第弐話
「てかさ、お前に聞きたい事があるんだけど」
『小太刀さんと呼べ』
「お前って他の奴らからは何で見えないんだ?」
『小太刀さんと呼べ』
「うっさい」
自分の事をさん付けで呼ぶ隣りの少女に腹が立ち、僕の拳が彼女の頭に炸裂した。
少女は痛がってるいるが僕は普通に歩いていく。
『突然何するんだよ!痛いだろ!』
「いやぁ、僕って自分の事をさん付けで呼ぶ奴って嫌いなんだよ。鉄拳制裁したくなる」
『……お前案外暴力的なんだな。全くそう見えなかったんだが』
「暴力的だなんて僕の何処を見ればそんな言葉が出るんだよ。僕はとても優しいと近所のおば様方に好評だ」
あれ、何かスゴイ冷たい目で見られてね?
そんな事より僕はさっきの質問をもう一度してみた。
『ああ、一応私は一般人に認識されないようにルシファー様に術をかけてもらってるのだ』
それはどういう事だおい。
僕も一般人の中の一般人だぞ。
ベストオブ一般人だぞ。
マンガで言うと、主人公達が街中で戦い始めた時、逃げ惑ってるような人達位一般人だぞ。
解り難いってか?
『まぁ、私の姿を認識できているという事は君にも少し悪魔の力があるという事なのだが』
「え、悪魔の力?……あぁ、実を食べて能力を発揮するアレか。海賊として最もあってはならないだろうカナヅチ属性が付いてしまうアレか」
『その通りだ。お前もカナヅチだろ?』
「残念ながら僕は25mを14秒で泳げるくらい水泳は得意だ」
中一の夏に友達と海に行った時、足を攣って溺れてしまったのは言わないでおこう。
アレはきっとクラゲのせいだ。きっとそうだ。
『それはクラゲのせいではない。お前の不注意2%とダサさ98%が招いた結果だ』
「殆どダサさしかないじゃないかよ!」
『失礼、不注意2分とダサさが9割8分だ』
「言い方変えただけじゃん!!」
ていうか地の文読まれたぞ…。
どうなってんの?
『……急に黙らないでくれ。気まずい』
……?
さっきのはたまたまだったのか?
だとしたらどんな偶然だよ。
「ここが僕が通っている高校だ」
僕らは今学校に来ている。
正確に言うと校門の前に立っている。
今の時刻は午前11時12分。
遅刻のレベルを超えている。
「で、何でここに来たんだよ。一応僕今日学校サボってる訳なんだけど……」
『こう言う話を知っているか?幽霊は人が多くて賑やかな場所に集まると』
「それが悪魔にも通用すると?」
『いや、そうだと良いなと思っただけだ』
「何じゃそりゃ!」
「詩稔?何してんだ?こんな所で」
僕に話しかけてきたのは世良だ。しかも何故か私服。
今は授業中にも拘わらずこんな所に居る。
以上の事から世良が何故こんな所に居るのかは簡単に理解できた。
「お前こそ何サボってんだよ。僕が言える立場じゃないけど」
「サボってんじゃねぇよ。そういやお前は聞いてないんだっけか」
サボってない?
なのにコイツはこんな所に居るというのか?
「朝の事件覚えてんだろ?」
「ああ、こんな短時間で忘れられる事じゃねぇよ」
「アレのおかげで緊急閉校だよ」
成る程そう言う事か。
要するに危険だから家から出るなって事だろ?
家から出ても出なくても八番目の大罪、つまり悪魔は憑く時は何処に居ても憑くのだが…。
大人達がそんな迷信じみた事を信用する訳も無いか。
「それよりそっちのかわい子ちゃんは誰?彼女さんか?」
「ん?ああ、コイツは断斬小太刀。彼女じゃねぇ」
「へぇ、小太刀さんね。俺は世良ってんだ。よろしく」
世良は手を出すが小太刀は手を見つめて冷や汗をかいている。
「えーっと……そっか、照れちゃってんだな?ごめんごめん」
「そういやお前は何しにこんな所に居るんだよ」
「おつかい頼まれてんだよ。はじめてのおつかい」
「この年で初めてなのか!?」
「なわけねぇだろ。二回目だ」
「大差ねぇよ!!」
僕でもおつかいくらい五回はした事あるぞ…。
え?五回で威張るなって?
「まぁそう言う事だ。俺は行くわ。じゃあな」
「ああ、周りに隠しカメラ持った怪しい人がいるかもしれないけど気にすんなよ」
世良は笑いながら行っちまった。
そう言えば小太刀が全然喋ってねぇな。
「大丈夫か?腹でも壊したか?」
『違う……』
「そうか、なら腹が出てきたのか」
ガツッ!
……思いっきり殴られたんだけど。
やっぱ女性にこういう話はまずかったか?
「どうしたんだよ。本当に照れてたのか?」
『違う……お前は気付かなかったのか?』
「何にだ?」
『先程言ったろう。私は悪魔の力を持つ者にしか見えないと』
「それがどうし……あっ!」
『気付いたな。先程の世良とかいう男。私の事が見えていた』
それで驚いて握手をしなかったのか…。
「じゃあ世良も悪魔の力を持ってるって事だな」
『……私達は悪魔の力を持つ者が近くに居れば感知できる。お前の場合少しか無いから気付きにくかったが、あの男の力は―――――』
『お前とは比較できないほど強大だった』
「それって……」
世良が…?
ってことはまさか……いや、でも…!
「アイツも僕みたいに力を持ってたんだよな…?」
『それは違う。あの男も朝あの場所に居たのだろう?ならば私はそれを感知出来た筈なんだ』
「……ってことはやっぱり……」
『ああ、あの男は世良ではない』
『―――――横奪だ』