11 初戦闘に罠ありけり
「ここに全てを照らす光を生み出し、正義の名のもとに万物を倒す球となれ!『光球』!」
長い詠唱と共に白く輝く光の球が飛んでいき、獣の形をした魔物の体にまっすぐと突き刺さる。ぶつかった魔物はそのまま光の玉に押し飛ばされて壁に叩きつけられる。
一体を制覇した事を確認し、僕は魔法を使っていない状態で剣を振るい残っている獣の魔物を切り落す。
飛び散る緑の血を避け、魔物の制圧を確認する。
「なかなかやりますね……ソラ君」
戦闘顧問として着いてきている兵士の褒め言葉を聞きながら僕は剣の血を落とす。
ダンジョンに入ってから大体一時間。最初怯えていたクラスメイトも、自分が本当に強いと自覚したのかだいぶ慣れてきているようだ。怯えているよりはいいかもしれないが、ちょっと緊張感が欠けているような気もする。
戦闘態勢は、先陣に僕と慎太。その後に近接攻撃職を少しに、そのさらに後ろに魔法職が構えている。回復職とかはあちらこちらに点々と配置しておいて、予想外への事態を考慮してある。
「だいぶ攻略できたみたいですね……」
「もう少しでボス部屋にいけるかもしれませんね」
ポツリと僕が呟いた言葉に、一応同伴でついてきているヒェライさんの言葉が返ってくる。
魔物もいろいろなものがいたが、ほとんどが獣型の物で、人型の物は一体も居なかった。まぁ、最初からそんな魔物と遭遇したら、パニックに陥って戦いどころではなくなるだろう。
「おっと、そこにトラップがあります」
何かゴーグルの様な物を付けている兵士が警告を発した。
ダンジョンにももちろんの事罠が設置されていて、致死性の物は一階では少ないが、魔物のいっぱいいる部屋への転送ぐらいはあるそうだ。
兵士の指し示す場所を踏まないように気を付けながら、突き進む。
「あれは何だ?」
「魔物……かな……」
慎太が指さすものを僕は観察してこたえる。
同じダンジョンに潜っていた攻略者だろうか。少しばかり装備がボロボロに見える。
「って……まさか……」
風貌が見えてくるにつれて最悪のイメージが浮かぶ。
慣れてきたとはいえ、これがきたら……パニックに陥るのは間違いないだろう……
思い違いという事をねがいながら、僕は前から迫ってくる物を凝視する。
「う……うぅぅぅぅぅぅ……」
呪いの音の様なうめき声が前方から聞えてきて、僕は確信する。
この魔物は……ゾンビの類だ……
「な、なんだあれは……」
「変な人だね……」
気が付いていないなら幸い、気づく前に倒してしまうのが得策と考え、僕は突撃の体制をとる。
だが、
「あれは……ゾンビだぁぁぁ!」
誰か知らないが、後ろから大きな声が響き渡る。
面倒な事を……と思いながら突撃しようとするものの、もう遅い。恐怖は……伝染する。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
「やばいやばい!攻撃食らったらダメなやつだろ!」
「とりあえず、逃げろ!」
陣形は既に崩壊し、我先にと逃げだそうとするクラスメイト。
だが、それだけでも終わらず、
「後ろからもなんか来てるぞ!」
「うわぁぁぁぁ!?もう駄目だぁぁぁ!」
「どうすればいいのっ!」
「とりあえず、魔法だ!」
後ろの混乱はさらに増加し、もはや正常な思考を保って戦闘に参加できるのは……僕と慎太と訓練を受けた兵士だけだろう。
「慎太!前の敵は任せた!後ろの敵は僕がやる!」
「分かったから速く行け!お前は俺より弱いんだから!」
ここは意地を張るところかと呆れながら、僕は足を使って思いっきり地面を蹴り飛ばす。勇者になってから鍛えられた脚力がフル稼働し、体は宙を舞いながらも、天井すれすれを通って、最後尾のクラスメイトの前に着地する。
「あぁ、魔法止めて!何も見えない!」
当たりもしない魔法があちらこちらにとんでいって、魔物が旨く見えない状況になっている。無駄な魔力を浪費するなら、後のボス戦に取っておいてほしい。
「ここに万物を飲み込む漆黒の闇の力を生み出し、剣の元に集わせ万物を切り裂く剣を生み出せ。破壊の波を巻き起こせ、『漆黒剣』!」
僕は昨日の練習で使った武器付与魔法を起動させ、剣を抜く。
敵の数は……12体。さすがにこの武器だけで全部を倒すことはできないだろう……
だったら……
「ここに万物を飲み込む漆黒の闇の力を生み出し、万物を貫き、飲み込み、破壊する柱となれ!『闇柱』!」
一度きりしか使えない、一辺が15cmぐらいの紙に刻んである魔法陣を僕は服のポケットから取り出して魔力を注ぎ込む。
