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21 狩りは命をかけて

99000。

あの強敵を一体頑張って倒して上がったレベルが大体50。単純計算で1980体を倒さなければならない事になる。

しかも、レベルが上がるにつれて必要経験値が上がっていくのは予想できる。だから、実際はその何倍もの量の敵を倒さなくてはいけないだろう。


「これは、放っておいた方がいいだろうな」


そう決断し、俺は紙をつついて消し、スキルツリーの方向に視線をもどす。

まだ調べていないのは……既に文字が出現しているところの横にある数字しか表示されていない四角。

隣接しているところにしか数字は書かれていない。

『能力』の横には、2000と1500。

『取込』の横には、10と50。


「能力の方の数字がインフレしているな……」


そう思いながら、俺は取込の横の10という数字をクリックする。

すると、同じように宙に浮く紙が現れた。


==================================


『解放』 (ポイント消費 10) 『決定』


==================================


「解放される能力も不明ってところか……」


狙って欲しい能力が出るとは限らないと……なら、運の要素もあるという事か……

さらには、必要ポイントが大きいほど強いというのもありそうだ。


とりあえず、桁が二つも違っている。もう、能力の方向はしばらく無視した方がいいだろう。

こういうのは、新しい能力の解放を優先した方が良いだろうか。

でも、既に持っている能力の強化も大切だから……


葛藤を繰り広げた結果、間を取って取り込みの方向の10を開放し、あまった分を『取込』にすべてつぎ込む事にした。


「なら、ここを押せばいいんだよな」


思い切りが大事と、決定のボタンを何のためらいもなく押す。

すると、文字が消しゴムのように消えていき、代わりに新しい文字が刻まれていく。


==================================


『胃液強化』


強力な胃液を持てるようになり、消化速度、消化できる物の種類が増える。


==================================


「……当たりなのか外れなのか……」


強化の余地もないのか、強化のボタンがないし、そこまで有能な物には感じられない。

一度やってしまったものはしょうがないと思い切り、俺は『取込』の紙を出して『強化』のところとと『決定』を交互に連打する。

取込は技能を奪える確率を上げる物だろうから、上げておいて損はないというか、上げないと損だ。


あっという間に、ポイントも底をつき、成功率が98%になる。残りの2%もすっぱりと上げ切りたいが、足りないのはしょうがない。


「これで、調べてない物は全部かな」


つまみに、ゴブリンの肉の切れはしを口に入れながら考える。体が変になる様子もないし、もう大丈夫と判断していいだろう。


「それにしても、これってあんまり美味しくないな……」


お腹が空いたから食べているけど、好き好んで食べたいという味ではないな。


「はぁ……闘うか」


簡単に、思い立ち俺は足を上げる。何事も、やってみないと始まらない。

強い心に……ためらいは不要。


「適当な魔物と遭遇すればいいか。レベル上げにもちょうどいい」


地面に置きっぱなしのナイフを拾おうとして……尻もちを着く。

……技能を使わないと重くて持てないじゃねぇか……


「はぁ……」


ため息をつきながら、風を纏うイメージを抱き、緑のベールが覆ったところで力を入れて持ち上げる。

やっぱり、少し重いけど持ち運べないほどではない。


「とりゃっ!」


扉を力で押しあけ、俺は外に警戒しながら押し出る。

敵の姿は……なし。この辺りは比較的安全そうだ。


「このダンジョンから出るには……上に上るのは無理だな」


ダンジョンで下の階層に下りるためには、ボス部屋の奥の魔法陣を起動しなくてはならない。

簡単に言うと、一方通行。前の階層に戻る手段はないのだ。

正確には、ない事はないのだが。

国の魔術師数人がかりで、一定の場所まで戻る事ができる新しい魔法陣を刻む事ができるのだ。

一応、今のところ攻略が進んでいる70階までは各階に魔法陣が刻まれている。

だが、ダンジョンも不思議なところで特定の階にしか魔法陣が刻めないらしい。

たしか、20階、40階、60階までだったはずだ。

しかも、60階から40階のボス部屋まで、40階の魔法陣から20階のボス部屋まで、20階の魔法陣から1階のボス部屋までという、面倒な段階を踏むことになっている。

まぁ、既にこんな階層まで来ている上に、国の魔術師はこんなところにいない。

どう頑張っても、俺が上に戻る事は不可能だ。


「なら……俺は下に潜るしかないか」


いつかは、このダンジョンの終わりがあるかもしれない。その前に死ぬかもしれないが……


「俺は死にたくはねぇからな……」


その一心。だから、俺は喰らい、力を付けるしかない。

喰らって……奪って……強くなって……ここから出る。

それだけが、俺の唯一の目標。


「行くか」


その一言と共に、俺は足を踏み出す。

適当に練り歩いて、頭の中にこの階層のマップを生み出していく。一つ一つの行動が後で役に立つはずだ。


そして、数分後。俺は魔物に遭遇した。


「キメラ……か」


白い羽に、鳥の様な顔。良くある魔物だ。

