「揺れるこころ」 in グラインドハウス
私は来週結婚します。
式場も決めて、段取りも夫となる彼と二人で済ませました。新婚旅行もアメリカ西海岸とラスベガスに決めました。新居も決まりました。嫁入りの調度品も一通り注文しました。今が一番楽しい時かも知れません。普通の人の場合は……。
私には直前までお付き合いしている男の人が居ました。彼の名は剛史くんといいます。
剛史くんとは二年以上に亘るお付き合いです。会社が同じでしたので、よく会社帰りにお食事を共にしました。でも、彼とのお付き合いはもうこれで終わりです。
思い出のフォトも、お互い交わし合ったメールもすべて携帯から削除しました。電話番号もアドレスも無くなりました。パソコンに残っていた彼へのさまざまな思いの丈が詰まった日記も全部消しました。出会いのときめきから、積み重なった思い出に至るまで……。想いの大きさやかけた時間の長さにかかわらず、削除はほんの一瞬でした。嗚呼……。
私の夫となる人は父の勤める会社の取引先の部長さんのご子息です。
彼には二ヶ月前に都心のホテルで初めてお会いしました。両方の家族揃っての会食です。そのとき私はそれが自分のお見合いとは知りませんでした。しかし、その後彼にはお食事に三度誘われ、初めてお会いしてから一ヶ月後の三度目のレストランでデザートをいただいている時、プロポーズの言葉をいただきました。
「もちろんボクと結婚してくれるね」
すこぶる鈍感な私は、その時になってようやく『ああ。あの時は私たちのお見合いだったんだ』と知りました。でも驚いたようなフリなどできるような雰囲気ではありませんでした。気がつくと私たち二人の線路は綺麗に敷かれていました。彼はとても紳士的で優しく、見た目も誠実そうな人柄をそのまま映し出したような顔立ちで、私はどんなにがんばっても、お断りをする理由を見つけることはできませんでした。
今、私は乗り越えなければならない大きな三つの問題をかかえています。
一つ目の問題は、私がいまだに剛史くんを愛していて忘れる事ができないことです。
これには、特に理由はありません。あくまでも個人的な感覚ですから。私は、剛史くんのことを忘れないまでも、愛していることだけはやめなければなりません。
二つ目の問題は、私が剛史くんと共に追い続ける『夢』を諦めなくてはならないことです。
彼の『夢』を共に追いかけること。それが私の『夢』。
剛史くんとは職場でいつも一緒です。剛史クンは将来プロの小説家を目指していて、先々、今の会社を辞めてその『夢』を果たすつもりにしています。私は、彼とその夢を将来に亘って共に追い続けるつもりでいました。その夢は結婚によって諦めなければなりません。
そして三つ目の問題は、今の私にとって最も大きな問題かもしれません。
彼は私が来週結婚することをまったく知らない、ということです。
婚約してから結婚までの僅か一ヶ月という期間は、私が意を決して剛史くんへそれを伝えるにはあまりにも短すぎました。あっという間に三週間が過ぎ、彼には何も言うことが出来ずにとうとう挙式まであと一週間になってしまいました。今さらとても会って話をすることなどできません。決して彼に涙を見せるわけにはいかないからです。
私は勇気を振り絞って携帯で剛史くんに電話することにしました。涙声だけなら、自分の本当の気持ちをごまかすことができそうだと……。
◇◆◇
剛史くんの携帯の番号は既に私自身の手によって消去されていました。私は、もう二度とかけることのないであろう剛史くんの番号をしっかりと頭に思い浮かべ、やや震える指で番号を押していきました。
目がしらがほんの少しだけ熱くなったように感じられました。
プルーーーー、プルーーーー。
彼 『はい、もしもし』
私 「私よ。ごめんね、こんな夜遅くに」
彼 『ん? ………………』
私 「実は私、その。単刀直入に言うわね」
彼 『………………』
私 「私、来週結婚するの。或る人と。あなたの知らない人」
彼 『! ………………!』
私 「ずうっと黙っててごめんなさい。ついつい言い出せなくって……」
彼 『………………』
私 「どうして黙ってるの?お願い何か言ってくれない?」
彼みたいな人 『あのう。どちらへお掛けですか? 番号違うみたいですが……』
私 「えっ? この電話、剛史くんの電話じゃないんですか?」
彼じゃない人 『違います。そのう、ボク、タケシさんじゃないです。ごめんなさい。聞いちゃいけなかったですよね。切りますよ。がんばってくださいね。ボク応援してますよ。』
ぷつん。つーーつーーつーー。
(何か、とっても優しいなぁ……。違う! 違う! そうか、最後の『2』と『3』が逆だったんだ)
◆読者の方ごめんなさい。少しおふざけが過ぎました。反省。{作者お詫び}◆
◇◆◇
剛史くんの携帯の番号は既に私自身の手によって消去されていました。私は、もう二度とかけることのない~~(中略)~~番号を押していきました。
目がしらがほんの少しだけ熱くなったように感じられました。
プルーーーー、プルーーーー。
彼 『はい』
私 「私……。こんな夜遅くにごめん」
彼 『ああ、何だよ。メールでいいのに』
私 「メールじゃあまりにも……。会えば良かったのかも知れないけど、その勇気がなかったの」
彼 『なんだよ、そんなに改まって。おまえらしくないなあ』