闇柱はいろいろと便利だから数枚準備してあるので、一枚ぐらい痛くは無い。ひとつひとつ効果も変えた魔法陣が刻んであるので、一番威力の小さい物を選んでおいた。
ちなみに、この魔法媒体は魔法陣制作師にいろいろ教えてもらって作ったものだ。文字が分からなくても、意味を合わせて組み合わせた物を移すだけだったので今では本をみながらなら自分一人でも作れるようになっている。
最初は、何度も紙をダメにして困らせていたのを僕はまだ覚えている。
魔法陣が起動し、黒い霧みたいな物が魔法陣に集い、一つの柱のようになる。そして、集った霧が突然膨張し、魔法陣を向けた方向に向かって長くのびる。
『闇柱』の効果は、名前の通り柱を作る為の物だ。本来なら地面で起動して真上への攻撃などに使うものだが、今回は直線上の通路だったので少しばかり応用して横向きに起動した。
その結果、闇は遠くにいた敵の一体の頭を貫きそのままのびていった。
「効果時間は……あと1秒!」
『闇柱』の欠点は、そこまで時間が持たない事だ。延長させる事も可能だが、詠唱が長くなることと魔法陣自体がさらに大きくなってしまうという欠点も背負っている。なので僕は使っていない。
でも、『闇柱』は攻撃力がなかなか高い。うまく扱えば便利なものだろうと僕は考えて重点的に練習してきた。
ある程度伸びた事を確認して、僕は力を入れて手を魔法陣ごと動かし、横にいた魔物も三体ほど柱で吹き飛ばす。
起動中の魔法陣は、動きが魔力の力で固定されるためとてつもなく動かしにくい。手を話しても宙に浮いているぐらいだ。だが、力に物を言わせて強引にうごかす事は可能で今回は、それを使った。
「残り、8体!」
僕は叫び、次の攻撃に備えようとする。だが、敵もそれを待ってくれないようで、こちらに向けてまっすぐと走りだしてきた。
走れるのかよ!
慌てて僕は対策を考え始めた。急いで斬っても、同時に四体が限界だろう。僕に向かって全ての魔物が向かってきているのなら対策は可能だが、走っている向きからして後ろのクラスメイトも標的となっている。
飛び出して、半分を先に始末してから大慌てで戻って全てを倒すかと僕が考えた瞬間、聞きなれた冷静な声が響き渡った。
「ここに、万物をせき止める光を集わせ、全てを守る為に全てを止める壁を作り出せ。『結界・壁』」
その声とともに、ゾンビ達の前に黄色の半透明の壁が現れた。その壁に半分のゾンビ達はぶつかり、足をよろめかせる。
「涼香!ありがとう!」
誰がこれをやったのか、何を意図してやったのかは一瞬で分かった。
僕は足止めができなかった魔物に向かって足を踏み出す。
涼香の職業は『結界師』。防御に特化した職業で、攻撃を防ぐ壁を作り出したり、敵を覆って足止めをする名前通りに結界などが使えるそうだ。
涼香の技能に最初から、結界生成という技能があったらしく、なんならこれだけでも特化させようと考えた結果らしい。
一応、魔法職の才能もあったらしいが攻撃は趣味に合わないと判断したと彼女は言っていた。
闇をまとって大きくなった剣を振りかざして、僕は四体のゾンビをまとめて切り裂く。結界の足止めはせいぜい数秒。でも、それだけで十分だ。
倒れたゾンビを無視して、立ち上がり始めたゾンビに向かって僕は走りこんだ。そのままの勢いで剣を振るい、四体のゾンビを切り伏せる。
「ふぅ……なんとかなったかな……」
短い時間の戦闘だったが、一気に疲労が増した気がする。そのまま、僕は尻もちをついて一瞬の休みを取ろうとする。
だが……そこは兵士が言っていた罠の場所だった。
「……最悪……」
ホワイトアウトした視界に、僕は目をつぶる。
何が起きたんだと混乱する中に、体が地面に叩きつけられる感覚が響く。
「痛い……」
衝撃で開いてしまった目も、うっすらとした光しかとらえることができず、今の状況がまったく頭に入ってこない。
ここはどこだ……?
そんな疑問だけが頭の中を渦巻く。とりあえず、視界の確保が最優先と考え僕はポケットから念のために持ってきた光る鉱石を取り出す。
名前はそのままの『光鉱石』で、魔力を込めると込めた分だけ強く光り輝くという物だ。
魔力を流し込むように僕が頭の中でイメージすると、光鉱石がゆったりと光り辺りを照らし出す。
「……ウソだろ……」
照らされた周囲に見えたのは、完全無欠な魔物の群れ。しかも、すべてゾンビの様なもの。
どっからどう考えても、絶望的な状況。無傷では帰れないような状況だ。
でも……最高じゃないか!
