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魔女と王国と声変わり  作者: 睦月はくろ
第一章 転移編
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【太陽】

「ハンターウルフね……、連携されたら厄介だけど二匹だけだし、しかも一匹はほっとくだけで死にそうね」


 私とハンターウルフを断ち塞ぐように立ちながら現状把握をするカレン。私に後ろを向けているから顔は分からないけど、いつもより少し声が低い。怒ってるのかな……?


「カレン……」


「言いたいことは色々あるけど、ひとまず無事でよかったわ」


「言いたいことって説教?」


「当たり前よ」


 ですよねー……。私自身、戦う力なんてないのに無茶ばっかりしたからね。甘んじて受け入れるしかないか……


「私もいますよマオさん」


「! リリーさん!」


 カレンが出てきたところからリリーさんも姿を見せる。私と違ってメイド服に傷や汚れが一切ない。私はハンターウルフに切り裂かれたり、森の中を走っている時に枝かなんかで切ったほつれた部分や泥の汚れが目立っている。私より先に魔物たちがいる森の中に入ったのに……


「ライハは?」


「遅かったので置いてきました。じきに来ると思います」


「そう。それじゃあこっちに集中するわ」


 そう言ってカレンは辺りにいくつもの火球を浮かべる。同時に魔法を並行して発動するのはかなりの高等テクニックなのだが、それを軽々とやってのけるのは、カレンの力量が並大抵ではないことを示している。


『…………リーダー……どうしよ……』


 その光景を見てツインがエースの方を見て指示を仰ぐ。ツインはカレンに勝てないって思っていた。だが、動けるのは自分だけで逃げる場合はエースを置いていくことになる。ツインにとっては、リーダーであるエースを置いて逃げるなんてことはできないと思っている。


『――ツイン……俺と一緒に死んでくれるか?』


『…………うん……リーダーや他のみんなと一緒なら……』


『ならば、もはや指示など必要ない。思う存分闘い、戦士としての誇りを守り、そして死のう!』


『はい!』


 覚悟を決めたツインはカレン目掛けて駆け抜ける。それでも相対するカレンはいたって冷静だった。空中に浮かんでいるいくつかの火球をツインに向かって飛ばす。それをジグザク動きながら躱すツイン。着実にカレンへと近づいているが、その分狙いも正確となっていき、ギリギリで躱している場面も多く見れる。


(はじ)けろ」


『!? あっつ……!!? った…………』


 ツインがギリギリで躱した火球が弾け飛ぶ。はじけ飛んだ火球は数多の小さな火球を散弾のようにツインを襲った。当然ツインは躱しきれずにモロに喰らってしまう。ジュっという音と辺りに肉が焼ける匂いがする。


「終わりよ」


 ダメージを喰らったことで隙を見せてしまったツインに火球が迫る。


『アああァァァァぁぁぁあぁあぁぁぁぁっ!?』


 ツインの絶叫が響き、毛皮はツインを包み込むように火を燃え広がらせた。ここは屋外であるのにも関わらず、さっきとは比べ物にならないほどの肉が焼ける匂いが辺りに充満する。

 火を消すためか痛みによってかは分からないけどツインが地面に体をこすりつけるように転がっている。それでも火が消えることはなかった。


『あ…………み……な………………まっ………………て………………』


 喉すらも焼けて、まともな言葉すら発せなくなったツインは何かを呟きながら死んだ。


「…………」


「どうかしましたかマオさん? どこか怪我が痛むのですか?」


「あ…………いえそんなんじゃなくて」


 ツインの最後の言葉が聞こえてしまった。なんていうか…………一瞬でも共闘した関係だから思うところはある。でも、ハンターウルフたちの声はカレンやリリーさんには聞こえない。私たちは人間……魔物と交わることは決してない。頭では分かってるんだけどね……


「それよりナトちゃんのほうを何とかしましょう。といっても私は魔力切れであまり動けませんが……」


「そうですか……。やはりあそこで下敷きになっている子がナトさんですか」


 私とリリーさんはナトちゃんのもとに近づく。ナトちゃんは大木の下敷きになっているけど、体が潰れているとかではなく、どちらかといえば挟まっているという感じだった。多分魔物になっている時と人間の状態だと体格差が違うから、魔物化が解除されて小さくなったことで奇跡的に潰されずにすんだんだと思う。


「しかしこの木が邪魔で引っ張り出せそうにもありませんね……。ナトさんの状態を考えても、むやみやたらに動かすのは得策ではなさそうです」


 ナトちゃんは魔物化しているときについた傷も人間に戻ったときにも引き継がれるようだった。特に足と左腕の怪我が酷い。一刻も早く手当てしないといけない……!


