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てのひら



人外と騎士さんが出てくる勇者の魔王討伐の話。





「あの化け物に魔王を引き付けさせて、もろとも殲滅させてしまえばいい」



 一団が野営する街道から、すこし雑木林へと踏みいった場所。

化け物と呼ばれた人外と、その仲間のはずだった騎士が勇者にそう言った。



それを耳にしながら、化け物と呼ばれた彼女は動かない。

他のパーティーメンバーとは少し、距離をおいた広葉樹に背を預け、勇者と共にいる騎士の声に耳を澄ませていた。




 異世界召喚と呼ばれた、国を挙げての一大イベントが在ったのはかれこれ3年前。

華々しく出立した彼らの話は人間社会に紛れた同胞らの口から、人里離れた山奥のこの人外の耳にまで届いた。それはきまぐれ



興味も関心もなかったが、退屈をもて余した暇潰しに彼女は勇者の一団を観察することにした。


遠巻きに後を着け、遠巻きに眺める事にしたのだ。



 輝く金の髪に青い目、白銀の鎧にがっしりした体つき。

先頭を行く、その男が勇者かと初めは思ったのだが、その後ろに隠れるように着いていく黒髪黒目の優男が、話の内容を聞くに勇者であるらしく

そいつを鼓舞するかのように、ねっちょりと側に侍る若い薄黄緑の髪の長い女が巫女だか聖女であるらしかった。




人類オワタとぼんやり考えながら、油断ならない先頭を行く男を眺める

短く切り揃えられた髪は柔らかくうねり、薄氷のような目はまだ明るい空にある月の色にも似ていた。



そして旅の工程が進むほどに、勇者の取り巻きが少しずつ増えていき


あの白銀の鎧の男は、だんだんと草臥れ(やつ)れて行くように見受けられた。




日夜を問わず、遠巻きに囲まれた勇者は良いとして


旅籠の手配から野営の支度、仲間割れの仲裁に襲い来る魔物の討伐。



休む間も、勇者を取り合う人間に潰され、

かつての薄氷のような美しい目は少しずつ濁って行ってるように見受けられた。



 そして邂逅する。

剣撃、かち合う金属の悲鳴に火花が散り

後衛の魔法使いがちんたらと長々詠唱するのを、化け物は歯痒き思いで聞きながら


同胞を足止めする騎士を見ていた。



かつてはキッチリ剃られてた顎は無精髭にうっすら覆われ、寝不足に青い隈をつくり少し頬が痩けた。


つばぜり合いを跳ね返しローキック、体制を崩した相手が立て直す暇に一撃を加え 半歩にじりよる。


踊るかのような美しい剣舞に流れるような太刀筋を眺めながら、傍らで善戦はしているが後手に回る勇者を見る。



勇者が危うくなる度に綻ぶ詠唱に上がる悲鳴。


男も女も、勇者に夢中で



ひとり、孤軍奮闘する騎士が憐れに見えた。




彼女は思う。



あれが しんでしまう――と、



多勢に無勢、切り払いなぎ倒すその背後、勇者が浅い一撃を加え余力をのこした骸骨騎士が片方の腕で首を掴んだ。





 騎士が引き倒されるその時、戦場に一陣の風が吹いた。




それはつややかな羽を撒き散らし、硬い恐竜のような4本指のその脚で同族の頭蓋を砕き、鋼鉄で出来たその鎧を啄みへしゃげさせていった。



「なっ」


「気を抜くな!!」


一瞬、視線をこちらにとられた勇者が剣をはじかれ、躊躇いもなく合間に駆け込み肉壁となろうとした騎士は勇者ごと、斬って



捨てられはしなかった。



骸骨騎士の重い大剣は、毛布のように大きく つややかな濃紺の翼に遮られ、あたりには羽毛が舞い



――骨の、ネジ切られる音がした。



食い縛った嘴から、苦痛の吐息が漏れ振り向き様に、鞭のようにしなるその羽が骸骨騎士を打ち砕いた。



 その濃紺に、逆巻き燃え上がる炎の台風が襲いかかり、



開口一番、大きく息を吸い込んだ化け物はそれを飲み干した。




そして、吐き出す。



勇者の一団を背後に、勇者ごと騎士を抱き締めて。


辺り一面を焦土とし、熱に脆くなった骨たちを、飛び回りながら踏みにじっていく。





戦闘は、あっけなく終了した。







疑心暗鬼に、困惑に様々に揺れる瞳を横目に腕の中の勇者を捨て、騎士の目を覗き込む



