食うしかないだろうな……」
手の平を傾けて……口の中に放り込む。
口の中に、奇妙で気持ちの悪い味が広がり、吐きだしそうになるのを意地で堪える。
そのまま、喉に無理やり流し込み、胃に落下させる。
「あぁ……不味いな……」
胃の中があぶられるように熱くなるものの、いつものように耐えられないほどではない。
熱さは、数秒ほどで消えていき目の前に宙に浮く紙が現れた。
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『暴食』によって獲得したものに、条件を満たしていないものがあります。
条件を満たすまでの間、体内で封印します。
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「うわ……本当かよ……」
せっかく倒したのに、使えない物しか入手できなかった。
骨折り損のくたびれ儲け……骨は折っていないけど、肩は怪我した。治ってるが。
「まぁ、使えないもんはしょうがねぇか……」
さっさと、区切りを付けて俺は残った肉の方を見つめる。
こっちの方なら、まだ希望はある。あの煙を出した能力が手に入るかもしれないし、あの体の位置がずれて見える物の正体が分かるかもしれない。
ナイフを使って適当にバラバラにして、食べきれるサイズにあらかじめカットしておく。
前回、肉の塊に直接かみついて苦労したから、もともと一口サイズにすれば楽だろう。
その結果だ。
「よいしょっと」
口の中に肉を一切れ放りこむ。
不味いというわけではないが、生肉の味しかしない。というか、血の味ばかりだ。
体の中から少しだけ強い燃えるような感覚がわき出てくる。
そして、目の前に現れる紙。
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『暴食』によって身体が変化しました。
新たな技能『闇霧』の獲得に成功しました。
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「闇霧……そのまんまだな」
頭の中で、その技能の事を念じてページをめくらせる。
「えっと……頭の中で、霧を発生させる位置を思い浮かべると、底に発生する。ただし、体に触れている部分にしかできない……か」
とりあえずと、俺は頭の中で霧が現れるイメージを思い浮かべる。
すると、黒い霧が腕の周りにまとわりつくように現れる。ためしに、あちらこちらに触手の様な物を伸ばすようなイメージを思い浮かべたら、その通りに動いた。
手を伸ばすものの、触れる事はできずそのまま通り抜ける。
「……威嚇には使えるかもしれないけど……戦闘には全くと言っていいほど使えないな……」
霧をイメージを遮断する事で消し、ステータスプレートを確認する。
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天竜 ソラ 16歳 男 レベル:98
種族:人間(?????)
職業:?????
称号:?????
HP:54000/55000
MP:54000/55000
筋力:50
体力:1000
耐性:50
敏捷:?????(韋駄天)
魔力:900
魔防:900
技能:自動魔力回復Lv.MAX、爆地(+瞬間加速(+制御不能速度))、空蹴(+自動制御)、体感時間強制変更(+無意識)、魔法複合、危険察知、『暴食』、『風纏』、『??』、『闇霧』、自動身体回復Lv.9、言語自動翻訳(聴覚のみ)、『??(??)』
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「そういえば、爆地という技能まで増えているな……空蹴もなんとなく予想は着くからな……」
頭の中で技能の説明の場所を思い浮かべ、爆地の場所を表示する。
「えっと、念じながら地面を蹴りだす事によって、爆発と共に一気に加速が可能っと」
物は試しと、頭の中に爆発するイメージを持って、地面を蹴りだす。
爆発音と共に、急に体が前にとんでいき、肩から壁に衝突する。
「いってっ……調節が難しすぎるな……」
痛む肩をさすりながら、俺は愚痴を漏らす。
「まぁ、使えそうな物かな……」
そう切り替えて、俺は『空蹴』の説明の場所を表示する。
「空間に自分だけの足場があるように認識することで、宙に足を踏みしめる事ができる。ただし、効果時間は短い……」
足を蹴りだし、宙に浮いた体を支えるように足場が出現するイメージを出す。
すると、足の裏にしっかりとした感覚が響く。
「おぉ……ってうわっ!」
安定したのは一瞬で、急に足の裏の感覚がなくなり、そのまま地面に倒れ込んでしまう。
「一瞬ってのは本当に一瞬だな……」
もう一度立ち上がり、ジャンプした後にイメージで足場を作り、さらにその足場を元にしてさらに上に飛び上がる。
「おぉ!こう使えばいいのか!」
とんで、作って、飛んで、作ってを繰り返して、体を宙に浮かせ続ける。これは、魔力の消費もありそうだけど、なかなか便利だ。
まぁ、魔力の量が大変な事になっている俺なら、余裕だろうが。
「まぁ、とりあえず。肉は皮でしっかりと巻いて保存して……魔物は一日一体づつ倒して言った方がいいか」
常にベストコンディションで挑まないと、この場所では死につながる。
これは、もう身に持って実感している。
「とりあえず、訓練だけしておこうか」
独り言のように呟き、俺はナイフを振るい始める。
ずっと、長剣になれていたから、ナイフの扱いにはそこまで慣れていない。
重みは、こっちのナイフの方が重く感じるが、間合いなどが今だに読み切れていないため、慣れるしかない。
間合いを読み間違えたら、いろいろと大変だ。
「しっ!とっ!」
さまざまな体勢からナイフを振るい、最速で基本の体制に戻れるような訓練を繰り返す。
時には回避方法を、時には反撃のイメージを。
