新米冒険者の悲劇 〜熟練冒険者と一緒に冒険していたら、実は新米冒険者と判明し絶望〜
俺はシュウ・ジンコウ。
今日冒険者になったばかりの新米だ。
そして今、初めての依頼をこなすため、ごっつ迷うねん森林に来ている。
依頼内容は薬草の採取。冒険者最初の依頼といえばこれだ!
――ただ、初めての冒険に初めての場所、一人では心細い……。
そこで、熟練冒険者のウソツキ・マックールさんが仮パーティとしてサポートしてくれることに。
彼女が言うには、この森林のすべてを知り尽くし、目をつぶっても自由自在に動き回れるそう。
兎にも角にも頼りがいがある人なのは間違いない!
なので、当初は冒険者としての極意、いろはを学ぶはず……だったのだが……
「――いや、普通に私も新米だよ。ごっつ迷うねん森林にも来たことない」
「……は?」
突然の告白に怒りが込み上げるには、そう時間はかからなかった。
冒険者とは命がけ、薬草の採取一つとっても危険で重要な仕事。
この森林にも魔物は少なからず存在する。薬草の採取中に背後から襲われて死んでしまうかもしれない。
新米の俺でもわかること、なのに……。
おかしいと思ったんだ……。熟練冒険者にしては若いし、肌もやけにピチピチだし……。
「一人が心細かったから……ごめんなさい。――あと、帰り道ってどっちだっけ?」
そう言い、なんとも思ってなさそうな軽薄な顔を浮かべたところで、怒りの沸点は頂点に達した。
俺だって、ここに来るまでに言ってくれれば笑って見過ごす。
でも、もう奥深くズブズブに進んできちゃってんだよ! やけに薬草見つけてくれないなと思ったよ!
「知るかよ。お前が案内してきたんだから、野垂れ死ね」
「口悪くなってない……まあ、いいか。――ふふ、なーんてね。冗談冗談、帰り道だけはちゃーんと覚えてますよ!」
「な、なんだ脅かさないくれ……」
本当に良かった……。
もし、帰り道も知らなかったら、俺はこいつをぶん殴っていたかもしれな――
「――ま、これも嘘なんですけど」
「死ね」
もう予想通り過ぎて逆に腹立たなくなってきた。
このハプニングも冒険だと割り切ることにする。そうしないと、正直やってられない。
「和ませようとしたんですけど……とりあえず、適当に戻りますか?」
この女……
今、死ねって言われたばかりだぞ。
我関せずの態度をよくとれるな。
「いや、無闇矢鱈に戻ってもさらに迷うだけだ。しかも、日も落ちてきた。今日は野営して体力回復を図ろう。また明日……って言いたいけど、そう簡単に安全な場所なんて見つから――」
「ありましたよ」
「また嘘――って、え?」
目の前に大きな家がぽつん建っていた。
やけにハイカラなデザインに変な形の屋根。
玄関付近に看板があり、こう書かれている<<めっさ安全!>><<聖・結界発動中!!>>。
他にも壁に貼り紙が貼ってあり、<<新米冒険者、困ったら……使いな>>など、とにかく安全らしい。
怪しい。罠だろ。ここに家とかありえない。
「デザイナーズハウスですかねぇ? 貼り紙にも困ったら……使いなと書かれてますし、ありがたく使わせてもらいましょう。ほんと、運が良い!」
「ちょっと待っ――」
手を引き、強引に家の中に引きずり込まれる。
しかし、特に何も起きなかった。体にも以上は感じられないし、いたって普通の家だ。
「中は思っていたよりきれいですね! 快適な野営ができそうです!」
「快適な野営……そうそう聞かないぞ、そんなパワーワード……」
野営と言ったら携帯食片手に見張りを代わり代わりする……苦行じゃないのか!?
「あれ? 窓の向こう側にいるのは……魔物だ! 待ってました~!!」
魔物が近づいてくる。これだよこれ! 冒険はこうでなきゃ!
