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大陸戦争  作者: 野谷
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大陸情勢

 カールは自身の最大の武器である右腕を失った。どうやら勝負は着いたようだ。全力で戦った。それでも、勝つことは出来なかった。近くにいた兵士から悲鳴にも似た音が漏れる。「う、ううわああ...」情けないものだ。それでも誇りあるバルサの兵士か!と叱りたくなるも、もう言葉も出ない。ザボロが「ワシの槍で引導を渡すつもりじゃったが...」言いかけ、「最後の一撃はお任せします。」と言うラグナルトの声に首を横に振った。興が削がれた。好きにせよ。と言い残し背を向け出した。この間も戦いは続いているが、この激しい将同士の戦い近くにいたもの達だけは皆、手が止まっている。それに気づいてない兵士達は今現在も、互いに命の削り合いを続ける。バルサ軍精鋭達も、自分の主の命を奪われる寸前と言うのに動けない。この周囲だけは異様な空気に覆われていた。さて。と、カールに向き直ったラグナルトが一歩一歩と近づいてくる。カールは最後の力を振り絞り声を高らかに上げた。「俺はバルサ帝国総大将のカールだ!この首、貴様に預けてくれるわ!」と最強が膝を着いた。「見事!」覚悟を見届け剣を構えようとした。その時だ。異様な雰囲気の中、咆哮が轟き、周りの兵士達が動揺する。その音が恐ろしいスピードでコチラに近づいてくる。何かは分からない。だが、剣聖としての勘が、ただちにカールを斬っておくべきだと告げる。それに同意し、首を叩っ斬ろうとした。もう、遅かった。「...っがあああああ...!!!」一騎の騎馬兵が戦場の中から突然現れ槍を振り撒くる。剣で受けたが後方に吹っ飛ばされる。「我は不死身のドマン!主人の窮地に参戦致した!」その男は全身血だらけで右手に槍、左手に首を掲げていた。その首をひょいと投げ捨てたかと思えば、そのまま左手を下に捧げ、なんとカールを片手で軽く馬の後方に乗せさせる。「貴様ら!今すぐその男を殺せいっ!」ザボロが叫ぶが、ドマンは手綱を握りもせず、左で主を支えながら右手の槍で敵兵を圧倒し、こう叫んだのだ。「全軍!今すぐ撤退を開始する。生きて国に帰るぞお!」地面には、ハリムナ将軍の首が転がっていた。

 何が起きている!?混乱していたのはアンデン。中央の状況はどうなっているのだ?撤退!撤退!と前方にいる兵士達が後退し始めているが、敵の撹乱作戦に惑わされたか?と思えば、向こうから見覚えのある男がこちらめがけて駆けてくる。そしてその後ろには我らが総大将、カールが乗せられている。一体何が起きたと言うのだ?バルサ軍の全軍撤退が始まった。総指揮をとるはアンデン将軍。撤退戦は地獄と化した。予め、追撃戦になるのを加味していたグローム大将軍が、本隊と別働隊を使い激しく追い立てたからだ。追いつかれカールにも危険が及ぶと感じたバルサの将軍達が次々と殿に名乗りを上げ、多くの将軍達が命を落とした。初め、アンデンも殿に加わろうとしたが、ドマンにお前では大した力にならんと言われ、泣く泣く撤退した。あんまりな口ぶりではあるが、カールが危篤状態な今アンデンまでもを失う訳にはいかないのだ。カールは意識を失っており、返事は全くない。まさか死んでるんじゃねえだろうなと思いながら言葉には出さず、ドマンは駆ける。

 バルニックは舌打ちをする。「何故!中央政府はまだ戦争を止めるのだ!」声を荒げる。無理もない。北軍がこのような状態に陥っている時、南軍はお互い睨み合いをせど、大したぶつかり合いをしていなかったからだ。それもこれも中央からの厳命で、我らが命令するまで、気が熟すまで待てと言うものだった。バルニックは大将軍という位を授かってはいるものの、軍人であり、上の命令は絶対厳守なのだ。と言うものの、向こうから仕掛けてくれれば迎撃として争いに発展するだろうにも関わらず、向こうも全く動く気配がないのだ。こうまごついている内にもカール達は戦っているかもしれぬと言うのに、歯軋りをしていたが伝令が政府の指令を伝えにきたようだ。「やっとか!!」と、馬に騎乗しようとしたが、いや、「南軍はこれより撤退するように...と...」気まずそうに伝えてくる。

