2 妄想は現実に
現れたいじめっ子五人組。
ほんっとうに今日はついてないな……
「あれ?オタク君じゃないか。どうしたどうした?ちょっと来いよ」
そう言って、僕を全員で囲むような体制になり、脱出のしようが無くなる。声をかけてきたのは、持月昴。ポロポロとあるニキビに、少しばかり崩れた顔つきと同じように、性格も非常に意地汚い。
ここで逃げても後で面倒な事になるのは目に見えている。僕は、囲まれたままおとなしくついていった。
「オタク君、ちょっと今お金がなくてね。貸してくれない?」
連れて行かれた先は、定番の体育館裏。そこで、囲んでいた人の一人がいきなり金を要求してくる。
僕を囲んでいるのは、八百万間借、勘田星霜春野周明具象江道の四人。
面倒事を起こす軍団として有名なメンバーだ。
やっぱりお金目当てか……
金を要求してきたのは、その中の勘田だ。指を二本立ててこちらに見せてくる。どうせ、二万円とか言いたいのだろうが、そんなお金を僕は持っていない。
とりあえず、ポケットに入っていた100円玉を二枚取り出して、手のひらに押しつける。
「あぁ?俺らをおちょくってんのか?こんなちっぽけなのいるわけないだろ!」
そう言って、勘田は受け取った200円をどこかに放り捨てる。もったいのにと思いながらも、勘田の目を睨みつける。
「俺らが要求しているのは、二万円。出さないならどうなるか分かってるよな?」
そう言われた直後、僕の左腕を何者かが掴む感覚がする。僕が後ろを振り向くと、そこには春野が腕をしっかりとつかんでいた。
たぶん、関節技の類のものだろう。
「い、痛い!」
「ほら、早く場所を言えよ。早くしないと、うでが無くなっちゃうぞ~!」
僕の腕を絞めつける感覚が強くなり、さらに鋭い痛みが走る。
僕は体力とかがほとんどないから、碌に抵抗もできない。他の持月や、八百万がにやにやしながら見ているのが、本当にいらいらする。
僕に力があれば……こいつらなんて簡単につぶせるのに……
ちょっとした願望が頭をよぎるも、すぐに痛みでかき消される。
「お、お金なんて持ってない!」
「嘘付くんじゃねぇ!お前の家は裕福なんだろ?少しぐらい持ってこいよ!」
僕の腕が外されると同時に、望月が僕を思いっきり突きとばし、僕の体が背中から地面に落下する。
背中に衝撃が走ると同時に、お腹から空気が漏れ出る。
い、痛ってぇ。
声が出るほどの痛みではないが、痛いものは痛い。制服が汚れたかもな、後で少し洗わないとなと思いながら僕は立ち上がろうとする。
だが、
「勝手に立とうとしてんじゃねぇよ!」
そう言って、具象が僕の左腕を思いっきり踏みつけてきた。具象は、空手をやっていて握力も脚力も強い。
グキという音が響き、僕の頭に痛みという緊急信号が届く。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!?」
痛みについ、喉から大きな声が漏れ出てしまう。
これは……やばい……
手の指先がしびれたように旨く動かせず、ジンジンとした痛みが頭の中でわんわんと鳴り響く。
「ちょっと、これはやばいんじゃないか?」
「とりあえず、人が来るかもしれん!逃げろ!」
どたばたと五人組はどこかへ駆けていき、僕一人が取り残される。痛みは頭の中で今だになり続け、がりがりと体力が削られていく。
ふと、僕の耳元に足音が響いてくる。僕の声を聞いた人が心配になって見に来たのだろうか。
こんな無様な姿は見られたくないな……
痛みの中で、ふとそんな考えが頭に浮かび、動かせる右手を使って体を持ち上げる。そのまま僕は、這うようにして体育館の外壁に体を押しつけて壁にもたれているような体勢になる。
「だ、大丈夫!?」
やってきたのは、花菜。来てくれるなら別の人が良かったとも思うが、他のいじめっ子とかが来るよりは良かっただろうとも思う。
「ちょっと、その左手大丈夫!?足跡とかついてるし、痛そうだよ!」
