商業と交通の要所
トトの体高は約40cm、翼開長は約120cm
小さくなると体高約15cmくらいになるらしいです。
夜行性のトトを日中の移動時はどうしようかと思ったが、驚いたことに、トトは小さくなることができた。いつもの半分くらいの大きさになる。
「ちっちゃくなってもトトはかわいいね〜。」
「踏みそうだけどな。痛っ!お前、噛むなよな!」
ゼルンは相変わらず仲が悪い、と言うか口が悪くて嫌われている。
トトは、日中は小さくなってライナかディオンの肩に乗って休んだり、周囲を飛んでいる。夜になると元の大きさに戻って結界の外に行って狩りをしているようだ。小さいままだと長距離は飛べないっぽい。なので日中は近場をぐるぐるまわっている。いつ寝ているのかいまいちわからないが、元気そうなので気にしていない。
「明日の昼には国境の街に着く。一泊して、大陸導軌に乗って、ハルデンクライスの王都、クロイツハーフェンに行くぞ。」
「この間も言ってたけど、大陸導軌って何だ?」
ディオンが最後にハルデンクライスに来た時代にはなく、できてからも見たことがないと言う。ハルデンクライスは何も無いとか、昔の事しか知らないのだから、当たり前だ。
「大陸導軌はハルデンクライスとフェルグラントが共同開発した長距離輸送用の高速で走る箱だ。フェルグラントの運輸艇の地上版さ。」
「走る箱か。それは魔法で動くものか?」
「魔術だな。フェルグラントで生産されたものに術式が色々刻まれていて、鉄の道を滑るそうだ。俺も見たことねえからな。」
なるほど、ゼルンからすれば大きな魔術具のようなものなのだ。それはそれは楽しみだろう。もちろん、ライナも楽しみだ。
「大陸導軌なら、徒歩で5日かかる道のりも半日で着く。寒くなる前に北に行きてえから、大陸導軌に乗って王都へ行こう。」
「北の方の寒さはきついからな。それで行こう。」
「見てみて、街が見えてきたよ。」
丘の向こうにはフェルグラントからハルデンクライスへ流れる大河があって、河沿いに街がある。シグルを見せて、賑やかな街に入った。
「よし、私が宿を取ってくるから、ゼルンとディオンは買い出しよろしく。終わったら合流しよう。」
トトがいることで楽になったことは、お互いの居場所をトトを通して把握できることだ。今までは集合場所と時間を決めていたけれど、トトは空から目と魔力で3人の居場所がわかるのでお互いを見失う事がなく、とても効率的に動ける。
「時期的にそろそろ冷える日が多くなるから、上着も買っておこうね。私は宿を取ったら大陸導軌の下調べに行ってくる。」
「よろしくな。」
宿を取ったライナは、国境のこの街からクロイツハーフェンまで伸びる大陸導軌を見に来た。王都の方に真っ直ぐに伸びる鉄の道が見える。
大陸導軌発着所と言う大きな建物があって、ここから大陸導軌に乗る。今日はもう走らないそうなので見れないらしい。残念だ。
「こんにちは。明日の大陸導軌に乗りたいんですけど...。」
乗り方も知らないので、下調べに受付の人に聞いてみた。水色の制服を着た感じの良い中年の男性が笑顔で教えてくれる。
「明日ですと、朝の鐘と暮の鐘になります。乗車するのに大陸導軌使用許可証が必要ですが、お持ちでしょうか?」
「え、シグルだけで乗れないんですか?!」
「はい。申請していただけばすぐに発行できますが、どうされますか?」
「...申請します...。」
まさかシグルだけで乗れないとは...。しかしよく考えてみれば何も不思議なことはない。この大陸導軌は国境を越えて移動できる。西側諸国の商業と交通の要所であるハルデンクライスが密輸や犯罪者を弾くために、身分証以上の、国が認可した許可証を発行するのは至極真っ当だ。
ライナは出された書類に色々と記入して、最後に金属の腕輪みたいな物を手首にはめられた。何やらそれで測定して、ライナは無事に大陸導軌使用許可証、通称「導軌証」を発行してもらった。
「発行料は小銀貨3枚になります。」
「えっ。」
ちょっと高い。小銀貨3枚もあったら安宿に15泊もできる。流石に運輸艇のようにはいかないようだ。運輸艇は日常使い用だが、大陸導軌は元々物資を運ぶためのものだったらしい。まだまだ気軽に乗れるものではないようだ。