 バルサ帝国と連合軍の戦いは北側がバルサの惨敗、南側はほぼ互いに犠牲がないままバルサ側が撤退したことにより、連合側の大勝利と言えるだろう。噂によれば、カール大帝が死んだと言うものや、死んではいないものの意識不明の重体だという情報が絶えない。争うこともなく、無事勝利したフラジール元帥は北側の完全勝利の知らせを聞き、胸を撫で下ろしながら帰還していた。それにしても本当に彼は恐ろしい男だ。カールを潰すための囲い込み作戦。その他の部隊の敵別動隊を潰す動き。そして、南側の戦わずしての勝利。コレらを全て仕上げたのは間違いなく彼の知略と謀略だろう。私はただ、策を預かり指令を授けたに過ぎない。バルサの力が弱まった今、次に警戒すべきは彼なのかもしれない。「バルボッサ...。」

 うーむ。どうやら当てが外れたようだ。これからの我が国の身のふりようも改めて考える必要があるな。サラディーナ王国の国王、ムジョルがそう呟く。いっその事、バルサに攻め込みましょうか?と、弟のムジョリが提案する。私も同じ事を考えておりました。と、同意したのはジル聖騎士長が連合軍を引き連れサラディーナ領に攻め入ってきた際、ムジョリと共に守り切ったガルーダ将軍だ。「中々喋らんが、お主はどう思う?」王であるムジョルに意見を求められ、しばらく思慮したのちに「今は静観し、来るべき次の戦いに備えるべきかと、いつでも他国に攻め入れる準備をしつつ。」そう答えるは、サラディーナ2大将軍が一人、ワグルト大将軍である。それに反発するように「貴様はいつも時を待てと言うが今がその時ではないか。俺は今すぐに西のジルキーンに侵攻するべきだと思うぜ。」と2大将軍のもう一人である、デラマン大将軍が意見する。デラマンは常に北方の守り、バルサ帝国の侵攻を防ぐために置かれていた。彼の大いな働きにより、バルサ帝国は中々侵攻しきれずにいたのだ。北方の民、バルサ領と隣接している民達の間では、自分達の守護神として祭り上げられている。そして今回バルサ軍敗退の報を受け、部下の将軍に守りを任せこの地に帰還した。それは今回の連合対バルサの戦いがこの地、サラディーナにとっても大きな転換期となるだろうからだ。

 英雄の凱旋に民達は最高潮に盛り上がっている。クロシナ大聖堂に今回の戦果を報告するため、聖騎士達が民から讃える言葉を受けながら目指す。その長蛇の列の先頭は、剣聖ラグナルトだ。しばらく歩いた後、大聖堂に着くと、門が開く。すると、「よくやってくれた。ラグナルト、そして聖騎士達よ。お前達の事は誇りに思うぞ。よく無事に帰還した。」こう歓迎の言葉を投げたのは、元プラトン連合の統括を担当し、現在はクロシナ聖王国における大臣の位置付けにいるバルボッサ大臣だ。それにと続け、「我の作戦通りカール大帝を討つ事が出来たのはあまりにも大きな事だ。」と、この言葉に対し、ラグナルトはあまりいい顔をせず、「いえ、右腕こそ切り落としましたが、結局首を取るには至りませんでした。期待に沿えず申し訳ない。」と言う。いや十分だ。「少なくとも奴は重体でもう長くないかもしれんし、回復してももう戦場には出て来れんだろう。」もう一つの策も上手く作用したしな。と呟いている。クロシナ聖王国とは、大陸勢力同士に均衡をとらせ、侵攻により領土を広げると言う国の常識を良しとしていない国だ。国同士の争いがあった時には、法の番人と言われているように、戦争の早期解決、互いが納得するような終わりに向け尽力している。言わば、大陸のバランスを取る役目を担っているのだ。この事から分かるように、他の国とは一線を画したかなり異質な国と言える。だが、その為他の国からの信頼は厚く。プラトン連合の筆頭として推挙されたのだ。領土が小さく、力を持たない国からすれば、これだけ頼りになる国は他に無く、大国からすれば、クロシナは強力な武器にもなれば、大きな障害となって、立ちはだかることだろう。ところで...と言いながらバルボッサが手を鳴らし、一人の聖騎士が二人の前に歩み出る。ラグナルト殿に頼みがある...。結論から言えばこの青年の名はカイ。最後の7大国、イズモの国(通称イズモ国)出身であり、バルボッサが使節団としてイズモに訪れた時に拾った少年だそうだ。それはイズモが周辺国との国交を断絶する前の約12年前だそうだが。イズモ国は、7大国というものの、位置としては大陸北西部の島国であり、どこの国とも隣接していない。その為、イズモの情報もほぼまわってこないのだ。

