壁に叩きつけろぉぉぉぉぉ!!?
勢いよく王都を出発して一時間後、私は……
「ぜぇ……ぜぇ…………はぁ……………………んぐっ……」
息を切らしながら疲れ果てていた。今は私の体力をかんがみて木陰で小休憩中である。
村には走って向かっているんだけど、リリーさんの走るスピードが速すぎて……。ついていこうにも距離は離されるばかりだった。そんな私を見てリリーさんは走るスピードを調節して走ってくれていた。魔物が出るかもしれない場所ではぐれるのは危険だからね……。だけど、この一分一秒が惜しい状況でこれは申し訳ない……
「大丈夫ですか?」
「じゃないです……」
心配そうな雰囲気を出しながら聞いてくるリリーさんに、私は簡素な返事をして対応する。ぶっちゃけそんな余裕はない……。ていうか
「こういう時って大抵、馬とかで行くんじゃないですか……」
「……乗れるんですか?」
「……乗れませんけど」
頭の中で思いついた疑問を反射的に言ってしまう。それに対してリリーさんはバッサリと切るような返しをしてくる。世知辛ぇ……
「リリーさんは乗れるんですか?」
「――私はなぜか馬に好かれないので……」
「……すいません」
微妙な空気が私とリリーさんの間に流れる。ま、まぁ仕方ないですよ、うん。動物は気まぐれなところあるし……
「しかし、このままマオさんの回復を待っているのは時間的に惜しいですね……」
そう、こんな会話をしている暇はない。いち早く魔物に襲われている村に早く向かわないといけない。結構回復したので、そろそろ出発しようとリリーさんに言おうとしたとき、考え込んでいたリリーさんが何かを思いついた。
「マオさんを私が抱きかかえて行くのはどうでしょう?」
「……はい?」
なんてことのないように言ったリリーさんの言葉に私は一瞬思考が停止した。いや、絶対そっちの方が遅いでしょ。
「冗談ですか?」
「いえ、そっちの方が確実に早いです」
「うそん……」
「任せてください。こう見えて、結構鍛えていますので」
「いや……あの……ちょっと……」
おもむろに私に近づいてきたかと思うと、私を俵担ぎの状態で持ってしまった。いや、この状態で走られるのはきついし、怖いというか……
「しっかり捕まっててください」
「だったらもうちょっとマシな運び方してくださぁぁぁぁい!?」
私の絶叫が街道に響きながら、凄まじい速度で駆け抜けていく。絶対にあとで文句言ってやる…………
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走るリリーさんに抱きかかえられながら、村に張られた結界を通り抜ける。結界を通り抜ける際は何か暖かいような感触がした気がした。
「着きましたね、ここが……」
グロッキーとなっている私を下して村を見渡すリリーさん。……くっそ、実際に私が走るより早く着いてるだろうから文句言えない……。
出発する前は走って三時間とおっさんが言っていたが、途中の休憩とかで時間が使われているのに、二時間で到着してしまったのでリリーさんに文句を言いにくい状況。ていうかリリーさん、人一人抱えて走り抜けられるってどんな力と体力してるの……なになら出来ないんだこの人……
リリーさんの人外っぷりにビビるマオ。そんなことを思いつつ村を見渡す。所々爪で引っ搔かれた壁や崩れている石レンガの山などあるが、大きな被害といえるのは目に見えてなさそう。ここに来るまでは幸い、魔物に襲われなかったし、例の熊の魔物も見当たらなさそう……。
被害の確認をしていた私たちを見つけたのか、教会から映画で神父役の人が着ているような服をまとった、若い男性が出てきた。
「あなたたちは……どうしてメイドがここに?」
「初めまして神父さん。私たちは”サンライト公爵家”の者です」
「! あなたたちが……来てくださりありがとうございます!」
サンライト公爵家と聞くと神父さんが目の色を変える。こんな辺境の地まで名が知れてるんだなと、公爵家の影響力の大きさを感じる。
「件のキメラベアはどうしました?」
「それは、なんとか村から追い出しましたが……またいつ襲ってきてもおかしくないです。私が張った結界もいつまでもつかどうか……」
申し訳なさそうに神父が言う。村人たちに魔物はきついだろうに……逆に追い出させただけでも凄いことでしょ。
