第肆話
世良から黒い靄が飛び出してくる。
それと同時に世良は地面に倒れ伏して、グチュッという音と共に潰れた。
赤黒い液体が噴水のように噴き出し、雨のように降り注ぐ。
「おい…世良…?世良!返事しろよ!おい!!」
『もう無駄だ。あの男…世良はサムピゲロに全て横奪され、潰された』
「なっ……嘘、だろ……」
『残念ながら本当だ』
世良が……死んだ?あの世良が?
いつもチャラチャラしてて、ノリが軽くて、僕との言い合いの後に「むぅ、そう来たか」って言うあの世良が…?
何で死んだ?
八番目の大罪のせいか?サムピゲロに取り憑かれてしまったからか?
何で取り憑かれたんだ?
世良が何かしたのか?おかしいだろ…!
『おい!詩稔!ボサッとするな!!』
「お前……世良に何した…?」
世良から出た黒い靄は形を人の様な形に変える。
そして形が定まると黒い靄は消し飛んだ。
中から出てきたのは怪物だった。
牛の様な頭に大きな角が二対生えており、体は人間、袖からは大量の蛇が蠢き、足はドロドロに溶けている。
『欲シィ…欲シイヨ……全部欲シイ…!!』
「聞いてるのか?世良に何したって聞いてんだよ…!!」
『コイツ?コイツハ……ビミョーダッタナ。普通ノ臓器、普通ノ脊髄、普通ノ脳ミソ……ビミョーダ』
『おい詩稔、取り乱すなよ―――――っ!!』
小太刀は何か感じ取ったのだろう。
僕の頭の中は段々とスッキリしていく。
今まで怒ってたのが嘘のようだ…。
『詩稔…?』
『何ダ…オ前?ソノ力……大罪クラスノ悪魔並ミダト…!?』
「お前ごときが大罪…?調子に乗るのも大概にしろ」
僕は手に力を溜める。
黒い力、悪魔の力。
そう言えば小太刀が僕にも悪魔の力があるとか言ってたな…。
『詩稔……お前、この力…!』
僕は一瞬でサムピゲロの前まで移動する。
『オ前……欲シイ…!!』
「黙れ」
僕は悪魔の力を溜めた腕でサムピゲロを貫いた。
しかし、サムピゲロの角もまた僕の胸を貫いていた。
『詩稔!』
『ハハハ…!!オ前も道連レダ…!地獄デオ前の全テを奪ッテヤルヨ!』
「道連れ?何を言ってるんだ?僕は死なない……死ねんってね」
こんな時に思い出した。
僕の両親が付けてくれたこの名前。
確か由来は『どんな時でもどんな事にも負けない死ねんような奴になれ』とかそんなだっけ?
その時は確かダジャレで名前決められた、って拗ねたな…。
ははっ、今となっちゃ良い思い出なのかもな…。
数週間後、ある所にある墓地。
そこにある墓の内の一つに大罪詩稔、と掘られている。
墓の前に立っている金髪の少女は複雑な表情を浮かべている。
『詩稔……すまなかったな。死なない程度に守ると約束したのに……私は何も守れなかった。だが、今度こそは守って見せるからな』
少女は一度空を見上げた後、どこかへ消えて行った。