各地区の様子
~西区~
「これ以上王都での愚行を許すな!怪我をした者は後退して他の者は抜けた穴を埋めろ。戦線の崩壊だけは防げ!数もこっちが上だ!逃がさないよう包囲網を形成しろ!」
西区某所にて、突如出現した革命軍の暴徒の鎮圧に、ライハは団長の代わりに王国騎士団の指揮を執っていた。状況は断然騎士の方が優勢であるが、暴徒たちは近くの建物に籠城したりと面倒なことをしていた。そんな中ライハは今回の襲撃に違和感を感じていた。
(暴徒のほとんどは訓練もされてない素人ばっかだが……、何人か強いやつが混じってるな。そいつらは革命軍の正規兵だと思うが、なんというか攻めっ気がないな?こっちを倒すというより戦闘を長引かせたいように感じる……)
そう、未だに暴動が鎮圧されていないのはこれが理由でもあった。革命軍の正規兵と思われる暴徒は戦況を引っ掻き回すように動いている。ただでさえ人が入り乱れているこの戦場では、状況が混乱しやすいというのに奴らの行動は厄介そのものだった。
「だけど、このままいけば鎮圧も時間の問題だろ。王城にはルートさんがいるし、万が一もないだろ。フフフ、ルートさん褒めてくれるかなぁ」
~東区~
学園などの教育機関がいくつも立ち並び、エル教の本教会もある東区。ここも他の区と同様、暴動が起きていた。エル教教皇であるハスト・ゴールドは避難してきた学生などの誘導を行っていた。
「避難民の方々はエル教の教会へと避難を!安心してくださいまだまだ人の余裕がありますので!落ち着いて行動してください!」
エル教の教徒たちと一緒に誘導していると、避難民の後ろから何かが向かってくる。ハストはこの場にいる誰よりもいち早くそれに気づいた。
「すみません。ここは任せてもよいですか?少々やらなければいけないことがありますので」
「え、ハスト教皇!?」
近くにいた修道士に誘導を任し、何かが来ているほうへと向かう。
「あぁ? こいつ教皇じゃね?」
「マジかよ!こいつ倒せば報酬上がんじゃね!?」
迫って来ていたのは暴徒の一部であった。武装している暴徒たちはハストを見つめてニヤニヤしている。その顔は相手は一人、負けるはずがないという顔だった。
「へへっ、悪いが死んでくれよ。人助けだと思ってよぉ!」
数は二十人ほどだろうか。剣を構えたり角棒を振り回しながら一瞬のうちにハストを取り囲む。
「…………一つお聞きしますが、なぜこのようなことを?」
「あ?金だよ金。カジノで負け続きでな、小遣い稼ぎだよ」
ハストの質問になんの悪びれもなくそう言い放つ暴徒。ハストはその反応から嘘はないと判断した。
「そうですか…………なら仕方ありませんね」
右目につけていたモノクルを外したハストはいつもの穏やかな笑みを消す。雰囲気が変わったことに取り囲んでいた暴徒たちはぞくっとした悪寒が全身を駆け巡る。その原因が目の前の人物であることは分かっているのに恐怖が止まらない。もしかしたら自分たちは手を出してはいけないものに手を出したのではないかと……
ハストは指をポキポキと鳴らしながら暴徒たちに話しかける。
「説教だけでは済ませませんよ…………クソガキども」
暴徒二十三人とハスト・ゴールド一人の戦闘は三十秒もかからなかったという。
~北区~
「はぁぁ……なんでこんなことになってんねん」
「いいから働け」
「ヘイ」
商業地区が立ち並ぶエリアにてウェンとルトは暴徒たちと戦っていた。ルト・フラワーは支援班ということもありウェンが気絶させ、ルトが捕縛するというほぼウェンのワンマンで成り立っている。それでも二人に傷一つないのはエル教聖騎士統括であるウェンの実力を物語っているだろう。
ちなみに北区に二人が居た理由はウェンがカジノでギャンブルしていたところを、ルトがひっ捕らえに来たからだったりする。
そんな二人の前に背中に大剣を背負った一人の大男が立ちふさがる。
「異様に強いやつらがいると聞いてきたが、まさか”剣聖”ウェン・トーテムとはな」
「強いやつらかどうかは知らんけど……誰?」
「名前は知らなくていい、どうせお前らはここで死ぬしな」
「うわっめっちゃ小物臭い発言してるであのおっさん」
「図体は大きいくせにねー」
エル教の二人が煽るような発言をするが、それを聞いても大男の方は涼しい顔だ。
大男は背中に背負った大剣を鞘から引き抜き、二人に見せびらかすように構える。その剣の刀身は赤黒く染まっており、一目でただの剣ではないと分かる。
「見ろ!これが”魔剣”ブラッドレイだ!!」
「”魔剣”ねぇ……」
”魔剣”……それは剣の魔道具の総称であり、戦闘用魔道具の一種である。マオの魔導銃も戦闘用魔道具にあたる。だが、”魔剣”は他の戦闘用魔道具とは別格のような扱いを受けている。理由としては名だたる武人たちが魔剣を使っていたからにほかならず、武人として名を遺すならば魔剣を持っていないと話にならない風潮が今も残っている。