「そうだ! ここに来るまでの途中女の子を見かけませんでしたか! 実は一人見当たらない子がいるんです……」
「……申し訳ありませんが、見ておりません。ですが、必ず見つけましょう」
「……はい。私たちでは結界の外に出ようにも、魔物に対処する術がありませんから……」
一泊置いてリリーさんの言葉に返事をする神父さん。リリーさんが生きて見つけましょうと言わなかったことで、その行方不明になっている女の子が魔物に襲われて死んでいる可能性も考慮しているということだ。神父さんもそれを分かってすぐには返事できなかったんだろうな……。あまりの不条理に私もやるせない気持ちになる。
「とりあえず教会の中で話ませんか? 村人たちはここに避難しているので……なにか気づいた方もいるかもしれません」
「分かりました」
そう言って教会の中に入る二人の後を追う。なんていうか私が話すようなことがないな……。リリーさんも手慣れた感じだし。
教会の中は人でごった返していた。小さな村だけど、この村に住んでいる村人が、ほとんどこの中にいるんだからそうなるか。見渡すと、怪我の治療をしてもらっている人や毛布にくるまって壁に寄りかかっている人もいる。すると、大声で泣く子供の声が教会の中に響き渡った。
「……っ、…………えぐっ、…………ひっく、……うえぇぇぇぇんっ……」
「……ぐすっ、…………っ、…………」
「大丈夫だからね……心配しないで……」
おそらく母親であろう女性が泣いてる幼稚園児くらいの子供二人を必死にあやそうとしていた。だが、子どもは泣き止まる様子はなく、母親も一人を抱っこしながら困っている様子だった。
「…………」
「マオさん?」
「――っ!? なんですか?」
「いえ、子どもの方を見ていましたので……大変そうですね。私がいくと顔で怖がられそうですし……」
「そんなことは……」
少し自虐の入ったリリーの言葉を神父さんがやんわりと否定する。だが、マオはそんな会話に入らず、泣いている子どもたちの一点を見ていた。
「…………そうだよね…………リリーさん、神父さん」
「? なんでしょう?」
「はい?」
「――ぬいぐるみとかってあります?」
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「だいじょうぶ? きみたち?」
「……?…………っ、…………うぇっ、……」
「っ、…………ひくっ、…………おねぇちゃんは………………?」
子供の目線にあう高さにしゃがみ込んで、泣いている二人の子どもに話しかける。一人は男の子で片方は女の子のようだ。見た感じ男の子の方が兄で、男の子の方が先に泣いてしまって、つられて妹の女の子の方も泣いてしまったという感じだろう。
「すみません……すぐ泣き止ませますんで……」
母親らしき人が申し訳なさそうに私に謝ってくる。それに対しだいじょうぶですよ~と優しく返し、再び子供たちの方に目を向ける。
「おねぇちゃんたちはねー、王都からわるーいクマさんを退治しにきたんだよー」
「……えぐっ、………………ほんとに?………………」
泣きはらした目元をこすりながら男の子が聞いてくる。こすったら目が赤くなっちゃうだろうに……
「ほんとだよー、ほら!」
そう言って、デフォルメされた女の子の人形とテディベアのようなクマのぬいぐるみを取り出す。二人の視線も取り出された人形たちに釘付けとなった。
『がおー、ニンゲンなんてたべちゃうぞー!』
「そんなことはさせないぞー、騎士のわたしが来たからにはおまえなんて魔法で一発だ!」
私は取り出した人形たちを使って即興の人形劇をし始めた。ちなみにクマの声は私の『声帯模写』を使って、元の世界に居る体育教師の松本の声を使っている。私の声を聞いて母親らしき人がこっちを凝視してた。まぁ、女子高生くらいの女から、かなり太い男の声が聞こえてきたら、そりゃそっちを見るよね。子供たちも私の声のおかしさに気づいてか、ふふっと笑うような声を出してくれた。
最近になってようやく『声帯模写』の”混合魔法”を使えるようになったんだよねー。夢の中での魔力操作の特訓が無駄ではなかったとようやく感じた。……やけにベタベタ触ってきたり、膝枕してとか言ってきたり、特訓しようにも私と二人だとコミュ障こじらせる魔女どもから耐えたかいがあった……。
