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彼を試すだけではない。自分も試すのだ。それくらいなら、まだ負けじゃない。



家から徒歩七分のファミレス。大通り沿いにある、どこにでもあるチェーン店。付き合ってから週に3回は通っている。おそろいのパーカーを着て、一緒に課題をするのが日課になった。

駐車場が広くて、夜でも明るい。


「またここ?」


笑いながら言うと、湊は肩をすくめた。


「近いって最強じゃない?」


確かに。電車に乗らなくていい。おしゃれもしなくていい。終電も気にしなくていい。

ドリンクバーの前で並ぶ。湊は必ず、ホットコーヒーとオレンジジュ―スの二種類を用意する。


「なんでいつも二つなの?」


「眠気覚ましと、ガキっぽさの両方楽しめていいじゃん」



そういう、どうでもいい癖が少しずつ増えていく。毎日が「特別」になっていく。窓からは、夜の道路を車が流れていくのが見えた。湊はノートパソコンを開く。


「今日、新しいデータ出たんだよね」


「いつもの研究?」


「うん。コンビニの限定商品の売れ方」


いつものやつ。



「人ってさ、“必要だから買う”より、“なくなるかもで買う”のほうが多いんだよ」


画面をこちらに向ける。グラフが並んでいる。


「販売期間を短く見せるだけで、売上が二割増えた。不安を刺激するほうが人は動くってことだねー」


ストローを噛んだ。


「じゃあさ、恋愛もそう?」


湊のタイピング音が響く。


「どういう意味?」


「いなくなるかも、って思ったほうが好きになるとか。」


彼の手が一瞬止まる。


「それはあると思う。不安で繋がってる関係は、安心が来た瞬間に崩れるから」




即答だった。

静かな声。ファミレスのざわめきの中で、そこだけ少し澄んで聞こえた。言葉が、ゆっくり落ちてくる。軽そうな見た目をしているのに、話す内容はいつも地味で、堅実だ。



「まあ、無理に増やさない。なんでも続くほうが勝ち」


——続くほうが勝ち。




夜の世界では、続くことよりも瞬間の輝きに価値があった。高いお酒、一晩の特別、それに比べてドリンクバーは、百円ちょっとで何時間でもいられる。


「僕が彼氏って、つまんなくない?」


急に聞いてきた湊の目は、少し意地悪だった。


「刺激は少ないかもね。でも、安心はあると思う」


胸の奥が、少しだけ揺れる。派手じゃない。映えない。でも、なくなったら困る。少し空気が揺れた。気づけば三時間も経っていた




「さすがに長居しすぎかな。なんか食べるか。」

追加でポテトを頼む。


「こういう時、ポテトって助かるよな。いい感じにつまめるし、シェアできるし。」

知的で、この人は育ちがいい。


「なんでそんなに気配りしてくれるの」


思わず言う。彼は少し笑う。


「なんで笑ってるの」


彼の表情がさらに和やかになる。



「んー、愚問だなーって思って」




——ずるい。






課題に没頭していると、時計の針は0時を指していた。


「もう夜遅いし、送るよ」



店を出るとすぐに、指が絡んだ。前よりも自然で、怖くない。でも、完全に委ねきれていない自分がいる。それが悔しかった。



「ねえ、私、あんまりいい子じゃないよ」


なんとなく、予防線を張る。


「欠けてるくらいがちょうどいい」



欠けていることを、本当に知ったとき、この関係はどうなってしまうのだろう。家の前で手が離れる。



「また明日ね」


「また明日」



その「明日」が当たり前みたいで、軽い。

部屋に戻ると、スマホが震える。




【今日もありがとう。ゆっくり休んでね。おやすみ!】

普通で楽しい。それは、幸せなのか。それとも、退屈の予兆なのか。でも、胸はちゃんと温かい。少しずつ私は力を抜き始めている。でも、その愛もきっと脆い。


——「不安で繋がってる関係は、安心が来た瞬間に崩れる」



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