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ホーム  作者: 佐倉ゆき
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昔話

むかしむかし、ある国に、とてもやさしい王さまがいました。王さまは、じぶんのおさめる国にすむみんながどうしたらもっとしあわせにくらせるようになるのかいつも考えていました。


 あるとき、王さまは森にかりにいきました。そこで、動物をとらえるためのわなで足をケガしているうつくしい女の人をみつけました。その女の人はこの国にすむ人にはめずらしい黒い色のかみと目してした。王さまは、いそいでその女の人のケガの手当てをしてあげました。


 女の人は王さまのやさしさにかんしゃして、やさしい王さまにおれいをしたい、といいました。そして、わたしにできることならどんなことでも一つだけねがいをかなえます、といいました。


 王さまは女の人のことばに首をよこにふって、じぶんのおさめる国のみんながしあわせにくらすことがねがいであり、そして、それと同じくらいあなたのケガが一日でも早くなおって、元気にすごせるようになることです、といいました。


 女の人は、王さまのやさしいまごころにかんどうして、それなら、あなたがおさめるこの国が、もし、きけんなめにあったときやこまったことがおきたときにおうさまのたすけとなるむすめをつかわせる、といいました。そのむすめは、わたしの声をきくことのできるゆいいつのむすめだから、かならずや国の助けとなるでしょう、そして、それはあなたの子どもやまご、そのまたまごが、あなたのやさしい思いをついで国をおさめていくかぎりやくそくします、とちかいました。


 そうです、うつくしい女の人はじつはこの国のめがみさまだったのです。めがみさまとはしらずに王さまはケガの手当てをしたのです。そして、めがみさまは王さまにやくそうをして天の国にかえっていきました。


 やさしい王さまはめがみさまのことばにしたがって、じぶんの子どもに国にすむみんなのことをかんがえてくにをおさめていくように、そして、このことをずっとうけついでいくようにおしえました。そんなことがあってからはますます、国はさかえ、王さまはよい王さまだと、国のみんなにしたわれるようになり、王さまの子どもやまごたちがおさめるようになってからは、ますますゆたかでへいわな国になりました。めでたしめでたし。


  ***


 乃愛は読み終わった絵本をぱたんと閉じて、寝る前に絵本を読んでほしいと強請ってきた三人を見ると、さっきまで絵本の続きにワクワクと目を輝かせていたはずだったのだが、いつの間にか寝息を立てて三人仲良く一つのベットに並んで眠っていた。大人なら二人並ぶのがやっとのベットだが幼い子ども三人なので今日一日くらいなら大丈夫だろうと、乃愛はベットの側に置いた椅子から腰を浮かせ、三人にそっと布団をかけた。それから、椅子を元あった机の前に戻し、絵本も机の上に置いて、三人が寝ているベットの隣に置かれたベットに自分も潜り込んだ。カラーコンタクトも忘れないように外す。


 そして、乃愛は今日あった出来事について思い出していた。


 (あの男の人たちって、なんなんだろう?黒い髪と目の女の子っを探してるって言ってたよね…。もしかしなくても私の事なのかな。…どうして私のことを探してるんだろう?さっき読んだ絵本も気になることが書いてあったような気がするし、もう、どうして私がこんな目に合わなきゃならないいんだろう。どうしてわたしだったんだろう。…わけが分からない。…帰りたい、帰りたいよぉ)


 乃愛の心の中にこの世界に来てから浮かぶ何故、どうして、という思いが溢れ出してきた。すると、元の世界を思い出して涙を流しながら知らずにうとうとしていたらしく、いつの間にか眠っていた。気付くと、乃愛は真っ白な空間にいた。自分の姿が元の女の子の格好をしていることですぐに夢だと分かった。そして、夢の中には異世界に乃愛を連れてきた女神シルヴィアが出てきた。乃愛はシルヴィアに積もり積もっていた思いや疑問を告げようとしたが声が出ない。シルヴィアは乃愛の声が聞こえないながらも、何を訴えたいかはわかるのか、あなたの願いを聞くことはできない、ごめんなさい、と悲しそうな顔で謝った。そして、シルヴィアの姿は霧のように消えていった。


 ふと、意識が浮上して目をうっすら開けると、朝陽がカーテンの隙間からわずかに漏れていた。乃愛はその光に眩しそうに目を細めて、隣のベットに目をやるとルースたちが昨日見た時とさほど変わらない位置で仲良く並んで寝ていた。乃愛はそれを見て幾度か瞬きをして起き上がり、思い切り伸びをした。そうして、眠気を払ってから顔を洗うためにベットを離れた。カラーコンタクトを持って、ドアをわずかに開け、誰もいないのを確認してから洗面所に音を立てずにそぉーっと向かった。


 洗面所でカラーコンタクトをつけ、ウィッグを一度はずしてから簡単に纏めていた本来の黒髪を解いて、置いてあった櫛で軽く梳いてから再び頭の上で纏めてウィッグをつけて髪を隠した。鏡で自分の姿がおかしくないかチェックした。


 「よしっ、これで大丈夫かな」


 ここ最近見慣れた男装の格好に合格点をつけると、乃愛はキッチンに向かった。キッチンに繋がるドアを開けると、ジェナとダグラスが朝食の準備をしていた。


 「おはよう。ジェナさん、ダグラスさん」


 乃愛は二人に声をかけ、キッチンに入った。そして、食器棚からお皿を出していたジェナの側に行った。ジェナたちは乃愛の姿を見とめると、にっこり笑って挨拶を返した。


 「おはよう、ノアは相変わらず早起きだな」


 「おはよう。ホント、えらいわねぇ。ルースたちも少しは見習ってほしいもんだね」


 「ありがとう。でも、僕は早起きに慣れちゃってるだけだよ。ルースたちももう少し大きくなったら一人で起きられるようになると思うよ」


 乃愛は赤くなった顔で困ったように笑った。


 「そんなことより僕にも手伝えることある?」


 「それなら今日もルースたちを起こしてきてくれないかい?あの子たちノアが起こしたら素直に起きるみたいだから。あたしが起こしても布団から顔も出そうとしないのに」


 「うん、わかった。行ってくるね」


 ジェナが呆れたように言うと、乃愛はさっきよりさらに困った顔をしてルースたちを起こしに行った。


 ルースたちが寝ている部屋に向かいながら、ノアは今朝見た夢のことを思い返していた。夢の中でシルヴィアは本当にすまなそうな顔をして謝っていた。あのシルヴィアの顔を思い返すと、元の世界に帰りたいと訴えている自分の方が悪いことをしてしまったような気分になる。だが、無理やり自分がこの世界に連れてこられたのを思い出して、悪いのは向こうだと思い直し、気持ちを切り替えてルースたちを起こすべく部屋のドアを開けた。


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