副次効果
結界の方へと向かうと、見回りをしていたほとんどの村の人が、武器を構えながら結界の外を見ていた。私と神父も同じように結界の外を見ると、三本の尻尾をもつサルの魔物が結界を爪で引っ掻いたり、三本ある尻尾を活かして結界に叩きつけたりしていた。初めて見る魔物に私は本能的な恐怖……、恐らく生存本能ってやつがずっと警鐘を鳴らしている。震えそうになる足に力を入れてサルの魔物と向き合う。リリーさんを呼ぶかは神父さんと話し合って決めよう。
サルの魔物は誰が見ても、明らかに狂暴化している。サルの魔物は結界の中に居る人を見て、顔を強張らせて威嚇していた。
『ゴッググッ……キーッ! キーッ!』
「? 今の……」
「どうかしましたか?」
「いや……、なんかさっきの魔物の声が二重に聞こえたような……」
「?」
うーん、気のせい……かな……。それよりも今は魔物を追い払うかしないといけないしね。
「それにしても”テイルズエイプ”ですか……、この魔物も大森林からは出てこないはずなのに……」
神父さんが口に手を当てながらそんなことを言う。やっぱり”魔女の残り火”が原因なのかな……。あとでソティスに文句言っておこ。
「尻尾には気を付けてください。あの尻尾は巻き付けば大人の男の首をへし折るくらいの筋力があります」
「なにそれこわい。……結界は大丈夫ですか?」
「キメラベアより力は弱いので、この魔物だけなら最低二時間はもつでしょうが……、あの魔物の鳴き声で他の魔物が寄ってこられると……。――最悪、結界が割られることもかんがえるべきかと」
うん、非常にまずい状況だねこれ。もう既に鳴き声は周囲に響き渡ってるし……、こればっかりは近くに魔物がいないことに期待するしかない。私と神父、それと村の大人たちと一緒に対応を話し合う。
「どうする? 戦うか?」
「テイルズエイプはキメラベアより脅威度は低いですが……、如何せんすばしっこいので、討伐しにくさで言えば、もしかしたらキメラベアより上かもしれません」
どうやら、テイルズエイプはその素早い身のこなしから、中々攻撃が当たらないらしい。しかも、周りには木がいっぱい生えているので、私たちにとっては障害物だけどサルの魔物にとっては、機動力を上げる足場となるらしい。
対して、キメラベアは、パワーはあっても動きは鈍重だし、怒らせた相手を殺すまで追いかけてくるらしいので、逃げることはないらしい。
「これ以上、怪我人は出したくありません……。もしかしたら死ぬかもしれませんし……」
「じゃあ、あの魔物が帰るのを祈るしかねぇのか?」
「いやー明らかに狂暴化して、私らを食べる気しかないですよあれ」
帰るなんてとてもじゃないけど思えないね……。私たちが話し合っている今も、結界が薄い場所を探しているのか、あっちこっちに爪で引っ掻いてるし……
「……結界の中からでは外に魔法を打つことができません。私が結界の外に行きあの魔物を倒してきます」
そう、結界には外からの魔物による攻撃が通じないように、内側からの魔法による攻撃も防いでしまうという特徴がある。ちなみに物などは普通に通り抜けるが、それで倒せたら苦労はしない。ちなみに魔法で出した岩による攻撃でも防いでしまうらしい。どういう理屈なんだろう……
「!? それだけは駄目だ神父さん! もしあんたが死ねば結界が消えちまう! それに魔法を使うにしたって魔力を消費しちまう。それは、結界が維持できる時間が減るってことだ、認められねぇよ。出るなら俺たちだ」
「テイルズエイプなら私の魔法で一撃で倒せます。それにこの村で魔物を倒せるような攻撃魔法を持っているのは私だけです。あなたたちでは接近戦で危険が伴います!」
「一撃で倒せるって、当てられたらの話じゃねーか。周りは木々が生い茂ってて邪魔だし、外せば外す分だけ、魔力が減っちまうだろ」
村人と神父さんで意見が衝突する。けど、両方の意見には双方明確にメリットとデメリットがある。
