エル教
最初期から設定があるのに詳しく言及されるのが今回が初というね。
本当にテンポが悪いなこの作品。
「着きましたが……大丈夫ですか?」
「……………………まぁ、はい。ありがとうございます……」
言いたいことはあったけど、魔物に襲われるよりはマシだと思って、当たり障りのない返事をした。ようやく戻ってきた村には、ライハさんと同じ紋章のある鎧を纏っている人が多数いた。私がエースたちと命の追いかけっこしている間に騎士団が到着して村の防衛をしているらしい。一応私の行動も無駄ではなかったってことかな?
「あれ? なんか別の紋章をつけている騎士もいるんですが……」
「――あぁ、あれは”エル教”の聖騎士ですね」
「エル教の聖騎士? 王国が所有している兵じゃないってこと?」
私の目線の先には修道服を着たシスターと話しているライハさんが着ていた鎧と違う鎧を着ている騎士がいてた。
「はい、聖騎士はエル教の私兵です。ですが、規模としては王国騎士団と遜色はありませんし、こういった有事の際には力にもなってくれます」
「そうなんですね。そういえばエル教についてあんまり知らないかも……」
「そうですか……教えたいところですが、先ずはナトさんを”あの方”に見せに行きましょう」
「あの方っていうのは……?」
「――とても珍しい治癒の混合魔法をもつエル教の聖騎士の方です」
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リリーさんに運んでもらい、教会に備え付けてある部屋の前に着くと、扉をノックした。リリーさんの両手はナトちゃんで埋まっているからね。
「ルトさん、入りますよ」
私が村に居てた時にはただの部屋だったのが、今は簡易的な病室のように変えられていて怪我人が寝かされていたりした。そんな中、一人の女性が寝かされている人の横で何かの魔法を使っていた。私と同じくらいの身長で可愛い系の顔付きをしている。海色の髪も目立っているが、何より目を引くのは金色の綺麗な瞳だ。一瞬見ただけでも、まるで吸い込まれたような感覚になって、そこから視線を離せなくなった。
「ルトさん、怪我人の追加です。一人にいたっては重傷ですぐに治癒が必要です」
「あー、リリーちゃん? 帰ってきてたんだ……。それより急患ね、りょーかい」
ルトさんと呼ばれた人が気の抜けそうな声で返事をする。なんていうかダウナー系?って感じがする。こんな人だけど、リリーさんが言うには21歳を超えたバリバリの大人で、なんでも胸が小さいことを気にしているらしい。そのことをいじると一週間は花粉症で悩まされるとか。
ルトさんがナトちゃんを受け取ると、すぐさま近くにいたシスターの人たちに指示をだす。ベットを確保しろとか、治療道具もってこいとかで辺りがバタバタとし始めた。私とリリーさんは邪魔にならないよう部屋の隅で大人しくしていることにした。
「あのルトさん?っていう人が治癒の混合魔法を持っている人なんですか?」
ただ待っているだけなのでリリーさんに質問していくことにした。魔法について自分なりに本で調べた時に、治癒の魔法は”基本魔法”の中になくて、混合魔法によるものしかないと書かれていた。しかも混合魔法の中でも珍しいらしく、持っているだけで将来は安泰とまでいわれるらしい。
「はい。本名はルト・フラワーといい、光と水の属性の混合である【満開】という治癒の混合魔法を持っているエル教の聖騎士の方です」
「どんな魔法なんですか?」
「大雑把に言ってしまえば花を生み出す魔法です。ルトさんが生み出した花は状況に合わせて様々な効果をもたらすことができます。今回の場合だと癒しの効果ですね」
リリーさんの説明を聞きながらルトさんの方を見てると、手のひらから青い花を生み出して、それをすり鉢で潰していた。薬を作れるってことだけどこの世界だと需要が大きそうだな~。
「じゃあ別の効果のある花もあるんですね」
