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19 絶望の末の強化と進化

「リヒテン……」


死んだ。

彼は……僕を助けて死んだ。

僕を助けるために……死んだ。


短い間とはいえ、仲間として付き添った者の死。

あまりにも生々しく、直視できない現実。


血の上に漂うネックレスを僕は掴むものの、血の生温かさしか感じない。


僕は……生きるべきだろうか。

人の死の上で生きていくべきだろうか


そこで……僕の頭の中で、リヒテンの最後の言葉が頭に浮かんだ。


『俺の分まで、生きておけよ!あと……妻に会ったらよろしくな!』


「奥さんが……いたんですね……」


その言葉だけが、僕の喉から悲鳴のようにもれ、悲しみをさらに増やす。

リヒテンの分も僕は生きていかなければ行かない。

彼が……他の人の死を背負って生きていたように。


リヒテンの命があったからこそ、僕の今の命もある。

無駄には……できないな。

生きる目的。一度全て失った物。


「生きる目的……リヒテンの死を無駄にしないため……リヒテンの分まで生きるという事でいいかな……」


失った悲しみの中でも、残った物を探さないといけない。


考え、考え、導きだした結論。

もう、死ぬとかどうでもいい。ただ、リヒテンの分まで、全力で死に抗い、戦い、そしてあきらめない。

まだ、少しだけ血の付いたリヒテンのネックレスを決意表明に首に巻く。


「あぁ……鎖が少し切れてるかな」


切れている鎖の部分を、紐と同じ要領でしっかりと結び外れないようにする。

もう、ためらわない。もう、捨てない。命も。希望も。決意も。

弱い心もいらない。ただ、敵を殺して生き残る。それが、魔物だろうと、何だろうと。

抗うために必要なのは、何にも屈しない強い心。

僕は……俺は(・・)