村人たちの意見では、メリットとして神父さんが結界の維持に専念できる。しかし、接近戦しかできない村人たちだけでは多くの人が怪我をするだろうし、時間がかかってしまう。時間が多くかかってしまうと、他の魔物が村にやってきて、手遅れの状態になる可能性がある。
神父さんの意見では、神父さんが結界の外に出て、魔物を討伐する。これならさほど時間がかからないし、怪我をする人も最悪神父さん一人だ。だが、神父さんが魔法を使う分だけ結界の寿命が減るし、神父さんが死ぬと結界が消えてしまう。そうなると、村が滅びる可能性だってある。
両者の主張を聞いて私は頭を悩ませる。どっちの案を選んでもかなりのリスクが伴ってしまう。できればどっちの案も選択したくない。なにか……なにかないのか、この状況でリスクも少なく安全にあのサルの魔物を倒す方法……。あー……多分今、人生で一番頭使ってるかもしんない……。こういう時って案外簡単な策で倒せたりするよね……。
そこまで考えていると、私はある策を思いつく。子供でも思いつきそうな簡単なものだ。本当に倒せるのかって思ってしまうほどに。でも私は……
「もしかしたら、もっとノーリスクにあいつを倒せるかもしれませんよ」
「! ほんとうか嬢ちゃん?」
「! 本当ですかマオさん?」
村人の人と神父さんの声が重なる。
「はい。とても簡単な策ですが……、――皆さん、私に賭けませんか?」
私はこの場にいる人たちにそう言い放った。
****************
「ほんとにだいじょうぶなのか……この作戦……」
私と一緒に大きな黒い布を広げている気弱そうな男性がそう呟く。まぁ、そう思うのも無理はないよね。提案した私だって失敗する確率の方が高いと思っているし。でも、あのサル狂暴化してるから、こっちの狙いに気づかなそうだし。
「駄目だったら駄目でいいんです。その場合はリリーさんを呼ぶことになっていますし。誰も怪我をしない、誰も死なないという結果が大事ですから」
「……そうだな」
全ての準備を終え、サルの魔物と結界を挟んで対峙する。サルの魔物は姿勢を低くして唸り声をあげてこちらを睨んでいる。それを見て私たちを心配そうに見つめる村人たちや、少し離れた場所で待機している神父さんもこちらの様子をうかがっている。チャンスは一回だけ……、タイミングも重要……、成功か失敗か……、白黒つけよう。
私と気弱な男性は布を広げたまま結界の方へ近づく。結界まではもはや目と鼻の先のところまでくると、結界まで五メートルくらいの間隔を空けていたサルの魔物は私たちに向かって飛びかかってきた。まぁ、サルの魔物からしたら鴨がネギしょって来たと思うよね、結界の外に出る気はないけど。私たちはあのサルが空中で身動きがとれる状況じゃないことを確認すると、持っていた黒い布をサルの魔物に覆いかぶせるように放り投げた。
『!?』
サルの魔物は布を躱すことができずに、被さった布から出ようと、じたばたともがく。結界が物を通り抜ける性質を利用した一手。多分あの魔物も平常時なら理性が働いて、慎重に動いてたんだろうけど、狂暴化で理性がなくなっているからこそできる一手だった。
離れた場所で見ていた神父さんが、サルの魔物が身動きが取れないことを確認すると、魔力を練りながら結界の外に出て、練っていた魔力を使って魔法を行使した。
「”スローフラッシ”!」
神父さんが何本かの光の矢を身動きの取れない魔物へと放つ。
『!? ギギャァァァァァッ!?』
布によって視界が奪われているサルの魔物は、何が起こったかも分からずに体や頭、尻尾に光の矢が突き刺さり、そのまま絶命した。近くにいる私と気弱な男性は魔物が絶命したのを見ると、急いで結界の外に行き、魔物の死体と布を回収する。どうやら魔物の血の匂いなどで他の魔物が寄ってくることがあるから、それをを防ぐらしい。村の人たちが用意していた焚き火で魔物の死体と血がべっとりと付着した布を燃やす。
「やった……、魔物を倒したぞぉーーーっ!!」
『おぉぉぉうし!!』
