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その十六

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 本当に優しい人は、自分が暮らしに困っていても助けてあげるべき更に弱い者を見付けます。別に殊更に探している訳でもないのに、自然に目に付いて仕舞うのです。それは不思議な程です。そしてそういう人を助ける手を差し伸べる事の出来ぬ自分を責めるのです。誰にも知られずに、誰にも言えずに、苦しむのです。

 そういう人間のそういう苦しみ。それは救い難いものでしょうか。私はとんでもない事だと思います。それは救い難いのではなく、如何なる貴人の行いも及ばざる尊いものであると思います。そういう真摯で悲しい想いが人間を亡ぼす訳がない、人間を救わぬ筈がないと信じるのです。その想いは苦しいです。しかしその想いがその人を絶望の中に放り込む事は絶対にない、却って必ず救うと信じるのです。

 或る種の人々は他の人よりも重い(くびき)を負わされます。これはその典型の様な話であると私は思っています。でも他の人よりも重い(くびき)、それはどうしてなのでしょうか。どうしてそんな事が『決まっている』のでしょうか。判りません。私に判る筈もありません。でもその重い(くびき)、その苦しみの先に絶対に人間としての破滅が待っているのでない事だけは、私は私の魂の全部を賭けてでも信じます。


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 好きにお金をつかっても構わない、人生でそういった状況に置かれた時というのが今までに無いと思います。尤も例外があり、旅行中その終盤になっても持参したお金に余裕がある一日二日くらいは、そういった気持ちになった事もあります。でも旅先なのですから、好きにつかっても()い、というのとは少し違うと思いますが。食堂に入る前に一々財布の中を確認しなくても済むといった程度の話です。

 でもこれが私の社会人生活三十数年を通じて私を守った大きな要素です。私は子供の頃徹底的にお金を管理して暮らすという事を体得しました。好きな鉄道に乗って何処(どこ)かに行く為には、常日頃完璧に節約しなければ駄目だったからです。それが大人になってからも私を守りました。誘惑に負けて何かを買って仕舞うと、自分がとんでもない罪悪を犯した気持ちになります。どことはなしに警察に追われている身である様な気がするまでにその体得は徹底しています。親の『教育』の御陰です。ですが、父母は私に勝って節約家でした。殆ど遊びませんでしたから。ただ家族一緒に居る事だけを喜びとしてくれたのです。私の父母はいつもそれだけで満ち足りていました。

 人間が強く、深く、繋がっている。実はそんな事までもが人が質素に暮らす事を可能にしてくれているのです。立派な衣服を身に着けて歩いている人間を目にするとそれだけで私は、

「この人は家族がうまくいっていないのではないか」

と思って仕舞う程です。果てしなく私を守る、父母の愛。父は既に天の国に、そして母は笑顔を今も絶やさず私の生まれ育った家に居て私の帰りを待ってくれています。私が何を一番大切にして生きていかなければならないのかは明白です。私は仕えて生きる事を義務として負うている人間です。初めからそうなのです。私は喜んでその自覚を抱きます。喜んでそれをしないだけで、それは私には深い罪なのです。


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 私が本当に小さい頃、自宅の台所の私の手の届かないずっと上に砂糖の入れ物が置かれていました。子供である私が勝手に砂糖を舐めない様に母がそうしたものと思われます。母にはっきり聞いた訳ではありませんが。現在は別の、もっと低い場所に砂糖が置かれているのですから。それも母の腰が曲がるずっと前から。私の記憶。何かが私の自由にならなかった記憶、そしてその時その瞬間には私にとって嬉しくなかった記憶。それらが今大挙して大人の、しかも老年の入り口に立った私の目の前に押し寄せます。そして口々に言うのです。

「御前は守られたのだ。あたたかな、優しい二親(ふたおや)の家で、守られたのだ」

 そうです。衣食住のみならず、私は大人になった今も、()んな年齢になった今でも、心の支えを貰っているのですから。この想い出あるだけで、それが全然無い場合に比べて、()れ程自分の一生の足跡を自ら信じられるでしょう。私はずっと生きてきたのだ、私の命は昔から繋がっているのだ、私は今も昔のままの私だと、心から思う事が出来るでしょう。その幸いは計り知れません。

 私は自分の一生を『完成』させねばなりません。それは何らかの意味で高い程度優れた水準に保たなければならないという意味ではありません。ただ貫く事、それだけです。自分らしく在る事を貫く事だけです。それが過去からずっと一人の同じ人間を生きている私の完成なのだと思っています。


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 人の理解を得なければそれ以上先に進む事が出来ない道。ありますね。そういう商売もちゃんと、しかも多く世の中にはあります。世の多くの人間の理解共感を得、支持賛意を得、そしてそれを『売上』に繋げるのです。そういう世の営みは多いでしょう。でも私はあなたがそういう道に進まぬ事を願っています。却って誰の理解同心も必要とはしない道を行ってほしいと、そう願っています。

 人に分かってもらわなければ先に進めない道を行く者は、そのうちに必ずその事が自分の生きる事の指針の全部になる筈です。そこには最早貫くものは無い筈です。如何に『合わせるか』、これが全部になるのです。そうしないと先に進めないのですから。それは人間が生きる相から既に離れて仕舞っている様に思えてなりません。寧ろ他人に理解されようがされまいが、そんな事とは関係の無い次元で成立しているものを奉じ目当てにして生きる事の方を勧めます。これなら、そうやって生きる者が私には人間に見えるからです。

 ブログは毎日更新しています。

https://gaho.hatenadiary.com/

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