「お困りのようだな」


「ライハ様。遅かったですね」


「あんたたちとは違って装備が重いんだよ…………仕方ないだろ」


 急に声がしたと思ったらいつの間にか全身に鎧を纏っている人物が立っていた。鎧には王国騎士団の紋章が描かれていて、頭もフルフェイスの兜をかぶっていて顔も見えない。でも、兜の隙間から少し緑色が混じっているシルバーの長い髪が見えていて、くぐもっていて分かりずらいけど、声が高いから女性だと思う。


 初めて会う人だからまじまじと観察してしまったけど、鎧を纏っていてもスタイルの良さが隠しきれてなくて、身長もグラスほどではないけど、女性としては高いから男性に間違えられることが多そうだと思った。


「あんたが例の……」


「な、なんですか?」


「いや別に。先ずは自己紹介っていきたいところだけど……こっちが先だな」


 そう言ってライハ?と呼ばれた人がナトちゃんを下敷きにしている大木に触れると……


「フンっ!」


 手のひらから衝撃波?みたいなものを出して、木を粉々にして吹き飛ばしてしまった。あれは混合魔法(デュアル)なのかな?


「助かりましたライハさん」


「いや、これも騎士の役目だ。っとそうだ、あんた」


「は、はい」


「そう緊張すんな。私はライハ・シアガ。カロン王国騎士団の副団長って言えば分かるか?」


「いえ……今初めて知りました」


 副団長! それってめっちゃ偉いんじゃないの? 声的に結構若い気がしたんだけど…………いや、カレンの時みたいに見た目で判断したら駄目か。


「……あんた正直だな」


「といっても知ったかぶりするのはどうかと……」


「まぁいい。それよりここで何が起きたか説明してくれるか?ちょうどあっちも終わりそうだしな」


 ライハさんが指さしたほうを見ると、カレンがエースに向かって杖を突き付けていた。地面には所々焦げているところはあるが、カレンには傷一つないように見える。逆にエースにいたってはボロボロの体で無理に動いたのか、傷が広がったっぽい。あの暖かそうな黒色の毛皮が今では血の赤色の方が多く見える程だ。


「あー……そのまえにちょっといいですか? やることがあるんで」


「――何をしたいのかは知らんがいいぜ。どうせあの少女の手当が終わるまでは動けねぇし」


「助かります」


 ライハさんにお礼を言って、まだ気怠い体を動かしてカレンの方へと近づく。カレンは火の魔法を展開していていつでもとどめを刺せる状態だが、私はエースに聞いておきたいことがあった。


「すみません当主様。少しよろしいでしょうか?」


「いいけどなんで敬語…………あ、ライハが居るからね。別に気にしなくてもいいわよ。ライハは私が固いの苦手って知っているし」


「別に問題ないが随分と気に入っているのだな。あんたがそこまで心を開くなんて……」


「まぁね」


 そう言ってくれたのでカレンに対して敬語を外す。どうやらライハさんはカレンの過去についても知っているっぽい。


「それでなんだけど、その狼と話したいことがあって」


「は? 魔物と話す?」


「あー……それは……」


 私は自分の混合魔法(デュアル)について説明をした。声を変えることができることと副次効果で魔物の言葉が分かることの二つだけど。実際に松本の声でしゃべって信用してもらった。ちなみに松本の声で話している時に後ろから、ナトちゃんの手当をしているリリーさんの押し殺した笑い声が聞こえた気がしたけど、聞こえないふりをした。


「まぁ別にいいわ。魔物と人間の会話も気になるしね」


「ありがと」


 カレンからの許可もとったことだし、エースと向かい合うような形にする。そんな私をエースはずっと唸り声で威嚇しながら睨みつけているが、死にかけなのがバレバレでささやかな抵抗なんだと思う。こんな状況でも弱いところを見せないようにするなんて……