「ちなみに、移動費は...。」
「乗軌料は小銀貨5枚です。」
軽めの装備品が買えるではないか。予想よりお高い大陸導軌。でも越冬ための備蓄やら色々を用意するよりも安いのは確かだろう。
「お、お願いします。」
ライナは引き攣った笑顔でお金を払った。
足にディオンからの買い出しが終了したという手紙をくくりつけてやって来たトトの案内で、ライナは2人と合流した。お店で夜ご飯を食べながら大陸導軌の話をする。ライナの話を聞いて、明日の予定を立てた。
「なるほどな。まあ、納得はできる、妥当な値段だ。」
「んじゃ、明日は朝の鐘で出よう。それに乗ったら向こうに着くのが暮の鐘より前になる。」
「ええ、早いよお。」
「頑張れライナ。」
ちなみに、朝が弱いのはライナだけで、研究者2人は平気だ。不思議すぎる。
朝の鐘で出ることになったので、2人に起こしてもらう事を約束して早めに宿で休んだ。
「ライナ〜、起きろ〜。」
グラグラと世界が揺れて、目が覚める前にベッドから落ちた。ゴンっと音がして、ライナはうっすら目を開けた。どうやらゼルンが中々起きないライナに呆れて、強硬手段でベッドから落としたらしい。
「うう〜、もっと優しく起こしてよ〜。」
「起こしたけど起きなかったのは嬢ちゃんだろ?ほら、早くしろよ。」
「ぬううぅぅ...。」
のそのそとイモムシのように動いて、置いていかれる前に外に出た。
「おはよう、ライナ。」
「おはよ。」
宿の前にはなんてことない顔のディオンがいる。寝起きでまだ元気が足りないライナと、同じくまだ眠そうなトトがディオンの頭に乗っている。
「朝は冷えるから、トト抱いてろ。」
ディオンからトトを受け取って、むぎゅっと大きいトトを持った。目が合う。
「...あんまりあったかくない...。」
「キィ...。」
ライナの案内で、発着所の受付で導軌証を発行してもらいに来た。発着所には朝の鐘の大陸導軌に乗る人が多く集まっている。
「2人分、お願いします。」
昨日と同じ男性の受付で申請した。受け取った書類をスラスラと書くゼルンとは対象に、難しい顔のディオン。ディオンが昔の記憶を思い出そうと頑張っているうちに、まずはゼルンが書き終わった。
「ではこちらをお願いします。」
昨日、ライナがつけられたのと同じ腕輪みたいなものを手首につけられる。それを見たゼルンがへえ、と頷いた。
「魔力計測器。やっぱ大陸導軌は魔力が影響すんのか。」
「そうですね。大陸導軌を動かしている導軌核は近くに大きな魔力があると停止してしまいますので。」
それを聞いて、ん?と2人は顔を見合わせる。なんだか嫌な予感がする。大きすぎる魔力を持つ奴が、すぐ近くにいる気がする。
「嬢ちゃん、なんか、嫌な予感がする。」
「同じく。」
ゼルンの計測が終わって、書類を書き終えたディオンが来た。大丈夫かな、と2人が見守る前でディオンが魔力計測器を手首につけた。
「えっ」
2人にとっては想定内、受付の男性にとっては予定外の出来事が起こった。魔力計測器は、一定の魔力ごとに表面の幾何学模様の線が光る使用になっている。それがピカッと光って、光が消えたと思ったらバキっと嫌な音がして、計測器が真っ二つに割れてしまった。
「えっ?!」
「それは想定外!」
計測器が割れてしまった。割れてしまった!まさか壊してしまうなんて誰が想像しただろうか。あまりの衝撃にライナとゼルンは顔を見合わせ固まり、ディオンも、計測器を見たまま固まってしまった。
「こ、これは...。」
当然、男性は卒倒しそうなくらい顔色が悪い。固まる4人を見て、他の受付の人も見に来た。みんな顔を青くし、慌ただしく片付けや、新しい計測器の準備やらを始める。そのうち乗客達もこちらを見てざわざわし始めてしまった。
「あ、あの...これ...乗れますか?」
ライナが聞くと、受付の男性は黙って首を横に振った。
...だよね。
「んじゃあディオンだけ徒歩?」
「飛行魔法でもそこまで早くは飛べないから...。」
「後で合流?」
「まじかあ...。この後も移動に使いたかったんだが...。」
