一難去ってまた一難……?
「――はっ!?」
少し湿り気がありひんやりとした地面。太陽などほとんど見えない程生い茂っている森。そしてその近くには崩れた崖上だったであろう岩の数々。そんな中でマオは目覚める。
え……は……? 私なんで生きてんの? あの高さは絶対死ぬよね?…………とりあえず、いつまでも寝ているわけにはいかないから体を起こして……。えぇ……なんで? 怪我がないか見たけど、小さい擦り傷とかを除けばアースを放り投げた時につけられた腕の怪我だけで、落ちた時についたような怪我が全くない……
あまりの不自然な現象と自らの体の状態に鳥肌がたつマオ。もし自分の身になにか変なことが起きているのかもしれないと気が気でない。
「どのくらい気を失ってた……?」
私は立ち上がって、辺りを見回す。私と共に落ちてきた岩の方を見ると反り経つ岩壁がある。ここから落ちたのか……と思い、上を見上げた。
「ん? 今も小粒程度の岩が落ちてきてる……。ほんとについさっき崩れたって感じ……、じゃあ気を失ってたのは数分ぐらい?」
そのあと太陽の位置を確認したけど全然変わってなかったから予想はあってそう。ていうか木が多すぎて見えにくかった……
「助かったのはいいとして、次はどうすれ…………!! そうだ!! ナトちゃんは!?」
あの絶望的な状況から生き延びたことですっかり忘れてた! どこにいるんだ!?
ナトちゃんを見つけるため、自分が起きた場所の近くを探すと、案外早く見つかった。ナトちゃんは今も意識を失ったままだが、私と同じように落下による怪我はなく、呼吸もちゃんとしていた。
「よかった…………ほんとによかった…………」
ていうか寝顔めっちゃかわいい……。ほっぺとかやわらかそう……。ツンツンしてもいいかな?
「いけない! そんなこと考えてる場合じゃない」
頭を振って煩悩を振り払うとこれからの行動について考える。といっても進むか留まるかの二択なんだけど。私の考えだと留まるほうを選ぶ方が生存率が高いんじゃないかな~。だってこの森って危険な魔物が多く住みついてる”大森林”でしょ。もし、魔物と出くわしたら今度こそ死にそうだし…………、それに崩落があったと誰かが気づいていたら、人が来てくれるかもしれない。
そう思いここに留まろうとするマオの視界にあるものが写った。あの崩落から免れたハンターウルフの群れが崖上でマオの方を睨みつけている。いや、正確には遠すぎて睨んでいるかは分からないのだが、六匹いる全員がマオとナトのほうを見ているのだからそう思っても仕方ない。
ハンターウルフたちは私が見ているのに気付いたら、すぐに崖上の林の方に姿を消した。――これ完全に私たちのこと諦めてないよね? 食べる相手の位置を把握したよね?
あー…………これは移動しなきゃいけないじゃん。このままだと下に降りてきた狼たちとまた鬼ごっこじゃん……。
私はナトちゃんをおんぶしながら”大森林”へと入っていく。この場所から離れるには森の中に絶対に入らないといけないからね、仕方ない。はぁ……これからどうしよ……。あてもなく彷徨ってたら魔物に襲われるだけだろうし、仮に運が良くて魔物に会わなかったとしても、自分が今どの場所にいるかなんて分からないから最悪何日も彷徨って餓死になったり……?
「うー……おそろし……。早いとこ何か考えないと。でも正直何も思いつかないんだよね……。せめて他の人の意見とかもききた……」
ん? まてよ……。そうじゃん魔女たちがいるわ! なにか案をだしてくれるかもしれないし、もしかしたらこの森の道を知ってるかも。…………さすがにそれは高望みか。あとは私たちがなんで生き残ったのか分かるかも。私のことはずっと見てるらしいし。あ、さすがに風呂やらトイレなどのプライベートは見させないようにした。そのことを言った時、全員目をそらしたけど私がやったらしばらくは口もきかないし関わらないって言ったら頷いてくれた。
というわけでおーい魔女たちー!