やっぱり、見張りは必要だ――
「あ、見てください! 魔物が放送禁止レベルでグロい溶け方してます!」
「そ、そうだった……聖・結界発動してたんだった……。俺の冒険、変な方向にシフトチェンジしちゃった……。こんな冒険望んでないのに! 血に汗握る冒険がしたかった! もうムリ……」
すると、肩にポンッ……と手を置いてきた元凶。
サムズアップしながら甲斐甲斐しく――
「どんまい!」
「君、よく火に油を注ぐの上手って言われない?」
「大・正・解!!!」
はぁ、こんなうつけ者と出会ったのが間違いだったんだ。
冒険者ギルドに戻ってからは関わらないでおこう。
――そのために生きて帰る方法を見つけないと!
「地図か何か役立ちそうな物を探す?」
「ああ、ここは迷った初心者用の家。つまり、帰れるようにするための地図か何かあるんじゃないかと……」
「なるほど……じゃあこの引き出しに入ってた紙がそうなのでしょうか?」
早速見つけたのか!
どれどれ……っ!?
その紙には殺す、血の雨降らす、末代まで呪う、マジぴえんなどの憎しみの言葉が血文字で書き記されていた……。
「絶対地図じゃないだろ! どこをどう見たら、そう見えるんだ!」
「……微レ存?」
「ありえないだろ!」
その後、俺達は家までの道が光って見える魔法のメガネを見つけ、眠りについた。
ん? 体が動かない!?
……ふっ、なんてね。大体こういうのは誰かが上に乗っているって相場は決まっている。
大方彼女だろうと目を開けると……予想通り――
「って誰ぇぇぇ!?」
目の前に血の涙を流し、鬼の形相を浮かべている女性が静かにこちらを見ていた。
そして、見つめ合うこと十分。ようやく口を開け話しだした。
「……あれ? ぶっちゃけアタシ見えちゃってる系?」
「はい……」
本物の幽霊?
な、なんでこんな場所に?
「アンタ。アタシの血で書いた呪いの紙見たでしょ」
……って、そういえば!?
そのあと見つけた魔法のメガネが高性能過ぎてスッカリ忘れてた!
「はい……っ」
「ちょうどいいや。アタシの復讐手伝って」
「はい……?」
復讐? ……ますます冒険者から離れていってる。
これは断らないとまともな冒険者生活を送れなくなってしまう……。
「――断ったら……そこで寝ているがきんちょに取り憑いて、背負い投げでアンタの背中を階段の角の方でポッキリ折る」
妙に具体的でたいへん怖い……。
昔やったことあるのかな?
「ちな、実証済みです」
実証済みでした……。
「あの……聞きづらい事なんですが、復讐って一体何をされたんですか?」
「……あれは、遠い昔の――――めんどくさいから、ある男に殺されて全資産持ち逃げされたって事だけ覚えておいて」
自分の復讐動機をめんどくさがんなよ……。
すると、この騒ぎに彼女も起き上がり、黄色い悲鳴をあげた。
「うんうん、わかります~~!」
「マジメッチャ話盛り上がるんですけど~!」
クッソ仲良くなりだした……。
二人とも変人同士気が合い、気づけば話に花を咲かせていた。
「あの~、そろそろ行かないと……もう一泊するはめになるので……」
……気まずい! 想像以上にキツイ!
まぁ、これも冒険者ギルドに帰るまで。
あの調子だと幽霊もあっちついて行くだろう。
むしろ喜ぶべき事なのでは?
これで厄介事から全て解放される……。
俺は自由だ!
そうこうしているうちに冒険者ギルドに到着!
よし! ここで別れを告げるぞ!!
「紆余曲折あったが二人とも無事に帰ってきたわけだし、ここらでさようなら――」
背を向き立ち去ろうとすると、服の裾を引っ張り引き止められた。
「?」
「――パーティーを組んだら一年以上解散できない。冒険者ギルドの掟です……」
「……また嘘……だよな」
「…………」
「嘘……じゃねえのかよ」