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神代の英雄  作者: 朧 夕映
西側諸国・予言の子
11/22

家族の話

 「うえええええええ?!?!」


 朝、ゼルンの悲鳴に近い騒ぎ声で目が冷めた。起き抜けにこれは辛い。


「ん〜、なんだよ〜。朝からうるさいよ、ゼルン。」


 のそのそとライナがテントから出ると、ディオンもテントから出てきた。ちなみに結局ディオンもテントに興味を持って購入していた。いろいろと改造しているらしいが。


「嬢ちゃん、ディオン、これ見ろよ!」


 興奮して頬が紅潮しているゼルンが、英雄の剣と自分の本を並べて突き出してきた。


「ここ!ここに!同じ印が!!!」

「ん?」


 ディオンと一緒に覗き込むと、確かに本に描かれた印が剣の刃に刻まれた文字みたいなものの中にある。


「それが...どうしたの?」

「おいおいおいおい!この意味がわからないのか?!すっっごい発見だ!」


 今にも空を飛べそうなゼルンは満面の笑みで言った。


「この印が、英雄の剣にあったってことは、俺が探している玉座の鍵も英雄に関係する品だってことだ!」


 ゼルンは興奮して、ディオンと肩を組んだ。


「もしかしたら、玉座の鍵がディオンの探し物かもしれねえぞ!嬢ちゃんの旅にも役立つかもしれねえ!これは、絶対に、一緒に行かねえとな!」




 「さーて。地上に帰ろうか。」


 新しい仲間ができたところでこのダンジョン旅は終了だ。帰り道のライナの腰には、危うく引きずりそうなくらい大きな英雄の剣が下がっている。


「これ振れるかなあ。筋肉つけなきゃ。」 

「上に戻ったら1回預かるからな。鞘作る。」

「ありがとう。なるべく軽いのでよろしくね。この剣、意外と重いからさあ。」




 地上に帰ろうとした時に1番最初にぶつかった壁が、例の大きな扉だ。やっぱり巨大魔法陣は解析できないし、ディオンが押しても全く動かなかった。


「うーん、入る時はどうしたっけ?確か2人が色々やってて...。」

「...嬢ちゃんが扉に触ったんじゃなかったか?」


 ディオンが何かピンときた顔でライナを見た。


「そうか。ここに英雄の剣があったなら、ライナ以外が来ても開くはずがないんだ。...ライナ、扉に触れてみてくれ。」

「え、ああ、うん。」


 恐る恐る扉に触れると、巨大な魔法陣が強く輝いた。そしてまた、開いた時と同じく凄まじい振動と共に恐ろしくゆっくりと扉が開いていった。


「すっげー。嬢ちゃんは俺以上の変人かもなあ。」

「失礼な。昔の英雄に言ってよね。」




 一週間かけて、3人はダンジョンから帰還した。


「うわ〜、眩しいなぁ〜」

「空気が美味しい!やっぱり地上がいいね。」


 特にゼルンは約1ヶ月ぶりの地上だ。深呼吸して眩しそうに目を細めている。ディオンも嬉しそうだ。


「とりあえずハーフェンヴァルトに戻らないとね。宿とれるかなあ?」

「まずはゆっくり休みたい。その辺で野宿でもいいんじゃないか。」


 ライナとディオンが話していると、ゼルンが得意げに笑って言った。


「近くに俺の工房がある。寝泊まりもできるから、今日は止まっていけよ。」

「本当?!ゼルン最高!」




 ダンジョンの近くの森の中に、小さな家があった。見た目は可愛らしい木の家だが、中は空間拡張の魔術で広くなっている。工房、寝室、リビングがあって、工房が1番広いのは言うまでもない。


「嬢ちゃんは寝室で寝な。ディオンは長椅子でいいか?」

「いいが...ゼルンはどこで寝るんだ?」

「俺は工房に長椅子があるからそっちで寝る。普段からこっちで寝てるしな。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。」


 ライナが夜ご飯を作っている間、ゼルンとディオンはリビングで英雄の剣を見ていた。


「なあ、これって金属...なんだよな?こんなに黒い金属見たことないぞ。」


 するとディオンは指輪からいつかの星鋼板を取り出した。角度を変えるとキラキラと光る黒い板に、ゼルンの目は釘付けにされた。


「うおお?!なんだコレ?!」

「星鋼板と言うものだ。...おそらく、同じ金属だと思うのだが...。」

「詳しく見てみないとわからないな。俺はしばらく工房に籠もるよ。」


 そこにライナが作った夜ご飯を持ってきた。本当はもう少し豪華にしたかったんだが、この家には食材や調味料がほとんどない。ゼルンはちゃんと食べているんだろうか?


