提案
(なんでナトちゃんが魔物に…………魔物がナトちゃんに化けてた……って線はなくはないけど薄いかな? もしかしてこの世界には魔物になれる種族があるとか?)
こちらを睨みつけているナトちゃんが変わった魔物を注視しながら考察をする。ほんとならすぐに逃げ出したいんだけど、相手がナトちゃんである以上なんとか元に戻して、村に一緒に帰りたい。そう思い何か手立てを考える。
『疑問に思ってるわね~マオちゃん』
「グラス!」
『私たちもいますよマオさま』
『ようやく繋がったんでな』
『ママ大丈夫だった!? 怪我とかしてないでしょうね!?』
『はぁー……、せっかくのマオとの二人きりが、うるさい人たちが来たみたいだね』
ぞくぞくと魔女たちの声が聞こえ始める。正直心に余裕がなかった時にいつもどうりな魔女たちと話せて少し心が軽くなる。
「怪我とかは平気……。それよりナトちゃんが魔物になった理由とか分かる?」
『う~んとね~、多分あの子の”混合魔法”が”魔物化”なんだと思うな~』
『そうですね、魂の分類も人間ですし』
「魔物化?」
あー……混合魔法のことすっかり頭から抜けてた……。そっか、そういう混合魔法もありなんだ……
「どうしたら元に戻せそう?」
『あーそうだな……こういうのって大概気絶とか意識を奪えば解除できるが……』
『そうね……でも…………』
ペルリアが言葉を紡ぐ前に魔物と化したナトちゃんが雄たけびを上げながら、腕を横に振りぬいてくる。振り抜く瞬間、爪が伸びたかと思うと、少し距離が開いていた私を切り刻もうとする。咄嗟に私は体を伏せてこれをなんとか回避する。
『GYAAAAAAAaaaaaaaaaa!!』
『まずは逃げなさい!! 今のあの子供は理性がなくて近づくのも危険な状態よ!!』
「そういえばなんで狂暴化してんの!?」
『多分、私の”魔女の残り火”が近くにあるからじゃないかな? 私の魔力を感じるしね』
「あんたのせいか!!」
森の中を全力疾走しながらそんなことを話す。当然ナトちゃんも後ろを追ってきていて、邪魔な木をまるで豆腐を切るかのように爪で斬っていく。あんなの喰らったらシャレになんない……。ていうかソティスのことを責める言い方しちゃったけど、これって私が魔女の残り火を探して、近づいていったことが原因だよね。急に意識が覚醒して狂暴化したの……
「これは余計に責任とらなきゃ……」
とはいってもぶっちゃけ私だけで気絶させるなんて無理ゲーもいいいとこだし。近づいたらそのままスライスか喰われるだけ、魔法は初級のものを一発撃てるだけ。当たっても気絶する威力は出ないし、そのまま魔力切れで動けなくなってゲームオーバー。
「どうしたらいい魔女たち!!」
『とりあえず”魔女の残り火”から離れるべきだね。そうすれば狂暴化は弱くなっていくし、私の魔力の影響がないところまで離れれば時間が経てば、元に戻るだろうね』
「それがベストなんだけ、どっ!?」
魔女と脳内会話している間もナトちゃんは爪を伸ばしてこちらを攻撃してくる。それを横に飛んで回避する。はずれた爪による攻撃は地面をえぐり、大きな引っ掻き傷を残して、爪はナトちゃんの方へと戻っていく。いや遠距離攻撃もあるのずるくない? ていうか足も速い! このまま魔女の残り火から離れたとしても元に戻るまでの時間まで私の方がもたない!
「このままだと私の方がもたないんだけどっ!」
『そうね……なら気絶させるしかないんだけど、魔法はママ初級しか使えないし…………。突っ込んでくるのを利用してどこかにぶつけてみるのはどうかしら?』
「それなんて闘牛士?」
ペルリアの案にツッコミをいれるが悪くないとは思う。私にそんな度胸があればの話だけどね!
