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魔女と王国と声変わり  作者: 睦月はくろ
第一章 転移編
26/33

道すがら出会う

 王城のことから五日後、マオとカレンは王都の商業施設が立ち並ぶエリア……”北区”へとやって来ていた。


 カロン王国の王都である”マクラ”は王城を中心に、東西南北の四つの区に分かれている。各区によってそれぞれ特色があり、その中でも北区は商業が盛んであると同時に、一般の庶民たちが暮らすエリアでもある。


 それで、なぜ私たちが北区へと足を運んでいるかというと、以前カレンが言っていた魔道具に詳しい人がこの北区に住んでいるからだ。しばらくの間、王都にいなかったらしいけど、つい先日王都に戻って来たらしい。ちなみに私がこの世界に来た時に目を覚ました場所もこの北区の路地裏だ。


「やっぱりすごい人だかりだねー。露店だけじゃなくて店として構えてるのも多いし」


「カロン王国のありとあらゆる街や村から品物が卸されてきているのよ。正直この北区で手に入らないものなんてないんじゃないって思うくらいには」


「はえー」


 私たちは時に人の流れに乗ったり、逆に流れに逆らったりしながら目的の店へと向かっている。


 これだけ人が多いとはぐれる可能性もあるから、今はカレンと手をつなぎながら歩いている。そんな光景もこの北区では珍しくないのか、すれ違う人たちは誰も気にしない。


(ママ、私とも手をつなぎなさい)


(あらあら~マオちゃんは甘えんぼさんね~。お母さんと手をつなぎましょうね~)


 そんなシチュエーションに何かを見出した魔女二人のことは無視してカレンに手を引かれついていく。魔女たちには強かな対応をすることが重要だと最近になって気が付いた。私の胃のためにも。ていうか私に毎日話しかけてきたりするけど、飽きないの? 私が屋敷の家事をしているだけだよ?


 しばらく歩いていると北区の中心部から離れたのか、人通りが少ない通りまで来た。少ないと言っても普通に店はあるし、人もいるのだが混雑しているというほどではない。


「カレンがおすすめするくらいだから、中心部で店を構えてると思ってけど、違うんだ?」


「本人が隠れた名店って感じにしたいとかなんとか。腕は王都でも名のあるほうなんだけど、どこに店を構えているか知らない人も多いくらいよ」


「…………変人?」


「そうかもしれないわね。でも魔道具に関する知識と情熱は王都で一番って自他ともに認めてるし、マオの探している魔道具のことも何か知ってるんじゃない?」


 結構こだわりが強そうだし、めんどくさい人かもしれないけど、カレンにここまで言わせるってことは情報には期待できそうかな。


「ちっ、気をつけろ!!」


「ハハハ、すみません」


 カレンと並んで歩いていると、前方で怒声が聞こえてきた。声のした方を見ると、どうやらキャンパスに絵を書いていた中性的な顔をした青年のバケツに、通りかかったガラの悪いおっさんの足が当たってひっくり返してしまったらしい。ぶつかったのはおっさんの方だけど、逆切れして青年に怒声を浴びせたっぽい。そのままおっさんは舌打ちをしながら去っていった。


 取り残された青年は道に散らばった筆とバケツを拾っている。その様子を隣で見ていたカレンが青年の方に近づき一緒に散らばった物を拾い集める。


「? キミたちは……」


「災難でしたね手伝います」


「ああいう人いるよねー」


 私も筆を拾い始める。にしてもすごい量だなー。本格的に描くとこんなにも筆って必要なんだ。


 全て拾い集めた私たちは持ち主の青年へと返す。


「ありがとうございます」


「どういたしまして。でも気をつけなさい、ここらは人が少ないとはいえ誰も通らないってわけじゃないいんだから」


「そうだね、絵を描くのに夢中になってしまってね」


 そう言って青年はキャンパスの方を見る。そこには中心に王城がそびえたち、街を行きかう人々が描かれたキャンパスがあった。その絵は素人から見ても心に何かを訴えるような素晴らしい絵だった。


「いい絵ですね」


「ハハハ、ありがとう。でもまだ完成じゃないんだ」


「そう? どこからどう見ても綺麗な絵なのだけど……」


「まだボク自身が納得できなくてね。ここでもう少し描いていくよ」


「そっか、じゃあね」


「うん、じゃあね」


 私たちも行くところがあるので少し話をして青年と別れる。にしてもあんな絵を描けるなんてすごいな~、私なんて悪い意味でピカソだし。


 少しのトラブルがあったけど、再びマオたちは目的地へと歩き出した。




◇◇◇




「~~~~♪、~~~~♪」


 マオたちと別れた青年は何もなかったかのようにキャンパスに筆をはしらせていく。だが、おっさんに逆ギレされる前まではしていなかった鼻唄をニコニコしながら歌っている。まるで何かいいことでもあったかのように。


