真実を話すとき
小さな擦り傷や所々汚れた服…………カレンは自らの劣勢を感じるとともに不甲斐なさも感じていた。対していまだ無傷のマコトはめんどくさそうな顔をしてカレンのことを見ている。もはや多数の人に自分のことを見られた以上、全員殺してもみ消すことは不可能になったからだ。そんな中……
「――あ?」
「――”花火”?」
戦闘の最中とは思えない程、突如空に咲いた綺麗な花火にマコトもカレンも目を奪われていた。しかし、曇天の空に彩られた七色の光はそれほど美しかった。やがて花火が散ると二人は同時に同じことを考えた。いったい誰が? どうして? その答え合わせはすぐに行われた。
「カレン」
「マオ、さっきのはあなたが? アズさんは……」
「――死んだよ。さっきの花火は手向けでもあったから」
「……そう」
小さく呟いたその言葉にはいろんな感情が渦巻いているようにも見えた。でも、それを一切合切飲み込んで、茶髪の青年に向かい合うカレンはすごいなと思った。私は魔女たちがいなければ、この場に立てなかったから。
「話は終わったか? じゃあ逃げさせてもらうぜ。もう大勢のやつに顔見られちまったし……逃げた奴ら全員探して殺すなんて不可能だし……」
「――舞踊真」
「……は? なんで俺の名前を……」
私を見て、意味が分からないみたいな表情をしている。カレンもなんで私があいつの名前を知ってるんだっていう目をしていたが、いま話している余裕はない。
店で顔見た時は、アズさんのことがあって気づかなかったけど、落ち着いて顔を見てみると、目の前のこいつを私は知っていた。舞踊真、元の世界のブレイクダンスの世界選手権で優勝したっていうニュースを見たことがある。私と同い年だったからたまたま覚えてただけなんだけど。行方不明とかの話は聞かなかったけど、まさか異世界に来てたとは思わなかった。
「お前が有名人だから私が一方的に知ってるだけ。それでお前はなんで元の世界に帰る方法を探してるの?」
(あれ……この魔力は……)
とりあえず時間を稼ぐため話をする。こいつは私が日本人だと気づいた瞬間、元の世界に帰る方法について聞いてきた。元の世界に戻りたがっているのは間違いないでしょ。
「お前何言ってんだ? こんなクソみたいな世界から元の世界に戻りたがるのが普通じゃねぇか! この世界よりも遥かに便利で、親も親友もいる元の世界に!」
私を信じられないようなものを見る目で見てきながら、そうまくし立てるマコトの言葉には若干の苛立ちが含まれていた。多分、普通の人だったらマコトと同じようなことを思うんだろうな。元の世界に未練がない私の方がおかしいだけ。でも、だからって…………
「……じゃあこの世界の人のことなんて殺してもいいわけ?」
「っ!?……それは……仕方ねぇだろ…………仕方なかったんだよっ!!」
とうとう怒声にまでランクアップしたマコトの声が辺りを一瞬静寂にさせる。もはやマコトにとってマオはようやく会えた同郷の人間から、自らを不快にさせる存在へとなり下がっていた。
「もういい……お前だけ殺して、逃げる!」
そう言いながら、私の方へと向かってくるマコト。対して私はその場から動かない。反応できていないと思っているマコトはそのまま私の首目掛けて、手を伸ばす。
まぁ、時間稼ぎはもういいしね。
マオに向けられたマコトの手が急に氷に覆われる。マコトは何が起きたか分かっていない様子で辺りを見渡すと、自分の手を凍らせた犯人を見つけた。
「――…………遅れた」
「――この騒ぎ……あんさんの仕業?」
そこに居たのは王国騎士団団長とエル教聖騎士統括のカロン王国最強の騎士二人だった。
「っ!? マジか……」
その二人を視認するとマコトは急いでこの場から離れようとしたが、すでに遅かった。突如空に舞いだした物体…………”雪”。今の季節は春、雪なんて降るはずがないと認識するより先に自らの体の異変に気付く。なんと雪が触れた部分が凍っていていたのだ。マコトの顔が青くなる、その原因が今降っている雪にあることは明白だった。すぐさま岩で傘みたいに雪を触れないようにするため魔法を使おうとしたその瞬間…………マコトの体は物言わぬ氷像となった。
「だいじょぶか二人とも?」
「はい、ルートさん、ウェンさんありがとうございます」
「…………僕何もやってない」
「やっぱり……ここに向かって来てた魔力はルートさんたちね」
「せやでー街歩いてたら急に暴れてる奴がおるって逃げてきた人に聞いてな、誰か知らんけど花火打ち上げてくれたやろ? あれ助かったわー。急いで打ちあがった場所に向かう途中でルートと合流して、ここまで来たんや」
花火を打ち上げたあと、私は魔女たち……具体的にはペルリアからここに向かって来ている魔力があるって聞いて十中八九騎士だと思ったけど、まさかこの二人だとは思わなかった。多分、今ソシャゲのガチャを十連引けば、狙いのものが四枚抜きするくらいには運がいい。
ちなみに魔力感知ができる人は珍しいらしい。混合魔法を発現するより低いのだとか。魔女たちの中でも魔力感知が使えるのはペルリアだけらしいしね。ルートさんやカレンも出来るのかな?