弁償がどうとか、今後がどうのとかを話していると、不意に人混みから1人の男性?が出てきた。紫色の胸まで伸びた髪を編み、白いシャツに紺のベスト、上から長い紺の上着を羽織っている。ライナと同じ年くらいに見えるエルネスタのような視晶をかけた中性的な顔立ちの人は、不機嫌そうな顔でこちらに近付いてきた。
「あの!ここで止まられると迷惑なんですよ。」
「へっ?」
トゲトゲした声は男性のような、女性のような...。でも目を逆三角形にした顔は怖い。慌てふためく受付男性もひっと息を飲んだ。
「どいて、邪魔。」
紫髪の人はライナを押しのけ、ディオンの前に出ると、肩に掛けていたカバンから何やら細い銀色の腕輪を取り出した。
「これつけて下さい。」
ぐいっと押し付けられたディオンも面食らっていたが、言われるがままに付けた。そして紫髪の人は受付の男性に近付いて、置いてあった新しい魔力計測器を手に取る。
「見て気付きませんか?この人、エルフですよ。」
厳しい目で、ディオンをビシッと指差す。
「エルフ相手に人間の魔力計測器なんて使える訳ないんですよ。」
そう言って、もう1つの銀の腕輪を出して受付の男性に渡した。
「これ、魔力封じの腕輪。体外に漏れる魔力を抑制する魔術具です。エルフなら多少は抑えられます。これなら、導軌核に近付き過ぎなければ核は停止しないでしょう。差し上げます。エルフが来ることは少ないでしょうが、もし今後同じことがあれば使って下さい。」
そして魔力計測器を持ってディオンに差し出す。
「はい、測って下さい。腕輪は差し上げます。大陸導軌に乗っている間は外さないで下さいね。」
「え、ああ...。」
普段、何物にもあまり動じないディオンもたじたじだ。受付の男性が恐る恐る魔力封じの腕輪の上から魔力計測器を付けて作動させる。また壊れないか心配だったが、魔力計測器は最大値を記録しても壊れることはなかった。
「おお...。すごいな。」
「...だ、大丈夫です。導軌証を発行できます。」
それを見届けて、紫髪の人は得意げに笑った。計測を終えた受付の男性が魔力封じの腕輪を握りしめながら言う。
「あ、ありがとうございました。あなたは一体...。」
「気にしないで下さい。私も使っているので。」
そう言って捲った袖の下には同じ魔力封じの腕輪がある。
「でも、これをいただくわけには...。」
腕輪は明らかに高価で貴重な魔術具だ。ゼルンが興味津々に、今にも分解したそうにしているのをみればわかる。値段は小銀貨では足りないだろう。
「変なものじゃないから。足りなくなったら、大陸導軌協会に連絡を下さい。」
「えっ。」
そう言うと、紫髪のその人はさっさと大陸導軌に乗ってしまった。その後ろ姿をぽかんとして見ていた。
「大陸導軌協会ってことは...お偉い方...って事?」
「っぽいな。でも、助かった。」
「ちょっと怖かったけど。」
容姿は中性的で上品なのに、テキパキ動く姿や視線、言葉が交わって荒々しい風の様に感じた。
勢いに圧倒されて言われるがままに動いているうちに全てが終わっていて、ディオンは無事に導軌証を発行できた。
「良かったね。さっきの人にお礼言いたいんだけど...。」
「もういねえなあ。」
そろそろ朝の鐘が鳴る。発着所には大勢の人が入っていて紫髪の人の姿はもう見えない。探すのは難しいようだ。
発行に小銀貨6枚と乗軌料を3人分、大銀貨1枚と小銀貨5枚を払って、3人は大陸導軌の乗口に向かった。
大陸導軌は長く、角を落とした箱で、外側は鈍い銀色の金属と、透明度の高いガラスでできている。縦はディオンよりも高く、同じ箱がいくつも連なって長い生き物のように見える。側面には精密な術式が刻まれていて、魔力が流れる線が幾重にも重なっていた。一定の周期で淡く光り、とても綺麗だ。
「おおおお〜!!これが大陸導軌!すっげええ!!」
1番興奮しているのはゼルンだ。1人でぶつぶつつぶやきながら側面の術式を書き留めるために高速で手を動かしている。次にわくわくしているのはライナだ。技術的なことはよくわからないが、馬も人もいらずに動く大きな箱がかっこよくて仕方ない。
