王城に入って緊張するなって方が難しい
村の事件からはや二日。私たちは王都のサンライト公爵家の屋敷に戻っていつもの日常をすごしていた。ハンターウルフにつけられた腕の傷もルトさんに綺麗に直してもらったので、仕事に影響はない。花から作られた薬は苦かったけど、飲んだ後すぐに傷が塞がっていくのをみて、すごい混合魔法だと思った。…………屋敷に戻った後、村の事件にのせいでたまった今日の分の書類を全員で必死に処理したということもあったけどね……つらかった……。あ、そうそうナトちゃんのことだけど…………
「それで今は目を覚ましてリハビリ中なのかしら?」
「そうみたい。早く私たちに会ってお礼がしたいって言ってるんだって」
「そうですか……」
私たちは今、書斎にて書類仕事がひと段落したから紅茶を飲んで休憩していた。ナトちゃんはあの後一日で目を覚まして、お母さんと話し合ったらしい。その結果ナトちゃんはウチで働くことになった。ナトちゃんも何があったかを聞いて、私たちに少しでも恩返しがしたいと思ってくれたらしい。いい子だなぁ~
「にしてもこんな短期間に二人雇うことになるとは思わなかったわ」
「私もこんなに早く先輩になるとは思わなかったけど?」
「私は後輩が二人に増えて嬉しいですよ。はぁ……待ち遠しい……」
「…………ねぇ、なんであんなにキラキラした雰囲気出してるのリリーさん?」
「多分だけど自分より年下の子ができるのが楽しみなんじゃないかしら? マオは後輩って言っても年上だったから……」
完全に浮かれポンチになっているリリーさんに聞かれないように小声でカレンと話をする。正直言って私もカレンも少し引いている。普段のリリーさんなら引かれていることに気づくだろうけど、そんなことに気づいている様子はまったくない。
「リリーは前に使用人たちが居たときも最年少で末っ子みたいな扱いだったから、年下の子ができるのはリリーにとって妹ができるようなものと同じなんでしょ」
「だからって浮つきすぎでしょ。光ってないのに眩しく感じるんだけど……」
そんな何気ない?日常を過ごしていると、急になにか硬いものが窓をノックする音が聞こえた。部屋にいたマオたち全員が窓の方を見ると、そこには鳶のような鳥がいた。その鳥の姿を見たカレンは窓を開けると鳶が足で持っていた紙をカレンに渡すとどこかへ飛び去ってしまった。
「なにその紙?」
「どうやら王様から直接の手紙みたいね。あの鳥は国王が自分自身で飼っている生物だし」
「珍しいですね直接とは……」
王様から直接って……やっぱり公爵の位にもなるとそんなことがあるんだと私が考えていると、手紙を読んでいたカレンの表情が真剣なものへとなっていった。
「リリー今から王城へ行くわ。あなたは留守番をお願い」
「承りました」
「えっと私は……?」
「マオは私と一緒に王城へ来なさい。――招待されたのは私だけじゃなくてマオもだから」
「え?」
え、なんで私が王城へ呼ばれるわけ!? もしかして魔女たちのことがバレたとか……?
そんな不安を抱えながらカレンと一緒に馬車へと乗り込むのであった。
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「すっごい……こんな間近で見れるなんて……」
馬車から降りてすぐに目に入ったのは、カレンの屋敷とは比べ物にならない程大きくそびえる城であった。遠目からは何度も見たことがあったけど、いざ目の前に来るとやっぱり迫力が違う。
私が城に見惚れていると、二人の騎士がこっちに近づいてきていた。一人は恐らくライハさんだと思う。前に会った時につけていたフルフェイスの兜を外して美人系の顔をさらしているけど、あの綺麗な長い髪は間違えようがない。
もう一人はライハさんとは違って鎧を纏っておらず、スマートという言葉が似合いそうな白と赤の服を着た青年だった。この世界に来てから色んな顔が整っている人を見てきたけど、この青年にいたってはそんなレベルを遥かに超える程、現実離れした凛々しい顔つきをしていた。中でも金と銀色のオッドアイは特に目を惹く。そんな一見すれば王子と間違えそうな見た目をしている青年だけど、私が騎士であると気づけたのは、肩らへんに刺繍された王国騎士団の紋章と腰に下げている剣のおかげだ。
「よぉ、待たせたか?」
「…………」
話し方で分かったけど、ライハさんで合っていたらしい。隣の青年はずっと黙ってるけど。
「いや、今到着したばっかよ」
「そりゃよかった」
まずは軽いやり取りをする私たち。どうやらこの二人は国王に頼まれて私とカレンを迎えに来たらしい。立ち話ばっかするわけにもいかないから、すぐに国王のもとへと行くために王城の中へと入る。
城の中は豪華絢爛と形容するしかないほどで、床に敷き詰められた赤い絨毯と質感のよさそうな大理石の壁があった。そんな城の通路を客である私たちに向かって綺麗なお辞儀をしているメイドと執事や、大臣であろうかせわしなく動いている貴族の人を横目に通り過ぎていく。
向かっている最中は会話が一切なく変な空気だったので私から話を切り出した。
「あのそちらの方は初めましてですよね? 初めまして安里茉央といいます。よろしくお願いします」
「……………………よろしく」
簡素な自己紹介をした私に返されたのは、小さな言葉だった。んー……サラみたいなコミュ障て感じはしないんだけど、なんていうかな……無口キャラが一番近い?