脅威がなくなったことでほっとしたのか、一連の流れを見ていた村人の一人がそう叫ぶのを皮切りに、他の村人たちも歓喜の声を上げる。なんか一種のお祭り状態になってる……。私が村人の熱量におされている時、結界の中へと戻ってきていた神父さんが私に向かって……
「ありがとうございますマオさん。あなたのおかげで余分な魔力を使わずに魔物を倒すことができました」
「おう! そうだな。嬢ちゃんのおかげで助かったぜ! みんな嬢ちゃんにお礼を言いな!」
よく通る声をした村の男の人がそう言うと、村の人たちが私に向かって次々とお礼を言いだした。ありがとうやら村の英雄とか口々に感謝を述べられ少し顔が赤くなってしまう。
「いや……その……結界もありましたし、なにより神父さんが攻撃魔法を持っていたからできた策で……」
「しかし、マオさんの作戦がなければきっと、何人か怪我人がでたと思います。本当にありがとうございます」
神父さんや何人かの村人からお辞儀をされる。
「えっと…………どうも」
恥ずかしがるのを我慢しながら感謝を受け取っておく。……やっぱり感謝されるのは慣れないな。もっと笑顔で言えたらなと思いつつも、心はとても温かかった。
私たちが魔物を倒したことに喜んでいると、神父さんに近づく二つの小さな影があった。
「教会のおじちゃん……」
「どうしました君たち?」
それは、私がアースと呼ばれる少年を神父さんに引き渡した時に、神父さんと遊んでいた二人の子どもだった。魔物は倒したとはいえ、子どもたちは教会から出ないよう言っているので、外に出てきたことに神父さんが不思議そうな顔をしていると、泣きそうな顔になりながら二人の子どもは教会で何があったのかを話始めた。
「アースが外に行っちゃって……」
「私たちおじちゃんのお手伝いできなくて……」
「!?…………そうですか大丈夫ですよ。むしろ私に教えてくださりありがとうございます」
アースが外に出たと聞いて、神父さんや近くにいた私と村の大人たちも驚きを隠せないでいた。だけど、神父さんはすぐに冷静になり、優しい言葉を子供たちにかけながら二人を抱きしめた。背中をさすったりしながら二人が落ち着くのを待った。そのおかげで子供たちも安心したのか、まだ表情は暗いが涙目ではなくなった。
子供たちを教会の中に戻し、村の大人たちと何が起きたか整理する。
「アースが結界の外に出たってほんとうか!?」
「一応まだ疑惑ですね……。子供たちは教会の外に出たとは言っていましたが、結界の外に出たかは見ていませんので……」
子供たちは教会の中に居とくという言いつけを守っていたので、結界の外に行ったかは見ていないらしい。…………絶対、ナトって子を探しに外に行ったと思うけどね。
「すみません……私のミスです。アース君を見張るのに大人の方だと、あの子は余計に意固地になって外に出ようとすると思ったので…………」
あー…………うん。絶対に反発するだろうなぁ……あいつ。一応アースって村の子供のなかだと年上で、ガキ大将気質もあるから面倒見は悪くないらしい。俺についてこい的な? だから、年下の言葉なら言うことを聞いてくれるとも思ったらしい。結果は残酷だけど。
「とりあえず、村の中を探し回ろう。まったく馬鹿なことを……」
私たちはアースがまだ村の中にいる可能性を考えて、手分けして探すことになった。というよりそれぐらいしか出来ることがない。結界の外に探しに行こうとしても、魔物がうろついている中、どこに行ったかも分からないアースを、やみくもに探すことはできない。行方不明になったナトって子と同じ理由だ。
「おーい、アースくーん!」
「おい! アァーース出てこぉい!」
「いや、そんな風に威圧的だと出てくるものも出てきませんよ……」
「あ"ぁ”…………あー……すまねぇ少し気が立ってた。おぉーい! アァーーースゥ! 居たら返事しろぉ!」
探し始めてから数分、村の人たちと探し回ったがアースは見つからない。小さな村でそこまで大きくないし、大人たちのほとんどが探しているのに見つからない。まぁ、私たちのなかでアースが結界の外に行ったという結論にいたりそうになった時……
ワオォォォォォーーーーーン!!!!