「ありがとう。食べたらちゃんと寝ろよ、特にゼルン。」

「さすがに。俺もダンジョンは疲れるんだ。」




 翌朝。起きるとすっかり太陽は空の真上まで昇っていた。


「うわあ、寝過ごした〜。」


 沢山寝たからかスッキリと軽くなった体を起こして寝室を出ると、リビングに併設されたキッチンでディオンがご飯を作っていた。


「ああ、おはよう。よく寝てたな。」

「ほんっと、よく寝た〜。おかげで体かるーい!...ゼルンは?」

「工房にいるよ。昼ご飯できるから、ゼルンに声かけてくれ。」

「わかったー。」


 工房のドアを開けると、そこは以外にもきちんと整理された場所だった。四方の壁の全てに棚が取り付けられていて、そこにはズラリと魔術具や道具が並べられている。床も踏む場所があって、ゼルンが作業をしているあたりにだけ、色々な物が置かれていた。


「ゼルンー、ディオンがご飯つくってくれたよー。」

「...ん、ああ。......ちょっと待って。」


 英雄の剣の鞘を作っているようで、机の上には設計図が沢山ある。一体何枚あるのだろうか。魔法陣や術式も多く検討しているようだ。

 



 ご飯を食べながら、これからのことを話し合う。


「今回の戦闘でわかったが、魔王を倒すなら、後衛が必要不可欠だ。」

「それは思った。どうもこのパーティは前に出たがりが多いからな。」

 

 ライナとディオンが前衛、後方にいるはずのゼルンも場合によっては前に出てくる。どうしても防御や遠距離戦は不利になる。


「魔法使いが欲しいね。ゼルンは他の冒険者とも繋がりがあるんでしょ?知り合いにいないの?」

「数が少ねえからな。知ってるやつはみんなパーティに所属してる。どこも魔法使いは離したがらねえよ。」

「だよねえ。」


 するとディオンが空中に地図を投影する。大陸の北の海に突き出た場所を指さした。


「魔法使いが欲しいなら、北の魔法国家・アストラディアに行くしかないな。確かあそこで魔法使いを紹介してくれたはずだ。」

「それ、何年前の話?」

「......100年、くらい前。」

「そんじゃあもうやってねえかもな。ま、俺も北上には賛成だ。行きたい国がある。」




 昼食後、ゼルンは英雄の剣と星鋼板を机の上に出した。


「調べたら、この2つの金属は同じものだった。今はもう流通していない星骸石から精錬される星骸鋼だ。幻の金属と呼ばれ、バカみたいな金額でこの板の半分の量もない。しかも普通の鍛冶屋じゃ加工もできないんだ。」

「え、私、そんな剣持ってて大丈夫?」

「普通の奴じゃあ見分けなんてつかねえ。ここらで持っている分には安全だ。」

「ここらって...。」


 するとゼルンは、工房から数種類の金属ブロックを持ってきた。


「この星骸鋼には、いくつか特徴があってな。1つ、莫大な量の魔力を蓄えられる。2つ、軽い。他の重金属に比べては、だが。3つ目、1番厄介なのがこれだ...。」


 そう言ってゼルンは持ってきていた金属片を剣に近づけた。そしたらなんと、金属はパリンと軽い音を立てて粉々に砕けてしまった。


「え?!」

「見たか?なぜでか知らんが金属がだめになっちまうんだ。だが、トパーズやダイヤモンドなんかは無事だった。と、言うことは?」


 ディオンが頷く。


「なるほど、単純に硬ければいいんだな?」

「そうだ。」


 その話を聞いて、ライナは、ん?と首をかしげた。


「ちょっと待って。じゃあ、私はダイヤモンドでできたキラッキラの鞘を持ち歩かないといけないってこと?!」

「面白いだろ!」

「嫌だからね?!」

 

 思いっきり首を振って拒否するライナを笑いながら、ゼルンは星鋼板を振った。


「そこで、こいつの出番だ。おそらく星骸鋼はダイヤモンドよりも硬い。だからダイヤモンドのキラキラ鞘もいつかは割れちまう。だから、同じ硬さの星骸鋼で鞘を作っちまえばいい。」

「理にかなってるけどさ、星骸鋼は希少で、バカみたいに高いって言ってなかった?」


 そう言うと、ゼルンは待ってましたと言わんばかりに頷いて言った。


「だから、俺は、フェルグラントに行きたい。」


 ゼルンは地図上で、ちょうどヴァルデンメーアの右上の指した。フェルグラントは鉱物資源が豊富で、それによって発展した国だ。その道の職人が多いと聞く。


「馴染みの鍛冶屋がいる。鞘に刻む術式や魔法陣は俺とディオンがわかるが、金属加工はさっぱりだ。魔術具とは勝手が違いすぎる。だからそいつのとこに行きたい。剣も、研いでやらないとな。」