「えと……できれば名前を教えてもらえたらなと……」
「……………………”ルート・ホープ”」
う、うーん……名前だけとは……。これじゃ会話を弾ませるのは難しいかな?そんなことを考えていたら、見かねたのかカレンとライハさんも会話に入ってくる。
「マオ、彼は王国騎士団の団長でこの国で最強の人よ。あんまり喋らない人でもあるんだけどね」
「そうそう、ルートさんは最強なんだ! ハンターウルフに苦戦するあんたじゃ指一本触れることすらできないぐらいにな!」
カロン王国で最強……! 若そうなのにすごいんだなぁ。にしてもなんで団長も副団長も若そうな人なんだろう?…………あれかな、二年前の革命と関係があるのかな? あれのせいでカレンも公爵家の当主にならざるをえなかったし。
「それはライハもでしょ。まぁ、あんたと同じくらいの実力である私もなんだけど……。この国で勝負になるのなんてハストさんぐらいなんじゃない?」
「うるせぇな、あと同じじゃない! 私の方が強い!」
「ハイハイ」
ほぼ単体あったとはいえハンターウルフを余裕で倒せるカレンと大木を粉砕できるライハさんが勝負にならないって……最強は伊達じゃないってことか。その最強と唯一勝負になるって言われるハストさんは何? 聖騎士の統括であるウェンさんじゃなくて? 穏やかな老人に見えたんだけど……
ていうかなんかライハさん妙に熱はいってない? いやもちろん自分たちの団長を自慢したいってのは分かるんだけど、初めて会ったときと違うというか。
「ルートさんもそう思いますよね! 私の方が強いって、そばに欲しいって!」
「……………………ライハのほうが僕にかまってくる」
「え……あ…………ほ、ほらな!」
「いや、強さに関してはなにも言ってないですよ」
あまりにずれている騎士団の二人の掛け合いに思わずツッコミをいれてしまう。にしてもライハさんのこの反応……もしかして。
「ねぇカレン。もしかしてライハさんって……」
「えぇ、考えてる通りルートさんのことが好きなんでしょうね。本人から明確に聞いたことはないけど」
「やっぱり? でもなんていうか後ろをついてくるワンコにしか見えないんだけど……」
「同感ね」
カレンとひそひそ話をしながら二人のことを見る。顔を綻ばせながら話している様子を見てると、どうしてもワンコに見えてしまう。あ、犬耳と尻尾も見えてきた。
「と、着いたぜ。中に陛下が居るからくれぐれも失礼のないようにな」
「ライハさんは入らないんですか?」
「あぁ、入るのはあんたらとルートさんだけだ」
そう言ってライハさんは扉を開ける。部屋の中は廊下と同じように豪華なつくりとなっていて、高そうな壺や絵画も飾ってある。その部屋の中心のソファにふんぞり返るように座っている金髪碧眼の少年と後ろに控えている侍女がいた。
その様子から恐らく彼がこの国の国王、”ハウンド・ダロイアス”なんだと思う。王様については、リリーさんから革命の時のことを聞いてから調べてことがある。革命のときに前の国王である父親から王位を簒奪して、弱冠十四歳……カロン王国最年少の国王になった存在。もっと厳つい容姿をしてるのかなって思っていたけど、顔は整っているとはいえベビーフェイスといっていいほど丸みをおびているし、身長もカレンと同じくらいしかないように見える。
「――来たか……そこに座れ」
ハウンド陛下が自分が座っているところから机を挟んで、椅子に座るよう指で指示する。うながされるように私とカレンは座り、ルートさんは陛下の後ろに控えるように移動した。その間もハウンド陛下は侍女に命令して茶をだすように指示してた。
正直な話、こういう王城に呼ばれる時って、よくある王様は玉座にふんぞり返っていて、私たちは跪いて、頭を下げてるみたいな感じだと思ってたけど、全然そんなことなかった。今回、招待されたのが国としてじゃなくて、王様から私用の鳥を使って直接っていうのが関係しているのかな?
