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魔女と王国と声変わり  作者: 睦月はくろ
第一章 転移編
27/33

楽しいこと

マオの当たり前の幸せについては一章の四話にあります。

「――ほむ……、残念じゃが、わしにも知らんのう、そんな魔道具」


「そうですか……」


 早速アズさんに”過去の旅行記”についてなにか知らないか聞いてみたけど、結果はスカだった。カレンが勧めてくれた人でも知らないとなると、もしかしたら王都に知っている人はいないのかな?


「じゃが、もしその魔道具を見つけたらわしにも言ってくれんかのう。わしの知らない魔道具なんぞ、それだけで魅力的じゃ……!」


「は、はい……」


 ぐっと顔を近づけて目をキラキラ光らせながら言ってくるアズさん。ほんとに魔道具が好きなんだなぁと思うと同時に、自らの知識についても自信を持っていることが分かる。でも見つけようと思っても手掛かりがないんだよねー……。本とか知ってそうな人に聞いて地道に探していくしかないか。


「にしてもすごいですね魔道具って」


 私は砂時計のような形をした魔道具を手に取ってみながらそう呟く。陳列されてた場所の近くに説明が書かれた紙があり、この魔道具は時間や体温などを計れる魔道具ですと書かれている。


「そうじゃろう。わしも初めて見た時に心を奪われたもんじゃ、世界にこんなものがあるのかと」


「それが魔道具を作ろうと思った理由ですか?」


「そうじゃよ、好きだと感じたから今、魔道具を作る仕事をしておる。自らのやりたいことを仕事として出来ることはとても幸せなことじゃ。楽しいことばっかやってるとボケもしないわい。今年で五十にもなるというのに」


「ごじゅっ!?」


「見えないわよね。これで若作りしてないって言うんだから」


 見えないどころじゃねぇ……。でもアズさんは今をほんとに楽しんでいるように見える。正直私が目指している幸せに一番近いと思う。私が目指している当たり前の幸せ…………友達と言えるかは分からないけど、カレンやリリーさんといるのは楽しいけど、この世界に来てから自分の趣味とかはまだなかった。いつかアズさんみたいに自分の好きなことやりたいことを見つけられるといいな。


「じゃがのう……今は何を作ろうか悩んでおるのじゃ」


「珍しいわね、アズさんが作りたいもので悩むなんて。いつも思い立ったらすぐに作成しだすのに」


「実はのう、作りたいものは山ほどあるんじゃが、このまえ魔石の仕入れのため”ルーイエ”に行った時、馬鹿でかい魔石がオークションに出品されておってな…………衝動買いしちゃった」


 ルーイエというのは王都から北にある都市で、そこでは魔道具の材料である魔石が大量に発掘される鉱山があるらしい。ゴールドラッシュのアメリカよろしく、人が大量に集まったので、カロン王国の中でも王都に次ぐ都市でもある。


「だから王都に居なかったんですか。ていうか衝動買いするのは辞めたんじゃなくて?」


「これを見たらそうは言えんじゃろう」


 そう言ってアズさんはテーブルの下から高さ十センチくらいの楕円形の魔石を取り出した。それをテーブルの上に置くとゴトッという音がし、重そうな感じが伝わる。


「確かにでかいわね……これほどのものなら使い方にも悩むわね」


「そうじゃろう…………」


「これって丸々そのまま使うんですか?」


「いやー、流石に加工はするからもう少し小さくなるが……それでも大きくての」


 参考までに屋敷にある冷蔵庫の魔道具に使われている魔石は五センチくらい。十センチともなると魔道具本体も大きくしなければならないから扱いをもて余してしまう。


「作るからには役に立つものを作りたくての、しかし何を作ればいいのか思いつかんのじゃ」


 うーん、冷蔵庫よりも大きくてあったら嬉しいものってなると確かに思い浮かばない。いや、この際大きさは考えずにあったら便利なものを考えよう。現代社会の知識がある私ならなにか思い浮かぶことがあるかもしれないし。あったら嬉しいもの…………あ。


「洗濯機……」


「ん? なんじゃそれは?」


「あ、いえ衣服を勝手に洗ってくれる魔道具があったら楽でいいなーと思いまして……」


 屋敷の魔道具の扱いについてリリーさんに教えてもらっていた時、洗濯機みたいなのはないんだって思ったんだよね。冷蔵庫やコンロ、掃除機みたいなのはあるんだけど。毎回手洗いだから時間がかかるし、これからナトちゃんも来たら洗う量も増えるからあったらいいなーって思ってたんだよね。