「そうですね。あの人は支援班の班長なんですが、戦闘においても花を用いて幻覚を見せたり、自らの力を増す花を使用して戦うスタイルをとっています」
エル教の聖騎士は主に王国騎士団と一緒に魔物や他国からの武力による侵略を防ぐ”戦闘班”や怪我人の治療や物資の補給をする”支援班”。そして王国を守る大結界を維持、管理を行う”結界班”という三つの班によって構成されている。その上には三つの班を一つにまとめる”聖騎士統括”という役職の人がいて、一番上に最終決定権を持つ”教皇”となっている。
「そういえばエル教について教えると言いましたね」
「あ、そうですね」
「ちょうどいいですし一緒に教えましょう。大まかな説明なんですが、エル教というのは初代教皇であるエル・ノーティスが教えを開いた宗教です。その教えというのはただ一点のみ…………”精神的にも肉体的にも強くあれ”ということだけです」
「え? それだけなんですか?」
それって要するに戦闘も強くて、人格者になれってことでしょ? 宗教の教えとしてはよくある当たり前のことで、なんか豚肉を食べてはいけないとかそういうめんどくさそうな教えが一切ないんだけど。
「はい。なので入信の敷居が低く、庶民の間で広がりました」
「なるほど……にしても宗教としては戦うことを良しとしてるんですね。聖騎士なんて仕組みもあることですし」
「それについては歴史の背景が関係していると思われています。エル教ができたのは今から千年前、最悪の魔女による世界で初めての”魔女事変”が起きた年と同じですから」
「”魔女事変”?」
なんかまた新しい単語がでてきたし……。いや名前からなんとなく予想はついてるんだけどね。
「”魔女事変”というのは魔女本人による災害が起きた事件のことです。あくまで魔女自身が起こした災害に限定されていて、今日にいたるまで計五回あったとされています」
「今日みたいに残り火による事件は”魔女事変”じゃないってことですね」
「はい。そもそもの被害の大きさも違いますので、そう区分されています」
え、あまり大きくないとはいえ一個の村が壊滅するかもていう被害が小さい? もっとヤバい被害だしたってことあいつら。計五回ってことは一人一回ずつなのかな~……? でもそういう話は一切話してくれなかったから知られたくないってことかな? まぁそれは言ってた魔道具を見つければ分かるのかも。
「少々話がそれましたね。ですがエル・ノーティスは後にカロン王国騎士団初代団長になったミゼーア・ホープと一緒に最悪の魔女を討伐したとされていますので、そのこともエル教が強くなることを推奨する理由の一つだと思います」
討伐…………あれ? 最悪の魔女ってソティスのことだよね? けど本人は封印されてるって言ってたような……。んー、ここらへんの記憶曖昧だからちゃんと聞いておくべきだった。にしてもこれを聞いている魔女たちの反応が一切ないのが怖い。
「ですが、エル教の聖書では魔女は憐れな存在と記されているので、あくまでも仮説どまりになっているのですが……」
リリーさんが重要か分からないような補足説明を付け加える。あー、憐れだと思うなら、戦う存在じゃなくて救うべき存在になるってこと? うーん…………分からん。
「とまぁ、大雑把でしたがエル教については理解できましたでしょうか?」
「だいたいは分かりました。ありがとうございます」
隣にいるリリーさんに頭を下げてお礼をする。うーん、しかしこれは歴史の方も調べていかないとダメかもしれない。文字を読む練習にもなるしね。
「あーいたいた、リリーちゃん。さっきの子の処置は終わったよー。だけど、ちゃんとした治療をするなら王都の方に行かないとだめだね。なにせ骨が数本折れてるからね」
結構な時間リリーさんと話していたようで、ナトちゃんの処置が終わったらしいルトさんが話しかけてきた。ここって教会の空き部屋を無理やり治療する場所に変えてるからね、王都のエル教が運営する病院に行かないとダメらしい。流石のルトさんの混合魔法でも骨を完璧に直すのには時間がかかるし、あくまで病気や怪我を直すだけだからリハビリも必要だとか。といっても十日ほどで完治するらしいけど。
