受け入れられる場所と迫る暗雲
「――異世界?」
どういうことか分からないっていう目で見てくるけど、私は話し続ける。
「うん、私はカレンと会った日にこの世界に転移して来たの。私が元居た世界はね、魔法なんてなくて代わりに科学というものが発展してた」
「科学?」
「そう、魔道具みたいに便利な道具を作ってね空を飛んだり、陸を馬よりも楽に早く走ったりしたの」
「にわかには信じがたいですね……」
「でもナトはその世界気になります!」
まぁこんな反応になるのも予想内だ。私だって元居た世界で魔法が使えるとか異世界から来たとか言われたら、何言ってんの?となるか可哀想なものを見る目になると思う。そう考えればカレン達の反応は優しいものだと思う。ナトちゃんとか私の話に興味津々だし。
「正直に言うと私が居た国はカロン王国より発展してた。都市と都市を結ぶ道は整備されてたし、飢える人も少ない。子供は毎日のように学校に行って勉強をうけてた。それは田舎の子たちも。平和が何十年も続いて戦争なんて知らない人たちが溢れていた国だった」
「それは……すごいわね……」
今まで鬱蒼とした顔ばっかしていたカレンがここに来て驚いたような顔を示した。その顔はそんな夢物語のような世界があるのかという顔だ。
「ほんとに便利で、色んな楽しいことに溢れていた世界だと思う。…………だからあいつが……舞踊真が戻りたくなる気持ちも分かるんだよね」
「…………マオは帰りたくないのかしら?」
「これっぽちも。カレンには悪いけど親について嘘ついてた。ほんとは実の親は幼いころに死んで、引き取られたところでは厄介者扱い。友達も居なかったし、毎日息が詰まるような生活だった」
聞いてるカレンは私の発言になんて返したらいいか分かんないような顔をしている。リリーさんはいつものように無表情だけど纏う雰囲気は暗い感じ。ナトちゃんはあまりピンときていない顔をしていた。まぁナトちゃんはいいお母さんに育てられたから私の境遇が分かりずらいのかもしれない。
最初は辛かったけどね。なんで自分ばっかこんな目にって思ったことは何回もあった。でも嘆いてたって変わらないから行動するしかない。必死にお金貯めて自立した後、好き放題するつもりだったんだけど。まぁそのお金は異世界に持ってこれなかったんだけど!
「だから今のカレンたちといる生活が幸せだって言えるんだけど。私がこの秘密を明かせなかったのもそれが理由。この関係が壊れることが……怖かった。異世界人ってバレて変な目で見られて、捨てられるかもって……」
他の人から変な目で見られることはよかった。でもカレンやリリーさんからあの親みたいな目で見られるのは嫌だった。異世界から来たって言ってもいいと思ったのは舞踊のおかげでもある。あいつは異世界人ということを隠してなかったからね。そのおかげでこの世界が別に異世界人が迫害されてるとかじゃないことが分かった。それでも絶対に許さないけど。
「マオさん……」
「ナトはマオさんのこと友達ですから捨てたりしません!それにナトはまだまだマオさんのこと知りたいです!」
「はぁー…………馬鹿じゃないの? マオがわたしに尽くそうとしてくれた時から私はマオをずっと守るつもりよ。使用人を守るのも当主の務めなんだから」
「えっ…………その……ありがとう」
自分が思ったより大事にされていたことを知って少し顔が赤くなる。なんか悩んでたのが馬鹿らしいくらい。
「とまぁここまでが私と私が元居た世界の話。それで舞踊についてだよね」
「そうね、あいつは何なの? 話的にマオが元居た世界の人間というのは分かるんだけど」
「うーん、そうなんだけどぶっちゃけ私も詳しくは知らないよ。ただ向こうの世界ではダンスで有名な人だったてだけで」
思えばあの身のこなしはブレイクダンスで鍛えられたからな気がする。テレビで見た時はただの好青年って感じだったのにあんなに変わるなんて……それだけ元の世界に未練があるのかも。
私が舞踊に関して大した情報がないと分かると全員して落胆する。
「…………どうしようもないですね」
そう。リリーさんが言うようにどうしようもない。舞踊がどこに逃げたか分からない以上見つけて捕まえることも出来ない。向こうの動きを待つしかない状況なんだけど…………
「…………今回切り込み隊が現れたのは王都で何かしようとしてた可能性はあるわ。陛下も革命軍が変な動きをしてるって言ってたし」
「また現れる可能性はあるよね。その時に絶対に捕まえよう!」
「ナトもお手伝いしますよー!」
全員そんな決意をしている中一人だけ浮かない顔をしている者がいた。
「悪いけどもしあいつが現れても逃げなさい。これは当主としての命令よ」
カレンの言葉に私は冷や水を浴びせられた気分になる。
「なんで? 流石に魔導銃があるから役に立つこともできると思うんだけど? リリーさんやナトちゃんは言わずもがなだし」
「マオなら分かるでしょ。あいつはデュアルは危険すぎる。あなたたちは何があってもこの屋敷で待機よ」
まぁ分かってるよ、舞踊のデュアルは一回でも触れればその時点で勝ちが決まるといっても過言じゃないし。でもさ……
「カレンはそれでもあいつと戦いにいくよね?一人でも。私たちだけ何もしないなんて……」
「話は終わり。仕事に戻りなさい」
そんなことできないと言おうとしたときカレンは強引に話を切り上げて部屋を出て行ってしまった。
その背中を私たちは見ることしかできなかった。特にリリーさんは悲しそうな目で見ていた。
カレンは一体…………何に怯えてるの?
