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魔女と王国と声変わり  作者: 睦月はくろ
第一章 転移編
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奇妙な共同戦線

『――――なんだと?』


 私の言葉に驚いたように顔をむけ聞いてくるエース。まぁそんな反応になるか。


「あんたらの狙いは私でしょ? このまま私が逃げれば六匹のうち二匹くらい私の方を追ってくると思うんだけど…………、残り四匹でナトちゃんに勝てる? 六匹いてもキツイっていうのに」


 私はナトちゃんのほうを指さしながらエースへ言う。ナトちゃんは今、他の三匹の狼に攪乱されている。速度ではハンターウルフの方が速いから、中々攻撃が当たらないようだ。だが、ハンターウルフたちもナトちゃんの無茶苦茶な攻撃に近づけないようで、攻めあぐねていた。


『…………断る。そもそもお前があの悪鬼と闘う理由があるとは思えん。隙をみて逃げる算段なんだろ?』


 エースが少しの間、思案して断ろうとしてきた。普通はそう思うか。でも私としてはナトちゃんを見捨てる選択肢はないから心配しないでほしいんだけど。にしても、やっぱ賢いなこの狼。多分狂暴化してるより普段のほうが厄介な魔物だと思う。村の近くまで来てたのも、もしかしたら魔女の残り火から離れるためだったりして…………まぁ、今は関係ないか。


「実はあの魔物、私が抱えてた女の子が変わった姿ね。私としては見捨てる選択肢はなくてね…………だから逃げるとは思わなくていいんじゃない?」


「…………」


 私の言葉にまたもや考え込むエース。恐らくだけど、私がナトちゃんを抱えてないことに気づいたっぽい。それにわざわざ命張ってまで助けた子をこんな危険な森の中に置いていくとは思えないだろう。私の勝ち筋はなんとかこの狼たちを使ってナトちゃんと相打ちにすること。ぶっちゃけそれしか生き残る道はない。だからこの交渉は絶対に失敗できない…………!


『――だとしてもお前が戦闘で役に立つとは思えない』


「その戦闘で邪魔とかされたくないでしょ。言っとくけど誰かの邪魔をするのは得意だよ私?」


 正直私がここにいるだけでハンターウルフたちからしたら、かなり邪魔になると思う。だってナトちゃんと闘いながら私の方にも気を配らないといけない。それに、ここには崖上が崩れた時にできた、こぶし大の岩が何個もあるからね。顔面目掛けて投げることも出来ちゃう。いやがらせなら人間の方が魔物よりも何倍も上手だ。


「言っとくけどそれでもあんたらが私の方を狙うって言うなら逃げさせてもらう。その場合あんたらのほうが負けるだろうから漁夫の利させてもらうだけ。――でももし私と共闘するっていうんなら、あんたらの方に攻撃したりしないし、なんなら気を引くくらいなら出来る」


『…………』


「私としてはナトちゃんを元に戻したい。あんたらとしては全力であれと闘えるし獲物に逃げられる心配もない。それに一応私も戦闘に協力する……。交渉としては悪くないんじゃない?」


 さぁどうだ……! 正直これ以上の交渉の手札は思いつかない。決裂した場合は一旦逃げるしかない。でも逃げられるか? この場にいる狼の数は四匹。二匹足りないんだけど、多分どっかに潜んで奇襲のタイミングをうかがってる。ほんとに厄介この狼…………!


『――いいだろう。あの悪鬼も一度は俺たちが獲物とした人間だというのなら…………獲物を逃すのは俺たちの矜持に反する』


「交渉成立♪」


 よかったぁぁぁ……。ほんとヒヤヒヤする。といっても、向こうもこっちもお互いを完全に信用したわけじゃない。でも今一番の脅威になるのはお互いにナトちゃんだ。しばらくの間は協力できる。


 今ここにこの世界で初めての人間と魔物の共同戦線が実現した。


「私は陽動しかできないからよろしくね」


『邪魔さえしなければそれでいい。…………ツイン! サーズ! フォース! 一旦戻れ!』


『! 了解っす!』


 攪乱していた三匹がエースのほうへと戻ってくる。私のほうを時々見て何か言いたそうな顔である。


『この獲物と協力する。異論はないな』


『…………はい』


『…………了解リーダー』


『マジで!?』


 三者三様に声を上げる。だが反対意見とかはでてこない。それだけエースのことを信頼しているのだろう。


『だが、この獲物に気をつかう必要はない。目下の敵はあの悪鬼だが、その過程での誤射は仕方ない』


「おい聞こえてるからな」


『了解っすリーダー!』


 まったく気が休まらない闘いになりそう……。いや命のやり取りしてるんだから気が休まらないのは当たり前なんだけど、後ろから刺されるのはまっぴらごめんだ。


 手短に共闘する旨を言い。ナトちゃんの方へと向き直る。ナトちゃんは大きな翼を広げながら、こちらに向けて唸り声を放っている。


『Grrrrrrrrrrrrr……!!』


「あとどのくらいの時間で戻んの…………?」


 ハンターウルフたちに聞こえないよう呟きながら、これからのことを考える。私にとって一番いい結果はナトちゃんとハンターウルフたちが相打ちになること。ハンターウルフたちが命をもってナトちゃんを気絶させてくれることに持っていくのが私の目的。