薄い青々とした瞳は強い光と敵意、困惑を宿しており


濁っているよりかはマシかと満足したのを覚えている。

そしてへしゃげた羽を庇い、その場を後にした。










 あの邂逅から1年半。

化け物がこの一団に加ったのが、3ヶ月前で


結構仲良くはするようにしていたのだが、

やはり、種の壁は分厚く


人間にしては皮の硬い彼の手を思い出し、自らの硬い下肢の爪で掻いて血を滲ませた事に思考をやりながら恐竜のような4本の指を握ったり閉じたりを繰り返した。



勇者が、女としていたのだ。


あの柔らかい皮膚と皮膚を擦り合わせ、五本の指を絡めて




仲間たちが眠るテントから少し離れた雑木林で、樹に女を張り付け―――



春先でもないのに暇なのかトチ狂ったのか、けれど絡み合うその指先が幸せそうで、目を細めた。



胸の内に沁み出したこの思考は、自然と騎士の指先と人間しては硬いが、おのれより遥かに柔らかい手のひらに視線を釘付けて



羽を、伸ばせば隣をあるく人間当たるため、下肢の爪先でそうっと 触れたのだ。




 そしてその結果を思いだし、化け物である彼女は静かに目を閉じた。








 魔物にも親があり、子がある。


魔王城の城下町に目を丸くしながら、危害も加えられず逆に気安い魔族の面々に勇者一団は驚いているようだった。




その後ろをぴょんぴょん跳ね飛び、着いていきながらふと、化け物はそろそろ宿かなにかで魔王討伐前の休息を取った方が良いのではと口を開く事にした。



「騎士どの」


一瞬びくつくように、起動停止した騎士はぎこちなく化け物を振り返った。


戸惑うような視線は後ろめたそうな感情を滲ませ、


その顔がぎこちなく笑みをつくる。


「どうした?」



そんな表情が見たいわけでは無いのだが、カツカツと足の爪を2度鳴らしてから、嘴から舌をぴこぴこさせる。


「ごはん、眠い」




眠い、と繰り返せば、騎士の目が和らいで肩から力が抜けたのがわかった。


「…」


彼が困って、いまだに迷うように伸ばされた手のひらに頭を擦り付けて、ごはんと嘴の中で呟く



そして、一団の誰かが聞いたのだろう、宿屋の場所を先導されながらその日は1日休息を取る事になった。






 月のまあるい綺麗な夜だった。

テンテンと廊下を跳ね飛びながら、嘴で扉をノックする。


部屋の中の気配、足の運びから騎士が少しドアノブに触れて扉の前に立ち止まるのがわかった。



じゅうびょう、飴のように引き伸ばされた時間耐えてから、またキツツキの真似事をしたら


観念したのか、騎士はそうっと戸を開いたのだった。




テンテンと部屋に飛びいると同室の勇者はこちらを一瞥し、ゆったり立ち上がった。


3年前のあの日よりも筋肉がついた体つきは勇者一団の女性陣には好評であるらしい、



少し小首を傾げ、勇者に教えておくことにした。


「今日は部屋に帰らないから、同室のリリーに伝えて欲しい」



勇者はぎょっとしたようにこちらを振り向いた後、渋いような顔をして頷いた。



出ていった勇者を見送ってから足を折り畳み床で羽毛に空気を含ませ、膨らめるだけ膨らんで



だれかにマンジュウ?と言われた状態で目を閉じながら、騎士のにおいがする空気を吸い込んで眠る事にした。



そう言えば、マンジュウ、と言ったのは勇者だった気がするな、とぼんやり考えながら意識は夢の中へと落ちていった。









紫色の煮えたぎる沼の向こう、腐葉土と酸えた血の臭いがする空気に耐えながら、黒炭や石炭のような黒々と輝く魔王城のふもとまでやって来た。





鉤爪で城門を刻み、勇者一団の剣で拳で呪いで粉砕する。



脈動する心肺のような見てくれの薄紫にテカる通路を、にっちゃっべっちゃと音をたて進みながら、青い魔法の光源を便りに先に進む。






いりくんだ通路を上下左右アップダウンに富んだ行程で進みながら、とうとうたどり着いた最上階。

銀縁の肉壁は悪趣味の極みで、こんなのとひとくくりにされたくはないが、とうとう我らが王の間にたどり着いたのであった。






心臓を模した黒いコブレット(足のついた杯)を投げ捨てて、鋼鉄の玉座にかける小山のような牛頭は、私を忌々しそうに睥睨(へいげい)した。