「俺は最後まで抗ってやろうじゃないか!死んでたまるものかぁ!」


その為なら……人だろうと何だろうと殺してやる。

もう、国も、クラスメイトもどうでもいい。必要なのは……自分だけ。

復讐しようとも思わない。もう、そんなものはどうにでもなれ。奪い返してももう役に立たないし、残っていない。


「もう、迷わない。ぜったいに」


俺は、まだ動く右腕を上に突き出し、そのまま振りおろして壁を思いっきりなぐり付ける。


「ここから出て……リヒテンを弔ってやる為に!」


胸に付けた金属のネックレスを俺は強く握る。弱い自分はもう、いらない。必要なのは……強い自分。

折れたように動かない足をとりあえず、何とかしないとと思い、俺は思考を切り替える。


回復薬は……一つだけ残っている。第一階のダンジョン攻略も特に渡された回復薬を一つだけ本にしまっておいたのを俺は思い出した。


「とりあえず……飲み込めばいいか」


本から少しだけ高級な回復薬を取り出して、喉から流し込む。

体が中から熱くなるような感覚と共に、強制的に切断された俺の脚の筋肉が一つ一つつなぎ合わされる。


「あぁ……確か回復薬じゃ部位欠損とかは治しにくいんだったな……じゃぁ……」


まだ、旨く動かせない足を意地で動かそうとする。だが、骨が折れているのは治っていないようで、動かした瞬間に鋭い痛みが走る。


「くそっ……怒りで痛みを忘れていたのかよ……」


こればっかりはどうしようもない。とりあえず、何かで固定して様子を見るしかないだろう。


「とりあえず、ここに魔物が来たら大変だ。部屋の中に戻ろう」


冷静にそう判断し、俺はリヒテンの体を引きずるようにして部屋の中に連れていく。

死者を引きずるのは酷いと思うが、道具もない、力もない。

他の魔物に見つかって食い散らかされるよりは絶対にいい。


腕らしき物を引っ張って、引きずろうとするものの体が血のぬかるみにはまり、旨く進めない。


「くそっ……くそっ!」


もっと力があれば……韋駄天の様なもろ刃の剣の様な物じゃなく……もっとしっかりとした力が……

頭の中で葛藤を繰り広げながら、俺は血でぬるむ体を動かして扉まで引きずっていく。

扉を体を使って押しあけ、そのまま中に入りリヒテンを地面にそっと転がす。


「ふぅ……」


ようやく一息つき、リヒテン体の惨状がようやく目に入る。

顔はボロボロ。片腕片足は既になく、腹の肉も既になく、内臓がむき出しになっている。


「……」


もう、何も感じない。人の死体を見ても。無残な姿でも。

動揺してはだめだ。強い心に……迷いはいらない。


「あぁ……くっそ腹減ったな……」


現金な事に、俺のお腹の虫はなりつづけ、養分を欲しがっている。

さすがに、人の肉は食べる気にはならない。食人なんて……死んでも嫌だ。

ましてや……リヒテンの体なんて……食べたら一生後悔しそうだ。


「なら……ゴブリンしかないか……」


再び、地面を這うように動き扉を押しあけて外に出る。

近くに魔物の気配はない。あったらもう、ゲームオーバーだ。


俺は体を引きずって、まだ、赤い血の滴る赤いゴブリンに近づく。

近くに、落下しているリヒテンさんが使っていたナイフ。

それを、俺は掴む。手に、見た目からは想像できない重みが掛かり、落としそうになるのを耐えてゆっくりと引きずる。


そのまま、ゴブリンを豚の要領で解体していく。内臓は食べられなさそうだから、放置して肉だけ食べるべきだろう。

今はどうでもいい、元の世界でいろいろあって生き物の解体をやった事があるから、たやすい物だ。


「生肉……か……」


血の滴る肉をいくつか作りだし、それをならべていく。

皮もつかえるだろうと思いながら、綺麗に剥いで置いておく。


「これで、少しの間の食糧は安心だな」


ここで火を起こす手段は存在しない。なら……そのまま食べるしかないだろう。


「後は……っと」


なんとなく使えそうな手の部分にある鋭い爪を抜き、いくつか確保する。

これを旨く使えば投擲武器みたいのが作れるかもしれないという理由からだ。


「とりあえず、部屋に戻るのがいいかっと」


そう思い立ち、俺は肉を皮で包んで引きずりながら部屋まで戻る。

魔物は敵を見つけない限り追ってこない。扉を開ける様な知能がある魔物は……いないとは限らないが、ある程度の安全は保障されていると言えるだろう。


「さて……実食と行こうか」


皮を開けて、中の肉の一つを取り出す。皮肉にも美味しそうには見えない。ただの……肉の塊。

でも生きるためには、これを食べないといけない。

それに……僕は思いっきりかみついた。


「くっそ……硬ぇな……」


顎に思いっきり力を込めて噛みちぎり、そのまま口の中で噛み続けてみる。


「あぁ……まっず……」


口の中にゴムの様な味が広がり、何とも言えないような感じになる。

無理やり咀嚼して、喉に流し込み、胃に収める。


「まっず……はぁ……」


そう俺はつぶやいた直後……体が猛烈に熱くなった。


「うがっ……」


体の中の組織が、破壊されるような感覚と共に頭の中に音がガンガンと鳴りひびく。

そうだ……忘れていた。

魔物の体は凶悪に変化していて、変質した魔力によって動き続けているらしい。細胞も活性化されていて、人が変質した魔力を取り込むと人の魔力が浸食され、体内の細胞がぼろぼろになると聞いた。

結果的には細かくバラバラにされた肉片のようになるそうだ。


「くっそっ!くっそっ!」


一つの選択ミスでの死。体が一つ一つ破壊されていくような感じに、もはや死しか感じられない。


「せっかく……リヒテンが助けてくれたのにな……」


頭の中に後悔だけが生まれ、絶望の中に俺は地面をのたうちまわる。


「ぐわぁぁぁぁ!」


次第と痛みも強くなり、体の四肢が引き裂かれる感覚は増していく。

体力が多いのが幸いしたのか、それとも大量にある魔力を浸食し終わるまでに時間が掛かるのか。

地獄の様な痛みが頭を支配しつづけ、体は無意識のうちにのたうちまわる。


そして……暴れた手がナイフに刺さった。


「いたっ!」


焼き尽くされるような熱い痛みとは違った、冷たく背筋が凍りつくような痛み。

絶望と混乱と後悔でごちゃ混ぜにされていた頭の中が一気に吹き飛び、残されたのは冷静な心だけ。


体内に浸食された魔力は少しずつ全身を浸食している。早く解毒するか、魔力を切り離すしかない。

なら……

振るえる手を動かして、俺は地面に魔法陣を描いていく。


ダンジョンは不思議な場所だ。普通では起きえない事も、簡単に起きる。

ダンジョンの壁は魔力をわずかながら通す。だから、魔法陣の媒体にも一応使用は可能だ。

だが、魔力伝導率がとてつもなく低いため、相当量の魔力を流し込んでも発生する魔法は小規模。

なら……大規模の魔法を発動すれば……ここでも魔力は枯渇する!


