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13 無力な勇者

「誰だ!」


慎太の声が響き、緊張が皆に走る。

今、飛んできた声はアルトぐらいの声。たぶん、女性だろう。途中でやって来た冒険者か……それとももっと悪質な物だろうか。冒険者でも、勇者だと分かってそんな言葉を発したなら面倒な類に入るだろう。


「弱い……弱いですね……前衛は攻撃は最大の防御と言わんばかりに攻撃し続けるし、そういうのは攻撃力がある人がする事。碌に敵の事を確認せずに攻撃を続けて吹き飛ばされているのが今の現状」


どこからか飛んでくる正論。前衛の人達は頭に血が上ったのかムキーッ!と言わんばかりにいら立っている。

どうせ、僕が後で言おうと思っていた事だが、ちょうどよかった。僕が言っても誰も聞いてくれないし、ちょうどよかったというところだろう。


「反対に後衛は大した攻撃もなく、適当な方向に魔法を放っているだけ。全体でまともに動いていたのは、五人ぐらいしかいないようですね」


こんどは、後衛の血の気の多いクラスメイトがムッキャー!と言わんばかりに憤怒している。

見事に煽られているな……少しばかりというか、相当単純みたいだ。


「誰だお前は!姿を現せ!」


慎太がいらついた表情で声を宙に投げかける。


「はぁ……しょうがない。姿ぐらいは出してあげましょう」


その声が宙から飛んできた直後、ボスがさきほどまで立っていた場所に……黒い霧が発生した。

その霧は渦を巻き、霧散し……中から一人の人が現れた。


赤いながらに荘厳な服と共に、サラサラとしてそうな赤い長髪。温和そうな顔に真っ赤に輝くひとみ。そして……主張を続ける胸。

だが、それよりもひと際異質なのが……頭から生えている二本の角と、漆黒の翼。


話にだけ聞いた事がある姿。頭の中にある本の記憶が呼び覚まされ、一瞬でこの女を……敵と認定する。


「ま……魔族だぁ!」


兵士の悲鳴の様な声と共に、恐怖という物が伝染していく。

果敢な兵士が槍を使って攻撃しようとするものの、あっさりと手で弾かれて傷一つ負わせられていない。


「弱い……弱い……今の勇者はメンタルも弱いのですね……呆れしか残りません」


呆れの様な声と共に、女の手に複数の魔法陣が浮かび上がる。

たしか、魔族は魔法への適性が高く、媒体がなくても魔法が使用できると聞いた。でも……詠唱まで省略できた覚えは無い。しかも、多数同時展開だ。


「『衝撃球』」


冷酷ながらに怒りをにじませたような声が耳に届き、直後魔法陣から黒く輝く球が発射された。

勇者として強化された僕でも、目でぎりぎり追えるぐらいの高速で球は飛んでいき、あちらこちらの兵士に突き刺さる。

ほぼ全員の兵士は魔法に直撃し……何かに思いっきり殴られたように体を吹き飛ばされて壁に体をのめり込ませる。死んでいる者は一人もいないようだが、吐血している人もいる。


詠唱省略に、多数同時展開に媒体なしの魔法。しかも相手は空中に滞在することができる。非常にまずい状況。

魔法も簡単に防がれるだろうし、もしその手段がなくても簡単に避けられるだろう。剣は頑張っても届く様子はなく、槍でぎりぎり届くぐらいだ。


絶対的不利に僕らが立たされているのを分かっていないのか、クラスメイト達はきっかけがあれば今にも飛び出しそうな表情で女をにらんでいる。

僕が戦っても勝率が10%を超えるかどうかの戦いになるだけだろう。頼むからきっかけを与えるなと願うが……一人はバカみたいに勇敢な事で……


「お前……助けてくれた兵士たちを……全員やるぞ!」

「おう!やったろうじゃないか!」

「「おぅ!」」


ボスを倒したから有頂天になっているのか、余裕こいた表情でクラスメイト達は女に向かっていく。

あぁ……最悪だ……

おおよそ勝てないのは、女が発しているプレッシャーの様な物から感じている。危険察知の効果なのかもしれないが。


「まったく、単純すぎて呆れしかないです。面倒だから魔法は残しておくとしましょう」


そう言って、女が手を上に掲げると……そこに槌の様なものが出現する。大きさは人よりも少しばかり小さいサイズで、当たったら相当の威力だろう。

女はそれを軽く持ち上げ、もっとも近くまで迫っていた慎太に思いっきり叩きつけた。


「グふっ!」


慎太に槌が衝突した瞬間、慎太は体を何かに高速で押し出されたように遠くまで飛んでいき、部屋の壁に体を叩きつけられた。ドシンという音が響き、壁から前のめりに倒れる慎太の体。