「さてルートあとのことは任せてもええ? 街の警備は王国騎士団の管轄でもあるし」
「…………はい、だいじょう」
ルートさんが大丈夫とでも言おうとした時、突如氷像が崩れ、中から自由となったマコトが現れる。驚いている私たちには一切の目もくれずマコトはこの場から逃げようと全力で走り出す。それにいち早く対応したのはルートであった。
「んなっ! ワイの氷を壊したんか!? めっちゃ硬くしたんやで!?」
「いや、多分氷の内側を腐らせて脆くしたのよ! あいつの混合魔法は触れた物を腐らせる魔法だから!」
「はぁっ!? なんやそれずっこい!」
逃げるマコトを追いかけているルート二人の速度はほぼ同じでこのままだと逃げられると思った瞬間、ルートさんが私の目に見えないスピードに急加速すると、マコトの目の前に立つ。
「チッ、邪魔すんじゃねぇ!」
しかし、マコトは走るスピードを緩めることはなくルートに近づくと胸のあたりに触れる。私はルートさんが腐ってしまうと思い顔を真っ青にするが、触れられた本人は何事もないようにしていて、胸のあたりから体が腐っていくはずなのに一向にそんな気配がない。
「…………僕に魔法は効かない」
そのまま触れているマコトの腕を掴んだ。
ルートの混合魔法【最高傑作】。歴史上ルートしか発現していないと言われる、全属性を混合したデュアル。その力は他の混合魔法と一線を画すものといっていい、ありとあらゆる魔法の吸収である。ルートには魔法による攻撃が一切効かず、逆に魔法を喰らえばその魔法を吸収し自らの魔力へと変換される。この混合魔法こそルートをカロン王国最強と呼ぶ声が高い大きな理由であった。
「…………君、強いから死なないよね」
そういって掴んでいる手とは反対の手で剣を握り、居合みたいな要領で振り抜く。
「!?」
手を掴まれている以上逃げることができないマコトは魔法で自らとルートの間に岩の壁を生み出し、自らに迫る剣を防ごうとしたが、王国騎士団団長の剣はそんな優しいものではなかった。
「がっ……!」
まるで岩の壁なんてないように容易く切り裂くとそのままマコトの体に剣を打ち込む。殺さないよう剣の腹の部分に当てられているが、それでも威力は凄まじいものであり、マコトの体は吹き飛ばされる。
(魔法が効かないとかいう噂はほんとかよクソチート! こいつを相手にするのだけは不味い。逃げることだけ考えろ)
剣が当たる直前マコトは魔力でガードしていたが、それでも骨の一、二本は折れており、これが魔力でのガードが間に合わなかったら、普通に剣で切り裂かれていたらと考えるとぞっとする。
だが、吹き飛ばされたことはマコトにとって悪いことではなかった。吹き飛ばされたことで腕が解放されたマコトは魔法で地面を押し上げ、カタパルトのようにして自らの体を上に飛ばした。
「!」
「じゃあな!」
そのままマコトは住宅の屋根に着地するとそのまま建物の影へと消えていく。ルートも逃がさないとばかりにマコトを追って姿を消す。
「私たちも追いかけるわよ!」
「んーちょっと待ってカレンちゃん」
ルートさんと同じようにマコトを追いかけようとしたカレンをウェンさんが制止する。
「あんさんもう魔力少ないやろ? ここはワイらに任せてほしいわ」
「でも!!」
「はっきり言うとあいつ強いわ。一目見ただけで分かる、ワイより強いかもしれん。万全のカレンちゃんじゃともかく今のカレンちゃんじゃ邪魔になる。…………あんさんらは頑張った」
「っ……」
ウェンさんが来る前、魔法の撃ち合いをしていたカレンの魔力は魔力切れギリギリまで減っていた。そんな状態では戦闘を続けることは難しいだろうなぁ。厳しい言葉を投げかけられ悔しそうに顔を歪ませる。言い返さないのは自分でもその通りだと分かっているからだと思う。
「じゃあ行ってくるわ」
そのままウェンさんもルートさんの後を追っていく。この場にカレンと二人取り残されることになると、カレンは近くの壁に拳を叩きつけた。
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公爵家の屋敷に戻った私たちは終始無言であった。まぁ、あんなことがあった以上何を話せばいいか分かんないし、アズさんとの付き合いはカレンの方が上だしね。屋敷でカレンは傷の手当をした後、ソファに項垂れていた。傷はどれも小さいものだったから傷跡も残らなそう。
そして今、私はカレンに聞きたいことがあると言われていた。色々聞きたいことがあるだろうなー、あいつについて知ってたこととかね。私も話す覚悟を決めている。今はリリーさんが来るのを待っている。
「お嬢様お呼びでしょうか? その……大丈夫でございますか?」