狼のような遠吠えが私たちの耳に届いた。
「今のは……」
「魔物の声……ですね……。しかも、この声は……」
遠吠えを聞いた神父さんは何かに気づいたのか、頭を抱えている。多分この遠吠えをした魔物を知っているんだと思う。神父さんが頭を抱える程って……、もしかしたらキメラベアより強い魔物なのかもしれない。そんなことを考えていた時……
「おい! あれって……」
村人の一人が結界の外に何かを見つけたようだった。だが、その様子は信じられないものを見たというかんじで、一方を指さしていて声も震えていた。アースを探していた私や村の人たちは、そのただならぬ様子からその指をさしているほうを自然と見てしまった。
「――はぁっ…………はぁっ…………っ!」
私たちの目に飛び込んできたのは、息を切らしながら必死の形相で走るアースとその後ろを獲物を狩る目をした狼の魔物の群れ。狼の魔物は元の世界にいた狼より少し大きく、その毛皮は黒く染まっており、所々に黄金色をした毛が混じっている。見えている範囲では狼の魔物は六匹おり、一匹は他の五匹と比べて少し大きい。多分あの狼が群れのリーダーなのだろう。
「やはり”ハンターウルフ”っ……!」
神父さんが狼の魔物の群れを見て、汗をにじませながらそのように呟く。どうやら、あの狼はハンターウルフというらしい。神父さんの表情も苦々しいものになっていることから、あの魔物がどれだけヤバい存在かが分かるだろう……
「キャアァァァァァァ!?」
「!? おいアース! もっと速く走れ!」
「不味い追いつかれそうだ!」
状況を理解した村人たちは、様々な反応を見せた。悲鳴を上げる者もいれば、アースに向かって檄を飛ばす者も居た。だが、その場にいる全員は思ったであろう……、――アースの足じゃ追いつかれる。
「はぁっ…………はぁっ…………がっ!?、ぐぅっ……」
必死に魔物の群れから逃げようと林の中にある舗装されていない道を走っていたアースは、時折後ろを見ながら魔物の群れとの距離を確認していた。そのせいか隆起していた木の根に気づかず転んでしまった。その瞬間、アースの顔は絶望に染まった。
「!? マズイ転びやがった!」
「くっ……私が助けに行きます!」
「無理です神父の人! 助けに行ったとしても囲まれて逃げ場がなくなるだけです!」
「ではどうするんです!! 相手は”ハンターウルフ”なんですよ!!」
神父さんがアースを助けに行こうとしているのを村人たちが止めている。だが、村人たちの言ってることは正しい。相手は複数いて、たとえ神父さんが魔法で一体の狼を倒せたとしても、残りの五体の狼がその前足に備え付けられた爪で神父さんもろともアースを引き裂くだろう。だが、このまま黙って見てるわけにはいかないと、神父さんはそれでもアースのことを助けに行こうとしている。
「あ…………あぁ…………」
アースは完全に腰を抜かしてして、その目からは涙が溢れ出していた。既にリリーさんを呼び戻すために狼煙を上げているが、余程近くに居ないと間に合わないだろう。それに今回はあのサルの魔物みたいに一匹しかいないわけじゃないから、あの策は使えないし、そもそも結界の外に助ける人がいないことが前提の策だ。…………もし、あのサルの魔物が出た時にリリーさんを呼び戻していれば……、リリーさんならこの状況を何とかできたかもしれない。そんなことを思ってしまい、私の心は後悔と罪悪感でいっぱいだった。私の策が裏目にでるとは思わなかった。そんな言い訳も心の中で思ってしまった。
