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18 時間は無情にも進む

「くそっ!どうすれば!」


僕は大慌てで、対策を考える。

死という願望も、あの痛みによって一瞬で吹き飛び、恐怖と生への願望が頭の中を埋め尽くしている。

ここにいれば、リヒテンが生きている限りは安全。でも……リヒテン一人であのゴブリンに勝てる可能性はほとんどないに等しいだろう。

行動を起こすなら……相当速くやらないといけない。


「あぁ!武器もない!防具もない!切り札もない!でも、このままだとリヒテンが……」


頭の中で、思いついては即座に否定され破棄されていく。

不意打ち……一撃で決める様な攻撃がないから却下。

援護……援護できるような物は何もない。

何にも出来ない……そう自覚するのに時間はかからなかった。


「くそっ……くそっ!」


魔物に対抗する手段はなにもない……大した武器も……アイテムも……

そこで、最後の手段と言えるかどうかの事を思い出した。


……サラから渡された一本の瓶。

毒かもしれない……でも……それしか残された手段はない!


「迷ってる暇はない!」


急いで左手を叩いて本を出現させ、僕は頭の中にあの箱のページを思い浮かべる。

本は、自動でペラペラとめくれていき倉庫のページを現す。


「出ろ!」


頭の中で、命令を下すと本から立体的な瓶がせり出してきて、そのまま転がり落ちる。


サラが渡したこの薬が毒薬という可能性もある。飲んだら、即死とか、苦しみながら死ぬという可能性もある。勇者を殺すために置いた布石かもしれない。もっとも僕を強敵として殺すために渡した物かもしれない。


でも……ここでは信じる!


俺は瓶をこじ開け、中の黄色に輝く液体を喉の奥に無理やり流し込む。

体中に液体がいきわたる感覚と共に、じわじわと体中が熱くなり、あちこちの組織がいじられていくのを感じる。

これも……もう五度目の感覚。だが、これまでとはケタ違いの鋭い痛みが体中を襲う。


「ぐ……う……」


下唇を噛みきらんばかりに、歯を食いしばり、必死に痛みに耐える。

こんなところで……意識を無くしている暇はないんだ!早く……リヒテンを!


頭の中まで、針で刺されたような痛みが入り込み、思考さえも分解されそうになる。

耐えろ……耐えるんだ!


痛みも最高潮まで達し、地面の上で僕の体はのたうちまわる。


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


悲鳴だけが、部屋の中でこだまし、意識が少しずつ薄れそうになっていく。

……もう……大事な物は……奪われたくないんだ!

その一心で、離れていく意識を強制的につなぐ。


峠を乗り越えたのか、少しずつ痛みは遠ざかっていき、気がついたころには満身創痍の状態で地面に転がっていた。


「かけに……勝ったかな……」


これまでずっと体にあった脱力感も既になく、体が不思議なほどに素早く動く。


「何か……変わったのかな……」


そう思い、僕はリヒテンを助けに行きたい心を押さえつけ、ステータスを確認しようとする。

何が変わったのか分からないと、戦いようがない。


==================================

天竜 ソラ 16歳 男 レベル:3

種族:人間(?????)

職業:?????

称号:?????


HP:48000/50000

MP:50000/50000


筋力:7

体力:1000

耐性:8

敏捷:?????(韋駄天)

魔力:900

魔防:900

技能:自動魔力回復Lv.MAX、爆地(+瞬間加速(+制御不能速度))、空蹴(+自動制御)、体感時間強制変更(+無意識)、魔法複合、危険察知、『暴食』、言語自動翻訳(聴覚のみ)、『??(??)』

==================================


「ははっ……」


乾いた笑いだけが、この場所をこだまする。

敏捷がバグった。韋駄天はとてつもなく速い事を現す物。

これなら……ゴブリンをつぶせるかもしれない。

敏捷は、ただ動きが速くなるだけ。ただそれだけ。攻撃の威力が上がるわけでもなく、ただ、速くなるだけ。


でも……現状打破の一歩にはなる。


「行くぞ!」


慌てて、扉に近づき無理やり押しあける。






そこには……見たくもない地獄が広がっていた。






「……リヒテン……」


当たりに広がっているのは、真っ赤な血。あちらこちらにまき散らされた肉は壮絶に捕食された後を思い浮かべる。

そして、中心に広がるのは……今も肉をはぎ、貪り食う……真っ赤なゴブリン。さらに……あちらこちらの肉が無くなり、凄惨な姿の……肉塊。

顔もほとんど残ってなく、脳まで喰われた事を現している。そして……これが、つい先ほどまで生きていた事を証明する……金属の輪っかが通ったネックレス。


「ふざけるな……」


間に合わなかった。間に合わなかった。

僕が思いつくのが遅かったから。もっと早く決断していれば。

薬なんて飲まずに駆けつけていれば。転移結晶を使わなければ。

捕まらなければ。おとしいれられなければ……


「ふざけてんじゃねぇ!」


叫び声に、真っ赤なゴブリンが反応し、こちらを向き……真っ赤に染まった口をニヤァと開ける。


「そこから離れろ……そこから離れろ!」


手にまだ括りついている二つに切断された手枷の鎖を武器にしようと、足をたわめて思いっきり前方へ飛ぶ。

直後、世界がスローモーションのように遅くなり、自分だけが動く世界へ突入したような感覚になる。


「うおりゃぁ!」


自分さえもゆっくり進む空間で、僕は思いっきり腕を振るい、鎖をゴブリンに叩きつける。

ゴブリンは動いてさえもいなく、ただ鎖に直撃し少しずつ体の輪郭が歪んでいく。

ゆったりと動くゴブリンよりも先に、僕は前に進み、壁に思いっきり足から着地する。


足の骨が思いっきり折れる様な感覚が頭にひびくものの、それをただ怒りによって無視し、意地でもう一回壁から飛び出す。

ゆっくりと宙を舞うゴブリンに対して、狙いをしっかりと定め、今度は反対側の手の鎖でゴブリンをしっかりととらえて打ちつける。


ゴブリンの首が飛び、ゆっくりと倒れていく中、僕は体から壁に打ちつけられ全身に激痛が走るのをようやく感じる。


直後、体感速度が元に戻り地面にドサリと落ちるゴブリンが目に入る。


「いてぇぇぇぇぇ!」


叫び声が喉からほとばしり、体中の骨がボロボロになったような感覚が走る。

少しずつ冷静になっていく頭の中で、これが韋駄天の力だと悟る。

たしかに、瞬発力とか素早さはあがった。でも……身体能力がそれに追いついていない。

現に、スピードを殺せずに体中がボロボロになっている。


そこまで考えたところで……ようやく現状が頭に入って来た。

ゴブリンは倒した……でも……リヒテンは……


「嘘だ嘘だ!」


喚きながら、僕は腕の力を使って地面を這い、肉の塊に近づいていく。

血で滑る床を手で這い、たどり着いた肉の塊を、少しずつ感情が抜けていく目でしっかりと見つめる。

顔も原型をとどめていない。ただ、強靭そうだったけど、今はボロボロな体だけが残っている。


そして……リヒテンがずっと大事に持っていたネックレスだけが血の中に漂っていた。

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