「別にそんな警戒しなくていいよ。ちょっとだけ聞きたいことがあるだけだから」


『……俺がそれに答えるとでも?』


「できたら答えてくれると嬉しいかなー? 共闘したよしみで」


『俺に魔法を喰らわせたやつが言うセリフか?」


 うん、それはそう。正論を言われてちょっと反応に困ってしまった。にしてもやっぱり頭いいなこの狼。


「…………なんでカレンが来た時逃げようとしなかったの? なんで死ぬと分かってでも戦おうとするの?」


『…………』


 私には理解できなかった。エース程の手練れならカレンの力量を一目で分かったはずだ。それなのに戦いを挑むなんて…………こんなの命を投げ捨てる行為なだけだ。私は今日何回も命を賭けたけど、命を投げ捨てる行為だけはしなかった。


『誇りのためだ』


「誇りが命より重いの?」


『そうだ』


 その力強い返答に今度は私の方が黙ってしまった。けど、エースは語ることをやめない。


『傷ついた誇りが癒えることは決してない。後ろ指をさされ、一生未来に付きまとうのだ』


 エースの言ってることは分かる。犯罪を犯した人が刑務所から出所しても一般人から怖がられたりするのと一緒だ。それでも私は命を選ぶと思う。生きないと誇りを取り戻すチャンスもこないと思ってる。


『――誇りこそ生きる理由だ』


「…………やっぱり私には分かんないよ』


『そうだろうな。質問には答えた、その礼としてはなんだが……、戦士のまま一思いに殺してくれんか?』


「…………分かった伝える」


 こいつ最後まで気高いままでいたいのか……。エースが居ないと私は死んでただろうし、私も筋を通すのが道理ってもんだよね。


「カレン」


「話はできたの? 私には吠えてるだけに聞こえたのだけど」


「うん。それであの狼…………エースが最後は一思いに殺してほしいだって」


「言われなくても」


 そう言ってカレンは杖を空に向かって指すとさっきの火球とは比べ物にならない程、大きな火球を作り出した。その火球は生み出す熱風だけで火傷しそうなくらいで私はライハさんと一緒に巻き込まれないよう離れた。


「すご……」


「あれはお嬢さまの”混合魔法(デュアル)”、【太陽(サンライズ)】の力の一端です。(ヒータ)の魔法と比較しても温度、光など全てにおいて大幅に性能を上回っているのです」


「マジで太陽じゃないですか」


 一思いに殺してほしいとは言ってたけどさ、これじゃ骨どころか燃えカスも残らないんじゃない? そんな疑問を浮かべながら決着の瞬間を待った。


『おぉ! 相手において不足なし!』


「楽になりなさい」


 火球はそのまま高速でエースの向かって迫る。それに対してエースは怯えるでも諦めるでもなく……


『うぉぉおおおおおおぉぉぉっーーーーー!!』


 真っ赤に染まった体で正面から立ち向かった。一歩一歩地面を踏みしめるたびに血が噴き出しても駆けた。火球はエースの体を飲み込み、一瞬光り輝くとそのまま霧散した。火球が霧散したところは草どころか地面が溶岩のように黒く変色していた。


