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神代の英雄  作者: 朧 夕映
西側諸国・予言の子
13/16

大陸最大の工業国

 人がいい村人達に小麦や大麦を沢山貰って、アーベントの村を出発した。

 3日歩くと、黄色い小麦畑が段々と短草草原になってきた。その先に、大きな湖が見えてくる。


「あ!見えてきたよ!」


 エルン湖と言うその湖は、リュンフェルトとフェルグラントを繋ぐ交通の要所だ。フェルグラントは国土の8割を鉱山が占めていて、エルン湖の南の国境は険しい山がそびえていて通行ができない。なので湖のそばには沢山の輸送船や旅客船が停泊している。




 賑わう港町を人をかき分けながら歩いて、商業区の一角にある施設へ向かった。


「フェルグラントに行きたいのですが。」


 ディオンが旅客船の受付口の男性に聞いた。すると男性は時刻表を見せた。


「ちょうど今、出港ですよ。」

「え?」

「これの次は3日後です。」

「はあ!?」


 それを聞いたゼルンは血相を変えてカウンターにお金を叩きつけた。


「行くぞ!鞘作るなら急がねえと、北に行く頃には冬になっちまう!」

「ライナ、走れ!」

「ええ?!」


 カウンターの横の入口からまっすぐ船に向かって、全力で走り出した。


「あんたら乗るんかー?急げ〜。」


 今にも出発しまいそうな船に向かって息を切らせながら走る。船の窓から顔を出したおじさんの気の抜けた顔がちょっと苛つく。

 もうちょっとで着く!と思った時、船が動き始めてしまった。


「うわあ?!ちょっとまってちょっとまって、船が行っちゃうよ!」


 先を走っていたディオンが少し飛んで船に乗った。そのままゼルンも乗る。最後はライナだ。すでに船は港から剣1本分も離れてしまった。


「飛べ、嬢ちゃん!」

「うわああ!」


 走ったまま勢いをつけて船に飛び乗った。ふわりと体が宙に浮く。一気に心拍数が上がった気がした。


「うわー、ドキドキした...。それにしても、受け止めてくれてもいいじゃん。」


 全力で走って飛び移った結果、ライナは船の床に滑り込んだ。おかげで硬い床に打ち付けた体が痛い。


「悪い、気が付かなかった。」

「治癒してやるから、許せ。」




 船はゆったりとエルン湖を進んで行った。ライナは客室の窓から身を乗り出している。


「うわ〜!私、船に乗るの始めて!!」


 ゆっくりと揺れる船の上から眺める湖は、なんだか不思議な感じがする。水の真ん中に立ったような初めて視界が楽しくて楽しくて仕方ない。

 初めての船にはしゃぐライナをディオンとゼルンが生暖かい目で見てきた。


「なによ?悪い?」

「いいや。落ちないようにな。」


 わくわくしながらライナは、湖の向こうに見える山を見つめた。




「嬢ちゃ〜ん、そろそろ着くぞ〜。」

「はーい。」


 モクモクと煙を吐き出すその国は、いわゆる男のロマンが詰まった国だった。

 船から陸に降り立って、ライナはうわあ!と歓声を上げた。


 「すごいすごいすごい!かっこいいよ〜!、この国!!」


 眼の前に広がるのは煙を上げ、機械と金属の音が響く大陸最大の工業国家だった。そしてライナの目に飛び込んで来たものの中で1番興味を引かれたものは...。


「何あの乗り物!!空飛んでるー!」


 空へ高く伸びる建物の間を、金属の箱が飛んでいた。角が丸いその箱には窓があって、中に人影があった。落ちないか心配になるが、中にいる人達は気にしていないようだ。

 すると一緒に見上げていたゼルンが説明してくれた。


「あれは空索運輸艇(くうさくうんゆてい)って言ってな。空を飛んでるんじゃないぜ?よーく見てみろ。」


 フェルグラントに来たことがあるゼルンに言われて、ライナとディオンは目を凝らして空飛ぶ乗り物を見つめた。すると、その乗り物の上に走る細い糸のようなものが見えた。