ひさしぶりに味わえる、緊張感に体が盛り上がっていく。絶対的チートがあるからこその……高揚感。
「やったろうじゃないか!」
光に反応したのか、こちらをぎょろりとゾンビ達がにらみ、背筋が泡立つような感覚が僕を襲う。でも、そのゾクリとした感覚も高揚感へと自動的に変換され、気分がさらに盛り上がる。
魔剣で一番近くにいるゾンビに斬りかかろうとしたところで……ある事に気が付く。
霧が……なくなっている。転送の影響だろうか、今は魔剣に魔法を付与事が最優先だろう。
「ここに万物を飲み込む漆黒の闇の力を生み出しっ……、剣の元に集わせ万物を切り裂くぅ……ぅ……!」
飛んできたひっかきのような攻撃を、詠唱をしながら僕は避けるものの腕に少しだけ当たってしまい、うめき声が出てしまう。
でも……詠唱を止めるわけにはいかない!
「け、剣を生み出せ、破壊の波を巻き起こせ、『漆黒剣』!」
やっとのことで魔法を剣にまとわせる事に成功し、即座に意識を総動員して霧で剣をさらに大きく覆う。
大きくなった剣を僕は腕力に任せて周りの敵にまとめて叩きつける。衝突したゾンビ達は体の一部が外れながら、吹き飛ばされていった。
それと同時に、僕は意識を半分に割いて、半分の霧を遠心力に任せて吹き飛ばす。
刃の形をして飛んで行った霧は、射線上にいたゾンビの上半身を吹き飛ばしながらザクザクと嫌な感じの音を響かせていった。
「次!」
半分ほど消失した霧では、残った敵を一掃するのは難しいだろうと判断し、僕はポケットから紙製魔法陣を一枚取り出す。
これなら……いけるか!
いつものように魔力を流し込むイメージを頭の中で再生する。
「ここに火の力を生み出し、その力を最大限に拡大せよ!『火爆』!」
真っ赤に染まった紙の魔法陣を、クシャリと僕は丸めて敵が一番集まっているところにめがけて放り投げる。紙は放物線を描きながら、綺麗にとんでいき、ゾンビに衝突した。
直後、爆発音と共に小さな赤い火が巻き上がる。魔力の消費も大きいわりに威力も小さい爆発だが、一応持ってきてよかった。これを使った理由はただ一つで、そっちにゾンビの意識を向ける事。一体でも倒せたら、運が良かったというところだろう。
「とりゃ!」
爆発音に気を取られている間に、僕は一体一体順番に斬り伏せていき残り二体まで減らす。
残った二体は、もう爆発に気が取られていないようでこちらに向かって攻撃をしかけようとしている。
……速い!
この二体だけは移動速度が予想以上に速く、放ってきた攻撃をぎりぎりの場所でかわす。そのまま、僕は剣を振るい、敵を一刀両断といわんばかりに同時に斬り伏せた。
「ふぅ……これで全滅かな」
僕は武器をしまい、生きているゾンビ……いや、もともと死んでいるけどもう動かないゾンビが居なくなった部屋の全貌を確認する。
右端に通路と……部屋の中心あたりに宝箱が見え……宝箱!
ダンジョンの醍醐味の宝箱に、さらに気分が高揚する。
「何が入っているかな!何が入っているかな!」
罠の可能性も考慮せずに、僕は宝箱へ突撃して中身を確認する。
運が良かったのか、罠ではなく中には小さな水晶の様な物が一つころがっていた。
「……何これ?」
水晶を手でひっつかんで、僕はしっかりと眺める。中には数字で76というものが浮いていて、少しばかりかっこいいと思う。
たしか、これは転移結晶というものだったはずだ。各ダンジョンで、入手する事ができそのダンジョンの指定の階まで一瞬で飛ぶ事ができると聞いている。
使い方は、ただ握りつぶすだけでよく、手軽に使えるものとして市場でも売られているらしい。
たぶん、この76は76階まで飛ばしてくれるという意味だろう。まぁ、70階より下の階はまだ攻略が進んでいないと聞いているから使う事はないだろうと思い、僕はポケットに入れよう……としたところで止まる。
「たしか、暴食の書に間違えて吸わせた収納箱の中に、こんな感じの物を入れる場所があったよね……」
包帯を巻いたままの左手を叩いて、本を出現させる。そこから、頭の中でその収納のページを思い浮かべると、ペラペラと勝手にページがめくれ、とあるページが開く。
そこには、片方のぺージに、瓶の様な形の物と、水晶の様な形の灰色の染みの様なものがついていた。単なる好奇心で、そこに水晶を当ててみると、水晶はそのまま本にのめり込んでいった。
灰色の染みだった場所には、水晶のようなイラストが描かれ、76という数字もしっかり書かれいる。
……取り出し方は分からないけど、これはこれで便利そうだ。
本を腕に戻して、僕は立ち上がる。一つだけ繋がっていた通路に向かい、足を進め始める。
一分ほど道を歩んだところで、クラスメイトの様な声が聞こえ、安堵のため息と共に僕は走り出した。
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