「思いっきり転んじゃってね……ちょっと、手伝ってくれない?」
花菜の顔が疑いの様な顔になり、直後決意の表情になる。
「転んだって……転んだだけでそんな事にはならないでしょ!ちょっと、先生呼んでくる!」
「それはだめ!」
慌てて、僕は花菜を呼びとめる。先生を呼んだら本当に面倒な事になる。
僕は、動かせる右手を使って腕に着いている足跡を払う。
「保健室にいくから大丈夫。先生だけは呼ばないで」
「わ、分かったわ」
少し威嚇するような声で言ったら、花菜はおとなしく聞いてくれた。
「あとは、今知った事は絶対に言わない事。大丈夫?」
「う、うん」
最後に僕は釘をさして、立ち上がる。怪我をした左腕を右手で掴みながらよろよろと進む。
っと忘れ物をしたらだめだな。
地面に落してしまった二冊の本を右手で掴み、僕は花菜を取り残して保健室へ向かった。
体育館裏から、保健室までの距離はそこまでない。僕はあっという間につき、扉を本を使って、てこの原理のように押しあける。
「先生……」
「あら、いらっしゃい。いつものように怪我?」
顔なじみの保険の先生が出向かえてくる。昔から、いじめられてた時に負った傷を治してくれている先生だ。
傷の具合から、いじめだという事は分かっているようだが、僕が何も言いたくなさそうな顔をしたら他の人に言わないで黙ってくれているので、本当に助かっている。
「はい、そうです。ちょっと、左腕が……」
「どれ、見せてみなさい」
言われるがままに、僕は左腕を差し出す。
「これは……打撲のようね。一応、冷やしながら固定の為に包帯を巻いておいた方がいいわね」
そう言って、先生はテキパキと氷と包帯をとりだして準備してくれる。
そのまま、僕の腕に丁寧に包帯を巻き始める。
「もし、辛いことがあったらいつでも言ってくれていいからね」
いつも先生が言う、このセリフに、僕はいつも救われている気がする。もしものときでも、頼れる先生がいるという事実だけで安心できるのだ。
くるくると腕から包帯を巻き、手の甲までまかれる。
「……ここまで包帯を巻く意味はあるのですか?」
「まぁ、いいでしょう」
先生は包帯を固定させて、作業を完了させる。
これだけみると、怪我をしていなかったら厨二病みたいだな……
そんな事をおもいながら、綺麗に巻かれた包帯を僕は眺める。
「ほら、氷。これで、しっかり冷やしなさい」
「ありがとうございます」
受け取った氷を僕は包帯の上からしっかりと腕に当てる。
ひんやりとした感触が腕に伝わり、患部が癒やされていく感覚がする。
「で、どうする?このまま、今の授業はここでサボってもいいわよ。もう始まっているから、途中からの参加になってしまうから」
「じゃぁ、お言葉に甘えて。」
僕は即答する。
「あそこのベットで横になってていいわよ。向きは気を付けて。」
先生の勧めに乗って、僕はベットに腰掛ける。やわらかな感触が僕のお尻にかかった。
寝ようとしても、寝れないだろうから、ボーとする。
ただ、今日あった事を思い出しながら……
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ソラ。そろそろ行った方がいい。授業がもうすぐ終わるわよ。先生にはもう連絡を入れてあるから」
「いつも、ありがとうございます」
先生には本当に頭が上がらない。もう、冷やす必要はないと僕は判断して、氷を先生に渡す。そのまま、本を持ったままの右手で扉を開けだれもいない廊下へ体を出す。
「ありがとうございました」
「また、いつでも来ていいわよ。ここは心の相談室も兼ねているのだから」
先生の言葉を耳の中に入れながら、僕は廊下を歩み出す。いつもは、常に人が歩いていて通りづらい廊下も、授業中でだれもいないからすいすいと通れる。
階段を上り、僕は自分の教室があるクラスへ向かおうとする。その途中でちょうど授業の終わりのチャイムが鳴り響き、イスが動く音と共に、「ありがとうございました」という授業の終わりの挨拶があちらこちらから響いてくる。