「確かにあったら便利ねそんな魔道具。でも作れるのかしら? アズさんはどうおも…………」


 アズさんの方を見ると、なにやらぶつぶつと小さい独り言を言っているけど、その顔は新しいおもちゃをもらった子供のように楽しそうな笑顔をしている。


「創作意欲が湧いて来たわい!! カレンちゃんちょおぅとマオちゃんを借りてくわい!」


「はぁ……また始まった……。私は魔道具でも見てるから好きにしなさい」


「え、ちょ……」


 カレンに売られた私は何かを言う暇もなく店の裏にある工房へと連れていかれた。カレンはこれから起きることを思い、マオに対し合掌した。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△




「ぐへぇ……」


 およそ二時間ぐらい洗濯機についてのことに聞かれた私は机の上に突っ伏していた。思い立ったイメージを詳しく教えてとは言われたけど、まさかこんなに聞かれるとは思わなかった。カレンが呆れた目をしていたのも頷ける。


「だいじょうぶかのマオちゃん?」


「そう思うならもっと手加減してください……」


 突っ伏したままそう返す。起き上がる気力が今はないとも言うのだが……。でもほんとに楽しそうだなぁアズさん。


「アズさんはいいですね、夢中になれる趣味があって」


 思わずそんな言葉が口に出てしまった。体だけでなく頭まで疲れてるのかもしれない。


「ほう? マオちゃんには趣味がないのか?」


「探し中でして……」


「ほむ……」


 アズさんが何かを考えるように顎に手を当てている。こういうところは年齢相応かも。


「マオちゃん、ちょっとこっちに座って」


 そう言ってアズさんが手招きしてくる。不思議に思いながらも言われた席に座った。


「なんんですかいったい……」


「この魔石を図のようになるまで削ってほしいんじゃ」


 そう言ってアズさんは小さな魔石と今パパっと描いた図を見せてきた。適当に描いたように見えたけど、線とか綺麗に描かれてる。これが職人のなせる技か……


「えぇ……上手くできる自信ないんですけど、弁償しろとか言わないでくださいね」


「ほほ、その魔石は小さすぎて魔道具を作るには使えんのじゃ。だから心配せんでもよい」


 ふーん、なら気楽にやろうかな。にしてもなんで急にこんなことを?


 そんなことを思いつつ、私は魔石を削っていく。削る前は道に転がっている石みたいにごつごつしているのを、縦も横も均一になるような感じに削っていく。手先の器用さには自信があったけど、なにせ魔石自体が小さいから難しい。私が納得できるものができるまでニ十分くらいかかった。


「ほう、できたようじゃな」


 そう言って隣で見ていたアズさんが魔石を受け取り、まじまじと観察する。虫眼鏡をもって真剣な表情で観察している姿は、はっきり言って絵になっている。


「ほうこりゃすごい!」


「ふふん」


「見事に下手くそじゃ!」


「ずこーーっ!」


 なんで一回フェイント入れたの……。私のどや顔を返してほしい……。すこしふてくされたような目線をアズさんに向けると、ニヤニヤした笑みを浮かべてきた。


「どうじゃった? 魔道具作りの一部をやってみて」


「え? それは…………難しいなって……。結構な自信作だったんですよそれ」


「楽しかったか?」


「それは…………」


 楽しかったか…………うーん、よく分からないけど時間が経つのが早いなって思ったかな……。あと、あのニヤケ面がむかつくし、このままで終われないっていうか、アズさんに上手いと言わせたいかな?