「実は鋼索(こうさく)が建物の間に張ってあって、そこを空索運輸艇が走ってるんだ。地上の移動はあれを使うことが多いな。」


 鋼索運輸艇は、空を飛ぶというよりも、張り巡らされた鋼索に吊り下げられて移動する箱だった。


「あれは魔術かなにかが施されているのか?」 


 ディオンが聞くと、ゼルンは首を横に振った。


「いや。あれはドワーフ達の技術の結晶さ。連中は魔術だの魔法だのはあまり好まないしな。」


 ドワーフとは、この国に多い種族で、大陸の殆どのドワーフはフェルグラントに集まっている。平均的な人間の身長よりも一回り小さく、そのかわりに骨密度が以上に高いので見た目以上に重い。多くは暗い坑道に暮らしていて、地上にはあまり出てこないらしい。と、ディオンが言っていた。


「そりゃちっと違うな。フェルグラント内のドワーフにも種類があんだ。より人に近い種族はこうやって地上で生活してる。普通のドワーフも普通に地上へ出てきてるしな。ディオン、お前も知識を最近のに合わせなきゃだめだぞ。」

「善処する。」




「とりあえず、宿を取らなくちゃ。...どこ?」


 街を見ても、宿の看板なんてないし、むしろ知らない文字が多い。中を見るに、どこも金属加工の店っぽいけど...。


「ふっふっふっ、嬢ちゃん、フェルグラントの1番の特徴知ってるか?」


 キョロキョロしていると、ゼルンがニヤニヤしながら聞いてきた。調子に乗った顔をひっぱたいてやりたい。


「...ドワーフの国。」

「てことは?」

「......地下都市?!」

「大正解!」


 そう言うとゼルンはフェルグラントの地図を取り出した。それまで後ろで見守っていたディオンもぐっと身を乗り出して一緒に地図を見た。


「赤い丸がついてるとこに、地下都市へつながる穴がある。そっから下に降りんだ。」

「宿もそこに?」

「ああ。地下都市は4つに別れててな、商業、住居、工業、政治の地区がある。宿は商業都市だ。」


 ぽんと地図上の端を指した。


「こっから降りる。さ、行くぞ。」


 ゼルンが向かったのは、今自分たちがいた工業都市の地上から北西の方角だ。ちなみに、さっき地図をみて知ったが、この街は円形に城壁で囲まれているようだ。


「街の空索運輸艇は全部、真ん中の中央(ちゅうおう)降索殿(こうさくでん)ってとこに集まってる。そこに行けば、商業都市にも短時間で行ける。」


 金属の音を聞きながら、角を曲がるとそこは大通りだった。東門からまっすぐ中央に伸びた道の先に、青い屋根の大きくて高い建物が立っている。そこから沢山の鋼索が伸びているからか、なんだか人工の大樹のように見える。


「なんと言うか...質素...だよね。」


 中央降索殿も、街並みも、何と言うか装飾が少ない無骨な印象を受ける。塗装もされていていない金属の色が出た建物ばかりで、少し雑多に見えた。


「機能美と言え。」




 中央に近付くほど人通りが増えて賑やかになってくる。ドワーフの国だと聞いていたが、明らかにドワーフだなあと言う見た目のものはあまり見ない。ゼルンと同じくらいの身長で、体つきも同じくらいか少し細いくらいだ。彼らがより人に近い種族なのだろうか?


 たどり着いた中央後索殿はこの街で1番高い建物らしい。そして見た目以上に大きい。中に入ると円形の室内には大勢の人がいた。真ん中に円形の受付カウンターのような場所があって、周囲の壁には沢山のドアがある。そこに人が並んでいるところを見ると、あそこから運輸艇に乗るのだろう。


「嬢ちゃん、はぐれないようになー。」

「目印が2つもあるから安心して。」


 いくら人に近い種族と言っても、ディオンは周囲より頭1つ分高いし、2人ともここらじゃ珍しい白っぽい髪なので目立つ。人に埋もれて流されそうなライナはゼルンのコートを掴んで頑張ってついて行った。


