プール
体育の授業でプールが始まり、皆、更衣室へ向かう。
俺は早くプールに入りたくて仕方がなかったが、彼女は少し暗そうな表情をしており、何も持っていないのだった。
「どうした?」
不思議に思って聞くと、彼女は少し躊躇した後、話し出す。
「私…その、休む」
「え? プール、楽しいのに、休むのかよ?」
俺がびっくりして言うと、彼女は髪を耳にかけ、恥ずかしそうに言う。
「スクール水着が嫌なのよ。その、私、胸が大きいでしょう?」
彼女の胸に目を向けると、彼女が恥ずかしそうに手で遮る。
彼女のスクール水着姿を想像し、俺は首を横に振る。
駄目だ、駄目だ。
胸と太腿が露わになる姿なんか。
他の男子に見せてたまるかと、俺は燃えていた。
「じゃあ、体育の先生に言いに行こうぜ」
「え? 一緒に来てくれるの?」
「任せろ。俺を頼れ」
親指を自分に向けると、彼女から黒いオーラが消えた。
「ずる休みにならないかな?」
「大丈夫だと思うぞ。ただし、プールサイドの草むしりしないといけないかもしれないけれど」
「それなら平気。水着になるくらいなら、草むしりのほうがいい」
彼女は明るく言ってきたので、俺は水着一式を持つと、一緒に体育の先生がいる部屋へ向かう。
ちょうど椅子から立ち上がる時で、俺と彼女を見て、声をかけてくる。
「どうした、2人とも?」
先生はがっしりした体格であり、眼鏡をかけていた。
話しづらい性格ではなく、子どものように負けず嫌いで、短気なのが玉にきずだった。
「先生、彼女がプールを休みたいって」
俺が半歩前に出てい言うと、先生は目を細める。
「理由があるのか? その、生理とか」
「それは…具合が悪いとかで」
嘘をつくと、彼女も口を開く。
「その、ちょっと頭が痛くて…。泳ぐのは…ちょっと無理そうなので」
「そうか。保健室には行かなくていいのか?」
「いいです。休んでいれば、治るので」
先生はじっと彼女を見つめる。
彼女は緊張から喉を鳴らした。
「頼むよ、先生。休ませてやって」
俺が両手を合わせ、頼み込むと、彼女も一生懸命、頭を下げる。
先生は息を吐くと、
「…分かった。プールは休みな」
と言ってきた。
「え。本当に?」
「ああ。ただしプールサイドの草むしりをすること。ジャージに着替えて来い」
「は、はい!!」
彼女は嬉しそうに、それこそ飛び跳ねそうな勢いで答えた。うさぎが月を見て跳ねるみたいなものかと、俺はふと笑ったのだった。
「じゃあ早く着替えに行け。授業が始まるそ」
「はい!!」
俺と彼女は同時に答えると、部屋を後にする。
それから小声で、俺は伝える。
「じゃあ、俺は着替えに行くから。お前は教室に行くんだろう?」
「うん。ジャージを取りに行かないと。ありがとうね」
彼女は照れくさそうに手を伸ばすと、髪の毛を撫でてくる。その手つきの柔らかさ。優しすぎるから、俺が守ってあげないとと、決意する。
「1人で行かせるのは不安だな」
「大丈夫。すぐに行ってくるから、あなたも着替えて。遅れたら、先生に怒られそうだし」
「そうだな。じゃあ、行ってきます」
髪を撫でてくれた手を掴み、両手で擦る。
何の意味もないが、とにかく彼女に触りたくて仕方がなかった。
彼女も嫌じゃないらしく、頰を赤くしながら、手を重ねてくる。
「じゃあ、私、行くね」
「おう。俺も水着に着替えないと。…はい」
手を上げると、彼女とハイタッチする。
それから2人は別れ、別々の部屋へ向かうのだった。