部屋に入ったリリーさんがカレンの姿を見て目を見開いた。そりゃ魔道具を取りに行った主が憔悴したような様子で帰ってきたら心配もするよね。
「リリー…………今から何があったか話すから座って頂戴」
「はい。ですがその前に会わせたい方がいますので…………もう扉の前にいらっしゃいます」
「……誰かしら」
「会ってみたら分かると思います」
そう言うと部屋の扉が開かれ、メイド服に身を包んだ少女が入ってくる。私たちはその桜色の髪をした少女を知っている。少女は私たちを見ると笑顔で挨拶をする。
「初めましてこんにちわ!”ナト・ゴート”です!村でのことはお母さんから聞きました!助けてもらいありがとうございます!これから使用人として頑張るのでよろしく!お願い!します!!」
元気いっぱい…………というか元気があり余り過ぎている少女は大声で挨拶をすると深々と頭を下げた。正直、今の空気は読めていないが、ナトちゃんのおかげで暗い空気が少し和らいだような気がする。
「どういうこと、完治には十日ほどかかるんじゃなかったかしら?」
あ、確かに。今は村での出来事から八日しかたっていない。本来であればまだリハビリ中のナトちゃんがここに居るんだろう?
「はい!それはナトの混合魔法のおかげです!」
ナトちゃんが言うには、【魔物化】の副次効果によって人間の状態でも体が人より少し丈夫だったり、自然回復力も高いらしい。だからもう既に怪我は完治していて、問題なく動けるらしい。なんでもようやく外を歩いていいと言われ、まずは私たちにお礼を言うため屋敷に来たらしい。
「あ!その黒髪ポニーテールの人!あなたがマオさんですね!」
「うんそうだよ」
「お母さんが言うにはあなたがいなければナトは死んでいたとか!ほんとにありがとうございます!!」
「いや……逆に怪我させてごめんね。何か困ったことがあったら私かリリーさんに言ってね」
「はい!」
まぁ、私ここで働き始めてまだ一か月も経ってないんだけど。ほぼ同期みたいなもんでは?
「そろそろ本題に移りたいんだけどいいかしら? リリーもナトもそこに座って」
公爵家の関係者が全員話を聞く体勢になったのを見て、カレンは話し始める。
「まずは……」
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「そんなことが…………」
「ナトは知らない人ですけど、友達が死んでしまったとなったら悲しいです……」
魔道具店でのことを聞いた二人は悲しそうな面持ちとなる。特にリリーさんは知人ということもあって、いつもは動かない表情筋を動かしている。纏っている雰囲気もどことなくくらい感じ。
「その革命軍の方は捕まったのですか?」
「…………逃げられたらしいわ。なんでもデュアルを使って地中深くに潜ってね。逃げる算段があったとはいえ、あの二人から逃げるなんて間違いなく”切り込み隊”の一人でしょうね」
切り込み隊……王様が言ってたあれか。ルートさんたちが来るまで、あのカレンが手も足も出ない相手だったし、実力は噂どおりっぽいね。私は声を真似る魔法、向こうはなんでも腐らせる魔法…………同じ転移者なのにこの違いはなに? 運?
「それでマオ、あなたに聞くわ。――あいつは一体何者?」
…………やっぱり聞いてくるよね。まぁ分かってたけど。そう尋ねてくるカレンの表情はどこか怖い。マコトは革命軍で何人殺してるか分からないし、カレンにとって親しい人が殺されている。そんな中なにか知っている私に情報を聞き出そうとするのは理にかなっている。
私はずっとこの秘密を抱えていくつもりだった。最初は自分の身を守るためだったけど、いつしかカレンやリリーさん…………この関係が壊れるかもしれないと思うと言い出せなかった。異世界人だって、私はカレンやリリーさんと違うんだって…………言えなかった。
私は深呼吸をする。もう逃げないために。もう後悔しないために!
――私は今日ここで!この世界に!本当の意味で”転移”するんだ!!
「…………カレン、リリーさん、ナトちゃん、マコトのことを話すには私のことについても話さないといけない…………聞いてくれる?」
「……なにかしら」
とても真剣な表情で話し始めるマオにカレン達も思わず緊張とした面持ちとなる。
「私は――――
――――異世界からやって来たんだ」
とうとう転移者であることがバレます!作者もこの瞬間は楽しみにしていました!一章でバレるのって珍しいですかね?
ちなみに一章の名前を何にするかって考えた時、マオの
”――私は今日ここで!この世界に!本当の意味で”転移”するんだ!!”
のセリフが好きで、執筆する前から入れようと思っていたのでじゃあ”転移編”でいいかてなりました。