俺は手で一番簡単な魔法陣を描き始める。ただ、小さな現象を発生させるだけの魔法陣。

何の工夫もない代わりに、適性が無くても比較的小さな魔法陣が描けるという利点がある。

痛みの信号を強制的に無視し、手を必死に動かしつづける。


「……できた!」


できあがった荒削りの魔法陣に、手を添えて、詠唱を開始する。


「ここにっ!……風の力を生み出せ!『風』!」


体から魔力が抜ける感覚と共に、強風が魔法陣から噴き出し体が吹き飛ばされそうになるのを耐える。

痛みは少しずつ弱くなり、その代わりに意識はもうろうとし始める。

魔力が一斉に無くなると、意識が無くなってしまうという代償がある。


「耐えろ……耐えろ!」


こんなのにも耐えられないのかと憤怒する頭の中で、意識を残すためにナイフで体を刺そうかとした瞬間……左手が急に疼きだした。


「こんなときに……何なんだよ!」


そう思った瞬間……左手の紋章が包帯を通して見えるほどに光り輝き、目の前に本が浮いた状態で出現する。

そして、勝手にページがめくれ、一番始めの表の様なページが目の前に現れる。暴食と書かれたところと、??と書かれた欄だ。

そして……??の文字が歪んで……文字が浮かび上がってきた。



……憤怒。


その二文字が浮かび上がる。

さらに、これまでずっと存在していた暴食という文字が……薄い輝きに覆われた。


直後、目の前に一枚の紙が出現した。


==================================


『憤怒』の解放に成功しました。

特定の状況下のみの使用が可能になりました。


連鎖によって『暴食』の上級解放に成功しました。

基本機能が全開放されました。

カスタム機能が追加されました。

暴食機能の一部がオート解放されました。


『暴食』によって身体が変化しました。

新たな技能の獲得に成功しました。


『暴食』によって獲得したものに、条件を満たしていないものがあります。

条件を満たすまでの間、体内で封印します。


==================================


朦朧とする意識の中で、俺は現れた紙を読み解く。

体中の引き裂かれるような痛みは少しずつ真ん中に集められていく。


「遅いんだよ……いつもいつも、肝心なのが出るのが……」


意識を総動員して、朦朧とする頭の中を整理する。

もう、痛みは既に引いていて、旨く動かせないからだだけが残っている。


こんなところで……へたっていて強い心と言えるのか?

その一心で、動かない体は放っておいて、思考だけを動かしつづける。

この宙に浮いている紙は、何かの伝達と考えていいだろう。

たぶん……左手の紋章が関係している。


新しく解放されたという『憤怒』。

『憤怒』と『暴食』からして、これは七つの大罪の物だと俺は確信する。


「新しい能力解放……か……」


何が原因かはよく分からない。

唯一分かるのは、暴食の効果で確実に俺の体に変化が起きたという事だ。





さらに、新しくできた希望。

それは、獲得したとかいてあった新しい技能。

それが本当で、使えるものだったら……俺は助かるかもしれない。

リヒテンの分も生きて……ここから出て新しい生活をやり直せるかもしれない。


思わず、俺は宙に浮く紙に手を伸ばす。だが、指先が紙に振れた瞬間、紙は霧のようになりどこかへと消えていった。


「なんなんだよな……」


そう思って、俺はステータスと念じる。

いつも通り、本はパラパラとめくれステータスのページを出す。


==================================

天竜 ソラ 16歳 男 レベル:54

種族:人間(?????)

職業:?????

称号:?????


HP:48000/50000

MP:50000/50000


筋力:20

体力:1000

耐性:20

敏捷:?????(韋駄天)

魔力:900

魔防:900

技能:自動魔力回復Lv.MAX、爆地(+瞬間加速(+制御不能速度))、空蹴(+自動制御)、体感時間強制変更(+無意識)、魔法複合、危険察知、『暴食』、『風纏』、『??』、自動身体回復Lv.9、言語自動翻訳(聴覚のみ)、『??』

==================================


「ははっ……」


少しだけど上がったステータスに、新しい技能。


疲れがよほど溜まっていたのか……僕の意識は安堵と共にどこかに消えていった。

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