私は心の中で魔女たちを呼ぶが、返ってくるのは静寂だけ。あれ?おかしいな、いつもなら呼ばなくても話しかけにきたりするのに……。
「なんでこういうときだけ……。あの狼に囲まれてた時には見てたはずなのに……」
いや、明らかにおかしい。いいのか悪いのか分からないけど、あいつらが私の呼びかけを無視するとは考えにくい。これって多分……
「今は私の状況が見れないってこと?」
けど唐突すぎる。私が起きてから特別なことなんてしてないはず
「…………もしかして”大森林”に入ったことが原因?」
私は急にある仮説を思いついたことで足を一瞬止めてしまった。そんなスマホの電波みたいなことある? だけどそれくらいしか考えられない。でも、この仮説が当たってたとしてどうすればいいんだ?村に戻るよりも大森林を抜けることを優先する?いやいや、どのくらいの広さかも分かんないし、森の出口も分かってない。まぁ一つの案としておいておこう。
マオの思考が一つの区切りとなった時、どすっどすっという音と木の枝が何本も折れる音が聞こえた。
「!!」
私はナトちゃんと二人で身を隠せそうな茂みを見つけそこへ身を隠す。ここは魔物たちが跳梁跋扈している場所。近くに人がいるかもとは考えにくい。一番に考えることは最悪のパターンだ。それに足音からしてあきらかに人の足音じゃない。
私がナトちゃんを抱えながら口に手を当てて息をひそめていると、徐々に足音が大きくなりそれは姿を現した。私を余裕で覆い隠せる毛皮に覆われた図体を持っているのに、ハンターウルフよりも大きく鷲のような、いや鷲の爪といっていいほど内側に湾曲している爪。尻の部分からは、これまたテイルズエイプよりも本数の多い五本の蛇の頭がついた尻尾があった。肝心の頭の部分はほとんど熊と同じだがその様子は普通ではない。白目をむきつつ、口からは数多の動物たちを喰らってきたのであろう生えそろった牙を覗かせ、よだれをだらだらと垂らしていた。
――多種多様な魔物が生息する”大森林”その中でも怒らせてはいけない存在とされている”キメラベア”の姿がそこにあった。
いや…………いや、いや、いや、いや!? なんでこんな時に近くにいるわけ!? 運が悪いってレベルじゃないでしょー!
必死に息をひそめる。恐怖からか過呼吸になりそうになるのを力強く口に手を当て抑える。
『グオォォォォォォォォオウッ!!』
キメラベアが唸り声をあげる。私が言葉を分からないってことは狂暴化してることに間違いなさそう。猿の魔物の時も分からなかったしね。様子も明らか変だし。多分ハンターウルフよりも逃げやすいとは思うけど、一発でも当たれば即死になりそうだし、体力は残しておきたい。どうかこのまま気づかずにいて……!
キメラベアは辺りをゆっくりと移動しており、時折顔を振って何かを探しているように思える。もしかして私たちを探してる? いや、初めて会うし、理性もなさそうだから獲物を探しているだけのはず……
私の予想通りかは分からないが、キメラベアはそのままどこかへと消えていった。
「プハッ!…………ハッ!…………ハッ!…………」
手を口から離し、茂みのなかでへたり込みながら浅い呼吸を何度もする。死ぬかと思ったー! いや、狼の魔物に追われてたときのほうが死ぬ確率は高かったけど、図体の大きさっていうのはそれだけで威圧感がある。一目見ただけで勝てないってなったからね。
「村を襲ったあと森の中に戻ってきたのか? にしても狂暴化してたなぁ……。もしかしてこの近くに”魔女の残り火”があるとか?」
それならば今いる場所だけ覚えといて、離れた方がいいかな。また、狂暴化してる魔物と会うことになりそうだ……し……。いや…………”魔女の残り火”があるってことは、もしかしたらそれを回収しに騎士団の人とかが来るかもしれない。私はけっこうな時間追われてたしね。騎士団の人も、もう村に着いてるでしょ。それに当てもなく森の中を歩くより確実に助けが来る選択でもある。
「リスクは大きいけど、行くしかない……!」
私はナトちゃんを背負うとキメラベアが来た方へとゆっくりと歩を進めた。