「そうですか……ではご家族の了承が必要ですね。すぐに両親を探しましょう」
「その必要はないわよ」
その言葉と共にカレンと知らない男性と老人、あと少々みすぼらしい恰好をした女性が部屋に入ってきた。女性の方は体の至る所に包帯を巻かれているナトちゃんを見ると涙を流しながら、ベットの方へ駆け寄りナトちゃんの手を握った。恐らくナトちゃんの母親なんだろうな~…………ナトちゃんがあんな風になったのは私のせいでもあるから目を合わしずらい。
気まずくなったのでカレンと一緒に入ってきた男二人の方を観察することにした。男性の方はくすんだ緑色の髪をしていてあごに無精ひげを生やしたおっさんて感じ。あのひげをそれば普通に20代後半ぐらいに若く見えるのに残念。あと特徴的なものとしては、今は春くらいの陽気で温かいはずなのにマントを羽織っている。腰には剣を携帯していてエル教の紋章もあることから聖騎士の一人だと思う。
もう一人の老人は、白髪が目立ち始めたモノクルをかけた初老くらいの男性。白と金色を基調とした格式の高そうなローブを着ているから、この人が”教皇”なのかな? そんなことを考えていると老人がまじまじと見つめている私に気づいたのか好々爺然とした穏やかな笑みをかえしてくれた。
「カレンお嬢様、それにハスト教皇とウェン聖騎士統括まで……」
すごいあのリリーさんが驚いたような声を出してる……。顔は無表情のまんまだけどね。やっぱりあの老人は教皇だったけど、まさかあのおっさんも”聖騎士統括”とは思わなかった。にしてもここに位が高い人集まりすぎじゃない? 大丈夫?
「お二方といらしているということは魔女の残り火については見つけられたのですね」
「えぇ、マオが言っていた道の先にあったわ。後はハストさんに封印してもらって、残り火の方はライハに任せたわ。多分いまごろ王城に向かっているところかしら。で村に戻ってきたら母親らしき女性を見つけてここまで案内したってかんじ」
このときは私は知らなかったが、魔女の残り火を封印する魔法はエル教の中でも一部の人しか使えないようになっているらしい。理由としてはその魔法を扱う難易度が高いこともそうだけど、何より誰でも使えてしまったら、容易にテロができてしまう。封印した本人はいつでも解除できるから、仮にもし王都のど真ん中で封印を解除したときには、街に向かって全方位から魔物進行が起きるという悪夢のようなことになるらしい。だから封印された魔女の残り火は王城で厳重に保管されるらしい。
「でさっきから気になってんのやけど、この女は誰なん? メイド服やけどあんさんが雇うとは思えへんのやけど?」
さっきから私の方をチラチラ見ていたおっさんがカレンに私について聞いてきた。ていうか関西弁? この世界にもあるんだ……
「あー……そういえばウェンさんには言ってなかったわね。ハストさんとルトさんには話したことあるけど」
「なんでハブられてんのワイ?」
「それはウェンがカジノにばっか入り浸って、教会に全然いないからだしー。カレンちゃんはカジノなんてカスが行く場所なんて行かないから」
「そうですね。あなたと違ってカレンさんは真面目に仕事を取り組むので」
「好き放題言いすぎちゃう?」
すご~い。今のやり取りだけでこの三人の関係性が見えるわー。ていうかウェンって人、聖騎士の中では一番地位が高いのにいじられ役だし、なんならダメ人間のにおいがする。
「でもハストさんとルトさんも会うのは初めてね。この子が新しく雇ったメイドのマオよ」
「あ、どうも初めまして安里茉央って言います。気軽にマオって呼んでください」
「こちらこそ初めましてエル教の教皇、ハスト・ゴールドと申します。もしなにかお困りのことがありましたらぜひエル教を頼ってください」