「すごい!大きい!かっこいい!!」
「...すごいな。こんなに大きなものを制御しているのか...。」
ディオンは少し離れた場所から大陸導軌を眺めてブツブツ独り言を言っている。3人がそれぞれ大陸導軌を堪能していると、カーンカーンと高い鐘の音が少しずつ明るくなっていく街に響いた。朝の鐘だ。
「出発しまーす。」
発着所の人の声がして、ライナはディオンとゼルンを引っ張って大陸導軌に乗り込んだ。
「早く早く!出ちゃうよ。」
「あ、まってまってあとちょっとだから...。」
「待たない!」
術式からくっついて離れないゼルンをディオンと共に剥がして、飛んでいたトトを回収して中に入った。
中は思っていたよりもずっと落ち着いた雰囲気だった。茶色の革張りのソファが箱の長い辺を背に向かい合わせに配置され、足元には厚手の絨毯が敷かれている。天井から下がる魔力灯が、金属と木材の内装を柔らかく照らしていた。庶民のライナには縁のない、フェルグラントの王宮を感じさせる美しい内装だ。
「うわあ...。綺麗...。」
自然と小声になったのは、乗っている人の身なりがいいからだろう。大陸導軌の主は荷運びで、人が乗るのは特別なのだ。導軌証も乗軌料もお高めで、急がなければ歩いたり馬で移動もできる。だから主な客層は街の富豪や大商人、他国の使者、お貴族様あたりだ。上等な内装なのは当然だった。
「私達の席はどこかな。」
貰った乗軌証には数字が書かれていて、それと一致する数字が書かれたソファが自分の席だ。ライナ達の数字は後ろの方、つまり導軌核から1番遠い場所にあった。座り心地の良い4人がけのソファに座って、ライナは窓の外を見つめながら大陸導軌が動き出すのを今か今かと待った。
少しして、大陸導軌が縦に揺れた。
「わっ。」
そしてそのまま、ゆっくりと動き始めた。揺れはなく、振動もなく、窓の外の景色が滑らかに前から後ろへ流れていく。
「えっ、すごいすごいよ!!早い!」
「ライナ、静かに。」
「むぐっ」
慌てて口を手で覆って、ライナは外を眺めた。見たことない速さで木々が流れていく。次々と新しいものが目に入り、後ろに消えていくのが楽しくて楽しくて、ライナは窓にへばりついて夢中になった。足は無意識にパタパタと動き、瞬きの回数も減る。
一方のディオンは飛行魔法を使うので見慣れた景色ではあるが、自分で動いているわけではないのでいつ何が起きるか心配で仕方ない。ライナがはしゃぐのを横目に、ディオンは肘掛けを握りしめていた。
目的地のクロイツハーフェンが近付いてきた。ライナはゼルンに寄りかかって眠っていて、トトもディオンの膝の上で寝ている。顔を見合わせてしょうがないな、と頷いたディオンとゼルンは、2人を揺らして起こした。
「嬢ちゃーん。起きろ〜。そろそろ着くぞ〜。」
「うぅぅぃ...。」
元気だったのはほんの最初だけでほとんどを寝て過ごしたライナは硬くなった体をほぐして何気なく外を見た。
「うわっ!」
前方に、クロイツハーフェンが見えた。咄嗟に驚きの声が出たのは、街の真ん中からにょきっと突き出した巨大な時計塔があったから。どんどん近付いてくる街は沢山の建物が密集していて、今までの王都よりも明らかに発展しているのがわかった。
街の中に入った大陸導軌は、すぐに大きな建物中に入った。建物に入ったはずなのに、窓の外には6階建ての建物が沢山並んでいる。建物の中には人影があって、木も植わっている。すぐそこを多くの人が通っているし、上を見ると天井はあるが空の色が透けて見えて、半分屋外、半分屋内と言う不思議な感じがした。
「クロイツハーフェンに到着いたしました。」
どこからか男性の声がして、大陸導軌の扉が開く。降りる人々に続いて、ライナ達もクロイツハーフェンに降り立った。
朝の鐘は06:00
正午の鐘は12:00
暮の鐘は21:00
に鳴ります。
この3回は固定で、国や地域によって鳴る回数が増えます。
この街は3回のようです。
ゼルンが旅に加わってからは、基本的に、宿は男女別にしてるよ。でも、たまに2人で研究話に花を咲かせて全然出てこないことがあるの。困るなあ…。
byライナ