完全に腰を抜かしたアースに魔物の群れが無慈悲にも迫る。ハンターウルフと呼ばれる魔物たちも相手が戦意喪失しているのを見て、勝ちを確信したようだった。
『おい、サーズ先に行ってあの子供の腹を掻っ切れ』
『了解リーダー!』
「えっ…………」
私の耳に届いた言葉。その言葉はあのリーダー格の狼とそれに並走している狼のうちの一匹から聞こえた。他の人たちにはただの吠えている声にしか聞こえていないみたい……。だが、私には吠えている声に重なるように言葉が聞こえた。なんで? どうして私だけ? そんな疑問が湧いてくるのは至極当然のことだった。
どういうこと……私に心当たりなんて…………。あれか! ソティスが言っていた『声帯模写』の副次効果!
私はある結論にたどり着いた。初日の夢から覚めるときにソティスが言っていたことだった。次あった時に聞こうとしてたんだけど、仕事が忙しすぎてすっかり聞くのを忘れていた。
だが、魔物の声が分かったところで私にはあの魔物たちを倒せる力はない。村人たちもどうすることもできないようで呆然と立ち尽くしていた。
「……あ……誰か…………」
「……………………ほんと馬鹿だなぁ…………私」
そんなことを小声で呟きながらも、私はすでにアースに向かって走り出していた。私が結界の境界線を越えるころには、後ろで村の人たちが何か言っていたが、内容は聞き取れなかった。走っている私の頭の中はサーズと呼ばれた狼からアースを助ける、そのことでいっぱいだった。
もはや、アースとサーズとの距離が五メートルもなくなった時、サーズが鋭い爪を持った右の前足を振り上げながら、アースへと飛びかかった。その爪は木々の隙間から入る日差しに反射して輝きを放っていた。あれを喰らえば子供の皮膚など簡単に切り裂いてしまうことが容易に分かってしまった。だが……
「ギリッギリィィセェェェェェェェェェェェェフッ!?」
「!?」
『!?』
『!』
間一髪サーズの爪がアースに届く前に、腰の抜けているアースを抱きかかえその場から離脱することができた。急に抱きかかえられ命の危機から助かったアースは目を点にして驚いていた。帰宅部の足を舐めるなよ狼ぃ~。こちとら平日には朝と下校時間に毎日部活動してんだよ。まぁ、私は家じゃなくてバイト先にダッシュで向かってたけどね。
何とかアースの危機を救った私は、そのままアースを抱きかかえ結界の方へと向かう。だが、そう上手くはいかないようで……
『サーズ! そのまま獲物の前に回り込め! ペンタ! お前は獲物の後ろをとれ! サーズと挟撃となる形にしろ!』
『! 了解リーダー!』
『承った!』
勝ちを確信していたハンターウルフたちは獲物を仕留めそこなったことで硬直していたが、すぐにリーダー格の狼が気を取り戻して、指示を出す。しかも、嫌な指示を出してくる。ここから結界まで一本道だからね。挟み撃ちはシンプルにつらい。
リーダーの狼の声で正気に戻った狼たちが指示通りに動く。今私の前に陣取っているのは、サーズとかいう狼と後ろからはペンタと呼ばれた狼が迫っている。だが、私は決して止まることはしない。ぶっちゃけ生きて帰るには、サーズを躱して結界までに到着するほかない。今はお荷物を抱えていることだしね。
「お前、なんで……」
「うっさい。黙って。説教はあんたの嫌いな大人たちにしてもらいな」
