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大陸戦争  作者: 野谷
8/10

乱戦

 バルサ帝国としては少し予想外の軍団の分け方であった。バルニックが劣っているというわけではないが、北軍を束ねるは、帝国最大戦力のカール大帝だ。もっと多くの兵士を北軍に集めるべきではないのか?と感じた。それかカールとの戦闘を出来るだけ避け南軍で勝利するつもりなのか。バルサ兵士達はフラジールの采配に首を傾げるばかりだ。

 基本的にカールが軍を率いる時は、カール本人が指示出しをする事はほぼ無い。何故なら彼に全権を渡せば、自らの体躯に物を言わせて突撃を何度も繰り返すだろう事は目に見えているからである。彼が総大将の時は、各々の兵士を率いている軍隊長達が自分の判断で戦う。意外な事にそれに慣れた軍隊長はその自由すぎる戦い方に慣れ、他の軍隊長と連携をとる事で自然に強い戦術を行えるようになっているのだ。もし大きく戦況を変えるような事態が起これば、拾われ中将のアンデンが指示出しする。アンデンの普段は鈍臭い雰囲気に頼りない印象を持つ者も多いが、戦況を見極め行動する咄嗟の判断力は折り紙付きだ。そして北軍同士が遂に対面した。バルサ側は進軍の足を止め、敵側の動きを待つ。どうやら向こうから仕掛けてくる事はないようだ。ならば良い。こちらから仕掛けるまでだ。進軍開始の銅鑼を聴いたバルサ帝国が誇る重装歩兵が、大地を一歩ずつ踏み締め進軍を開始する。ガチャリガチャリと重々しく金属の擦れる鈍い音が、これから始まるであろう大軍同士の激しいぶつかり合いを予見させた。それに対し、連合軍側も動きを見せる。ゲベーツの誇る楽器隊だ。彼らは先端が大きな笛の形を模した大槌を肩に乗せている。ソレは実際に音を奏でる事も可能で、その強力な破壊力と、楽器を武器にしているという歪さから、対峙した事がある者達からは「死を告げる音色」として恐れられている。このような戦場にまで自分達の推している芸術とやらを押し付けてくる愚かな奴らだ。と、カールは鼻を鳴らす。楽器隊は一斉に笛を鳴らす。中々迫力のあるものだ。これをオシャレの利いたホールで酒を飲みながら聞ければとてもリラックスした時間を過ごせるであろう。そして、音楽家達の目をしていた者達の目は一変し、突然戦場の兵士の目に移り変わった。どうやら心地よい演奏の時間は早くも終了したようだ。バルサ兵士の迎撃に備え、大槌を思いっきり振りかぶる。と思えば、第一軍同士の激しいぶつかり合いが開始した。バルサの先鋒を率いるのは、ドマン将軍。彼はカール直属の配下であり、仕えてきた10年間先鋒を任され続けてきた。ドマンの動きはまさに先手必勝。最初に流れを作ったものが勝利すると言う信条を持ち合わせており、戦いにおいて最もつぶれ役となる先鋒を任せられるのは彼をおいていない。「やはり出てきたのはドマン将軍か。」首を鳴らしたのは北軍総大将グローム大将軍。今回彼は総指揮を行う立場であるものの、出陣前、フラジール元帥から授かった作戦を行うのみだ。もし、戦線に異常を感じれば初めて自分の意思で軍を指揮する。それが彼にとっての決定事項だ。正直言って、大将軍としてフラジールからの指示を仰ぐ立場ではあるものの、深層心理では元帥の事を怖がっている自分がいた。彼の作戦に基本的に穴はない。どんな展開になろうと、最後に戦争に勝ってきたのは常にゲベーツ側だ。ゲベーツ帝国の常勝は彼によって形成されていると言っても差し支えない。どうにも彼は兵士の事を駒としてしか認識していない様子だ。確かに、軍団を指揮するものとして非情になれるのは強さだが、例え兵士が死んだとしても何の感情も揺れ動かないようだ。それが自国の兵士であっても。と、こんな個人的感情を今出している暇ではないか。すぐに総司令の顔に戻った彼は、ダモラ王率いる5万を第一軍とし、突撃命令を下した。内訳としてブラン正規王国軍が3万6000と、ゲベーツ軍の貸した1万4000だ。そこにドマン将軍の4万が槍を振り回しながら突貫してきた。なんならカールはドマンと共に一気に突っ込む気であった。とはいえ、あまりカール大帝に負担をかけさせすぎてはいけない。何故なら今回の進軍はあくまで混乱するアトランカの領土まで攻め上がると言うものであり、もし、多少なりともアトランカが併合されてきていた場合にはアトランカ兵士との戦争も控えているからである。バルサ側としては、出来るだけ彼を温存しておきたいのだ。それに、いくら強いと言っても万が一があれば困るからだ。それを全て理解しているドマンは破竹の勢いで敵を攻める。ダモラ王は今回攻撃を受けている国の君主という事で最も重要な位置にいると言っても過言ではない人物だが、結局は大したことのない中小国家である。ゲベーツは真っ先に攻めさせ、全て潰させるつもりのようだ。そうはいかない。多少数的不利はあるものの、俺の厳しい訓練を継続させた兵士達はこんな弱者達には足止めにもさせたくない。それを有限実行するドマンは攻撃の手を緩める事なく、がむしゃらに攻めた。そしてようやくダモン側近の兵士達と接敵したと思いきや、敵側の方で声が上がった。「撤退!撤退!王は逃走されておるぞ!」不甲斐ないやつだ。初めブラン兵士達とぶつかり合った時にも感じた事だが、彼らには強い意志を感じない。王を守ると言う強い意志が。しかしこれはもう仕方ない事だ。