五服目 ~市販の紅茶って甘すぎると思わない?~
「だんご君、おはよう」
もなかちゃんがいつものように挨拶してくれる。いつもの僕ならそれだけで元気になれる。
でもごめん。僕、今日は元気になれそうにない。もう疲れたよ……
「おはよう……」
僕は自分でもびっくりするほどげんなりとした声であいさつを返した。
「ど、どうしたの? 疲れてるっていうよりやつれてるけど……」
もなかちゃんが僕のことを心配してくれる。
ほんと、優しいよなもなかちゃんは。
「うん、ちょっと昨日色々あってさ。ろくに寝られなかったんだよ」
核心、カッコきなこちゃんカッコ閉じるには触れないでそう答える。
「ふっはっはっはっは!! 皆の者、苦しゅうないぞ、我に朝の挨拶をすることを許そう!!」
多分もなかちゃんはなにがあった聞こうとしたのだろうけどある珍獣の大声によってさえぎられた。
「ふむふむ、よいぞ、皆の者。朝の挨拶は重要だ!!」
尊大な態度で教室に入ってきた珍獣はみなと挨拶を交わしながら自分の席へと向かう。そして彼の席、僕の隣の席に座った。
「おはよう、だんご。今日も良い天気であるな!!」
「おはよう、ようかん君」
彼の名前は大納言 ようかん。世界でもかなり大きな会社、大納言コーポレーションズの社長さんの息子さん、つまりは次期社長でとてもお金持ち。しかも親戚にはどっかのお寺の偉い人もいるらしくて、国内ではかなりの発言権があるらしい。そんな彼はいつも偉そうな発言や態度をしているため誤解されやすいが、本当にいい人で優しい僕の親友だ。
「ん? だんごよ、どうしたのだ。元気がないように見えるが」
いつもはやること大雑把なくせに、こういう細かい気遣いとかできるから不思議なんだよな。
僕はさっきもなかちゃんにしたように曖昧な返事を返した。
「ふむ、何か言いたくない事情があると見た。いいだろう、我はこれ以上は聞かん。ただし無理はするなよ。もしもの時は我が相談に乗ってやろう」
しかもやたらと鋭い。本当にいい友人だ。
「おはよう、ようかん君」
「おお、もなか嬢! 挨拶が遅れたな。おはよう。本日もすがすがしい朝である」
こうしてると昨日のことがまるで夢のように思えてくる。でも間違いなく現実だ。でも今だけは、平和な日常を過ごしていたい……
僕のそんなささやかな夢さえ、神様は叶えてはくれませんでした。
「ホームルーム始めるぞー」
勢いよく教室の窓から……もう一度言おう、窓から入ってきたのは僕の担任の柚餅子 ゆず先生。二十五歳独身。
おっと、どこからか鋭い視線が。誰かが見てるので自重しよう。
ゆず先生はとても美人でスタイルも抜群だ。いつもジャージを着ていて美人が台無しという人もいるが、寧ろそれがいいという人もたくさんいる。
ちなみに僕は後者です。
ちょっと男っぽいというかさばさばした性格で、そのせいか男女問わず生徒先生たちから人気が高い。
そんなゆず先生がいつものように窓から……廊下側のドアからではなく……飛び込んできてホームルームを始める。
ここって三階だよな。ゆず先生は忍者かなにかなのだろうか?
そんな僕の思考を一切合財無視してホームルームは進む。
「ええと、杉山君が昨日交通事故にあったらしくて入院するらしいから。みんなも交通事故には気をつけるんだよ」
出席をとったところで先生はクラスメイトの事故について話した。
そっか、杉山君大丈夫かな?
そんなとき突然隣の席のようかん君が手を挙げた。
「柚餅子教諭!!」
「はい、どうしたんだい大納言君。あと、先生と呼びなさい」
「杉山の容態はいかようなのであるか?」
「そうだね、足を骨折したと言っていたからしばらくは動けないだろうね。でも命にかかわるようなことはないし、足もきれいに折れてたらしいから治りも早いそうだよ」
「そうか、それならばよい。邪魔をしたな柚餅子教諭。続けてくれ」
「だから先生と呼べと……」
彼はとても家族や友人を大切にする人で、何かあるととても心配する。
ほんと、人間として尊敬するな。おじいさんがお坊さんで、ようかん君はとてもおじいちゃん子だったのが関係してるのかな?
「だんごよ、後日見舞いに行こうと思うのだがどうだろうか、ともに行かぬか?」
「うん、いいよ」
「そうか、では後程日取りを決めるとしよう」
ほんとマメだな~。
僕はこの時知らなかった。僕のこの日常は、あと数分の命であるということを……
「え~っと、ここで皆さんにお知らせしたいことがあります。喜ばしいことに、皆さんにお友達が増えます」
「「「おぉーー!!」」」
いきなりの転校生宣言で教室が湧く。普段の僕なら皆と一緒に盛り上がっていただろう。
なんだろう、この寒気は……なぜか嫌な予感しかしない。
「そんじゃ入っておいで」
教室の扉が開き現れた人物は……