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部屋を出たカレンは屋敷の廊下を歩いていく。曇り空のせいで窓から陽が射さな廊下は昼とは思えない程薄暗かった。
「私はもう…………誰も…………」
そんな呟きは誰にも聞かれることなく消えていった。
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王都から少し外れた場所にある洞穴。中は光源の魔道具が等間隔に並んでいて、本来であれば前が見えない程の暗さを明るく照らしている。洞穴の中でもひときわ大きい空間、そこには椅子やテーブルが備え付けられていて、さながら会議室のようになっている。
そんな場所で座りながら会話する複数の影。
「ハハハ、そんなことがあったんだ」
「笑い事じゃねぇだろ。いや、やらかした俺がいっても説得力ねぇけどよ」
マコトは少し居心地が悪いと感じていた。原因は自分が革命軍であることがバレたからだが、若干仕方ないとも思っている。そもそも修理に出した魔道具を受け取りに行っただけなのに、あの店の奴が感づいたのが悪い。しかも、あとから来客……公爵家の人間が来るとか分かるはずねぇだろと。
大半はそんな理由だが、もう一つの理由として目の前の人物にある。革命軍のトップであり総指揮を執るナイラ…………マコトはこいつのことを胡散臭いやつだと思っていた。いつもニコニコしていて、自由人。そして隠れた異常性…………マコトにとってナイラは自分がこいつに拾われなければ、絶対に関わろうとしない人種であった。
「マコトさんの言う通りですよ。どうしますか?王都で騒ぎを起こす計画は」
傍に控えているオドさんがジト目で見ながら計画を変更するか聞く。この人が緩衝材にならなければ、多分革命軍はバラバラになるんじゃないか?ていうかそもそもなぜこいつがリーダーになることができたんだ?という疑問はつきない。
「うーん、だいじょうぶじゃないかな?マコトが切り込み隊であることはバレたと思うけど、その場合”賢老会”の老人たちは王を守るという名目で自分たちを守らせるために、ルート・ホープを王城に縛り付けるだろうし」
回転する椅子でくるくる回りながらなんでもないように言うナイラ。こういうところが気に食わない。まるですべて自分の予想の範疇ですとかいう態度が。
「王城に潜入するボクたちがちょっとやりずらくなるだけかな。むしろ騒ぎを起こす地上組はルート・ホープが来ない分やりやすくなったんじゃないかな」
「そっちはルート・ホープから逃げる算段あんのか?今日初めて会ったがあいつはやべぇぞ」
頭をがりがりしながら自分を追い詰めた相手のことを思い出す。はっきり言って逃げきれたことは奇跡と言ってよかった。もし逃げの一手ではなく戦っていたら捕まっていたことは明白だった。
「うん?だいじょうぶだよ。賢老会の奴らはルート・ホープが居れば安心と思っているから、恐らく王城の警備はルート・ホープ一人だ。それに王城の警備を薄くさせるためにキミたちに王都で騒ぎを起こさせるんじゃないか」
それはそうなんだけどよ……と口にだそうとしたが、ナイラの目がやらかした分きっちり働けという目をしてたから押し黙ってしまった。クソッ……下手に藪蛇はつつけねぇ……
「計画について少し早めようか。二日後…………王都を襲撃する」
ニコニコした笑顔を崩さず、愉悦の入った声でそう宣言するナイラ。その様子はおもちゃで遊んでいる子どものようにしか見えなかった。
「オドは、他の人たちに計画の変更について知らせてきて」
「かしこまりました」
その返事と共にオドさんが退出し、この空間にナイラと二人きりになる。
「マコトくんも頑張ってね」
「…………チッ」
思ってるかどうかわかんねぇこと言いやがってと思いながら、荒々しく音をたてて椅子から立ち上がる。コイツと二人きりなんて御免だ。その場から足早に立ち去っていく。
二人が出て行った空間に一人取り残されたナイラ。
「ハハハ、楽しくなりそうだね。待っていてよ――――お兄様」
そう呟くナイラの顔はいつものように笑顔だが、その裏にどす黑いものがある邪悪な笑みであった。
いい感じに温まってきたかな?ここまでほんとに長かった……