本当にちょうどいいタイミングだったな。
そう思いながら、歩いていたら無意識のうちに教室の前の扉までついていた。後ろの方の扉を静かに開け、中に入る。すると、授業の合間の放課に、浮足立ったようにしゃべる音が僕の鼓膜を叩いてきた。
僕の事を心配したような声もなく、気がつかれてさえもいないことにほのかな悲しさを覚えながら、端っこの自分の席に歩みすわりこむ。
次の授業は……文化祭の準備の為の集まりだ。出店など、いろいろな物が出て楽しいとか行っているが、自分のようなボッチにとっては出店に一人で行くのも辛く、出店の裏方としてあくせく働くだけのつまらないイベントだ。話し合いも参加するだけ無駄というものだろう。
しょうがないから、集まりの間は本でも読んで時間をつぶそう。
そう決断し、後ろのロッカーにおこうとしていた本を自分の机の中にしまう。端っこの席は、だれにもかかわらず、だれにも気にされず、先生にもみつからずに読書ができるのでお気に入りだ。
ふと、授業が始まるまでの時間、まだ暇だなと思い、一旦しまった本をもう一度取り出そうとする。だが、面倒事は今日一日中続くようだ。
「ソラ、さっきは大丈夫だった?」
声をかけてきたのは、花菜。
本当に……本当に今日は運がないな……
自分の不運を呪いながら、近くまで来た花菜の顔を見る。もちろん、周りの人から「てめぇ、花菜さんにこれ以上近づいたら殺すぞ」の様な視線が多数、僕の体に直撃するわけで、本当に面倒事だとさらに自分の不運を呪う。
「大丈夫。ほら、この通り」
そう言って、僕は包帯で拘束された腕をひらひらと花菜の前に見せる。見る人が見れば厨二病みたいという巻き方だが、花菜は気が付きもしなかったようだ。
「その巻き方だと、相当重症に見えるんだけど大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。こんなのすぐに治るよ。
花菜の言葉に意地を張るように答える。実際は、まだ動かしたり何かにぶつけたりすると鋭い痛みが走るのだが。
だが、それよりも周りからの「なに、花菜さんに心配されて喜んでるんだぁ?てめぇは」という視線の方が精神に痛い。
「まぁ、なにかあったら言ってくれれば手伝うから」
「ありがとう。気持ちだけ貰っておくよ」
今は一刻も早くこの話を切り上げたいと思い、これ以上話す事はないという意思表示として、僕はポケットからスマートフォンを取り出していじり始める。
これで、もう話は終わるだろう。
そう思いながら、僕はスマートフォンで適当なニュースサイトを見ようとする。だが、花菜は止まらなかった。
「そのスマートフォンって、私と同じ物じゃない?奇遇だね!」
そう言って、花菜はポケットからスマートフォンを取り出した。
なんで、最悪な事は続くんだろう。
花菜が取り出したのは、僕のと全く一緒のタイプのスマートフォン。違うのは色だけだ。これで、同じタイプの物を持っているのは、僕とリナと花菜の三人。ご丁寧に全員色違い。さすがに重なりすぎだろと、ため息が漏れそうになる。
「そういえば、連絡先とか交換していなかったね。交換しようよ。」
そう言って、花菜はスマートフォンを近づけてくる。背中には、これまでも何倍も強い、「連絡先まで……あとで絶対殺す。」という視線が突き刺さり、頭から冷や汗が流れるのを感じる。
「えっと、ほとんどスマートフォンを使わないから、良くわかんないや。」
「なら、私が教えてあげる!ほら、こうやって、こうして。」
流れるような仕草で、僕のスマートフォンを花菜が動かし、ポンポンと僕のスマートフォンに連絡先が登録されていく。
嘘をついたのに……全く効果がない……
断る為の退路もすでにふさがれ、されるがままの状態。だが、さらに悪い事は重なった。
「なら、私もいい?」
そう言って、近づいてきたのは涼香。
――もうやめて!私の精神はもうゼロよ!