 真ん中のカウンターはやはり運輸艇の受付だった。赤い制服を着た褐色肌のかわいいお姉さんが対応してくれる。


「どちらに行かれますか?」

「商業都市の昇降所へ。」


 昇降所とは、地下都市と地上を行き来する場所で、これからそこへ行って下の地下都市に降りる。


「3名様ですね。ここから商業都市の昇降所まで1人小銅貨1枚、そこから地下都市へは小銅貨2枚になります。我が国の許可証などがあれば往復分が無料になりますが。」

「ああ、はい。」


 来たことがあるゼルンは馴染みの職人と商人がいるので作ったらしい。緑色の板を出した。すると、横からすっと、ゼルンの許可証よりちょっと大きい板をディオンが出してきた。水色の板には知らない文字が書かれている。


「...んだ?これ。」

「俺の、許可書。」


 あ?と疑問でいっぱいのゼルンに当然だろ?と言うような顔で言った。その時受付のお姉さんが驚いた顔でその証明書を手に取った。


「こ、このカードをどこで...?これは、435年前に当時の王が優れた宮廷魔法使いに発行した、伝説の許可証!あ、あなたは一体...?」


 ライナはまずいと思った。ディオンの過去は詳しくは知らないが、こんなところで魔法使いしてたなんて、魔術や魔法を毛嫌いしているこの国の人に聞かれたら絶対に騒ぎになる。面倒なことに巻き込まれるなんてごめんだ。慌ててそのカードを引っ込めた。


「すみません、間違えたようです。ゼルンの分だけでお願いします。」


 そう言うと、お姉さんは訝しげな顔をして、何か言いたそうなまま手続きをした。お金を渡したら紙の通行書を貰った。


「...こちらを空索運輸艇の乗務員にお渡し下さい。乗口は2番になります。」

「ありがとうございます!」


 ライナは急いでディオンを引っ張って大きく「2」と書かれたドアに向かった。それを追ってゼルンも走ってついてくる。


「ばかばかばか!なんでこんなところであんなの出したの!」

「知識も常識も最近のを入れろ!今この国は北のエルシュタインとは仲良くねえんだ!魔法使いなんて名乗ってみろ、面倒なことになって鞘なんて言ってらんねえぞ!」


 2人から小さい声で、でもガッツリ怒られてディオンも流石に堪えたらしい。眉尻を下げてしょぼんとした顔で謝った。


「すまなかった。以後、気を付ける。」




 2番の扉が開くと、小さな部屋があった。壁一面がガラスで、外が見える。


「...空索運輸艇は...どこ?」


 どう見てもそれに見えない。ここはまだ地面だし、鋼索は空に走っている。ライナが、ん?と首をかしげていると、急に部屋が揺れた。びっくりしすぎてライナの心臓がきゅっと縮まった気がする。


「な、何?」


 驚いているうちに、部屋が振動し始めた。この部屋が上がっている、と気付いたのは、ガラスの壁から見える外の景色が動いていたからだ。そして一瞬で、初めての空飛ぶ鳥の視界にライナは夢中になった。


「うわあ、なにこれなにこれ?!空!!私達、上がってってる!すごい!すごいよ!!」


 最高にわくわくする。いつもと違う景色がたまらなくライナを興奮させた。このまま飛んで行きたいな、まだ乗っていたいな、と思って無意識にスキップした。

 大興奮で頬を紅潮させたライナとは反対に、ガラスの壁から1番遠い部屋の角で顔を青くしてるのはゼルンだ。


「嬢ちゃん、飛び跳ねんな!揺れんだろ?!」

「大丈夫か、ゼルン。」


 青い顔のゼルンは首を振って床に座り込んだ。目をぎゅっと瞑ってう〜と唸る。


「俺、高いとこ苦手なんだ。だから空索運輸艇は楽だから乗るが、嫌いだ。」

「だがダンジョンでゴーレム相手に飛んでたよな?」

「それとこれとじゃ話が違う!どう考えても高すぎんだろ?!」




 興奮で笑顔のライナと青くなってげっそりした顔のゼルンは中央後索殿の高層に来ていた。

 部屋から出ると、そこに赤い制服を来た柔和ば男性が立っている。円形の部屋の壁がぐるりと全部ガラス張りなのを見て、ゼルンがひっと息を飲んだ。ゼルンが言うには、いつもと違う乗り場らしい。


