まさかのメイド!?
「ここよ」
「おおう......立派なお屋敷で......」
金髪の少女に連れられてきたのは、荘厳な雰囲気を放つ立派な屋敷であった。庭も広々としており、きちんと手入れがされている。
「服装から貴族の方だと思っていましたけど、まさかこれほどとは......」
「何?私のこと知らなかったの?どんな田舎から来たのよ......」
そういえば、あの演説してた青年が公爵家とか言ってたっけ。失礼のないよう気を付けてたけどよかった~。
「まぁいいわ。私の名は、カレン・サンライト。カロン王国に仕えるサンライト公爵家の当主よ!」
「やっぱり公爵家の人......って当主!?もしかして大人の方でしたか......?」
いや、まさか成人しててさらに当主だとは思わないじゃん。キリっとした顔つきをしてるけど童顔だし、言動的にも幼さが残ってるし。
「いや、私はまだ17歳よ」
「そうなんですか......ん?17歳?私と同い年?」
「あら、そうだったのね。偶然もあるものだわ」
「いや、17歳ってまだ学校に通ってる歳じゃ......それに当主って......」
「......まぁ色々あったのよ」
そう言った少女の顔に陰りがあったのを私は見逃さなかった。これはあまり深入りしない方がよさげな案件かな。私の人生経験的に。
「それで私が名乗ったんだから次はあなたの名前を教えてほしいわ」
「そういえば名前言ってませんでしたね。私は安里茉央です。」
「マオ......ね。なんだか珍しい名前ね」
「あはは......よく言われます......」
そうか、この西洋風の世界だと日本の名前は聞きなじみがないのか。この感じだとファンタジーものであるあるな、日本に似た国とかもなさそうだな~。ちょっと期待してたのに残念。
「とりあえず中に入りましょう。仕事についての話をしたいしね」
「じゃあ......お邪魔しまーす」
カレンさんに案内されながら屋敷を歩く。中も綺麗なもので所々に高そうな装飾がされているが、主張しすぎておらずいいアクセントになっている。すると目的の場所に着いたのか、カレンさんが一つの扉の前で立ち止まり、その扉を開けた。
「リリーいるかしら? 話したいことがあるのだけれど?」
「......どうかなさいましたかお嬢様? それとそちらの方は......?」
中にいたのは、鉄仮面と呼ぶにふさわしいほどの無表情をしたメイド服の白髪の女性が料理をしていた。カレンさんが声をかけたとき、包丁を置きこちらに駆け寄ってきた。
「今日からこの子をうちで雇うことにしたから、メイド業務について教えてあげて。一応家事はある程度できるらしいわ」
えっ 私メイドになんの!?
「この方をですか......分かりました。今日のところはこの屋敷の案内とメイド業務の一日の流れの説明 ということでよろしいでしょうか?」
「えぇ それでいいわ。じゃあ私は執務をしているわね」
「承りました」
要件だけ言い終わるとカレンさんはキッチンを後にし、中には私とリリーと呼ばれた女性だけとなった。正直に言うと、話している時も眉毛を一ミリも動かさなかったこの人と二人きりは怖いからカレンさんには居といて欲しかった。
「さて、まずは屋敷の案内についてなのですが......その前に私の自己紹介とあなたの名前を教えてもらいたいです」
「あっはい。私は安里茉央って言います。今日からここで働くことになるので、よろしくお願いします」
「マオさんですか......覚えました。私の自己紹介がまだでしたね。私は、リリー・タールと申します。
このサンライト公爵家のメイド長をしております」
「メイド長ということは私の上司ってことですね。他のメイドの方々は......?」
実はこの屋敷に入ってから嫌な予感がしていた。誰一人ともメイドや執事と会わないのだ。私の嫌な
予感が当たらないことを切に願っておこう。
「おや、有名な話ですので知っていると思っていたのですが......この屋敷の従業員は私だけでした。マオさんが入ってきてくれたおかげでいまは二人ですが」
「」
はい嫌な予感的中しちゃったよ~~~~~~~~~~!!!?
