王国騎士団はめんどくさい
「いや、流石に広すぎるでしょ。しかも結構複雑な構造になってるし…………トイレに行くのも一苦労だよ」
王城での要件が全て終わり、これから屋敷に戻るのだが、その前にマオは用を足しておきたかった。だが、如何せん王城に初めて来たこともあり、どこになにがあるか分からなかった。そこでルートさんに案内してもらい、用を済ませた。
「案内していただきありがとうございます」
「…………別にいい」
外では様々な属性の玉を魔法で生み出して、操っているルートさんがいた。すっごい綺麗だし、待っている間暇だったのかもしれないけど、その遊び危なくない?
待っていたルートさんにお礼を言い、一緒に馬車の方へと向かっていく。一緒に歩いてるんだけど、一切会話がなくて、話しかけようか悩んでいる。無口ではあるんだけど、質問とかしたらちゃんと返してくれるし、コミュ障みたいにテンパってる感じはしない。頭の中ではサラが不服そうになにか言ってきているけど無視しとく。
「さっきの魔法すごいですね! いつも練習してるんですか?」
「………………そうだね」
「へぇ~、コツとかあるんですか? 私魔法は全然で」
「……………………動けと……念じる?」
「は、はぁ……」
いや、どういう風に魔力を練るかとかそういうのが聞きたかったんだけど……。もしかしてルートさんって教えるのが下手? というより感覚派なのかな。にしてもあんなに上手く魔法を使えるなんて、どのくらい練習したんだろう?
実はルートさんがやってたことは異なる属性の魔法を同時に生み出して、完璧に制御するという離れ技だ。魔法を使うときは、使う魔法の属性に合わせて、自らの魔力をその属性に変化させるから、異なる属性の魔法を使うことはクソ難易度が高い。多分、カレンにもできないんじゃないかな?
「じゃあ練習法とかってありますか? 効率よく魔法を使うための」
(マオちゃ~ん? お母さんたちの教え方が不満なの~?)
(いや、そういうことじゃなくて……、最近、自分の不甲斐なさを実感したから)
ナトちゃんとの戦いのとき、私はカレンが助けに来てくれなかったら、間違いなくハンターウルフに殺されていた。生き残ったのはたまたま運がよかっただけだ。また同じようなことが起きたら、今度こそ死ぬと思う。出来ることはやっておかないと。
(といっても焦りすぎだと思うぜ。生まれ持った魔力量の関係もあるんだしよ)
(そうですよマオさま! 教え始めて一か月も経っていないのですから)
――そうなのかな。確かに焦ってたかも。急に異世界に来て、寝る場所もお金もなくなって、それでようやく一息つけると思ったら急に魔物とも戦って…………たしかに焦ってた。私には私が出来ることしかできないっていうのに。
(その…………みんなありがと。ちょっと焦ってた)
(…………やっぱりマオは可愛いね。襲ってもいい?)
(今はあなたは黙っていた方がいい感じよソティス?)
最後の最後で台無し……。ソティスはもうちょっと空気を読んでほしい。頭の中で魔女たちと会話してる最中、ずっと私の質問について考えていたルートさんが口を開いた。
「………………分からない。しいて言えば、何回もやって体に覚えさせる……とか?」
返って来た言葉に私は驚く。といってもそうか、やっぱり楽に強くなる方法なんて有りはしないか。それにしても……
「”普通”……ですね。でもルートさんが言うと説得力があります」
「!」
私が見た様々な属性の魔法を操っていたルートさん、あれも自分の体に覚えさせていたんだと思う。そういう地道な練習がルートさんを今の王国騎士団団長という地位に座らせてるんだろうなー。なんか憧れる。
「………………ねぇ、僕は”普通”なのかい?」
「え? うーん…………人には人の特別なとこと普通なとこがあるんじゃないですか?」
例えばリリーさんの仕事の手際ははっきり言ってすごいとしか言えない。これはリリーさんの特別なとこだと私は思う。でもリリーさんだって普通なところが…………あれ? リリーさんって完璧超人じゃね?だってあの人、家事も出来て、魔法も使えて、しかも私とナトちゃんを連れて村に戻ってる最中に遭遇した魔物を蹴り殺してたりもしたからね、考えてみると普通なところがないんだけど。さっきの発言が急にうすっぺらく…………
マオが変なことを考えている間、ルートもマオの言葉が頭を埋め尽くしていた。
「…………」
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『”普通”……ですね。でもルートさんが言うと説得力があります』
『お前は”特別”なんだ! あの出来の悪い弟と違ってな。いつか私のあとをついで騎士団長にならなければならん』
『今はまだルートさんと釣り合わないけど! いつか絶対あなたの隣に立ってみせる!』
『うーん…………人には人の特別なとこと普通なとこがあるんじゃないですか?』
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「………………僕が普通か……。えっとマオ……だっけ?」
「はい」
「……ありがとう」
「え?」
「………………なんでもない。はやく行こう」
そういってルートさんは足早に歩いていく。私の前を歩いているから、顔は見えないけど、なんか楽しそうな感じがする。一体どうしたんだ……
歩くスピードが速くなったルートさんについていくために、マオも歩く速度を上げる。一方でその様子を遠くから眺めている者がいた。
「………………チッ」
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ちょうど私たちが馬車に戻った時、出発の準備が整ったようでなんともタイミングがいいなって思う。向かっている間は、あれ以降ルートさんとの会話はなかったけど、不思議とそんな気まずいような空気は流れなかった。
「戻ったわね。それじゃあ屋敷に戻るわよ。まだまだ仕事が残ってるんだから。マオも一緒に手伝ってちょうだい」
「あー……まぁ、分かった。流石に二日前の量よりは少ないよね?」
「さぁ?どうかしら」
「トイレ行ったばっかなのに腹が痛くなってきた……」
まぁ、仕方ないか。早く帰って、早く終わらそ……。そんなことを考えながら馬車に乗り込もうとすると、王城の方から誰か歩いてくる。
「見送りに来たぞー」
「ライハ…………ルートさんに会いに来たの間違いじゃない?」
「見送りに来たのもほんとだぞ」
「否定はしないんですか……」
歩いてきたのはライハさんだった。見送りに来たとか言ってるけど、建前であることを隠そうともしてない。ちゃっかりルートさんの隣に立ってるし。
ルートさんの隣を確保したライハさんが私と目が合うと、鋭い視線を向けてきた。え? なんで? さっきまで普通だったよね。でも鋭い視線を向けていても元の美人な顔が崩れていることはない。
「じゃ、またな」
「…………また、カレン、マオ」
「はい、ではまた」
別れの挨拶も終わったことだし、馬車の扉を閉めようとすると……
「あ、そうそう…………あんたには負けないぞマオ」
私にだけ聞こえるようにライハさんが小声で呟いた。いや、だからなんで? 私なんかした? もしかしてルートさんに惚れてると思われてる?
ライハさんの急な変化に置いてきぼりな私などまったく関係なく馬車は動き出す。
「ルートさんが名前呼びになるなんて、戻ってくるまでになにかあったのかしら?」
「ごめん、それどころじゃないかも……」
「?」
何も知らないカレンはいつも通り話しかけてくるけど、私に返答する余裕はない。めんどくさいことになったかもと思いながら公爵家の屋敷に戻るのだった。
王城編は終わりましたー。もうすぐで一章も終盤にさしかかると思います。もっと早くに一章を終わらすつもりだったんですが、このキャラは出しとかないと、このエピソードは必要と考えていくうちに、長くなっていきました。もっとテンポよくいけたら……。