そんな国出身のカイを、バルボッサが育成して欲しいとラグナルトに頼み込んできたのだ。なんでも、変わってはいるがかなりの剣術の使い手だそうだ。稽古をしてみてば確かに、初めて見た剣術だ。正直聖騎士として相応しいと言えるかと言えば怪しい所ではあるが、今必要なのは即戦力だ。長考した後首を縦に振ったラグナルトは、カイを自らの護衛兼、後継として育て始める。

 長きに渡る内乱が終わろうとしている。ここまで長い道のりだった。いくつもの勢力、外部からの工作を看破し、元は同じ国の同士だった者達を幾人も斬ってきた。全ては、アトランカの平静を速やかに取り戻す為。内乱など、周りの国からすればこれ以上にない程の侵攻のチャンスだ。実際に我欲を出した周辺国が侵攻して来た時もあったが、その度に兵を率いて追い払った。男の名はチャンドラ。元々はアトランカ連邦に連なる、シャルナ国と言う連邦の中でも小さめの一国の王だったが、アトランカで緊張が高まり始めた当初に戦士としての頭角を現し、次々と立ちはだかる敵国を滅ぼし、統合していった実力の持ち主だ。太陽王とも呼ばれる彼は、民に優しく決して邪険せず、降伏した敵に対しては共に飯を食う豪胆さもある一方、抵抗を続ける敵に対しては徹底的な潰しを行う苛烈さも秘めている。そんなチャンドラは今、内乱を鎮めるために最後の城攻めを行なっている。城で抵抗を続けているのは、大王と呼ばれるヨームだ。彼は、アトランカ勢力分裂前から一大勢力を築いており、自身の手腕も相まって更に勢力を広げた。しかし、チャンドラなどの今まで日の目を浴びていなかった実力者達が力をつけ出し、ヨームは自国ひいては他国においても強権を見せていた為、求心力が足りず中々仲間が集まらなかった。更には、優れた軍師がいても自らの作戦を採用しがちだった為、ヨーム軍は軍略に乏しかった。それでもヨームは武力のみでなんとか勢力を維持していたが遂に、この一城を残すのみになってしまった。ヨームにはもう一つの別称があり、夜王とも言われている。所以としては、夜戦の巧さだ。ヨームは夜戦を得意としており、近衛兵達も夜戦に特化した訓練を積んでいる。夜戦においては負け無しなのだ。とは言えこれは守城戦、得意の夜戦に持ち込める事は無いと思われた。が、夜戦に発展したのだ。ヨームは城攻め後に寝静まるチャンドラ軍を狙い、少数精兵で自ら城門を開け襲いかかったのだ。無論、夜襲にはチャンドラ軍も気をつけていたが、神出鬼没のヨーム軍に全く気付く事が出来なかったのだ。狙うは敵総大将チャンドラの首のみ。初め上手く夜襲が決まった為、どんどん押していたが、多勢に無勢、少しずつ夜襲に気付き戦闘準備を終えた者達に苦戦する。当然の事ではある。城を取り囲むチャンドラ軍は約5万で、それに対するヨーム軍は8000、そして夜襲に参加しているのは500にも満たない。敵にバレずに上手く城から出せるのはこの数が限界だった。本当に起死回生の策だったのだ。これまでと思ったヨームは部下に持たせていた大きな旗を地面に思いっきり突き刺し俺と戦えとチャンドラ本陣側に叫んだ。その行為を見たチャンドラ軍は一瞬動きが止まったと思えば一斉に笑い出した。ヨームが突き刺した旗には大きくアトランカ連邦の紋章が刻まれている。