私 「実は私、そのう。単刀直入に言うわね」
彼 『ははは。何だよ?』
私 「私、来週結婚するの。或る人と。あなたの知らない人」
彼 『えっ!? ………………』
私 「ずうっと黙っててごめんなさい。ついつい言い出せなくって……」
彼 『ちょっ、ちょっと待ってくれよ。どういうことなんだよ』
私 「お願い怒らないで。謝っても済まされないと思ってるから。私」
彼 『そんなことって……。嘘だろう? あんまりじゃないか。それに電話かよ!? 来週結婚?有りかあ?そんな話。昨日会ってるのに!! これまずいよ。まずい! 聞けないよそんな話。絶対オレは!』
私 「ああ。ごめんなさい。私、もう何も言えない。でも、剛史くんのことは忘れないと思う。普通のお友達になっちゃうけど」
彼 『! ………………!』
私 「ごめんなさい」
彼? 『おめえ誰だよ、オレ、タケシじゃねーよ』
私 「えっ? …剛史くんじゃないの?」
彼じゃない人 『ちげーよ! ああびっくりしたあ…………。あんまり驚かすんじゃねーよ!』
ぷつん。つーーつーーつーー。
(ああん。またやっちゃった。おかしいなあ。そうか、『4232』じゃなくて『4332』だったんだ。ドジな私)
◆読者の方ごめんなさい。何か流れ的にやってみたくなってしまって……悔い改めます。今度こそ間違いなく本人です。{作者お詫び}◆
◇◆◇
剛史くんの~~(中略)~~感じられました。
プルーーーー、プルーーーー。
剛史 『はい。オレ剛史』
私 「ああ剛史くん。ごめんね。何度も……。じゃなかった。こんな夜遅くにごめん」
剛史 『いいよ。別に。ところで何? 声。やけにかしこまっちゃって』
私 「ええと、何だったっけなあ。ああ、そうそう。『会えば良かったのかも知れないけど、その勇気がなかったの』たしかそうよね」
剛史 『たしかそうよねって。いったい何の話だよ』
私 「ええと。ええと。ちょっと待ってね」
剛史 『何だかさっきから会話になってねえよ。何が言いたいんだよ。おまえは』
私 「だから、ちょっと待っててって言ってるでしょ! 今思い出してるところなんだから!」
剛史 『……………………(何イラついてるんだよ。こいつ)』
私 「…………」(考え中)
剛史 『…………』(いらいら中)
私 「実は私ね。単刀直入に言うわね」
剛史 『早くしろよ』
私 「うるさいわね!いちいち。調子狂っちゃうじゃないのよ!」
剛史 『おい。用事無いなら切るぞ。忙しいんだ。後でメールくれればいいよ』
私 「ちょっと黙ってくれない! ああ。そうじゃなくて、『ずうっと黙っててごめんなさい』だ。そうそう、それだ。『ついつい言い出せなくって……』これだよこれ。わかる?」
剛史 『わかんねーよ。おまえ、ふざけてんのかあ?』
私 「剛史くん。人が真剣に話してるときにそういうこと言うわけ? 怒るよ! ああ。そうそう。『お願い怒らないで』だ。『謝っても済まされないと思ってるから、私……』だよね」
剛史 『だよねって何? それにオレ怒ってねえし。何に対して怒ればいいんだよ。おまえ、ひょっとして何か話の大事な部分、すっとばしてねーか?』
私 「いいえ。大丈夫よ。うふふ。続きを黙って聞いてて! 『私、剛史くんのことは忘れないと思う。普通のお友達になっちゃうけど』そういうことね。わかってくれた?」
剛史 『ああ? ………………』
私 「ごめんなさい」
剛史 『ああ? ………………』
私 「剛史くんと付き合ってた二年間。私、忘れずに胸にずっとしまっておくわ」
剛史 『ああ? オレ、おまえと付き合ってたっけえ?』
私 「ぶ-------------------------------!」
ぷつん。つーーつーーつーー。
思わず自分から電話を切ってしまう私。
私 「(…………。まずい。完全に私、サカリのついた猫みたいな展開になってる)」
さらに私 「(剛史の奴。覚えておきなさい。読者の前でさんざん私に恥かかせて!!)」
その時です!
私がふと気配を感じて脇をみると、そこには携帯を手にして踊るもう一人の私の姿が有りました。
(もっ、もしかして。これは、伝説の『ドッペルゲンガー(多重分身)』!?)
どんどんひゃらら、どんひゃらら。
どっぺるげんがー、
ぱぴぷぺぽん。(はい! ご一緒に!)
月が出た出た 月が出た(ヨイヨイ)
三池炭坑の 上に出た
あまり煙突が 高いので
さぞやお月さん けむたかろ(サノヨイヨイ)
あなたがその気で 云うのなら(ヨイヨイ)
思い切ります 別れます
もとの娘の 十八に
返してくれたら 別れます(サノヨイヨイ)
どんどんひゃらら、どんひゃらら。
どっぺるげんがー、
ぱぴぷぺぽん。(はい! ご一緒に!)
呆然と立ち尽くす私と、もう一人の私の華麗なる舞。
とても対照的な光景です。
私に必死にしがみついていた『乙女心』。
夏も始まろうとする頃、それは季節外れの盆踊りと共に解き放たれたように散っていきました。
◇◆◇
それから…………。
私 「婚約? コンヤク? そんなもの解消だよ。カイショウ!」
婚約者 「ちょっ、ちょっ、ちょっ、そんなあ! まっ、まさかこの話これでおしまい!? じゃないよね。ねっ」
◆おしまいです。続きもありません。金輪際。何か文句ございまして?。{作者}◆
【華】
作者の『試み』が無謀だったと言わざるを得ません。(主人格)
【華】