「でもやるしかないか……。ねぇあの狼のときみたいに相手の攻撃を見切ることできる?」
正直あの罠を読んでくれたときは助かった。じゃないと私はすでに死んでた。今回もその洞察力が使えればぶつけることも楽になると思う。
『う~ん、それは難しいかな~』
『そうね、あれは狂暴化して無茶苦茶に攻撃してるから読めないわね。あの狼どもは正気でよく考えて戦うタイプだったから……』
『あたしとトルネはそもそも戦闘センスが他の奴らと比べて低いからそういうの分かんねぇし』
『ですね……』
『待って、私はそれ知らないんだが? なんかマオと秘密を共有してるみたいでむかつくのだが?』
どうやら今のナトちゃんの攻撃は魔女たちにも読めないらしい。なんか一人むかついてる奴いるけど。
「とりあえず私たちが落ちたところまで戻る! あそこって崖で岩壁もあったよね! それにあの場所でナトちゃんの意識が戻らなかったってことはソティスの魔力の影響の範囲外でもあるよね!」
『そうだねそれがいい。あとどんな攻撃が来るかは読めないけど躱すタイミングなら私が教えられるだろうね』
「マジ!? よろしくソティス!!」
たなぼたってやつ? でも幸い魔物とかを警戒しながら進んでたから、そこまで崖のところとは離れてない。走りながらナトちゃんの攻撃を2,3回躱せれば着くくらいの距離だ。
『GAAAAAaaaaaOOOOoooooo!!』
「もうちょっと待ってねナトちゃん……!」
時折くる爪を伸ばしての攻撃をかわしつつ、全力疾走していると目の前に見覚えのある崖が見えてくる。そのまま到着すると岩の壁を背にしつつナトちゃんを待ち構える。ナトちゃんは目に理性を写さないまま私に向かって尖った角を向け突撃してくる。途中何度も木にぶつかっているが、そのどれも粉砕してまったく勢いを落とさないまま迫ってくる。
ナトちゃんが近づくにつれ私の顔は強張り、心臓は早くなっていく。こわい。めっちゃこわい。死という存在が身近にあることで私の体が硬直しないことを祈るしかない……。タイミングを外せばそのまま死ぬ……
『大丈夫さマオ。私がいる。タイミングは任せてほしい』
「ソティス……」
『おい、あたしたちも見守ってるんだ。できるはずだ』
『そうですマオさま! マオさまの勇姿をしかと目に焼き付けます!』
魔女たちの言葉を聞いて、少しだけ体の力みがとれた気がする。…………なんていうか一人じゃないってだけで勇気をもらえる。育ての親も友達も誰も私を気にかけなかった。でもこの世界にきてカレンやリリーさん、魔女たちに優しくされて…………一緒にいてくれてすごく嬉しかった。
魔物となったナトがマオに迫る。マオの目ではその姿が鮮明に分かるほどまでに
「そんな人たちの前で、情けない姿を見せられるかぁぁぁぁっ!!」
『今だ!! マオ!!』
「うおおおおおおらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ソティスの掛け声とともに勢いよく横方向へ飛び込む。私という障害物がなくなったナトちゃんは、そのまま岩壁へと突っ込んだ。突っ込んだ衝撃で岩が崩れ、岩壁には大きなひびが入る。
『GAAAAAAAAAaaaaaaaaaaSSSSSSUUUuuuuuuu!?』
森には岩が崩れた音とナトちゃんの悲鳴のような鳴き声が響く。私はその場にへたり込み、ホッとした表情をした。成功したぁぁぁ…………。もう二度とやりたくないこんなこと…………心臓に悪すぎる。手を胸に当てながらそんなことを考える。
「どうなった……?」
ナトちゃんがぶつかった方に目をむける。大量の土煙が舞い上がっていて、ナトちゃんの姿は見えない。数秒止まって観察していると土煙から人型の影のようなものが見えた。
『GAAAAAAAAAaaaaaaaa!!!! GUGAAAAAAAAaaaaaaaaaaa!!!!』
土煙の中から悪鬼となったナトが姿をあらわす。ぶつかる前と違い顔を大きく歪ませて、マオのことを睨んでいる。それはぶつかった痛みによるものかマオの罠に引っかかったことによる怒りなのかは分からないが…………
「ま、そんな甘くないよね…………」
正直な話こんなんでナトちゃんを気絶できるとは思ってなかった。木に何本もぶつかっても粉砕できるほど肉体も丈夫だしね。でもダメージはちゃんとあったっぽい。頭から血を流しているしね。
この場所に戻ってきたのにはナトちゃんを岩壁にぶつけることの他にも理由があった。あのまま追いかけっこしてたら速度の差で間違いなく捕まっていた。かといって真っ正面から戦っても勝ち目はない。はっきり言って詰んでるといってよかった。ならどうするか? 答えは簡単だ
森の中からいくつもの足音が聞こえる。こちらに向かってくる足音。この場所に人……いや、獲物が居たと知っている魔物が姿を見せる。
『まさか動いていないとはな。…………だが、横取りされそうになっているのは気に食わんな』
「そうなんだよねー…………あんたらはどうするつもり?」
姿を現したハンターウルフのリーダー、エースと言葉を交わす。エースの後ろからは三匹の狼の姿がある。顔で区別はつかないから誰が誰かは分からないけど。
『やはり俺らの言葉が分かっていたな』
「やっぱ気づかれてたか」
『無論。そして質問の答えとしてはお前を喰らう。俺らは狙った獲物を逃さない』
「そう……。でもあっちはあんたらもターゲットみたい」
急に現れたハンターウルフにナトちゃんは目を向けると、そちらに対しても威嚇のような顔を向ける。完全に私もろともハンターウルフたちを貪り食うつもりだ。
『GUrrrrrrrrrrrrrrrr……!!』
「はっきりいって勝てる?」
『…………認めたくないが厳しいだろうな。あれの力は並大抵ではないと見た』
まぁ、そうだろうね。ハンターウルフたちの一番脅威な部分は群れによる連携で、一匹一匹の強さはそこまでだと思う。ナトちゃんからしてみれば赤子がいっぱいいるだけ。各個撃破されたら間違いなくナトちゃんが勝つ。
「そっか…………ならさ…………」
エースの分析を聞き、私はハンターウルフたちにむかってある提案をする。
「――私と共闘しない?」
混合魔法『魔物化』 使用者:ナト・ゴート
闇と土による混合。自らの体を魔物の姿に変えることができる。変わる姿は能力者によって違う。ナトの場合は”悪鬼”。狂暴化していない状態ならば手だけ変化みたいに、体の一部だけを魔物化することもできる。