荒い鼻息ひとつを合図にして魔力によって、重苦しい重圧が室内に降り注ぐ。



肩慣らしに、まずはゆったりと羽を広げて―――


天井を吹き飛ばす事にした。





室内ならまだしも、結界でも張らない限り魔力を駄々漏れにさせる訳にもいかないのか、舌打ちした赤黒い牛頭は硬そうな筋肉鎧に己の力を回し



こちらでは後衛の魔法使いに妖術師、呪術師に僧侶が詠唱をすでに終えつつあった。



一閃、手にした4mはある戦斧の一薙ぎに豪風が巻き起こり、こちらの濃紺の羽ばたきによって和らげ、僧侶の加護と妖術師の身体強化によって一団は揺らぎもしない。



小手調べの時間は終わり、魔王の足踏みの地響きによって城の床はひび割れ脆くも崩れ去り


崩落仕掛けた床に、魔法使いが直ぐ様魔力を流し込む。



だが、一人では荷が重かろう。


羽をむしり、帽子に突き刺せば 流れ込む力に驚いたような一瞥が彼女から


それを意図せず、舞い上がった。







地上からの剣による接近戦、拳闘士が注意を反らし勇者が力をためる間、騎士が切り込む。


魔法使いは床を支えながら、魔法による氷と雷の散弾を魔王降り注がせ、僧侶は力が溜まり次第、回復と加護を交互に仲間へと付与する。


妖術師は持てる力すべてを、強化に注ぎ


各々が、出来る最善で魔王を削り取っていく。



騎士と魔王がつばぜり合いする度に上空から強襲し、拳闘士が振り払われる度その身を受け止め



後衛の護壁に徹する。

前衛の騎士が、後ろを気にしなくてもいいように。

騎士が自分と目の前の敵にだけ集中出来るように。




けれど人と魔、もてる地力は歯噛みするほど高い差があって、



ジリジリと後退をさせられながら、傷ついた魔王が最後の最後で持てる総てでもって本領を発揮する。



可視できるほどに吐き出された魔力は、冷たい炎や人の身を焦がす毒となって、




 こうなればもう、勇者のもつ聖剣でしか魔王は打ち倒せず、力を使い尽くすまで魔王は世界で暴れまわる







 魔力に蒔かれれば、勇者では無い騎士や拳闘士は命はない。



己の硬い爪で、彼らを傷つけぬように


地べたに羽を擦りながら滑空し抱え込む。



放り出すように、後衛のほうに滑り込ませ、鋭角を描くように魔王に対峙するため転回した。



豪腕を奮う魔王を惹き付け、勇者の為に隙をさそう



胴回りから頭上をくるくると、振り向き様に奮う斧を狙って下肢で押さえ込む。



拮抗し会う僅かな間、下から睨み付け押し返す魔王に押し潰すように重圧かけ続ける。


勇者は振り上げた聖剣を―――降り下ろすのを躊躇った。




跳ねつけられ、どうにか戦斧を奪い城外に放り出す、目標を勇者に鞍替えした魔王に上空から襲いかかり混戦になりもつれ合いながら絶叫した



「私もろとも!殲滅しろと言っていただろう!!!」


はやく!と、叫んだ喉が痛い。



羽は折れ、私の言葉に死に物狂いになった魔王をこちらも死に物狂いに押さえ嘴で食らい付き鉤爪で抉る。



根本から引きちぎられつつある羽の感覚をどうにか遮断した時、目映い、金色の一閃が



この身を裂いた。












 頭が、ぼんやりと霞んでいた。目が、あかない




かけよる足音がして、体が引き摺られた。



頬が幾度も叩かれ、ようやく目をこじ開ける。




薄い、あおい。騎士の目が霞んで見えた。




「なでて」






見開いた目に、きれいな膜が張ったら、こぼれ落ちた。



なにか叫ぶ声が遠くて、それなのにびりびり響いて耳が痛い。


「なかないで」



なかないで、笑った顔が たぶん、好き





なにか言っている声が聞こえないのを寂しく思いながら

じわじわと閉じていく目にそっと触れた騎士の震える手が、ひどく幸せだった。









まさかのシリアス、悲恋なのか否か。

種の違いとか思いとかなんやかんやの掛け違いは切ないですね。


よくある話でした。



お目汚ししていただきありがとーございます、長々と失礼致しました。



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