私の顔を見ながら、聞いてくるアースに対して突き放すように言葉を投げかける。多分なんで助けたのか聞いてるんだとは思う。正直、ほんっっっっっっとうにろくでもないことしかしない。そんな風に思っているのは間違いないのだが、助けた理由を聞かれると、言語化ができないというか、私にもよく分からない。
『今だ! 逃げる足を狙え!』
『いただき~!!』
『その足もらったぁ!!』
後ろにいるリーダーの狼から攻撃の指示が飛んでくる。前からは引っ掻きが後ろからは噛みつきが私の足に向かって襲い掛かる。どちらも喰らえば走れなくなること間違いなしだが、私は横っ飛びに回避し、そのまま、サーズを抜き去った。結界の中に居る村人たちも私の回避を見て驚いている。
「~~っ!」
『ウソォ!』
『なんと……』
悪いんだけど、私には魔物の声が聞こえる。当然後ろからリーダーの狼が発している指示も聞こえている。狙う場所、タイミングが聞こえているなら回避は容易い。これもあのリーダーの狼の的確な指示のおかげだ。せいぜい利用させてもらおう。
サーズを抜き去った私と結界までの距離はもはや、十メートルもない。これなら間に合う! そう思っていたとき……
『そこだぁ! フォース!』
『いよっしゃぁぁぁぁ!!』
「!?」
走っている私の隣の木々の隙間から狼が一匹飛び出してくる。そのまま、私とアースを切り裂かんと爪を振り下ろしてくる。伏兵!? いや、後ろにいる狼の数が五匹になっている。おそらく、サーズとペンタと呼ばれる狼とのやり取り中に林の中を通って、私に気づかれないよう先回りしたんだ!
”ハンターウルフ”その名前が付けられた理由は、魔物とは思えない程、的確にそして狡猾に獲物を仕留めること。そして狙った獲物は絶対に逃がさない性質。ハンターウルフと戦った者たちは皆、人間の狩人と戦ったみたいだと口をそろえて言うことから名づけられた。
(まっっずいけど……)
「終わってたまるかぁっ!?」
私は迫りくる爪を横目に抱きかかえているアースを結界に向かって投げる。
「!?」
多少地面に転がったがギリギリ結界の中に入ったようだ。地面に転がったアースに村人たちが駆け寄り保護する。これで安心だろう。
「ぐえっ」
走っているスピードやら遠心力などを使って思いっきり子供一人を放り投げた私は、ものの見事にすっころんだ。だが、転んだおかげで私に向かってくる攻撃は間一髪当たらなかった。
『なにぃぃぃぃぃぃぃぃ~~!?』
(これも躱すか!)
私はすぐに立ち上がるが、腕に鋭い痛みが走った。
「っ!?」
見てみると、私の腕から切られたような傷があった。間一髪躱したと思ったが、どうやらかすっていたらしい。血がドクドクと流れ、メイド服を汚していく。だが、幸い傷自体はそんな深くない。痛みはあるが動けないわけではなく、むしろ足を切られなくてよかったと思った。
立ち上がった私は状況を整理する。結界の前にはフォースと呼ばれた狼がいて行けそうにない。後ろから追ってきている狼たちは私を囲うように広がりながら向かって来ていた。
どうする……、結界に行こうにもフォースとかいう狼が邪魔……、でもこのまま立ち止まっていれば囲まれて終わり……どうする。
現状を理解した私は生き残るための選択をとる。私は道の隣にある林の中へと入っていく。そのあとを狼たちが追って林に入ってくる。
ここから私と狼との地獄の逃走が始まった…………
狼の名前一覧
リーダーの”エース”
恥ずかしがりやな”ツイン”
お調子者の”サーズ”
元気な”フォース”
武人気質な”ペンタ”
だらけるのが好きな”ロック”
…………安直すぎでは?
あとめっちゃ長くなりました。