マジで!?この大きい屋敷の掃除とかどうしてんの!?この仕事思ったよりヤバいかもしれない......。
主に体力的な面で。
「え~と......私がいてなかった時はどのくらいの仕事をしていたんですか?まさかこの大きな屋敷すべての掃除ですとか......あの整えられていた庭園ですとか......」
「? すべて一日で終わらせますが?」
「......毎日徹夜でやってるんですか?」
「いえ......毎日7時間の睡眠をとっていますが?」
「えっ」
うっそでしょ......あの量を一日で終わらせて七時間睡眠とか、どこの超人ですか......。元の世界のバイト仲間に欲しかった......。
「それと、お嬢様の前でも堅苦しい口調でなくて結構ですよ。そういうの苦手な人なので。もちろん、
お客様がいる場合は別ですが」
「そ、そうなんですね」
いけない情報量が多くてパンクしそうになっていた......。これから働くんだし、気持ちを切り替えなくては。
「それでは、屋敷の案内をしますのでついてきてください」
「はい!」
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日もすっかり落ちてしまったころ、私は与えられた自室のベットの上に寝転がっている。案内と説明だけといっても覚えることが多くかなり疲れた。それにわけもわからずいきなり異世界転移したことに関しても、精神的な疲労がたまる要因になっていたようだ。
「はぁ~これからどうしよ......」
仮の目標であった生活できる基盤が整ったことで、次の目標について考えていた。
「元の世界に帰る?いや、それはないかな」
正直に言って、元の世界の私の生活はよかったとは言えなかった。
家では私に無関心な養父母。まぁ住むところを提供してくれたのは感謝してる。
高校卒業したら家を出ろと言われ、お金を貯めるためにバイト三昧な日々。そのせいで授業が終わったらすぐにバイト先に行っていたから、学校では友達が一人も出来なかった。いじめられることはなかったけど、遠巻きにはされてはいた。
そういうことで、元の世界に未練も何もないわけで帰る気分になれなかった。
「これってチャンスなのかな? 一からやり直す......」
決めた。元の世界で幸せになれなかった分この世界で幸せになってやる!友達を作って遊んだり、自分で稼いだお金で趣味を満喫したり、そんな当たり前の幸せを手に入れる。これが私の次の目標だ。
「目標も決まったことだし、明日は早いから今日はもう寝よう」
明日からは本格的にメイド業務が始まる。体力的にキツイ仕事だから、今日の疲れはとっておきたい。
ベットに潜り目をつむる。
「今日は疲れたな......これならすぐに............ねむ..................れ........................」
そうして私は気絶するように夢の世界に旅立ってしまった。
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月明かりが入る屋敷の執務室。部屋としてはこの屋敷の中でも大きいサイズだが、壁一面に並べられた本棚や高価な装飾がなされた大きな木製のデスクによって、あまり広くは感じない。
そんな部屋に、積み重なった大量の書類が置かれたデスクに向かい合うように椅子に座っているカレンとその傍に無表情のまま立っているリリーがいた。書類仕事がひと段落したころ、リリーが口を開く。
「お疲れ様ですお嬢様」
「リリーもお疲れ様。悪いわね私から呼び出したのに待ってもらって」
「いえ、お気になさらず」
座り続けて凝ってしまった体をほぐすため、伸びをしつつ他愛のない会話をつなぐ。
「それでご用件とは?」
「そうね......今日来たマオについてなんだけど......何か変なことはなかった?」
「マオさんですか......初日なのでまだなんとも言えませんが、特別変わったことは感じませんでした」
「そう」
リリーの答えを聞き、煮え切らない感情となる。正直に言ってマオには怪しい部分が多々ある。それでも雇うことにしたのは理由があるのだが......。
「私からも一つお聞きしても?」
「! えぇいいわよ」
思考の迷路にはまりかけていた時に、リリーに声をかけられ現実に引き戻される。
「なぜ、マオさんを雇うことにしたのですか? あれほど従業員を雇うことを拒んでいましたのに......」
「............マオに初めて会った時にかすかにある魔力を感じたのよ。今はもう霧散してしまったけれど」
「その魔力とは?」
「魔女の魔力よ」
「!」
魔女という言葉を聞きリリーは驚く。それもそのはず、この国にとって魔女はそれだけ大きな意味を持っているのだ。もっとも悪い意味でだが。
「......つまり彼女自身が魔女......いえ魔力が霧散したということは彼女本来の魔力ではないということ、ということは......」
「えぇ、マオは恐らく【魔女の残り火】と接触したんだと思うわ」
【魔女の残り火】約千年前に生まれた最古の魔女によって世界にばら撒かれたもの。その影響は現在にまで続いている。その事実から最悪の魔女とも呼ばれるようになった。
「【魔女の残り火】ですか......私も一度しか見たことはありませんが、禍々しい魔力でしたね......。それが王都のどこかにあると?」
「その可能性はあるわね」