「通行書を拝見します。」


 通行書を渡すと、半分を切って渡されたので、半分はライナが預かった。


「こちらにどうぞ。」


 白い手袋をはめた男性が優雅な動きで案内してくれる。ガラス張りの向こうから見える景色が綺麗だなあと思っていると、運輸艇に連れて行かれた。

 中には座る場所があって、赤い布が張られた長時間座ってもおしりが痛くならなそうないい椅子だった。そして地上で見た時よりも運輸艇が小さい気がする。


「...もしかして、これ、優遇されてる?」


 何度か乗ったことがあるゼルンにこそっと囁いた。


「っぽい。俺がいつも乗るのはもっと広くて人が沢山乗ってるたつだ。」

「...ディオンだよねえ。」

「だろうな。」


 ディオンは一目でわかるエルフだし、さっき伝説の証明書と呼ばれるものを持っていたのだ。きっとあのお姉さんが何か伝えたに違いない。理由は明白だった。




 ライナにとって空索運輸艇はとても楽しい乗り物だったが、ゼルンはやっぱり顔を青くしていた。


「ゼルン!もうちょっとだよ〜。」

「頼むから揺らすな!」


 窓から見ていると、下に見える景色が変わってきた。土と緑の畑が見えて、その先に大きな屋敷がある。その屋敷の横に、高い高い建物があって、そのてっぺんに鋼索がつながっていた。


「ねえねえ、どこに昇降所があるの?」


 顔面蒼白のゼルンが小さい声で言った。


「あの、でっけえ、屋敷ん中だ。」

「あ〜、なんかごめんね?」

「うっせえ。」


 またもや綺麗な制服を着た男性が案内してくれて、ライナ達はまた小さな部屋に案内される。ライナはなんにも考えずに部屋に入った。いつ動くかなーと楽しみにしていると、ガコンと部屋が動いて、ふわっと、全身の血が浮くような感覚に襲われた。なんだかふわふわするし、胃の中身がひっくり返りそうになってライナは顔が青くなった。


「きゃっ!」


 何かに掴まりたくて、結局ライナも端っこでゼルンにくっついた。


「...私も運輸艇嫌いかも。」

「わかってくれてよかったよ。」

「......大丈夫か?」


 けろっとしているディオンが、非常に憎たらしかった。


 高い建物のてっぺんから降りて、そのまま屋敷に入ると、やっぱり制服を着た男性が案内をしてくれた。確実にディオンのせいだ。おかげで普通にここを使用している人達からの注目浴びまくりである。

 階段を降りてたどり着いたのは、なんと、大穴が開いた大きな部屋だった。


「うっわ〜!でっかい!」


 底が見えない真っ暗な大穴、ライナは興味津々だったが、落ちると危ないのでディオンに近付くのを止められた。


「こちらになります。どうぞ。」


 またもや通された小さな部屋。嫌な予感がする。だってこれから自分達は地下に降りるわけで。そしたらあの胃がひっくり返りそうな感じが襲ってくるわけで。覚悟もないままに、その部屋は降下を始めた。


「うわあああ!」


 ゼルンは高い場所が嫌なだけで、この感覚はいけるらしい。今はガラスの壁の向こうも土なので高所にいる感じがしないゼルンは元気そうだ。ライナは今度は必死にディオンの腕にしがみついた。




 少しの間、暗い穴を降りて行くと、不意にガラスの向こうが明るくなった。


「あ。」


 地下都市に入ったのだ。本当に、地下に街があった。商業都市は地上と違ってカラフルで活気に満ちた街だった。上から見ると、なんだか可愛い。


「おいライナ!揺らすな!!」


 結局ゼルンは高さが明確に見えると怖いらしい。2人がディオンの後ろで小さく震えているうちに、フェルグラントの地下都市・グラートに到着した。






 



 

 










エルシュタインは魔法に特化した国。

鋼索はワイヤー、空索運輸艇はロープウェイを想像して下さい。

ライナ達が中央降索殿で乗ったのはエレベーターです。

ちなみに中央降索殿の高さは30メートル。

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