「戻ってきました…………って、なんか楽しそうですね」


「あぁ、オドかい? フフ、まぁね」


 後ろから聞き覚えのある声がし振り向くと、清潔感のある服装をした大人が両手に肉の刺さった串を持ちながら立っていた。いけない、今度は鼻唄に夢中になりすぎて、オドが戻って来たのに気が付かなかった。


「はい、サンドリザードの串焼きです」


 オドから一本串をもらい、そのまま肉を口の中へと頬張る。うん、やっぱこれだね。王都に来たら食べたくなるんだよね。ボクは塩もいいけどやっぱりタレ派かな。


「なにかあったんですか? いいことでも……」


「うん? まぁ、サンライト公爵家の当主と噂になってる新しい使用人と会っただけだよ」


「――笑い事ではないのでは? あなたは革命軍の()()()()なんですから少しは危機感を持った方がよいのでは?」


「ボクがボロを出すわけがないじゃないか。それに話すことになった理由もトラブルに巻き込まれただけだしね」


「ならいいのですが」


 心配性だな~。まぁ、ボクもここで公爵家の人間と会うとは思っていなかったしね。


「――にしてもあのメイドさんは何なんだろうね? 実際に会ってみたけど、何も感じない。急に現れた変数とは思えないくらいに」


「興味が失せましたか?」


「いや、逆に興味がわいたよ」


 魔力の量も一般人より少なくて、特別なにかに優れていることはない。でもバートたちの報告では村での魔女の残り火の一件について、事態の収束に彼女が一役買ったらしい。まぁ実際に見てはいない、流れてきた話らしいけどね。


 ――フフ、本当におもしろい。


「いや~わざわざ事前に下見に来てよかったよ」


 筆やキャンパスなどを片付けて、帰る準備をする青年。いつもニコニコしていた彼だが、今は彼のことを知っている人ならば、いつもと比べて特段ニコニコしていることが分かる。


「もう戻られますか?」


「うん。下見は十分したしね。あとは計画を実行に移す日まで準備するだけさ」


「こちらの絵はどうなされます?」


 そういってオドが指したのはさっきまで青年が描いていたキャンパスであった。青年がそのキャンパスを一瞥すると冷ややかな目線を向けながら……


「――あぁ、それもう燃やしていいよ。興味なくなったから」


「かしこまりました”ナイラ”様」




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△




「ここ?」


「まぁ、びっくりするわよね。店には見えないし」


 それは大通りのはずれにある、日の当たらない路地にあった。小さい看板はあるけど、どう見ても家の裏口玄関にしか見えない風体だった。


「アズさん?いるかしら?」


 カレンが扉を開け、店の中へ一緒に入る。中の様子は外の見た目通りそれほど広くはないが、魔道具と思われる道具が綺麗に陳列されていて、埃一つかぶっていない。まさに隠れた名店って感じがする。


「――ほほ、待っておったよカレンちゃん。そちらの子が魔道具について知りたいと言っておる子じゃな」


 カウンターの近くで腰かけていた身長の高い、三十代後半くらいの男性が読んでいた本を閉じ、こっちに目を合わせてくる。多分、彼がこの店の店長で魔道具に詳しい人だと思う。


「そうね。紹介するわ、うちで使用人として新しく雇ったマオよ」


「初めまして」


「ほほ、初めまして」


 挨拶をすると相手も丁寧なお辞儀で返してくれた。喋り方といい、おじいちゃんみたいな感じがするけど、見た目との差がありすぎる……


 そんなことを思っていると、向こうからも自己紹介をしてくれた。


「――こちらも挨拶をしましょう、”アズ・ハザード”じゃ。よろしくお願いしようかの」


 さて……と、カレンが勧めるくらい魔道具が大好きなかた…………”過去の旅行記”についてもなにか知っていたらいいな。


 マオはそんな期待を込めながらアズさんと相対した。






王都の各エリアの特徴について

北区→商業地区、庶民の居住区。

西区→王国騎士団等の軍関係の地区。

東区→エル教の本部教会があり、学園などの教育機関が集まる地区。

南区→貴族が住んでいる地区。カレンの屋敷があるのもこの地区。

ついに、革命軍のリーダーが登場しました。まだセリフも少ないですけどね……

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