もし王都の中に【魔女の残り火】があるならば大問題になる。死人が出る前にいち早く回収しないといけない。
「あなたにマオを押し付けた後、すぐに王国騎士団とエル教の聖騎士たちに連絡して、私とマオが出会った近辺を捜索してもらったわ」
「見つかったのですか?」
「............いいえ。それどころかそれらしい魔力すら感知することができなかったそうよ」
「それは......」
リリーが苦い雰囲気を出す。この子って昔から無表情なんだけど纏っている雰囲気で感情が分かるのよね~。いいことがあった時とかは明らかに花が飛んでいるような雰囲気を出すし。でもリリーがそんな雰囲気を出すのも分かる。なぜならありえないことなのだ。
普通【魔女の残り火】は何もしなければただの結晶なのだが、一度魔力を放出し始めると空気中にある魔力を吸いながら永久的に魔女の魔力を放出し続ける。マオに魔女の魔力が付着していたことから【魔女の残り火】は、魔力を放出していると考えられる。しかし、王都にそれらしい魔力の痕跡は見当たらなかった。
というか、もし【魔女の残り火】が魔力を放出していたのならば、あの王国騎士団最強サマが感知できないわけがない。彼の魔力感知能力は王都の全体を感知できるレベルだし。
「つまり残りの可能性としては......」
「......マオが【魔女の残り火】をなにかしらの方法で魔力の放出を抑えつつ持っている可能性ね」
「ありえますかね? マオさんが魔法を行使しているようには見えませんし、魔道具で【魔女の残り火】を抑えようとすると溢れ出る魔力に魔道具のほうが耐え切れませんし......」
基本、魔法を使っていると感知能力が高い人には、相手の体を巡る魔力によって魔法を使っているか分かってしまう。もちろん、茉央は魔法の使い方や魔力についても知らないのでカレンとリリーにも感知できない。
「そうなのよね......ありえないことが起こっているから困っているわけなのだけど......それにわざわざ魔女の魔力を付着させて私に近づいてくる考えも読めないわ。怪しんでくれと言っているようなものだわ」
「......なるほど、お嬢様の考えが読めました。マオさんを監視するためにメイドとして雇ったのですね」
そう、マオが【魔女の残り火】を持っている可能性がある以上監視の目は必要となる。だから、メイドとして私の手元に置いたのだけれども......
「しかし、それだけの理由で雇ったのですか? 監視するなら王国騎士団の方々に任せてよかったはずです。わざわざお嬢様が監視する必要などないのでは?」
「......なにか惹かれたのかもね。彼女のなかにある優しさに」
あの演説してた青年を捕まえるのに協力してくれたのは、なにかしらの目的か打算があったのでしょう。けれど別に協力してくれなくても捕まるのは時間の問題だったであろう。それでも私に協力してくれたのは......
「お嬢様......」
考えに耽っていた私に、リリーの悲しげな声が響く。まだ話の最中だったわね
「とりあえずリリーにはマオの行動を観察しておいて。もし不審な行動なんかを見かけたら逐一私に報告して頂戴」
「承りました」
そう言いリリーは部屋を退出した。
もしマオについてのことが全部勘違いで普通の少女だったら......そんなことを考えながら私は再び書類に目を通し始めた。
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これは夢だ。
いつの間にか知らない部屋で、寝てる時は体操服を着ていたというのにメイド服を着て立っているのはどう考えてもおかしいが、なにより漠然とした”これは夢である”という奇妙な感覚が湧いてくる。部屋の中は西洋風に言えばアンティーク調っていうのかな。あんまり見たことがないけど。
そして私の前には部屋で唯一の扉がある。
「あきらかにここから出てねって意図が見えるんだけど、どうするべきかな~......怪しいけど」
ここで夢から覚めるまでずっと待つ? 別に悪くはないけど、どうせ夢なんだから扉を開けても大丈夫かなとも思う。夢から覚めるまでずっと暇だし。
「............開けるか」
結局私は開けることにした。この不可思議な夢が魔法によるものだとしたら、一生夢の中ということもありえる。待っているだけでは時間を浪費するだけかもしれない。
「扉を開けたら目の前に黒い影とかやめてよね......割とトラウマなんだから......」
そう言いながら扉を開ける。扉の先はまたもや部屋であるが先の部屋とは少し違う。アンティーク調なのは変わっていないが、部屋の広さは断然こちらの方が大きく、暖炉やソファや机と明らかに生活感を感じる部屋だった。
だが、茉央の目を引いたのはそこではなかった。赤黒いワンピース風な服を着た、可愛い系とも美人系ともいえるような顔つきの金髪の女性がソファに座っていたからだ。茉央にはこの女性に見覚えはない。なぜ自分の夢に知らない女性が出てくるのか、その事実に困惑していた。すると茉央を見た女性が口を開き始めた。
「ふふふ、初めましてではないんだけれど......分からないだろうから初めましてね。あなたとずっと会いたかった............”マオ”」
そんな意味深な言葉と満面の笑みを浮かべながら..................
茉央の今持っている服は学校の制服と体操着だけなので必然的に寝る時は体操服になります。
後【魔女の残り火】についてはもっと具体的に説明する機会があります。