自分の中で尊敬に値しないものをわざわざ命をかけてまで守りたい酔狂なやつは中々いないからだ。さてこのまま指揮系統を失った兵士の背を切ってやろうかと思い立った時、彼の目の前に大男が立ちはだかった。そいつはどう見ても齢70を超えた老人。しかしカールを超えるだろうか、大きく太い体をし、右手には大きな薙刀を携えている。それが本物の鉄で出来た武器であるとするならば、片手で持っているだけでも中々の者だ。一瞬を警戒したがそこまで気にも留めず、馬をかけさせ槍で貫こうとしたその瞬間、ドマンは空を舞っていた。ぐっ!?っと鈍い音を発し落馬。一瞬理解できなかったがなんと、彼の乗っていた馬の前足2本が消し飛び、まもなく絶命したのだ。なるほど。これはまずい。アンデン中将が異変を感じたのはすぐだった。さっきまで初戦のぶつかり合いを制したドマン将軍が敵の背を追っているはずだったが急に先鋒兵の勢いが鈍くなったのである。と思えば、ゲベーツが第二、三軍を出してきた。この状況を予期していたのかすぐに左右に陣取り、ドマン軍を包み込むように左右から攻撃を開始した。これを見過ごすわけにもいかず、ローガ将軍に救援の軍を出させた。更に状況が悪化するようならば、さらに兵士を投入する。先鋒軍の状況整理をさせる必要もあるしそう簡単にドマンを失うわけにもいかない。ローガ将軍は主に第二軍を務める事が多い。役割としては潰れ役となるドマン軍のエンジン役兼、取り逃した敵兵士の掃討だ。単純な実力はドマンに引けを取らない猛将の1人だ。大体の軍は、ドマン・ローガの双璧を上手く崩せず総崩れになり、カール大帝の本隊に届く事すら珍しい。アンデンとしては既に焦り始めていた。今回の北軍、最も危険視していた数こそ多くはないがクロシナ聖王国から派遣されていたという剣聖だと考えていたからだ。しかし、初戦に勝ったと思いきや、既にドマン軍は包囲され、救援が間に合うかも微妙。今まであの両翼が崩された事はないが今回でそれも終わるのでは?心配性も仇となり汗が止まらない。この大事な初戦。バルサ帝国として絶対に負けられないのだ。それに対しカールもなにか引っかかりを感じていた。ドマンがブラン王国の兵士達は程度に苦戦するか?と言う疑問だ。今回の戦闘は荒れる事になるやもしれん。と思ってもないような思考を巡らせた。とにかく、俺が出れば勝利をもぎ取れる。と自分を何よりも信頼している。両者の思惑をよそに戦局は動いていく。ローガは目の前の味方兵士達に群がる敵兵士を切りながら、彼の戦友を探していた。ドマン軍の状況が掴めなくなり、20分程が経過。なんとか焦るドマン兵士の手を捕まえらえたと思えば、どうやらドマンは敵陣の中で落馬し、孤軍奮闘していると言うものだった。前方の戦いに目を凝らし、少し右方に目をやると遂に見つけた。ドマンだ。ローガはすぐに駆けつけるため、全速力で馬を走らせた。どうやら対峙する目の前の老いた大男が将なのだろうか。お互い槍と薙刀で打ち合っている。ローガはその戦場に躍り出た。「ドマン無事かっ!一騎討ちなのかは知らんが俺も援護する一度体勢を立て直すぞ!」そう言いながら刀を薙ぐ動作を始めた。ドマンは突然のローガの来訪に驚いたと思えば、「いかん!貴様では歯が立たぬぞ!すぐに引けっ...」言い終わる前にローガは目の前の老人の動きを理解する間も無く崩れた。薙刀の横払い一度でローガの鎧を貫通し、腹を裂いた。馬鹿な!俺はカール軍の第二将として、数々の戦果を上げてきた。そしていつか第一将を務める尊敬し、戦友と認めたドマンを追い越すためにここまできたのだ。自分とドマンは実力差はぼぼ無くドマンが苦戦するならば2人で力を合わせれば無敵だ。そう考えていた。しかし、自分でも気付かぬ内に常に先鋒に立ち敵とぶつかり合うドマンと自分とではどうやら大きな差がついてしまっていた。その現実を受け止められなかった。多量出血によりここまでの走馬灯が流れたところでローガは絶命した。「大馬鹿者がっ!!」ドマンはローガの事を少なからず認めていた。ローガは32で自分の10年下だ。普段の態度が気に食わない為口には出していなかったが彼なりに認めていた。この目の前の大男と打ち合いながら、自分はもう勝てないと悟り、少しでもコイツの足止めをする為にもここで戦死するつもりだったが気が変わった。ローガの死体を祖国へ埋めねばこの気は晴れんだろう。ドマンは意を決した。救援のローガ軍も勢いが落ち始め、いよいよアンデンは焦り始める。こうなっては致し方ない。第三軍の重雷に命令を下そうと思っていたその時知らせが届いた。「報告いたします!カール本隊が前進を始めました!」頭を抱えつつ。いや確かにこれは有効な動きとも言える。こちらの想定以上に敵軍の動きが読めず、戦況を把握し辛い、こちらの遊軍として置いていた部隊も攻撃を受けているようだ。もしかしたら温存している場合ではないのかもしれない。自軍に戻り、動き始める時か。中央線線のバルサ側はかなり酷い状態だ。救援に向かったはずのローガを失い、ドマンも行方不明。周囲は敵に囲まれ始め、本隊に状況が伝わっているのかも不明だ。戦線はずるずると後退していた。そんな戦況に新たに現れた軍団が自分達の前に躍り出る。助かった!そう叫ぶ兵士達の声が聞こえる。カール本隊が中央戦線に参戦した。

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