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15 そして全てを奪われる

朝の光が差し込むと共に、視界が白く染まり、僕はゆったりと体を起こす。


「う~おはよう……」


一人で虚空に朝の挨拶をするものの、だれも答える人はいない。いつも通りの朝。

僕は、何のためらいもなくベットからはい出て、立ち上がり腕をぐるぐると回す。


体はどこにも痛い場所がないし……今日は好調かなと思いながら、寝着を脱ぎ捨てていつもの服に着替える。

包帯はいつも巻いたまま寝ているため、気にせず髪の毛とかを整える。


「剣は……持っていかなくていいか」


一人そう呟いて、持ちあげていた剣をベットの所に立てかけておく。

今日は、たしか午前中に座学、午後は実技を兼ねた戦闘訓練だったはずだ。

座学に持ち物はいらないから、もう準備は完了しただろう。

そう思って、僕は扉から出ようとする。そこで……思いっきり扉が押しあけられた。


「ソラ!いる?」

「えっと……リナ?」


いつもの元気な声とはまた違った感じの声が響くが、声の質からリナだと一瞬で判断する。

あんなに焦った声を出して……どうしたんだろう。


「えっと、どうしたの?」

「そんな場合じゃない!……は、は……とりあえず来て!」


いつもの様子とは違って取り乱したリナが僕の腕を思いっきり掴んで、強制的に連れていく。特に抵抗する意味もないので僕はなすがままにされる。


こんなに切羽詰まっているとは何か大変な事でもあったのだろうか。


まぁ、のほほんとした感じの事を僕は考えながら、とりあえず足を動かしてリナについていく。

こっちの方面は……たしか大広間だったはずだ。


どたばたとついていくと、大きな扉が目の前にそびえ立ち、それをリナは体当たりで無理やり押しあける。






そこには……異様な空間が広がっていた。






勢ぞろいしたクラスメイト達は表情は一様に揃わず、恐怖で怯える様な顔から、悲しみにむせび泣く顔。怒りに手を震わせている人まで様々。

言えるのは……悲しい事があったという事。


何が……あったんだ……


戸惑いと混乱が頭の中で渦巻き、足どりが重くなる。そこで……僕は気が付いた。

みんなの真ん中で……誰かが倒れている……?


謎の恐怖が心を浸食していくも、いつかはみなければならない物だと、なぜか思い。僕は倒れている人に恐る恐る近づいていく。


人の隙間から見えているのは……血の気がなくなったように青白いが、スラリとした足。


一人ひとり通り抜けると、見覚えのある服などが少しずつ露わになっていく。


頭の中で必死に否定し、見たくないと足を止めようとするものの、足を止めることはできず、ついに全ての現実を見てしまう。


信じたくないと頭が拒否反応を出し、足が小刻みに震え始める。


倒れていたのは……昨日まで笑顔があふれていた……花菜だった。表情も血の気もなく、ただ静かに横たわっているだけ。

恐る恐る地面に放りだされている右手に触れてみるものの、その手には勇者の証だった青色の紋章もなく、ただ、冷たさしか感じさせない。


「うそだ……」


体はこわばったように動かず、どこからも熱を感じさせない体。……死という現実が手から伝わってくる。

昨日まで……あんなに楽しそうにほほ笑んだり……時には悩んだり……誰よりも幸せな人間らしかったのに……今は物のように動きを止める。


「うそだ……」


頭の中から過去と同じ悲しみがわきだしてきて、目に縁に水がたまってくるのを感じる。

……あの時と……同じ。


悲しみという物だけが心を浸食していく。


「うそだ……」


なんで……花菜は死んだ?どうして……死んだ?

悲しみでうめつくされた心は冷静という名の現実放棄に逃げる。


目立った外傷はない……でも、病気の類でもない……






だれが……殺した?






