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ホーム  作者: 佐倉ゆき
11/19

疑惑

 「「「ただいまーっ」」」


 ルースたちは我先にと食堂に走って入っていった。乃愛もその後を追おうとしたが、後ろにいる二人のことを思い出して振り返った。


 「食事をするのならどうぞ入ってください」

 

 乃愛は後ろにいる二人に向かって、そっけなく言った。そして、食堂の扉を開け、ルースたちの後を追うように入っていった。男二人も視線を交わして、食堂の中へと足を進めた。


 男たちが中に入ると、ノアは少しふっくらした女性に桶を渡して話をしていた。それから、男たちの方を見て、また少し話をすると男たちの方に寄ってきた。


 「席は空いてるところを使ってください。すぐに水をお持ちします」

 

 そう言うと、ノアは調理場の方に先ほどの女性と一緒に入っていった。男たちはその様子を眺めてから、昼時の混む時間帯で割と賑わっている食堂内を見渡し、調度空いていた隅の方の席に腰を落ち着けた。男たちが席に座ると、それを見計らったように乃愛が水を二つ持って二人の座る席まで来て、テーブルに水を置いた。


 「どうぞ。何にしますか?」


 どこまでも素っ気なく、ノアは聞いてきた。男たちの方も気にせずに、ノアに問い返した。


 「ここのおススメは?」


 「ここのご主人お手製のジャンバラヤという料理ですけど…」


 ジャンバラヤとは、野菜やハム、ソーセージやお米を一緒に炒めてトマトソースなどで味付けをし、十数分炊いたものである。


 「じゃあ、それを二つ頼む」


 「分かりました」


 ノアは注文を聞いて、厨房の方に下がっていった。下がっていくノアの方を見ながら、男たちは真剣な顔で自分たちが城下に降りてきている案件についてを話し始めた。


 「神子が現れたと予言されてから1週間だな~。捜索範囲を広げてはいるがなかなか見つからないし、ライ、このあとはどうする?」 

 

 「リック、実は少し気になっていることがある」


 「何が気になってるんだ?」


 「ノアのことだ」


 「ノアってさっきの男の子のことか?何かあったのか?」


 「俺はあいつが女じゃないかと思ってる」


 「あの子が女?!何かの間違いじゃないか?それとも、何か根拠でもあるのかよ?」


 「ないな。俺の勘でしかない」


 「それなら、お前の勘違いってこともあるかもしれないだろう。れっきとした男だと思うけど」


 「いや、間違いない。お前も知ってるだろう、俺の勘は外れた例がないって」


 「確かにライの勘には今までも結構世話になってるけど、これは俄かには信じられないぜ」


 「俺にも明確な証拠があるというわけではないが、俺の勘があいつは十中八九、女だと告げている。そして女であった場合、ノアが俺たちが捜していた神子の可能性が出てくる」


 「男の格好をしていれば、女である神子を探している俺たちや衛兵の目を掻い潜れるというわけか。それなら今までいくら探しても見つからなかった説明がつくわけだ」


 「そういうことだ。ただ、そうだった場合、なぜノアがそんなことをしているのかは分からないがな」


 「まぁ、そのうち分かるんじゃないの~、しばらくは様子見だろう?」


 「あぁ、よく分かってるな」


 そう言うと、ライはニヤッと人の悪い笑みを浮かべた。そのライの表情を見て、リックはノアに同情した。


 (ライの奴、相当あの子のこと気に入ってるな。もし、万が一、ライの勘が外れたとしてもライに目をつけられちゃっただろうし、あいつの玩具になることは決まったも同然だな)


 調度そこにノアが注文の料理を運んできた。その姿を見て、ライは面白そうに笑い、リックは同情の眼差しを向けた。


 乃愛は二人の視線に気づいたが、なぜそんな視線で見られるのか分からず、戸惑ったようにパチパチと瞬きを繰り返した。そして料理を二人の前に置いて、一礼をして下がろうとしたが、男に呼び止められた。


 「待て、少し尋ねたい。構わないか?」


 確かに質問されているにもかかわらず、乃愛は命令されているような錯覚に陥った。


 「…何でしょうか?」


 「お前はここの子どもか?他の三人の子どもとあまり似てないし、年も少し離れているように感じたが」


 「いえ、違います。1週間ほど前に地方から出てきたんです。僕の田舎では、職を見つけられそうになかったので」


 乃愛は手に持っていたお盆を胸に抱え、両手でしっかりと持った。


 「職って、まだ働くような年齢じゃないよな?」


 最初に質問してきた男とは別の男が、驚いたように問いかけた。


 「でも、働かないと食べていけない事情があったので、仕方なくです。だから、食堂を経営している遠縁のここの家族を頼って出てきたんです」


 「そうか。名前は何というんだ?」


 「乃愛ですけど…。なんでそんなこと聞くんですか?」


 「…ノア、ね。俺はライ。そっちの男はリック。俺たちは実は人を探している。前からここに住んでいる人間なら、最近見知らぬ人間を見かけたことがないかと思ってな」


 「ここで働き始めて日が浅いので何も知りません。…あの、誰を探してるんですか?」


 「黒髪黒目の十代の少女だ。見かけたことは?」


 「…っ、見たこと、ないです」


 乃愛はわずかに息をのんで、すぐにぶんぶんと首を振って詰まりながらも否定の言葉を口にした。


 ライはその反応にノアに気づかれない程度に口角を上げて笑い、二人の会話を横で見ていたリックは、ライの反応を見て呆れた表情をした。


 「そうか、それは残念だ。見かけたら言ってくれ。今日からしばらくの間はこの辺りを探すつもりだからな。それに店の人間や客にもその少女を見たことがないか聞いておいてくれ。」


 「…わかりました、確認しておきます」


 そして、一刻でも早くその場を離れたいとでもいうように、ライたちに一礼をして、足早に厨房の方へと立ち去って行った。


 (やっと見つけた。これから楽しくなりそうだ)


 ライは去っていくノアの後姿を眺めながら、含み笑いを浮かべた。

 

 

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