カンニングの達人
試験。
俺達の人生を決めるのに大きな役割を果たす壁だ。
中には「試験の成績がよくても社会じゃ通用しない」という人間も居る。それも真理だ。
しかし、試験の成績が良いと色々便利なのは確かだ。周りの人間や社会に対して手札が増える。
何より俺達学生にとっては試験の結果で教師に色眼鏡で見られることが多い。
じゃあ、どうすれば良い点数が取れるのか?
それは単純にして明快だ。覚えるまで勉強すればいい。
だけど、人間向き不向きがある。俺も不向きの星に生れ落ちたみたいだ。
頭の出来がよくないし、かといって勉強が好きになれない。
これじゃ、良い点数なんて取れっこない。
試験の結果が悪いとどうなるって?
あれだよ、留年とまではいかなくても追試や補講が休みに入ってきやがる。
学生にとっては関門だよ。絶対に避けたい。どんな手を使っても。
そう、どんな手を使ってもだ。
俺は不出来な頭の代わりに、色んなモノに恵まれている。
まず、測定値6.0という視力。おかげで遠くの物も人よりよく見える。
次に、器用な手先。初歩的な手品なんぞお手の物だし、
幼馴染のブラジャーのホックを気付かれずに外せる。
まあ、その後にガン泣きした幼馴染にしこたま殴られたがな。
そして、極め付きが先祖代々伝わる秘伝。これのおかげで俺は超人的な身体能力を手に入れた。
その気になれば陸上の高校記録の殆どを塗り替えることが出来る。面倒だからやらん。
それに秘伝でも目立つことは厳禁とされている。
秘伝を人生のバイブルとしている俺としては避けたいところだ。
おっと、俺の試験の対策の話だったな。まずは、勉強する科目をしぼる。
俺の場合は国語と英語だ。
それしか勉強しねえ。それでも平均点からチョイ上が精々なのはご愛嬌だ。
後の教科についてはあれだ。いうなればカンニングだ。
しかし、細心の注意を払って緻密に取り組む。ばれないように、目立たないように。
他の連中もやってる事だが、奴らは甘い。温い。幼い。
奴ら素人は限度を知らない。そして、無計画だ。カンニングで満点を取ろうと欲張る。
満点なんざ取ったら目立ってしょうがないだろう。
しかも、机の上に答えを書くとか消しゴムに公式を書くとかばれやすい方法でやるもんだから
教師の警戒も半端じゃねえ。お前ら教師を甘く見てるけど、奴らは無能じゃないぞ?
見るとこ見てるぞ?
俺も小学生の頃は愚かだった。視力6.0をフルに活用してテストで満点を連発した。
そうなるとな、目立つんだよ。授業で当てられても答えられない人間がテストで満点。
不自然さ全開だろ?カンニングが発覚した俺は幼馴染と母親にダブルで説教を食らった。
それ以来、カンニングを使いすぎないようにする事を胸に刻み込んだわけだ。
そもそもカンニングの歴史は相当古い。
古代中国の科挙の時代から続いてる隠蔽する者と見抜く者の壮絶な戦いの歴史なんだ。
紙幣の肖像画になった人も暴露しちゃって、それがわざわざ文書として残ってるくらいだ。
覚悟のないような奴が気軽に参戦していいような領域じゃねえ。
今の俺はそんな甘チャンとは訳が違う。
カンニングをしても取るのは大体70~80点くらいに抑えている。
しかも、計画の遂行には1ヶ月くらいの準備を催している。
それに一度使ったカンニングはなるべく使わない。
プロフェッサーとまではいかないが、それなりの腕と自負している。
今回の俺の計画は上出来な部類に入る。秘伝の中から選んだ暗号術を用いる。
傍目ではただの汚れや傷にしか見えない。それを教室中に施す。
そこから視力6.0の俺だけが情報を得るという仕組みだ。
天井の染みや机の錆びも俺にとってはありがたいカモフラージュとなる。
試験の始まりだ。
さぁ、教師達よ!!バカ共の検挙の準備は万端かい?
伊賀忍者の末裔たる俺は今期もこれで補講を免れるだろう。
カンニングって難しいですよね?
私はした事がありません。ばれた時のリスクの高さにびびってました(笑)