「で何の用? 私用の使い鳥まで使って」
目の前に国王陛下が居るというのにいつもの調子を崩さないカレンにギョッとしたけど、王様はそんなこと一切気にしていない様子だった。
実は、カレンとハウンド陛下は同じ学園の二歳差の先輩後輩という関係なのだ。学園の中では王族も貴族も関係なく、完全弱肉強食の場所であったらしい。もっともそれは、前国王の時代のことで、ハウンド陛下が王様になってからは若干緩和されたらしい。
「相変わらずだ、その口は。先ずはそこのメイドに自己紹介をさせるところだろ。礼儀も知らないのか。おいメイド名前は?」
「お、お初にお目にかかりますハウンド陛下。私はサンライト公爵家に仕える安里茉央と申します。この度はこのように謁見でき、まことにうれし……」
「長い。かしこまらなくていい、効率が悪い。名前さえ分かればそれでいい。だが、こいつよりは礼儀があるな」
急に私に振られたことでたじたじな自己紹介になったけど、それをバッサリと王様が切ってしまった。なんだろう私の緊張を返してほしい。だけど、威厳のなさそうな容姿に比べ、口調や話し方は威厳そのものを感じる。
「だが、おまえオレを見た時小さいと思っただろ」
「そんなことはありません」
なんで分かってんだよ。そんなに顔に出てたかな? 部屋に入ってからも緊張でがちがちだったんだけど。
「ふん、まぁいい。本題に入るぞ。今日呼んだのは二日前に起きた魔女の残り火の事件についてだ。サンライトはライハと一緒に残り火を見つけた時のことを、アザトは森でなにがあったのか特に崖から落ちた後のこと、知っていることはすべて話せ」
王様が言うには、魔女の残り火についての詳しい情報が欲しいらしい。残り火による魔物の狂暴化は五十年に一度あるかないかとのこと。だけど、前回は十年ほど前のことらしく、その期間が短いことに疑問を思ったらしい。もっともたまたまの可能性だってある。ペルリアが何かの拍子で魔力を放出するって言ってたしね。
「別にいいけど、ライハから聞いてる通りのことよ?」
「かまわん、些細なことでも教えろ」
そんなこんなで私たちはあの時のことについて話し始めた。
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「ふん……なにも目新しい情報はないな。そこのメイドもこれといった情報をもっていないとはな」
「だからそういったじゃない」
私たちの話を聞いて、王様は肘をつきながらつまらなそうにしている。といってもしょうがないじゃん。私なんてずっと死ぬかもしれない状況だったんだから周りがどうだったって聞かれても、知らないとしか言えないし……。
「やはり”イースの里”に向かうべきか……」
聞き取れなかったけど王様が何か小声で呟いていた。眉間にはしわが刻まれており、せっかくの顔が台無しだ。
「それで話はまだあるんでしょ? わざわざ直接って形を取っているんだから」
「…………そうだ、もう一つ要件がある。それは……」
ハウンド陛下が話そうとしたとき、城の前が騒がしくなっていることに気づいた。この部屋から城の入り口までは結構な距離があるのだが、大勢の人がいるのか声がここまで届いてきた。私たちは何事かと思って窓を覗くと……
『国民に政治をする権利をーッ!!』
『『『そうだー!!』』』
『民主主義の実現をーッ!!』
『『『そうだー!!』』』
『王の退去をーッ!!』
『『『そうだー!!』』』
大勢の国民が城に向かって叫んでいる光景があった。リーダーらしき人は声が人より何倍も大きいから、なんか魔法を使ってるんだと思う。その光景を見て王様はまたもつまらなそうな顔をした。
「デモか……前王のせいとはいえ、くだらん。ルート鎮圧を」
「…………」
ルートさんは胸に手を当て、お辞儀をしたあと部屋を出て行った。大変なんだなぁールートさんも。
「あの……ハウンド陛下はこの国についてどう思っているんですか?」
ふと頭によぎった疑問をそのままぶつける。不敬と言われるかもだけど、簡潔に質問する方が陛下は好きらしい。効率がいいとかなんとか。王様が王位に就くときには、すでに国民の支持率なんて底辺に近かったと思う。そんな状態で王位に就きたいなんて私だったらごめんだ。
「馬鹿が蔓延してる国」
「え」
王が自国の民におよそ言う言葉ではないことを即答する王様。あまりのことに間抜けな声が出ちゃったけど仕方ないよね?