疑念と怒りが心を覆い、頭が沸騰したように熱くなる。

思考回路が熱でショートしそうになり、もう何も考えられない。


そこで……水が飛んできた。


「お前が……お前が殺したんだ!」


とんできた水によって冷やされた頭を動かし、僕は声のする方を睨む。

そこには……僕を振るえる手で指さしている具象がいた。


「俺は見たぞ!お前が花菜さんの部屋に入るところを!お前が殺したんだろ!」

「僕は……やってなんていない!」


とっさに僕はその疑念を否定する。僕が……花菜を殺すわけがない。たとえ……どうでもいい……クラスメイトだとしても。

だが、一度矛先を見つけた怒りは止まらなかった。


「お前しかいないだろ!こんな風に花菜さんを殺せるのは!」

「そうよ!あんたの闇の魔法でしかこういう事はできないわよ!」

「わ、私も見たわ!ソラが誰かに魔法を使っているところを!」

「夜な夜な外に出て人を殺す魔法でも研究していただろ!死魔法とかを使ったんじゃないのか!」


あちらこちらからの怒りの籠った非難が僕に突き刺さる。

僕は……僕はやっていない!


「だから……僕はやっていないって言ってるだろ!」


際限ない怒りがわき出て、今すぐ殴り倒したくなる。そこで……波打つ水面に大きな岩が落下してきた。


「悪の勇者は本当に存在したようだな」


無駄に荘厳な声とともに、登場したのは国王。だが、その顔は険しく、大罪人をさばくときの様な表情だ。


「呪われし闇の魔法を使うところを見たころから怪しいと思っておったのだ。まさか仲間殺しという大罪を犯すとはな」

「僕はやってない!殺す意味がないだろ!」

「黙れ!お前以外にだれがいるというのだ!目撃の証言も出ているのだぞ!」


さらに言い返そうとした瞬間、腕が冷たい物に掴まれる感触が頭にひびく。

横を見ると、ごつい鎧を着た兵士が腕をしっかりととらえていた。


「しかも……性行為まで強要しようとしていた様だな」

「……何?」

「発見された時は服もボロボロ。あまりにも無残な有様だったそうだ。こんなことができるのは……お前しかいまい」

「ふざ……けるな……」


怒りが心の奥底からこみあげてくる。これまでとはケタが違う怒りだ。

それは、自分が疑われた事に対する痛みと、それを超えるほどの花菜の無残さに対しての怒り。

だが、そこでひとりの少女の声が響いた。


「ソラはやってない!ソラがやるはずがない!」


涙声とも言える声での初めての援護。そちらをみると……リナが目に涙を溜めながらも、顔を真っ赤にして反論していた。

だが、もう一人の声も響いた。


「ソラがやるはずない。それは、私自身も良く理解している」


冷静ながらも少しばかり熱のこもった声。いつもの無表情ながらも……涼香もしっかりと反論してくれた。心なしか、涼香の表情は少しだけ辛そうに見える。


「リナ……涼香……」


助けてもらえる人がまだ存在していた事に僕は少しばかり心が楽になる。しかし、国王には通用しなかったようだ。


「あぁ……闇魔法の精神汚染にやられてしまった人が出てしまったようだ……勇者共よ、彼女らの目を覚まさせてやってくれ」


国王の勝手な解釈によって、二人まで悪者……いや、容疑者のようになってしまった。


「闇の魔法に……精神汚染!?」

「涼香さん!リナさん!大丈夫!?」


ここで、国の人を疑うという事をしらないのか、クラスメイト達が二人に対して慈愛の目をむける。

……まてよ、これってまさか……

頭の中で、魔族のサラが言っていた事が思い出される。


国に……騙されて……殺された?

今の状況を全て国が仕組んだなら……この後は僕はどうなる?


扱いにくい駒として決められ、廃棄処分。

勇者としての光を際立たせるために……強力な闇の勇者を作り上げ、それを壊す。

そうすれば……何の危険もなく勇者としての名を強制的に上げることができるだろう。


ここから導き出せるのは……僕の酷い待遇。

最悪のパターンだと……公開処刑。


「ふざけるな……ふざけるな!」


腕を全力で振るい、兵士を吹き飛ばそうとする。

勇者として強化された体なら……こんな拘束を解くもたやすい!