 ゼルンの話を聞いたライナは納得して頷いた。


「なるほどね。そんなに厄介なんだね、この剣。ゼルンの案、いいんじゃないかな。」

「厄介とか言ってやんな。」

「ディオンはどう思う?」


 ディオンは2人が話している間、地図を見ていた。そしてフェルグラントの隣の国を指さした。


「わかった。フェルグラントに行こう。だがその前に、ここに寄りたい。」


 指さしたのは、農業国・リュンフェルトだ。国土の半分が小麦畑で、季節違いで様々な野菜も栽培している。温暖で、今ならそろそろ小麦の収穫時期だ。


「ダンジョンで結構な食料を消費したからな。3人分だし、北の方は大量に食料を買うことが難しくなってくる。だからここで食料を調達したい。」

「いいんじゃねえか?ハーフェンヴァルトから、王都に向かっていくつか街道が伸びている。馬車の護衛でもしながら行けば、路銀も稼げる。」

「じゃあ、それでいいね。私はこれでハーフェンヴァルトの依頼所に行ってくる。ディオンはどうする?」


 地図やらなんやらを片付けながらディオンは言う。


「そうだな。俺も行くよ。宿とっとく。ゼルンも、一度家に帰っておけ。しばらくは帰れないんだからな。」


 ディオンにそう言われたゼルンはそうだな、と返事をして、工房を片付け始めた。




 馬車に揺られること2時間。3人はハーフェンヴァルドに戻ってきた。


「急いで宿取らないと。ディオン、お願いね。私依頼所行ってる。」

「わかった。取れたらそっち行くよ。ゼルンはどうする?俺らと一緒に泊まるか?」

「...いや。今日は家に帰る。明日の昼に合流しよう。」

「わかった。店に行くよ。」


 依頼も宿も早いものがちだ。急がないと、報酬がいい護衛の仕事はあっという間になくなってしまう。ライナは街の依頼所に向かって走り出した。




 夕方。俺は住宅街の小さな魔術具屋に来ていた。ここは、ばあちゃんが俺のために用意した店だ。懐かしさを感じながら中に入ると、店の半分の魔術具が売れていた。驚いた。あまり売れてるイメージはなかったんだが...


「こんにちは〜...あら?」


 カウンターから出てきたばあちゃんは、俺を客だと思ったらしい。俺に気付いて驚いた顔をした。


「ゼルンじゃない。おかえり。いつ帰ってきたの?」

「さっき。...ていうか、よくこんなに売れたな。」


 そう言うと、ばあちゃんは何かを思い出してふふっと嬉しそうに笑った。


「この間ね、エルフの男性と、可愛いお嬢さんが来て、ぜーんぶ買ってたのよ。」

「あいつらか...。」


 そういえばここに来たとか言ってた。まあ、俺の魔術具を買っていくもの好きはディオンくらいだ。


「今日、泊まってってもいいかな。」

「いいもなにも、ここはゼルンの家だよ。今日はあんたの好きなもの作ってあげようね。」

「俺もう子供じゃないんだけど...。」



 

 夜。鼻歌を歌いながら編み物をしているばあちゃん。俺はその前に黙って座った。


「...ばあちゃん。」

「なんだい?」


 編み物から顔を上げないばあちゃん。そっけない返事はこの人の癖だ。

 ゼルンはごくっと喉を鳴らして言った。


「俺、旅に出るよ。」


 そう言うと、一瞬手が止まった。けれどばあちゃんは驚いたふうには見えなかった。


「そう。」


 それだけ。簡素な返事に、ゼルンは眉をひそめる。


「......聞かねえの?どこ行くんだとか、なんでいくんだとか。」


 そう聞くとばあちゃんは編み物から顔を上げて言った。


「わざわざ聞かなくたってわかるさ。もう決めたんだろう?」

「......多分、長くなる。無事に帰ってこれるかもわからねえ。」


 ばあちゃんは、シワだらけの顔でじっと見つめてきた。


「危ない旅かい?」

「ああ。」


 ためらいなく頷くと、ばあちゃんはふう、と息を吐いた。


「そうかい。ゼルンが決めたんだ。私は何も言わないよ。」

「......止めねえの?」


 ばあちゃんは、笑ってゆっくりと言う。


「ここで止めて、毎日、行けばよかったって顔される方がよっぽど辛いさ。」


 その言葉に、ゼルンは何も言えなくなる。


「ゼルン。」


 ばあちゃんの声に顔を上げると、ばあちゃんはまっすぐ俺を見つめた。


「無事に、生きて帰っておいで。」

「......ああ。」




 翌朝、と言ってももうすぐ昼時だ。俺は寝室から出て、身支度を整えた。表の店に行くと、変わらないばあちゃんの姿があった。


「おはよう、ばあちゃん。」

「ああ、ゼルン、おはよう。今日、行くのかい?」

「これから店に、旅の仲間が来る。紹介させてくれ。」




 店の魔術具が半分買われたので補充してると、ばあちゃんが何かを持って来た。


「夜は冷える。首をちゃんと温めるんだよ。」


 手渡されたのはマフラーだった。深い緑のマフラー。編み目が揃っていないのを見るに、ばあちゃんが編んだのだろう。


「......世話焼きだな。」

「今更さ。」


 そうだ。今更だ。そもそも俺は、ばあちゃんの世話焼きに救われたんだ。




「こんにちはー。」


 お昼頃。ライナはディオンと一緒にゼルンのお店に来た。店内には新しい魔術具が入っていて、ゼルンとおばあさんがいた。どうやら話はしたみたいだ。目を瞬くおばあさんに紹介された。するとおばあさんは深々と頭を下げて、にっこり笑って言った。


「ディオンさん、ライナちゃん。息子を、よろしくお願いします。」


 おばあさんの後ろにいるゼルンは、涙を我慢しているように見えた。



 

 

 











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