「そうだろう? あいつらは自分のことを棚に上げ、人の粗探しばかりするような奴らだ。馬鹿としか言いようがない」
「じゃあハウンド陛下はこの国で何を成したいんですか?」
「民主主義」
「??????」
さっきは国民のことを馬鹿とか言ってたくせにやりたいことは民主主義の実現って、もしかして一瞬で別人と入れ替わったの、この王様?
「分かっていないようだな。オレは別に国民は嫌いじゃない。あいつらは知らないんだ」
「何をですか?」
「政治を。クソ親父は国民を税を払うものとしか思っていなかったからな、当然教育なんてものはしていない。国民どもは国を動かしたあとの未来を考える力が足りていない。デモをしている奴らを見て思うだろう。あいつらはオレの批判をするばかりで、民主制を実現したときに何をするかなど一言も言っていない」
「――どうやら国民は王という奴隷で遊ぶことがよほど好きらしい」
…………王様の言いたいことは何となく分かる。前の世界でも政治の知識がない人がトップになった国があった。結果はその国の経済が滅茶苦茶になった。通貨制度が完全に崩壊した。そのくらい政治の知識がない人が国を動かすことは危険なのだ。
「だからオレは賢い者をつくる。若い世代に正しい教育を施し、次の世代へとつないでいく。オレが老人のころにはほとんどの者は政治の知識を持っているという寸法だ。オレは最後の王になるつもりだが、まだ退くつもりはない」
「…………ハウンド陛下がずっと王に就いとけばいいんじゃないですか? そこまで国のことを考えられる人ならば」
「オレもいつかは死ぬ。もしかしたら明日、革命軍に討たれるかもしれん。それに…………一人なんぞつまらん」
分かった、王様って…………良い人だ! 口調を直すのと自分の考えを話せば分かってくれる国民もいそうなんだけどなー。
「ふん、ちょうどいい、最近革命軍の動きがなにやらきな臭い。お前のほうでも注意しとけよ」
「ふーん……分かったわ」
「…………そういえば今の革命軍ってどうなってるのカレン?」
この世界に来てから割と最初の方で出てきてたけど、よく考えると名前くらいしか知らないなー。なんか強奪やら普通に殺しをしてるとか。リリーさんから聞いた二年前の話だとふつうの革命軍ぽかったけど、今の革命軍はもはや賊みたいなことしか聞かない。
「二年前の革命軍は自分たちが王都で起こした反逆でかなりの被害が出たのよ。そのあとは細々と小さな騒ぎを起こすくらいだったんだけど…………変わったのは一年前からよ。それまで一般人を襲わなかった革命軍は急に賊のようになったわ。強奪も殺しもする。…………貧しい人たちに物資を分けていた革命軍はもういない」
「――中でも”切り込み隊”と呼ばれる部隊の強さと危険性は異常だ」
「切り込み隊……ですか」
なんというか強そうには思えないっていうか……名前のせい? すぐに突っ込んでいって、かませになる名前じゃない?
「奴らはどんな容姿をしているのかも、何人いるのかも分からん。騎士も一般市民も目撃者なら全員殺してるんだからな。唯一切り込み隊の者を倒したことのあるルートが言うには」
『…………僕かハストさん以外だと一対一で戦えば死ぬ』
「――らしいな」
「やば……」
思わず言葉がこぼれてしまった。目撃者は皆殺しって…………完全に賊じゃん。革命はどこいったの……
「二年前の時も奴らによる被害は大きかった…………一人で騎士団の一個師団に匹敵する強さ、まさしく”一人で軍隊”だな」
そう言って王様が話をまとめてくれた。今思うと王様から説明を受けるってやばいことしてない? 不敬罪とかはやめて……
そんな話をしてるとデモの声がだんだんと小さくなっていく。どうやらもうすぐ鎮圧されるらしい。そのことを見計らってか王様が私たちに向かってなにか言う。
「どうやらルートも、もうすぐ戻って来るか……先に目的の場所に向かうぞ」
そう言って王様は部屋から出ようとする。目的の場所って?
「ちょっとどこ行くつもり?」
「…………話の途中だったな、そこのメイドの力を使いたくてな。そのために場所を移動する必要がある」
「マオの力…………あ」
「気づいたか」
「え、なに?」
カレンは話の内容を察したようだけど、私はちっとも話についていけない。私の力…………【声帯模写】? 誰かの声を真似してほしいのかな?
「結局どこに行くつもりなんですか?」
「――――幻の魔物の元へだ」
強いキャラを作りたいってことで生まれたルート君。でも最強キャラって感じにはしないように注意して書いてます。