足を思いっきり踏み出して、敵に見立てた壁に向かって突撃する。
闇霧で敵のあたりに向けて霧を飛ばし、それに向けてナイフを投的する。
「とりゃっ!」
一瞬で意識を総動員して、手のひらから手のひらに向けて作った風の線を動かして飛び出している岩肌を切り裂く。
線は、手を大きく放せばいくらでも伸ばせるため、使い道がいろいろある。
敵の首に向けて線を当てて、そのまま上を、手の位置を変えないように宙返りしながら飛べば綺麗に首を狩る事ができるはずだ。
まぁ、首がない魔物には使えないわけだが。
岩肌に、細く鋭い線が刻まれたところで、風の線を消し、壁を軽く蹴る事で後ろに飛び去る。
「ふぅ……」
だいぶ、足の力の調整もできるようになり着地の衝撃も何とか耐えられるぐらいにはなっている。
「霧のいい使い方はないな……できる事としたら光で攻撃する魔法を防ぐぐらいしか……それとも混戦状態の打開策にしかならないな……とりあえず、通常時は使う事がないだろうな」
霧を手の平の中でくるくると回らせて遊ぶ。
光系の魔法が自分が使えたらいろいろと便利になるかなと思いながらも、霧を周りに散らしていく。
あっさりと消えた霧を眺めながら、俺は新しい攻撃方法を編み出すために頭を動かす。
瞬発力を生かした攻撃か……思いっきり地面を蹴って加速した状態で、体に風を纏わせて着地したら怪我は押さえられるだろうか。
それか、敵に直接衝突してクッション代わりにしながら押しつぶしたらなかなか行けるだろうか。
そこまで、考えたところで体から急に力が抜ける。
俺は、地面に体を横たわらせる。
ちょっと、疲れたな……ちょっとだけ……
唐突に襲ってきた睡魔に逆らわずに、俺は眠りの海に沈んでいった。
「うっ……」
少しずつ明るくなっていく視界に、俺は一瞬だけ目をつぶってから、再び開ける。
目の前に……紙が浮いている。
「……は?」
一気に意識が覚醒し、敵襲かと重い俺は思いっきり全力で後ろにとび下がる。
何者だ!と叫ぼうとした瞬間。浮いているのがいつもの伝達だと気が付く。
「何なんだよ……体も妙に動かしにくいし……」
愚痴を吐きながら、俺は紙を見た。
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韋駄天薬の効果が切れました。
ステータスの一部取り込みに成功しました。
技能の取り込みに成功しました。
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「……は?」
驚きの声が頭から喉を通って飛び出る。
薬の……効果が切れた?
という事は、あの足の速さが……無くなった!?
というか、制限時間なんてあったのか!?
いくつもの驚愕が飛び出て来て、慌てて俺は本のステータスの場所を表示する。
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天竜 ソラ 16歳 男 レベル:98
種族:人間(?????)
職業:?????
称号:?????
HP:54000/55000
MP:54000/55000
筋力:50
体力:1000
耐性:50
敏捷:2000
魔力:900
魔防:900
技能:自動魔力回復Lv.MAX、爆地(+瞬間加速(+制御不能速度))、空蹴(+自動制御)、体感時間強制変更(+無意識)、魔法複合、危険察知、『暴食』、『風纏』、『??』、『闇霧』、自動身体回復Lv.9、言語自動翻訳(聴覚のみ)、『??(??)』
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「消えて……る……韋駄天が……」
韋駄天というぐらいだし、バグってしまうほどの数値であろう敏捷が、数字で表せるぐらいに減少してしまっている。
高い事には高い。だが……切り札の一つが消えてしまったのは本当に痛い。
一つの変化で、結果がおおきく変わるだろう。
これはどう考えても凶。
いらつきを吹き飛ばすために全力で地面を蹴りだしても、着地で少し痛みが走るだけで、怪我もしない。
「ははっ……ははっ……」
絶望の中で小さな笑い声しか漏れない。
強い心……?そんなものは失望一つで崩れる。
「まだまだ、俺も弱いって事だな……」
一つ失っただけで、すぐにくよくよしてしまう。
でも……俺は立ち上がる事は出来なかった。
そのまま……俺は何も考えられないまま地面に転がっていた。
何分たっただろうか。
いや、何時間経っただろうか。
地面に転がったまま、俺はそんな事を考える。
「あぁ……魔物退治に行かなきゃ……」
習慣を簡単に壊すわけにはいかないという一心で俺は立ち上がり、扉へ向かう。
一度恐怖に負けてしまったら、そのまま永遠に負け続けてしまうだろう。
明日、明日の無限ループに入った瞬間に……俺は永遠に動けないだろう。
戦って死んだリヒテンにも、餓死で死んだなんて報告できるわけはない。
だが、足どりは重く、何回か転びそうになってしまう。
「はぁ……早速お出ましか」
歩き始めて数分ばかりで新しい魔物に遭遇する。
前と同じ……赤いゴブリンだ。
見た瞬間、体に原始的な恐怖の様な物がわき上がり、足が震え始める。
「くっそ!ふざけてんじゃねぇ!」
くよくよとし続けている自分の心を、恐怖に震える心と共に叱咤するように大声を出し、勇気を出す。
たった一つ失っただけで何だ。くよくよしていて、それ以上の大切な命を失ったら元も来ない。
失ったなら……それ以上のを手に入れればいいだけ。奪ったこの世界から……それ以上の物を奪い返せばいい。
これまで以上の決定打を……
「くそがぁ!」
大声一つ……体一つ……命一つ。
俺は魔物に向かって恐怖でためらうことなく……全身全霊で敵に狙いを定めて突撃した。
これまで毎日更新でしたが、これから不定期更新になります。
さすがに、一日6000文字は限界でした。