「おー可愛いって言ってたけどほんとだねー。ルトはルト・フラワーていうからよろしくー。こんなんだけど一応エル教の聖騎士だから」
「ほーん新しく雇ったんや。ワイはウェン・トーテムや、よろしく! 聖騎士統括やから敬ってくれてもええんやで」
一人一人自己紹介が終わる。ハストさんは大人として頼りになりそうで、ルトさんは見た目と喋り方から20歳を超えてる大人には見えない。でも、話しやすそうな感じでもある。ウェンさん?知らない人ですね……
「こんなやつのことは敬わなくていいよー。ろくなことないし」
「分かってますよ~」
「え? 初対面……よな? ワイそんなダメ人間に見えるんか……。これでも今日休みなのに出動してきたんやで」
「カジノで負けてたところを私が無理やり引っ張って来たの間違いでしょう?」
「あれは賭けた馬が差せやんかったのがわるい。なに逃げ切られとんねん」
「うわぁ…………」
典型的なダメな大人って感じがする……。一体ハストさんとどこで差がついたんだろ……
「あの、皆さま? 何か忘れていませんか?」
『あ』
リリーさんの言葉で全員が今の状況を思い出す。そうじゃんナトちゃんのお母さんに治療のため王都の方へ連れて行くことを説明しないと。私たちの中で一番最初に動いたのはルトさんだった。
「ナトさんのお母さんですねー」
「はい……」
「私はエル教で治療などを担当しているルトって言います。この度ナトさんの怪我を診させてもらったんですが、骨折が酷くてですねー、王都の方で治療させてもらえたらなーと。十日ほど」
その言葉を聞いた母親はしばらく考え込んでしまった。しばらくの間、魔物の狂暴化が収まるまでは、村の外には出れないから、十日の間は子供と離れ離れになってしまう。親としては心配なんだろう。
「ちなみにお金は……」
「――今回にいたっては魔女の残り火が原因なんで国から八割くらい補償されますけど…………それでも50万ガロンはかかるかなー……」
話続けていくにつれ、ルトさんは段々と声が小さくなっていった。あんまり言いたくはないけど、ナトちゃんのお母さんはそんな金額が払えるほど裕福には見えない。身につけている服も縫い合わせた跡が何か所かあるしね。
「…………とても今すぐには払えませんね」
「……だよねー」
辺りに重い空気が流れる。見ているだけのカレン達も何とも言えないような表情をしていた。
「あのー、その治療費私に払わさせてくれませんか?」
「――え?」
そんな中で私は空気を読まずにそう言い放った。ナトちゃんのお母さんも目を点にしてこちらを見てくる。
「あなたは……?」
「私は安里茉央って言います。この度はナトさんを守り切れず、怪我を負わせてしまい申し訳ありませんでした!!」
私はナトちゃんのお母さんに対して深々と頭を下げる。だってねー、ナトちゃんが怪我したのはほぼ私のせいって言っても過言じゃないじゃん。私が残り火に近づいたせいでナトちゃんは魔物化したわけだし……知らなかったというだけでは済まされないことだ。
「そんな頭を上げてください! あなたがナトのことを見つけてくださったんですよね!」
「そうですが……」
「そうよマオ、それは傲慢というものよ。もしお金をだすならあなたを雇っている私の責務よ」
「それもダメです! 恩人たちにそんなことはさせません!」
んー…………だけど、この場合ってどうなるんだろう? ナトちゃんをこのままにしておくことはできないし……
「じゃあどないするん? このままやとなんもできひんで」
私が思っていたことをウェンさんが代弁する。
「…………それでしたらお金を出す代わりにお願いがあります」
「えっと……それは?」
「――ナトをあなたたちの屋敷で働かせてもらえませんか?」
ナトの母親からこの場が一瞬、静寂してしまう言葉が放たれた…………
ルトの混合魔法の解説はいらないよな……本編で書いてる通りだし。
ちなみにウェンはカジノに入り浸っているカスの関西弁こと【3K】です