「終わったわ」


「おつかれ」


「ライハもね。あの少女のこと助けてくれたのよね」


「私がしたのは邪魔な木を壊しただけなんだがな」


「十分すごかったですけど」


 あの木、直径五十センチ以上はあったと思うよ。それを片手でフンっ!だからね? 私からしたら十分化け物なんだけどな~。


「とりあえず状況把握とこれからの行動について話し合いましょう」




~~~~~~~~~~~~~~~


 


「へぇ……この子がねぇ……」


 私がナトちゃんが魔物化したときの状況などを説明するとカレンが手当てを終え、今は眠っているナトちゃんの方を見てそう呟く。ライハさんやリリーさんもナトちゃんの方を見つめている。リリーさんは不思議そうな雰囲気を出してるけどライハさんの方は兜をかぶって、顔が見えないから何考えてるかは分かんないけど。あ、もちろん魔女たちのことは言ってないよ。


「となると、この子が魔物化したところの近くに【魔女の残り火】がありそうね」


「私もそう思う」


 そう思うっていうか、その元凶の魔力の持ち主が近くにあるって言ってたんだけどね。


「なら二手に分かれるか。魔女の残り火を捜索するチームと行方不明だったこの子を村に送り届けるチームと」


「そうですね、それがいいと思います」


 ライハさんの提案に全員異論はなかったのでそのまま採用された。ちなみにチームは残り火を捜索するチームはカレンとライハさん、村に戻るチームは私とリリーさんになった。


「それではお気をつけてお嬢様、ライハ様」


「えぇ、そっちもよろしく頼むわね」


「無茶だけはしないでね」


「それマオがいうの?」


「ぐっ……」


 何も言えない……。確かに無茶というか無謀に近いことしたけどさぁ……死ぬ気は一切なかったんだよ。


「ではマオさんしっかり捕まっておいてくださいね」


「なんかデジャヴを感じるなぁ……」


 リリーさんは両手でナトちゃんを抱えながら背中に私がしがみついている状態だ。ナトちゃんは眠っているし、手当てしたとはいえ応急処置程度だからあまり揺らさないように両手で抱えている。一方で私も魔力切れであまり動けないから、私の進むペースで進んだら、時間がかかるからリリーさんにしがみついて移動することになった。ていうかやっぱりリリーさんのフィジカルおかしいよ……


「この状態で魔物と出会っては危険なので少し速度を出しますね」


「へ? あああぁぁぁぁぁぁぁぁっーーーーー!!!?」


 リリーさんがそう言うと前に抱えられながら移動したときより速く駆け抜けていた。風圧とかえぐいし、もうカレンもライハさんも豆粒くらいの大きさでしか見えない。村に戻るまでもってよ私の腕!!




◇◇◇




「大丈夫かあれ?」


「…………まぁだいじょぶなんじゃない」


 マオたちも村めざして行ったことだし、私とライハも魔女の残り火を探して大森林の奥へと歩き出す。ひとまずマオが言っていたナトという子が魔物化した場所を目標にして、歩きながら残り火を探している。魔物化した場所まではマオを追いかける時にできた、へし折れた木が道の目印のようになっているから迷うことはないでしょうね。


「にしてもあれがほんとに魔女に関わっているのか? 私にはただのメイドにしか見えなかったが」


 そういえばライハは王都での魔女の残り火の捜索で指揮を執っていたわね。ただ働きだって後から文句言われたかしら。


「少なくともあの時にマオに魔女の魔力が付いていたのは間違いないわ」


「ふーん…………だが今回のことといい何か無関係ではないんじゃないか? あれが今回の騒動を引き起こした可能性だってあるよな?」


「…………それはないと思うわ。マオが私の屋敷に来てからは一度も外で一人きりになったことはないわね。マオが来る前のことは知らないけれど、もし私と出会う前にここに来て、魔女の残り火の魔力を放出させたとしても、約三週間の間、魔物の狂暴化が起きなかったのはおかしいわ」


「それもそうか」


 私の考えを聞いてライハも納得してあっさりと引き下がった。だけど、今回のことといい何か起きていることはたしかなのよね……。あとでライハと一緒に国王陛下に報告しないとね。


「にしてもお前が誰かを雇ったて聞いてびっくりしたんだぜ。しかも結構信頼してるし」


 私が使用人を雇わないのは王都では有名だからね。そんな反応にもなるか。でもマオはなんだか他と違うっていうか…………今日だって初対面の子どもたちを助けるために自らの命を危険にまでさらすし、人の感情の機微に敏感で手を差し伸べようとしてくれる。本当にお人好しだと思う。


「ふふっ、そうねかなり信頼しているのかもしれないわ。あ、くれって言われてもあげないからね」


「いわねーよ」


 無事に今回の騒動が終わったらなにかご褒美でもあげようかしら。

 

 




混合魔法『太陽』 使用者:カレン・サンライト

炎と光の混合。太陽と同じくらいの超高温の炎を生み出すことができる魔法。どちらかといえば、燃やすというより溶かすの方が近い。


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