 妥協としてナトちゃんが勝つパターンでもいい。もしハンターウルフたちが負けても、ナトちゃんが戻るまでの時間が稼げるからね。あとは私がナトちゃんが戻るまでの時間をなんとかして稼げばいい。まぁ、その戻るまでの時間が分からないんだけど……


 最悪のパターンはナトちゃんが負けるパターンだ。この場合、ナトちゃんを背負ってハンターウルフたちとの追いかけっこがまた始まる。しかも今度は危険な魔物が多い”大森林”のなかでだ。はっきり言って助かる確率は0%といっていい。これだけはなんとしても避けなければいけない……!


『そこだ! ロック!』


『はぁ…………りょーかい……』


『!?』


 まず最初に仕掛けたのはハンターウルフたちであった。ナトちゃんの後ろにある大森林の中から一匹の狼が飛び出してくる。どうやら私と共闘することが決まったあとから、ナトちゃんの後ろをとるようにしていたらしい。後ろからの奇襲に気づいたナトちゃんは、すぐさま腕で嚙みつきをガードする。


『今だサーズ、フォース! 足を狙うぞ!』


 後ろに気を取られてできたナトちゃんの隙を見逃さず、エースは仲間に指示をする。指示を受けた二匹はナトちゃんの両足の足首に噛みつき、バランスを崩そうとする。すごい連携……。これ私と共闘しなくてよかったんじゃない…………?


 私がそんなことを考えているうちに残っているもう一匹の狼、ツインがガードしなかったほうの腕に噛みついている。なるほど、まずは四肢を狙ったっていうわけね。


『GYAAAAaaaaaaaa!?』


『決めろ! ペンタ!』


『承知!』


 嚙まれたことによる痛みからか悲鳴のような声を上げるナトちゃんを横目に、冷静なエースはとどめの指示を出す。さっきロックが出てきたところからペンタと呼ばれた狼が出てきてナトちゃんの首、目掛けて噛みつこうとしている。ペンタの口からは崖から落ちた原因でもある、大木の幹をえぐり取った電気を纏った噛みつきをしようとしていた。


 まっずいっ……! あの嚙みつきならナトちゃんは気絶するかもだけど、最悪の場合、即死しかねない威力がでる。その攻撃だけは止めないとと思い、手に持った岩をペンタ目掛けて投げようとしたが……


『GAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』


 ハンターウルフたちは悪鬼となったナトの力を見誤っていた。悪鬼となったナトちゃんはまるで重りなんて存在しないかのように、腕に噛みついているロックを片腕で持ち上げながら、そのまま向かって来たペンタに向けて腕を振り下ろした。


『がっ…………!?』


『ぎぎゃあああああああああぁぁっ!?』


 振り下ろされた腕は凄まじい膂力をもってロックとペンタを地面に叩きつけた。叩きつけられた二匹は口から血を吐き出してそのまま動かなくなった。


『っ!? 一旦全員退け!!!』


 二匹がやられたのを見てすぐさま退却の指示をだすエース。だが…………


『GGGGGGGrrrrrrrrrrrraaaaaaaaaaaa!!!!』


『!? やべっ!?』


 右足首に噛みついていたサーズが一人だけ逃げ遅れており、ナトちゃんの蹴りの餌食になろうとしていた。


「させない!」


『!?』


 私は手に持っていた岩をナトちゃんの顔目掛けて投げる。私が投げたストレートはナトちゃんの口らへんに当たる。ダメージはないがナトちゃんは私の方に一瞬気をそらした。


『…………ふんっ!!』


 その間にエースがサーズを口にくわえて、引きずりながらその場から離脱することに成功した。流石にこれ以上の戦闘不能はきつすぎる…………!


『怪我はないか?』


『た、助かったっすリーダー…………』


「…………あっちの二匹は?」


『…………すでに死んでいる』


 少し悲しそうな声をしたエースから被害の状況を聞き、私は苦虫を嚙み潰したような表情となる。たった一瞬の攻防でこっちは二匹の犠牲がでた。対してナトちゃんのほうは噛みつかれた場所は血を少々垂れ流すばかりで動きに何も問題はない。私とハンターウルフたちはナトちゃんを見ながら相手の動向を探る。


 マオ、ハンターウルフ対ナトちゃんのラウンド1はナトちゃんに軍配があがった。

 





【雷咬】読み(らいこう)

ハンターウルフが使う魔法。歯に電気を纏わせ、嚙む力を強くしながら噛んだ時、相手に電気を流す。ポケ〇ンのかみなりのキバとまんま一緒。


魔物の中には、固有の魔法を持っているやつもいます。どんなのが出てくるかは作者自身もあまり考えていません。

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