だが……兵士はびくとも動かなかった。


下っ端の兵士でもこの強さ……所詮、僕らはこれまで手のひらの上で転がされていたのだろかという疑念まで出てきている。


「悪の勇者か……惨めな者だ。あれを持ってくるのだ!」


国王が命じると、即座にメイドが謎の箱を持ってくる。その箱を、国王は開いて中から水晶の様な物を取り出した。

透明な色に、突き刺せばそのまま刺さっていそうな形の水晶。


「お前からは勇者の資格を剥奪するのが一番良いだろう」

「待て!お前は何をするつもりだ!」


嫌な予感というレベルを超えた最悪の予感が頭を通り抜けずに頭の中でゴンゴンと鳴り響く。

勇者の資格を剥奪……という事は、僕が希望を抱いていた闇の力も、強力な身体能力も……


「や、やめろ!」

「やれ!いくら勇者とは言え、罪人とあらば罰しないわけにはいかぬ!」


その声とともに、僕の腕に鋭い痛みが走る。痛みの走った方向に視界を向けると……鋭い透明の水晶が手の甲に突き刺さっていた。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあああぁぁあぁ!」


体から何かがごっそりと持って行かれるような感覚とともに、勇者の証である紋章が薄れて消えていく。


返せ……消えるな……やめろ……痛い……


いくつもの感情が同時にこみあげてきて、頭の集積回路が焼き切れそうになる。

そしてついに紋章はまっさらになくなり、どくどくと流れる血だけがその場に残る。


「ぐわぁ!」


容赦なく、手に刺さった水晶は引き抜かれる。透明だった水晶も青く染まり、表面にはぽたぽたと血が滴っている。

奪われた勇者の……証の残骸。


「か、返せ……返せっ!」


痛む右腕を放置しながら、暴れて再び拘束を解こうとする者の、体に急に脱力感が襲い力なく動くことしかできない。


「こんなけがらわしいもの……処分しろ!」


国王の命令が下され、僕の残骸の水晶はどこかに持って行かれる。たぶん……砕かれるのだろう。

そう思った瞬間、すべての思いが一つにまとまる。



怒り。

怒り。

花菜が殺された事に対しての怒り。

僕が貶められた事にたいしての怒り。

勇者としての証が奪われた事に対しての怒り。


……ふざけるな。

……ふざけるな!

……ふざけるな!!

……ふざけるな!!!


「ふざけんなぁ!!!」


押さえつけられていた怒りが急激にふくれあがり、暴走を起こし始める。

体自体が熱を帯び始め、何かが具現化するのを感じる。


「これは……魔王の発現か!邪神か!」

「な、なんなんだよ!なんなんだよ!」


どす黒い感情が心を満たしつくし、外に漏れていく。

自分の体が赤く染まっていくのが目に入り、地面を黒い炎が覆っていくのが見える。


「ふざけんなぁぁぁぁ!!!」


腕を抑えていた兵士が自動的に吹き飛び、壁に叩きつけられる音だけが耳をうつ。

左手が猛烈に疼き、体が何者かに乗っ取られたように動かなくなる。


「つば……さ……しかも真っ黒の……」

「バケモノだぁ!逃げろォ!」


周りに悪魔のような部位が出現し、周りを飲み込もうとしていく。


「はは……ははははははははは!」


新しい神経の様な物が強制的に繋がれるような感じがし、翼の様な物が動かせるようになる。


壊してやる。壊してやる。何もかも徹底的に破壊してやる。

怒りのままに。ただ、本能のままに。


「う……」


だが、翼を振るおうとした瞬間に……意識が急に朦朧とし始める。

翼の神経が強制的に遮断され、バラバラと光になって分解されていく。


「悪魔の力が弱ったぞ!今だ!捕え……」


腕が掴まれるような感覚を最後に、そのまま僕の意識は夢の中に沈んでいった。

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