アトランカ連邦においてこの、戦地において将軍級の者が旗を地面に刺す行為は、相手方との一騎討ちを望む際に行われるものだ。だがコレは本来、勝負がある程度拮抗している際に将軍同士が決着を着ける事により、勝利側が戦場の流れを掴むというものだ。今この状況は、誰がどう見てもチャンドラ軍が優位であり、ヨーム軍に勝ち目はない。すなわち、この一騎討ちを受けるメリットが全くないのだ。チャンドラ軍はそれを笑ったのだ。ヨームはそれでも表情を崩さず旗を刺し、静止している。もういいだろうと兵士達がヨーム達に迫ろうとした時、一喝が響いた。「待て!俺は一騎討ちを受けるぞ!夜王ヨームよ。」と言いながら、巨大馬に跨って、煌びやかな装飾を施した、権力の主張を促す鎧を身につけた男が現れた。右手に斧を携え、左拳に鉄の塊のような装備が付いている。コレで殴るとでもいうのだろうか?どうやらコイツがチャンドラのようだ。「まずは一騎討ちの申し出に応えてくれた事に感謝する。主がチャンドラだな?」それにチャンドラは応じる。「もし、俺を殺せればこの兵達も引き下げさせると約束しよう。」そう持ち出したのだ。これにはヨームと近衛兵、それ以上にチャンドラ軍がどよめいた。「王よ!そのような約束...それにそもそもこのような不当な一騎討ちを受ける必要はありませぬ!」と言う進言をよいよいと言いながら更に続けた。「ただし、俺が勝てばコチラの命令に全面的に従ってもらうぞ。」と言った。それに「その時俺は死んでいるが、今近衛兵達に約束させ誓わせよう。」と言い、近衛兵達の顔を見た。彼らは覚悟を決めた顔をして頷く。元より死ぬつもりでここまで来たのだ。何も迷う事は無いし、尊敬するヨームの言葉ならば従うと、素直に心に決めた。よろしい。と言うとチャンドラは馬から飛び降り、すぐに戦闘態勢に入った。話が早くて助かる。ヨームもそれに応じてすぐに馬から降り、槍を構える。

 今まで自らの武力に任せて敵を屠ってきた。それに対しチャンドラは、人徳によるもので統一を図ってきていたのだ。この一騎討ちと言う場合に限っては、圧倒的にヨーム側に分がある。そうヨームは考えていたがどうやらその認識は間違っていたようだ。先に仕掛けたのはヨーム。分厚く太いチャンドラに対して彼は、長身で細身だ。体長2m越えから放たれる槍術は、スピードに特化しており、対峙した敵からすれば速すぎて何が起こっているのか分からぬ内に死を告げる。その高速な槍を下側に構え蹴り上げるように上側に突き上げた。しかし、突き上げる途中、チャンドラの左拳で上がろうとする槍に殴りを入れ、地面に突き刺させる。そのまま流れるように斧を横に薙ぐ。寸前で体を反り回避したヨームは思いっきり足で蹴りを入れ、チャンドラを吹き飛ばし槍を地面から抜く。周りから、おおぉ...という声が上がる。どちらの兵士だろうと関係なく、その戦いに目を凝らしている。自分達では到底追いつけないだろう境地の戦いだ。これが、アトランカの内乱をここまで戦い抜いてきたトップの戦いだ。それにこの戦いを制した者がきっと、これからのアトランカの命運を握るだろう。

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