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六服目 ~酸味が強すぎるコーヒーは苦手です~

「あらあら。ふふふ、おはようございます」


「か、かあさん!?」


 ヨソウガイデス。ええ、予想外ですよ!! 何故我が母上様がおられるのか!!


「あらだんご、大声出しちゃだめよ」


 おっとりした口調でいつも通りにこにこした表情を崩さない。

 かあさん、僕にはこの状況で感情を抑えられるほど人間ができていません。


「あ、御手洗(みたらし)さん。おはようございます。ところで……」


「ええ、ちゃんと連れてきていますよ」


 ええ、はい。皆さんも予想ついてますよね。僕だって本当は最初から分かってたつもりなんです。でもね、否定したい現実ってあると思うんですよ……ああ、もなかちゃんがとても不思議そうな目でこっちを見てるよ。首を傾げちゃって、やっぱりもなかちゃんは可愛いなぁ……はは、ははははは……


 僕の現実逃避とはよそに現実は悪化、もとい進行する。


「そうですか、わざわざありがとうございます。ところでその子は……」


 どうやらゆず先生も訳知りのようで母と言葉を交わしている。


「よし、それでは入っておいで」


 ゆず先生が廊下に向かってそう声をかける。


 ああ、僕の日常さようなら。そして新たなる日々よ、お手柔らかにお願いします。


 しかし、きなこちゃんはなかなか入ってこない?


 ざわわ、ざわわ、ざわわ……


 教室が少しざわわめく……うん、あんまり気にしないで。ただの戯言だから。


 次の瞬間、ふと膝の上が重くなったのを感じた。

 

 なんだろう。こうなんかね、柔らかくてもちもちしたのが僕の膝にね、乗ってるんだよ。うわ~、見たくない、見たくないよ……「って! ええぇぇぇぇ!?」


 僕はあまりに突然のことに素っ頓狂な声を上げた。そう、きなこちゃんが僕の膝の上に座っていた。

 

 あ……ありのまま今起こったことを話すよ。

 僕がね、椅子に座っていたら僕の膝に女の子が座ってたんだ。

 な……何を言ってるのか分からないと思うけど、僕にもさっぱりわからなかったんだ。

 僕が現実逃避していて前後不覚になっていたとか、瞬間移動とかそんなチャチなものじゃないんだよ。

 もっと、恐ろしいものの……恐ろしいものの……


「どこから湧いてきたのきなこちゃん!?」


 現実逃避に失敗した僕は条件反射的に突っ込みを入れてしまった。


「おはよう、だんご」


「あ、うん。おはよう」


 こんなつぶらな瞳で挨拶されたら返さないわけにはいかないよ。君たちも味わえばわかるさ、抗えないものがこの世にはあるんだと。


「ねぇ、あれ、絶対入ってるよね?」


 コソコソ


「ああ、間違いなく入ってるな……」


 とても許容しがたい発言をしている輩がいるけれど今は我慢する。どっちに転ぼうと僕にとって不利な状況になりそうだったから僕は現状維持を選ぶ。


「えーっと、紹介が遅れたけれどもそのだんご君の膝の上にいる子が今日からこのクラスに加わる転校生の御手洗 きなこさん。かくかくしかじかの事情で……」


 は、端折った!? 結構重要な部分を端折った!?


「……だんご君のお姉さんってことになってるけど特別にだんご君と同じクラスに入ることになったんだよ。みんな、仲良くしてあげるんだよ」


 なん……だと? 姉? この小動物が姉? いや、確かに同い年だし誕生日は確認してなかったし……しかし、姉……だと?


「そうなんだ、きなこ……ちゃんでいいかな? わたし、(うるち) もなかっていうの。だんご君のお友達なの。よろしくね」


 もなかちゃんがにっこりとほほ笑みながらきなこちゃんに話しかける


 やっぱりもなかちゃんはいい子だ。天使だ、天使。


「よ、よろしく……」


 きなこちゃんも顔を真っ赤にして俯きながら答えた。

 もなかちゃんに続いてクラスメイトが次々と声をかけていく、きなこちゃんは困ったような、照れくさそうな表情で一人一人の挨拶に応えていく。(僕の膝の上で……)


 あれ? そういえば真っ先に声を上げそうな僕の隣人がいまだに声をかけていない。どうしたんだろう?


 僕が隣のようかん君の方を見ると、ものすごいポーズ(ジョ○ョ立ち)でワナワナと震えていた。


「よ、ようかん君!? ど、どうしたの?」


「そ、そ……そそそそ……」


「そ?」


「その愛らしい小動物はなんだ!!」


「へ?」


 あれ、ようかん君? あれ? 僕の中のようかん君は決してこんなことを言う人じゃ……


「セバスよ!!」


「はい、ただいま」


 ようかん君が声を上げるとようかん君の執事がどこからともなく現れた。

 

 ど、どこから出てきたんだ!?


「ん……このひと、できる」


 きなこちゃん? 何、その手練れ同士がお互いの実力を確認して警戒するような発言は。君はいったい何者なんだい。なんでセバスさんに敵意の目を向けてるんだい。君はいったい何と戦っているんだ?


「あれを出せ、セバス」


「どうぞ」


 そうやってセバスさんが取り出したのはスティックキャンディーだった。


 どうやったら「あれ」=「スティックキャンディー」になるんだろうか? なんでセバスさんはキャンディーを持ってたの?


 ようかん君はキャンディーの包み紙を剥し投げ捨てると(いつの間にかセバスさんの手の中に納まっていた)、きなこちゃんの方へものすごいポージング(ジョ○ョ立ち)のまま差し出した。


「我は大納言 ようかんである。これは友好の証だ。受け取ってはくれぬか?」


 きなこちゃんはちらっと僕の方を見上げる。


 こ、このアングルやばい……じゃなくて!?


 きっと許可を求めているのだろうと思いこくんと頷くときなこちゃんはうれしそうにキャンディーを口に含んだ。その瞬間パァっと花が咲いたような笑顔になった。うん、素直に可愛い。

 ようかん君はきなこちゃんがキャンディーを口に含んだことを確認するとその手を離し、また別のポージングをとった。


「ふ、ふふふ……よもやわが心をここまでかき乱す存在がこの世にあろうとは。世界は広いな。

 だんごよ!! お前は我の最高の友人だ!! 

 こんな可愛らしい……いや、そんな言葉では言い表せないほどの愛らしさを持つ姉を持っていたとは!! 

 我は今ほどお前の友人であったことに感謝した日はないぞ!!」


「それどういう意味!? 何気に傷付くよその理由!! 僕のこと一切関係ないし!」


「ははは!! よし、セバスよ。今夜はきなこ嬢の歓迎をせねばならん。宴の用意をせよ!! 

 クラスの皆の衆よ、今夜は我が大納言コーポレーションのホテルできなこ嬢の歓迎の宴を行う。是非とも参加してほしい!!」


 ちょっと待て……どんな展開だ。

 あのきなこちゃんが置いてけぼりの状況で目をきょとんとさせている。しかも話がとんでもない方へと転がっていった。


「「「おおおぉぉぉぉ!!!!」」」


 なんかクラスのみんなもノリに乗ってるし!?


「え? あの、私、私も参加してもいいわよね? ね?」


 ゆず先生、あなた教師なんですからこの場を収拾させてくださいよ……


「はーーっはっは!! 今夜話宴じゃ~~~!!!」


「ようかん君!! 正気にもどって~~~~!!」

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