「別に嫌ではなかったですね。こういう集中力がいる作業は苦手ではないですし…………、むしろ次はもっとうまく作ってみせたいですかね」


「…………そうか、ならマオちゃんにはきっといい趣味が見つかると思う」


「え」


 アズさんは虫眼鏡と魔石を机の上に置き、今度は柔らかな笑みで私の方を見た。


「負けず嫌いっていうのは仕事をしていくうえでとてもアドバンテージのあるものじゃ。わしが最初に魔石を加工したときは、マオちゃんよりも下手じゃったんじゃよ」


「! そうなんですか!?」


 下手くそだった人が、今では公爵家当主のお墨付きの職人になる…………すごいシンデレラストーリーだなぁ。こういうのって本の中だけの話だと思ってた。


「わしが苦労している間、同世代の奴らはみんな目に見える程、上達していった。何度心が折れそうになったか分からん。でも――好きじゃったんじゃ魔道具が。諦めたくなかった、あんなむかつく顔で煽ってくる奴らに負けてたまるかと思った」


 段々とアズさんに言葉に熱が入っている。当時のことを思い出して色々な感情が溢れてるんだと思う。


「マオちゃんはわしと似ておる。恐らくふとした時に出会うはずじゃ、夢中になれるものを。そして夢中になれる趣味を見つけたとき…………マオちゃんは笑顔でいれるはずじゃ。だから、今は信じて待っておってもいいんじゃないかの?」


 そう言って話を締めくくってくれた。探す必要はない…………信じて待つ……か。確かに悪くないのかも。人生の先輩からの言葉でもあるしね。


「アズさん…………ありがとうございます。すこしスッキリしました」


「ほほ、もし魔道具に興味をもったらいつでも来るといい。0から100まで教えよう」


 私とアズさんは工房内で笑い合っていた。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△




 工房から返ってくると店の魔道具を見ているカレンが居た。戻って来た私たちに気が付くと物色をやめこちらに近づいてきた。


「終わったのかしら?」


「うん、疲れたけどね」


「それでカレンちゃんたちはもう帰るのかの?」


 ついつい長居してしまった。もう外は日が暮れそうになっている。もっとも一番時間を使ったのは洗濯機に関しての質問攻めなんだけどね。


「あと一つだけ要件があったわ、初心者にも使いやすい戦闘用の魔道具はあるかしら?」


「ほう、誰用じゃ?」


「マオ用よ」


「え!?」


 急にカレンがそんなことを言い、隣にいる私もびっくりしてしまった。戦闘用…………もしかして村の一件のことからかな? いやいやそれよりも……


「戦うことなんて頻繁にあるの? それに私まだ給料入ってないからお金持ってないし」


「うちは強いことで有名な貴族だからね、魔物の討伐に同行することもあるし、自衛手段はもっといたほうがいいわ。お金なら就職祝いってことで私が出すわ。福利厚生って意味でもあるし」


「ほむ…………ならいいのがあるわい。だがどこにしまっておったかのう? 明日、取りに来てもらえるかの? お代もいい」


 なんと、アズさんがそんなことを言いだしてきた。本来タダで魔道具をもらえるなんてあり得ないことだ。庶民の中では一つも魔道具を持っていないという人たちの方が多いくらい、魔道具は高価なものだ。


「いいの?」


「ほほ、わしのお古じゃしのう。再び使ってくれるだけでありがたい」


「じゃあ遠慮なく。何時に来たらいいかしら?」


「朝の十時半とかどうじゃ? 十時からは修理した魔道具を取りにくる人がいてのう」


「それで大丈夫よ」


 ということで明日もアズさんのところにお邪魔することになった。戦闘用の魔道具どんなのだろ?


「またね、アズさん。洗濯機楽しみにしてるねー」


「ほほ、わしも未知のものじゃから張り切っちゃうわい」


 その言葉と共に店の扉が閉まった。




◆◆◆




 翌日、昨日とは違って空は雲に覆われ、太陽も青い色も見えない空だった。私たちは今、アズさんの店の前まで到着したところだ。


「ちょっと早く着いたねー」


「そうね、まぁ遅れるよりマシだわ」


 そんななんでもない会話をしながらマオは扉の取っ手に手をかける。そのまま昨日と同じように扉を開ける。


「アズさーん! 受け取りにき…………た…………」


 だが、店の内装は昨日までとは全然違っていた。床に散乱した魔道具、真ん中らへんから折られたカウンター、千切られたカーテン…………その様子は昨日楽しく談笑していた場所とは思えなかった。


 しかし、マオとカレンの関心は様変わりした店の内装にはなかった。マオたちの視線の先、そこには…………











 ――誰かに首を絞められ、生気のない顔で手をだらんとしているアズさんの姿があった。






このラスト想像できた人いるのかな?

作者はニヤニヤしながらこの話を書いてました。

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