心の中で、そう叫ぶものの学校の女神二人は容赦なく近づいてくる。もう、残された手は……
「ご自由にどうぞ……」
あっという間に、少なかったスマートフォンの連絡先リストもめでたく二つ増え、体に刺さる視線も、「涼香さんまで……苦しめてから殺してやる……」というグレードアップしたものまで追加された。もう、私の精神はマイナスに突入している。
涼香のスマートフォンも色違いの同型という追い打ちまで食らい、もう満身創痍の状態だ。僕のが青、リナのが黄、涼香のは水色、花菜のはピンク色だ。
されるがままの状態で、どうしようも無くなっていた時、救いの様にチャイムが鳴り響いた。さすがに、花菜達もこの音には逆らえないようで簡単な別れの挨拶と共に席に戻って行った。体に突き刺さっていた視線も少しずつ消え、ようやく僕に安息の時間が訪れる。
教壇の上ではクラスの先生、愛香先生が頑張ってクラスをまとめようとしている。身長の低い小さな体付きに優しげな顔で、学校の中での人気も高い。生徒思いだが、よく空回りするところがあり、そういうところもまた、手伝ってあげたいなど思う人が多発して、人気が出ている。あくせく走り回るところが、子供っぽくて可愛いという声もあり、いろいろと話が絶えない先生でもある。
簡単に言うと、ロリコンの犠牲になってもおかしくない先生だ。
「文化祭の出し物で何か意見のある人!」
「はーい!」
「じゃぁ、そこの花菜さん!」
「メイド喫茶がいいと思います。」
「メイドはいろいろと問題がある気がしますが……まぁ、いいでしょう。」
「もちろん、先生にも着て貰います!」
「先生に何て事をさせようとしているのですか!怒りますよ!」
顔を真っ赤にしてぷりぷりと怒る先生に対して、クラスの中から笑いの声が立ち上る。
暇だな……
とりあえず、僕は借りた小説を片手で読みにくいなと思いながらもパラパラと読んでみる。冒頭から、読み始めるものの嫌な予感しかしない。もちろん、予想通りつまらない展開に途中で飽きて投げ出す。
今回のははずれだったな。
そう思い、僕は机の上に顔から倒れ込む。なんか、食べたいなと、さきほど食べたばっかりなのに思い始め、今日の晩御飯を予想し始める。
だが、ふとした拍子にもう一冊の本の事を思い出す。
とりあえず、少しだけ読んでみようかな。
そう思って、僕は机の中から大き目の本を片手で取り出す。何か、おもしろい物だと願いながらその本を開く。
直後、予想だにしない事態が起きた。一ページ目をめくった瞬間、勝手にページが高速でパラパラとめくれていく。
何が起きているんだ?
少し、怖くなって僕は本を閉じようとするものの、ビクともしない。そんな中でも容赦なく、ページはめくられていきついに本の裏表紙までめくられる。
――何が起きたんだ?
そう僕が思った瞬間、事態は急変した。教室の地面に何か白く輝く大きな円が現れる。見た事のない文字が大量に羅列された円。
即座に、記憶の奥底が刺激されこれが魔法陣という事を一瞬で理解する。
この事態にようやく気がついたのか、クラスの中が一気にざわざわとし始める。先生が慌てて教室から出るように言うが、無情にも間に合わず魔法陣の光が急に強くなって視界を白く塗りつぶす。
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
予想外の事態に喉から絶叫がほとばしり、僕は何も見えない目を手で覆い隠す。
体が思いっきり揺らされる感覚がして、頭の処理が緊急事態に対応しきれなくなって、思考が停止する。
数秒経過しただろうか、何も見えない中、僕の鼓膜を音が叩いた。
「おぉ!勇者様!」
奪われるのはだいたい12話ぐらいになりそうです。
それまでは主人公が無双します。そこまでは高速更新で。
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