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「けっこうな距離歩いたと思うけど、それらしいの見つかんないな……」
私は景色が一向に変わらない森の中を”魔女の残り火”を探しながら歩いていた。魔女の残り火って黒い結晶って話はリリーさんから聞いてたんだけど、全然見つかんない。森の中にそんなのが落ちてたら目を引くとは思うから見落としはない……はず……。
実のところ魔女の残り火を探し始めてから今にいたるまで、狂暴化した魔物は何回も見た。理性がないからか暴れていたり、鳴き声をあげていたりしたから私の方が先に見つけることができて、その度に隠れてやり過ごしてきた。うーむ、魔物の数が多くなってきてるから間違いなく近くにあると思うんだけど。
「――う…………あ………………」
「!! ナトちゃん……! 目が覚めた……?」
突如私の背中がもぞっと動いたと思うとそこから寝起きのような可愛い声が聞こえた。ナトちゃんが目を覚ましたっぽい。正直、人一人おんぶしながら歩くのは結構体力がいる。遭難している身としては体力は大事なので、いっしょに歩いてもらえるとありがたい。…………そういえば、ナトちゃんは私と初対面だなぁ……。とりあえず魔物たちが居なさそうな場所で一旦休憩してお互い自己紹介でもする? ナトちゃん視点だといつの間にか大森林にいて、知らない人におんぶされてるってことだし。私は決して怪しいものではないです!
そういう考えがあってマオは少し開けた場所を見つけ、安全を確認して休憩しようとした。その間もナトは意識がはっきりしておらず、顔を青くして「う……」や「ん……」と声を出すだけだった。
「ん? 大丈夫ナトちゃん? もしかしてどっか具合悪いとか……」
……そういえばナトちゃんって魔物が荒らしたような場所でなぜか倒れてたよね。けど、怪我とかは見たけどなかったし……、なにか病気の発作みたいなのがあってそれで逃げ遅れて倒れてたのかな?
そんな風な考察をしながらナトちゃんを介抱しようとしてると……
『――!! ようやく繋がった! 大丈夫かいマオ!』
「あれ、ソティス? 出禁中じゃなかったっけ?」
頭の中にトルネによって出禁中だったソティスの声が聞こえる。なんか久々に声を聞いた気がする。二週間もたってないはずだけど。
『解除されてね……、それよりマオが酷い目に合ってるって聞いて、マオの”魂”と繋げようとしたんだけど、つながらなくてね。くそっ、あれにあんな副作用があったなんてね……。グラスも初めてやったから気が付かなかったみたいだね……」
「いや言い方……。ていうかどゆこと? なんか魔女たちと話せなかったわけ知ってるの?」
『あぁ知っているね。……だが、それよりもまずその少女から逃げたほうがいい』
「は? いやなんで? そんなことできるわけ……」
『……その少女をよく見るんだ』
そう言われてナトちゃんの方に目を向けると、ナトちゃんの体が変容していた。体は大きくなっていき皮膚は黒く変色していく。背中からは大きな蝙蝠のような翼が生え、細長い尻尾まで生えた。手は特に肥大化して細長く伸びた指からは生物を切り裂かんとする爪が顔をのぞかせていた。頭からは尖った角が生え、顔はもはや人より魔物に近いものとなった。
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaa!!』
人間より少し大きいサイズまでなると肉体の変容をやめ、咆哮をあげる。そして理性のない目で私を睨みつける。私は何が起こったか分からず呆然と立ち尽くしたままナトちゃんの体が変わっていくさまを見つめるしかなかった……
――ナトは村の老人どもから毛嫌いされてんだ!
――村の老人どもはナトのことを化け物って言ってる……
私の脳内にアースが言っていた言葉がよみがえる。聞いたときはなんでか分からなかったけど、その理由が少しわかった気がする。
私はこれからの展開を予想しつつ、冷や汗を滝のように流しながら”悪鬼”と対峙した……
またもや主人公に不運が……
くそっ、こんな展開にしたのは一体どこのどいつだ……(すっとぼけ