だが、目が緑色に輝いている。少しばかり怪しいと思いながらも、俺は手に持ったナイフを持って、斬りかかる。


「しっ!」


小さな掛け声と共に、俺はナイフを上からまっすぐに羽に斬りつけた。

だが、それをキメラは難なく避ける。

それに追尾して俺は、ナイフを右に向かって斬りつける。


「ギギャァァァァァ!」


耳を劈く様な喚き声をキメラは発する。


「うるせぇよ!」


返す手で、もう一度切り裂こうとした瞬間……俺はある事に気がついた。

何かが……変じゃないか。


「あまりにも手ごたえが……」


そう思った瞬間、右側から背筋が凍る様な気配を感じて、思いっきり足を踏ん張って後ろに飛び去る。

想像以上の速さで、俺の体は後ろにとんでいき、そのまま壁に体が打ちつけられる。

少しばかり、手加減したが……まだまだ強すぎるな。

背中に少しだけ走る痛みを無視して、前方を確認する。

そこには……無傷のキメラが爪の様な物を出している。

……幻覚ってところだな。


そこまで判断したところで、ある違和感を感じた。

この魔物……俺じゃなくてもっと横の壁を見ているのか?


そこまで、考えたところで俺はある結論にたどり着いた。

まさか……俺が実際に見えているところよりも……左に居るのか?


屈折の原理が頭に浮かぶ。姿は、一緒だが実際にいるのはもう少しずれたところにあるという物だ。

なら、見えているところよりも、左側を攻撃すればいいだけの話か!


足を少し弱めに踏み出して、一気に接近する。だが……その直後、キメラの姿が霧のように消えた。


「……完全に消えやがった!」


視界は無効。目視は不可能。

なら、必要ない情報はシャットアウトするべきか。

そう判断して、俺は目を閉じて神経を限界まで研ぎ澄ます。


……右から来る!


頭をよぎった感覚を頼りにナイフを振るって、虚空を切りつける。

わずかながら緑色の血が飛び散り、確かな手ごたえを感じさせる。


「ギイギャァァァァ!」

「足りねぇ!まだだ!」


俺は、そのまま追従するように体を動かし、ナイフをキメラに向けて叩きつける。

だが……直後、キメラが黒い霧の様な物を吐きだした。


「うわっ!」


視界が一気に黒い物によって覆われる。文字どおりに何も見えない。


「たちが悪い攻撃だなぁ!」


毒かもしれないと、俺は口をふさいで呼吸を制限する。

視界は完全に使用不能。どこに壁があるかも分かりづらい。

でも……視界が見えないのはキメラも同じだ!


「っておりゃっ!」


嫌な予感を感じて、身をのけぞらせるとついさっきまで体があったところを鉤爪が通り過ぎ、服が少し切り裂かれる。

こいつ……何を使って俺を見ているのだろう。


「おりゃっ!とりゃっ!」


頭の中の感覚に従い、時にはナイフで防ぎ、時には避ける。

くっそ……何も見えない!

息が苦しくなったので、思いっきり息を吸い……後悔する。だが、これは毒ではなかったようで体には何の変化もなかった。


「紛らわしいな!くそっ!」


悪態を着きながらも、何か対策がないかと頭をフル稼働させる。

敵は、何を使って俺の事を認識している?

視覚ではないだろう。この霧で何も見えないはずだから。

聴覚でもないだろう。全く動いていないときでも容赦なく突進してくるから。

触角……それはないだろう。触られている感覚なんて全く感じない。

嗅覚……だが、血の匂いがあちらこちらにあって、判定が難しいだろう。

のこされたのは……特殊能力。


「美味しいじゃねぇか!」


空間把握能力……嬉しすぎる。地味に便利。

生体反応を見る……これも、なかなか便利だろう。


「おりゃっ!」


ぎりぎりで避けて、ぎりぎりで判断する。


「やるしかねぇか!」


実際にできる事か分からなかった、あくまで計画のみのものの実行を俺は決意する。

頭の中に、あるイメージを浮かべる。

風を纏うときには、場所と強さを思い浮かべるのが必要だ。

なら、旨く使えば……いけるはずだ!


敵の襲撃位置を先周りして予測する。

左前方の少し上から、カサリという音。

そちらに向けて、手を思いっきり伸ばし、敵の進路上に右手と左手の間が来るようにする。

右手の親指と、左手の親指の間には、一本の細い緑の線が出現している。


風を纏うのが、触れている物なら手と手の間に一本の服の繊維を結び、そこに持てる限りの強力な風を纏わせたらどうなるか。

たぶん……これでピアノ線のような……いや、それ以上の強度の細い線ができるはずだ。

その細い線に高速のキメラが衝突したら……真っ二つにできるはずだ。


「ギイギャァァァァァァァァァァァァアアァァァァ!」


断末魔の様な声が耳に響き渡り、顔に緑色の血が飛び散るのを感じる。

……生ぬるくて気持ち悪い……


ドサリと真っ二つになったキメラが地面に落下し、それと同時に肩に痛みが発する。

肩が……切り裂かれたか……二つに切断した時に、鉤爪が肩を掠ったのであろう。

たらりと赤い血が垂れ始める。


「まぁ、食料確保に成功ってところだな」


地面で、ぴくぴくと動いているキメラを見下ろす。

強かったけど……もう少し旨く立ち回れたらもっと簡単に倒せただろう。


「まだまだ、上達しないといけないな……」


反省の念も込めて、俺はキメラをつかみ取る。


「とりあえず、まとめて持ち帰るか」


足を引っ掴んで、俺は休みの土地に決めた部屋までキメラを引きずっていく。

とりあえず、本日の狩りは……終わりでいいだろう。

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