慎太は血は出ていない。けど、痛みがあるのか倒れたまま呻くようにして立ち上がろうとするが足がふらついているのが見える。


「何だ……今のは……」


違和感が頭の中をよぎる。あの攻撃の不自然さからして、たぶん……

少しばかり怯むクラスメイトをおいて、走り出す具象を僕はしっかりと目でとらえる。

思いっきり跳べば届くと思ったのか、足をたわませて跳躍しようとする具象を女はしっかりととらえていて、タイミング良く槌を振るい、具象に慎太と同じ結末を迎えさせる。


「うがっ!」


同じようにドシンという音が響き、具象もやられる。怪我などは見当たらないが、戦闘に復帰するのには時間がかかる。慎太と本当に全く同じ結末。

そして、さきほどの攻撃を見て、僕の疑念は一気に確信に変わる。あの攻撃は、不自然なところがあった。だから、僕は凝視していた。その結果、導き出す事に成功した結論。


――彼女には……僕らに対して殺意がない。


本当に、魔族とかだったら魔王様を守るためーとか言いながら簡単に殺しにきているだろう。全力で殴ってきたり、槌じゃなくても高確率で相手を殺すことができる斧などを使うはずだ。

だが、彼女の攻撃は違っていた。槌を全力で動かしているように見せて、僕らにあたるぎりぎりの場所で瞬間的に速度を落とし、ぴたりと体に当てていた。そのまま、力を入れて押し出すようにして僕らを吹き飛ばした。


本当に倒すためなら、速度を殺さずに叩きつけた時のインパクトで体の中に衝撃を与えたほうが楽だ。このようにしたのは、殺すためではなく……無力化というところだろう。


なら……こっちも無力化を目安にしておくべきだろう。

僕はいつものようにポケットから目的の魔法の紙を探り出そうとする。だが……敵は待ってくれなかった。


「あぁ……もう面倒です。後でまとめて確認させて貰いましょう」


その言葉と共に、女は宙に大きな魔法陣を描き始めた。僕と同種の……黒々とした魔法陣だ。


「ここに呪いの光を生み出し、あらゆるものの動きを止め、固め、石という名の牢獄にとらえさせよ。『石獄』」


詠唱に僕は嫌な予感を感じ、ずっと剣にまとわせた状態の闇の霧を動かす。これまでの訓練で思いついていた霧の防御利用。

僕は剣の柄を軸として大きな盾を作り出す。それと同時に、魔法陣が完成したのを僕はみて、盾《剣》を顔の辺りに掲げる。


直後、まぶしい光が発せられ、辺りが一時的とはいえ白色に染まる。盾によって、僕に光は当たらなかったが嫌な予感だけが頭をよぎった。


魔法の詠唱は魔法の全貌を現しているともいえる。僕が聞いたあの詠唱の通りに魔法が起動するなら……その効果は……


僕は霧をうごかして、盾の状態を解除する。すると、目の前には……時が止まった空間が広がっていた。


部屋の中に無数に立つ、灰色の石像。一つ一つが人の形をして、さまざまな表情をしている。つい先ほどまで、生きて動いていた様なリアルな石像……

これは……さきほどまで戦っていたクラスメイトだと、一瞬で頭の中で信じてはいけない答えが浮かんだ。


「あ、なかなか良い判断力じゃないですね。唯一の当たり株でしょうか」


女の少しだけやわらかくなった声が鼓膜を叩くものの、それすらも僕は気にならなかった。

一度出てしまった答えは覆す事は困難。頭の中に絶望という概念が渦を巻く。

あっさりと……クラスメイト全員がやられた。抵抗する暇もなく、道端の小石のように。偶然とはいえ、助かったのは僕だけ。


石化も、もしかしたら治らないかもしれない。油断した僕がバカだった……

自責の念にとらわれそうになる頭を手で殴ってリセットし、僕はこれからの選択肢を考える。


絶対に選んではいけないのは、この女の戦いの道を選ぶ事。実力差は圧倒的、不意打ちが旨く行ったとしてもその後に簡単に返り討ちにされるだろう。


他に思いつくのは……逃走という手段。負けへの一本道。

でも……背に腹は代えられない。命を最優先にして、助けを呼びに行く事に成功すれば、もしかしたら石化を解除するための方法が見つかるかもしれない。


即座に決断し、僕は後ろに走り出そうとした瞬間……足に全く力が入らない事に気がつく。


「な、何だ……」


なにかにとらわれたように動かない足。いくら力を入れようとしても、一歩目を踏み出そうとしても……まったく動かない。

視線を下に落としてみると……灰色になってしまった僕の足があった。光を完璧に防ぐ事ができなかったのだろう。もはや、混乱を通り越して一周回って冷静になっている。

逃げだす事さえも不可能……なら……せめて一矢報いてから死んでる!


