二服目 ~最中の皮が口の上の方に張り付くのが苦手です~
さて、僕は今どうなっている? 冷静に現状を把握しよう。これでも僕は学年で勉強の成績はトップだ。物事を考えることは得意なはずなんだ。
うん、落ち着いた。では現状把握を。
Q1.僕は誰?
A1.僕は御手洗 だんご 高校二年生
Q2.ここはどこ?
A2.近所の神社
Q3.どうしてここにいるのか?
A3.夕飯の弁当を買いに行く途中に通りかかったから
Q4.何があった?
A4.何かに襲われた
Q5.何かとは?
A5.薄汚れた汚い、ぼろ雑巾のような、不潔な、触りたくない、近寄りたくもないような格好の女の子
それは言いすぎだよ!! おっと、僕の中の何かが暴走しかけたようだ。ゴホン! いけない、冷静になれ僕。
僕の腕にはぐったりとして動かない小さな少女がいた。
「どうしよう……」
僕は特に何と考えずに、条件反射のようにつぶやいた。すると、
「だ、ご……たべ、い……だんご……ご……ん……食べたい……」
僕の腕でぐったりしている女の子は何かつぶやいている。
だんご食わせろ? ぼ、僕のことじゃないよな? お腹がすいてるのかな?
そう思って女の子を木にもたれかけさせて見てみる。
「小っちゃいな……」
学年で一番背の小さい僕が言うのもなんだけど小さい。小学生か、中学生になったばかりなのかな?
そんなことを思いながら少女を観察してみる。
可愛い子だな~。綺麗な黒髪だし。ちょっと汚れてるけど日本人形みたいだ。
そんなことを思っているとまた少女が呟き始めた。
「だ、……ごは、」
そうだった、お腹すいてるようだから……
「ちょ、ちょっと待っててね!!」
僕は女の子を木にもたれかけさせて急いで走り出した。
「だんご……」
僕は少女がそうつぶやくのを聞いた気がした。
「はあ、はあ、はあ……」
僕は急いで弁当屋さんに行って三人分の弁当(白身フライ弁当、生姜焼き弁当、海苔弁当)と弁当屋の二軒隣にある和菓子屋さんでみたらし団子を三本買った。
二千円は多いかと思ってたけど持ってきておいてよかったかな。あ、後で僕のお金から戻しておかないと。ふう……なんでこんなことになったんだろう? 見つけちゃった手前責任があるとは思うけど……
我ながら人のいいやつだなー、なんて思いながらも全力で駆けて神社まで戻ってきた。
「はあ、はあ、はあ……ん、ふう……よし!」
息を整えて女の子を置いてきた木のところへ向かう。そこには先ほどと同じ体勢で女の子が座っていた。
さて、どうしたものか? といってもここで戸惑っててもしょうがないよね。よし!
僕は心を決めて少女の横に膝をついた。ビニール袋からみたらし団子を取り出して少女に差し出す。
「ほら、お腹すいてるんだろ?食べなよ」
……動かないけど大丈夫かな?
スンスン……
お!? 鼻が動いた、臭い嗅いでる。
スンスン……
僕はしばらくその様子を見ていたが、
ギラン!!
「は?」
まさにそんな音が聞こえそうな様子で女の子の目が見開かれた。
そして次の瞬間、
バク!!
お!? 食べた。よかった、食べられる元気はまだあるみたいだ。それにしてもなんか手が生暖かいというか湿気ってるというか、ところどころ鋭い痛みが走ってギリギリとかいう音が鳴ってるというか……
そう思って女の子の口元を見てみると、僕の手が手首までガブリと少女の口の中に飲み込まれていた。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!??!?!?!!?!??!」
僕は思わず叫んだ。
「痛い痛い痛い!? ちょ、ま、それ僕の手!! 食べ物じゃないから!! ハムハムしないで!!
痛!! 噛み切ろうとしないで! 刺さってる刺さってる、なんて鋭い八重歯……じゃなくて痛いから切れるから刺さってるから!!」
この子なにやってんだ!? あれ、僕の手の先にあっただんごは? てかどうやって僕の手飲み込んだ?
僕は混乱したなか何とか少女を引きはがそうとするがなかなか離してくれない。八重歯が返しのようにしっかりと刺さってしまっている。
いつまで続くのかと思ったとき、急に痛みが引いていき、そうかと思えば手が生暖かい空間から冷たい空気にさらされた。
「いててて……もう、なんなんだよ」
そう思いながら少女の方を見ると少し鈍い顔をしている。
「まずい」
「余計なお世話だよ!!」
この子、人の腕がっつり噛みついといていうことそれなのか!?
「ちょ、ちょっと君ねぇ……」
一言申さずにはという心境で声を掛けようとすると女の子が急に口を押さえて上を見た。
すると少女は自分の口にその細い指を入れた。
な、何やってんだこの子!?
僕が驚いている間に少女の指が引き上げられていく。その指先には、
「く、串!? ちょ、それさっきのだんごのだよね!? どこから出したの? てかだんごはどのタイミングで食べたのさ?」
僕はごくまっとうだと思われるつっこみをかます。すると、
「ん、うるさい……このぐらいだれにでもできる……」
この子、どうしてくれようか? だんごを買ってきてあげて食べさせてあげた上に手を食べられ、さらにはまずいと言われ、しまいにはうるさい? やばい、僕の中のもう一人の自分が芽生えてしまいそうだ。落ち着け僕、暗黒面に落ちてはだめだ。
僕が心の中でそんな葛藤をしている間にも女の子はみたらし団子のプラスチックケースを袋から取り出し黙々と食べ始めた。
とりあえずはだが落ち着いた。僕の中の黒い仮面の閣下は兵を引き連れ引き返していったのでひとまず大丈夫みたいだ。
よく頑張った、僕のフォー○……
なんか食べてる姿は小動物みたいで可愛いな。小さな口をいっぱいにしてほっぺたを膨らませてる姿なんてリスみたいだな。……栗みたいな口しやがって。
黙々とだんごをほおばる女の子を見ながら僕はふと思った。
この子なんて言う子だろう?
そう思って僕は聞いてみた。
「ねえ、君の名前ってなんていうの?」
女の子はだんごをほおばりながら首を傾げた。
か、可愛いじゃないか。……栗みたいな口しやがって。
「しらないの?」
いや、初対面で知ってたら怖いでしょ。
「うん、教えてもらえるかな?」
そう聞くと少女は口の中のものを飲み込んで、その場で居住まいを正した。地面にそのまま正座してこちらをまっすぐ見据えた。口にはべっとりとみたらしのたれをつけたまま……
「わたしのなまえは……きなこ」