だが、魔剣を見た二人は興味がない反応だった。ビビるとも恐れおののくとも違う、だから何?という態度に大男は青筋を立てた。
「ま、どうでもええか。斬るだけやし」
「言っとくけどウェンに使う魔力はないからねー。怪我してもしーらない」
「いらんわ」
軽口をたたくルトとウェン。ルトは少し下がり、ウェンは身につけていたマントを脱ぎ、腰に携えた剣を引き抜く。その剣は武器屋に行けば、普通に売ってあるただの剣。魔剣でもなければ名のある刀匠が打った剣でもないどこにでもある無銘の剣であった。
その剣を見て大男は嘲笑する。
「ハッ!その程度の剣しか持ってないとはな…………”剣聖”も落ちたもんだ」
「御託はええからはよこいや」
「なら魔剣の力を存分に味わえ!」
そう言うと大男は一直線にウェンへと向かってくる。魔剣の刀身からは淡い光を放ち始め、ウェンへと振り下ろされる。迫りくる刀身にウェンは表情をピクリとも動かさず、剣を構えたままだった。大男はウェンが自分の剣に反応できていないと思い、斬ったと確信する。
「あんさん、ええこと教えといたるわ」
「あ゛ぁん?」
ウェンは構えから一気に剣を振ると、大男の魔剣とウェンの剣が火花を散らしてぶつかり合う…………かに思えた。魔剣と剣がぶつかり合ったと思うと、大男の魔剣は刀身の半分くらいから折られ、折れた部分は宙へと舞った。
「は……?」
「”剣聖振るう剣を選ばず”…………剣を極めたもんほど魔剣とかに頼ったりせんのや」
「いやウェンはカジノで負けすぎて魔剣を買う金がないだけでしょ」
「カッコつけてる途中なんやけど???」
ウェンがルートを差し置いてこの国で剣聖と呼ばれる理由はシンプルなものだった。ただウェンの方が剣の腕前が上だというだけ…………それも己の技量だけで魔剣をへし折れるくらいに。
大男は折られた魔剣を見てありえないという顔をしている。魔剣がただの剣に折られるはずがないと、現実逃避をしていた。そんな大男の首に剣が付きつけられる。
「さてあんさん一回気絶しよか?」
そう言い終えるとウェンは剣の腹を男のうなじに叩きつけ、意識を刈り取った。
~南区~
「”メイド流格闘術”……【流麗投げ】」
「へぶっ!?」
南区の貴族の家が立ち並ぶ住宅街の一角でリリーとナトは暴徒たちと戦っていた。襲い掛かってきた相手をリリーは投げ飛ばして気絶させると、手をパンパンとさせた。リリーの背後には倒れている暴徒の山ができており、皆一様に白目をむいて気絶していた。
「さてあちらの方は…………」
暴徒の数が少し落ち着いたタイミングでリリーは、少し離れた場所で戦っているナトの方へと目を向ける。
「せぇぇぇぇぇいっ!!」
そこには両腕と両足を”悪鬼”の状態へとさせたナトが縦横無尽に駆け回り、暴徒を時に殴り、時に壁に叩きつけ、時に轢いたりと獅子奮迅の活躍をしている姿があった。
「…………心配いりませんでしたね」
そう呟くリリーの雰囲気は少し悲しそうだ。リリーはナトが少しピンチに陥ったときに、颯爽と助けて出来る先輩アピールをしようと画策していたのだが、思ったよりナトちゃんが強くて自分の出る幕がないことに気づいた。
「あれが【魔物化】ですか…………マオさんの言う通り凄まじいですね」
リリーが感嘆の声を漏らしている間に、ナトの方は最後の一人の頭をかち割るように殴り、気絶させた。
「安心してください…………みねうちです!」
「思いっきり頭を打ってませんでしたか?」
「…………頭打ちです!」
「それだと別の意味になります」
全員を気絶させた二人はコントのような会話をしていると、リリーの後ろから隠れていた暴徒が現れ、ハンマーのようなものを振りかぶる。
「もらった!」
「わけないじゃないですか」
リリーはまるで後ろに目があるかのように迫る暴徒の首をノールックで掴むと……
「”メイド流格闘術”……【芽吹き】!」
「おぶっ!?」
頭の方から地面へと叩きつけた。気絶した暴徒は他の暴徒同様、山の一角となった。
「すごいです!リリーさん!どうやったんですかソレ!」
一連の流れを見ていたナトは目をキラキラさせてリリーに話しかける。その様子を見たリリーは心の中でさっきの暴徒に感謝しつつ、嬉しそうな雰囲気を纏っている。
「ふふ、ナトさんにもあとで教えてあげましょう…………ですが今は暴徒たちを鎮圧させることが先です。ここは終わったので、次の区画へといきましょう」
「はい!」
魔剣”ブラッドレイ”
それは昔に竜をも屠ったとされる伝説の魔剣…………
というわけではなく普通にバートが遊び半分で作った魔剣である。
持ち主の魔力を吸うことで絶大な威力を発揮するが、持ち主の魔力を吸いつくすと今度は生命力を魔力に変換して吸うので戦闘が長引くと死ぬ。それでも魔剣は魔剣。普通の剣に折られるようにはできていない…………はず。
ちなみに大男は魔剣のデメリットを知らなかった。