まだ全然動かせる腕を使って僕は、剣を構える。ここから剣を振ってもぜったいに届かない、なら……霧を使う!


意識をまとめて霧に使い、剣を思いっきり振る。霧が扇形にとんでいき、そのまま女のところまで届くかと思ったが……あっさりとかわされる。

よけられたなら……最後の手段に頼るまで。

僕はもういちど、剣を構え……振ると同時に手から放す。いったかと思った直後……綺麗に柄をキャッチされて剣が止まる。


「あら、あぶないあぶない」

「くそ……」


紙の魔法もあるが、詠唱に時間がかかって絶対に無駄。残された手段は……ない。


「別に、私はあなたたちを殺す気はありませんよ。ただ……ある約束を果たしに来ただけです」


そう言って、女が手に持っていた槌を一瞬で消す。


「とりあえず、左腕を見せてもらえますか?ここまで強いなら、あなたの可能性が一番高いですし」


謎の願いを女が出してくる。左腕を見て何をするのかと……疑問に思った瞬間、ある結論に結び付く。

この人……あの本を狙っているのか!?


「い、いやだ。絶対に見せない」


ここは意地だ。あの謎の能力はまだ解明できていない場所が多い。こんなところで……手放してたまるものか。

恐怖を欲が上回り、僕は拒否を叩きつける。


「そうですか……何かを隠しているのですね」


一瞬で女の目が鋭くなり、背筋が泡出すような感覚が僕を襲う。


「なら……力ずくで確認させて貰います」


そう、女の人が微笑を浮かべた直後、風が吹き、目の前から女が消える。

それと同時に左手が解放感と暖かい感触に同時に襲われる。まさかと思い、左手の方を見ると……ほどかれた包帯が地面に落下し、手のひらの紋章があらわになっていた。それを……女がしっかりと掴んでいた。


「やっぱり、当たりでしたね」


これまで、温和な表情の中から感じていた薄寒さが嘘のように消え去り、完全なる笑みへと変貌する。長らく求めていたものが見つかった時の様な笑み。


「自己紹介がまだでした。私は、サラ。前勇者の一人の……妻です」

「……前勇者?」


初耳の言葉に僕は耳を疑う。あの言い方からして……僕ら以外にも勇者がいるみたいだ。


「ご存じないのでしょうか。まぁ、いいでしょう」


そう言って、サラと名乗った女の人はポケットから一枚の紙封筒を取り出す。

よく、状況の変化が速すぎて理解ができない。……というか、この人は何のために……


「探していました。大罪の書の勇者さん」

「……大罪の書?」


さっきから単語しか発してはいない気がするけど、それよりも今の状況の把握に精を出す。

えっと、このサラという人は魔族で、前勇者の妻で、僕は大罪の書の勇者で、もうよくわからなくて……


「あまり時間がないのでよく聞いてください。この国はあなたたちを騙そうとすると思います。その前に……一刻も早く手を打たないといけないのです。私の夫の二の舞になる前に……」

「何かあったのですか?」

「時間がないので簡単に言うと、この国に騙されて……命を落としました」


サラは顔に悲しげな表情を浮かべる。


「夫と同じように紋章を両手に持つ、あなたにこれを託してと言われています」


そう言って、サラは装飾のついた瓶を渡してきた。薄く金色に輝く液体が中に入っている。


「あと、もし何かあったらここに来てください」


既にサラが取り出していた紙封筒を僕に突き出してくる。その表紙には、この世界の文字の羅列が書かれていた。


「あなたは……何のために……」

「私の目的はただ一つです。全ては……この国を……夫の為に壊す事です」


簡潔な答えと共に、サラは服をひるがえしながら後ろを向く。


「では、失礼します。後は……頼みましたよ」

「ちょっと!待って下さい!」


僕の静止の声も聞こえなかったのか、それとも無視しているのか、何の反応も返さないままサラは虚空に消えていった。

直後、ピシピシという音が響いて、足の石がひび割れている事に気が付く。

思いっきり足を降ると、足の表面がぽろぽろとひびわれながら元の健康的な肌の色に自動的に戻っていく。


治らないと思っていたけど、時間がたてば治るものなのかと安堵しながら、他のクラスメイトを確認すると同じようにピシピシと音を立てながら動き始めていた。


「いてて……体が固まっている?」

「何よ……これ……」


まだ、体の一部が凍っているのかぎこちない動きを見せながらも、クラスメイト達は状況を少しずつ把握しているようだ。


「……なんだよこれ……」


手に持っている一つの封筒と、一つの瓶の感触が一番の確かな物と感じながら……僕の頭はいつまでも混乱したままだった。

とりあえず……僕は慌てて左手に包帯を巻いた。


そろそろ地獄に叩き落とそうか悩む頃です。

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