ちなみに攻撃魔法が使えないと言ったが、厳密には少し違う。私の『声帯模写』は”風”と”光”の混合だから風と光の初級の魔法は使えるんだけど……問題があった。それは、私の持っている魔力の量で、普通の人に比べて私は極端に少ないらしく、初級魔法を一発撃つだけで魔力切れになってしまう。魔力切れになると体の倦怠感が凄まじくて、まともに動くことも出来なくなってしまうほどだ。そういうことから私は”基本魔法”を実質使えない状況なのだ。その点『声帯模写』は声を変えるだけなので、私でも一日に何回も使えるほど滅茶苦茶燃費がいい。
話を戻して、子どもたちを泣き止ますために即興の人形劇を続ける。
「くらえー! 風のまほうー!」
『ぐわーっ!?』
そうやってクマが魔法を受けた展開にすると、私はクマのぬいぐるみを思いっきり壁に叩きつけた。もう一度言おう、壁に叩きつけた。綺麗なフルスイングだったと心の中で評価しておく……。遠目で私たちを見ているリリーさんは無表情のまま噴き出していて、神父さんは口を開けてポカンとしていた。
「あっはははは!」
「ふふっ、クスクスッ……」
私の一連の行動を見て、子どもたちが泣くことをやめて、声をあげて笑い始めた。いやー泣き止んでよかった。壁に叩きつけることで驚いて泣き止んでもよかったし、最悪私のことを変な目で見られることも覚悟していた。笑ってくれてほんとよかった……
「ようやく笑ってくれたね……こんな風にわるーい魔物をやっつけて、みんなを守ってあげるからねー。だから、心配しないで教会の中でママと一緒に待っててねー」
「……ほんと? また外で遊べるの?」
「ほんとだよ……鎧を着た人たちがこの村に向かって来てるからね。外に出たら何がしたい? 鬼ごっこ? かくれんぼ?」
「……ドッジボール」
「……私はだるまさんがころんだ」
私は子供たちに何で遊びたいかを聞く。まだまだ遊び盛りの歳だから外遊びがしたいようだ。その微笑ましい回答に少し心が温かくなる。
「そっか……じゃあおねぇさん、ドッジボールやだるまさんがころんだができるように頑張るから、応援しててね」
そう言って、子ども二人の頭を撫でる。子供たちもだんだんと笑顔になって撫でられるのを受け入れてくれた。ミッションコンプリート……
「ほんとにありがとうございますっ……」
「おねぇちゃん! がんばってね!!」
「がんばれー!!」
「うん!」
母親の人からお礼をもらい、手を振ってくれる子供たちに手を振り返しながらその場を後にする。もちろんぬいぐるみも回収してね。そのまま、見ていた神父とリリーさんのところへ戻った。
戻ったら神父さんはこっちをニコニコ笑顔で見てくるし、リリーさんは纏う雰囲気がなんか明るいというか…………いや、これ神父さんと同じでニヤニヤしてるんだ! 分かるようになってきたんですからね! やったことに後悔はないけど少し恥ずかしい……。赤くなっている顔を二人に向けないようにする。
「マオさんは楽しい人ですね」
「そうですね……えっとマオさん? でいいんですか?」
「あっはい。マオでも大丈夫ですよ」
そういえば名前言ってなかったなと思い出した。まぁ、私も神父さんの名前知らないけど。ちなみにリリーさんは私が子供をあやしている途中に名前を教えたらしい。
「ではマオさん。この度はありがとうございます」
神父さんが私に対して頭を下げる。別に大したことはしてないと思うんだけど……
「いや、私はリリーさんが子供たちのこと気になってたからやっただけで……」
「嘘です。確かに気になってたのは事実ですが、マオさんが泣いている子どもたちをジッと見てたのを知ってますから」
「うえっ!? いや、あの、リリーさん少し黙ってもらって……」
後ろから容赦なく刺してきたリリーさんに少し恨めしくなったが、先にリリーさんを理由にしようとしたのは私だからなにもいえねぇ……
「ふふっ、そうですか……。こんな状況ですから、あなたのような人がとても大切なんだと思います」
なんか、神父にそう言われると、やってよかったって思いが強くなった。……私は戦うことができないから少しでも役に立とうとしただけなんだけどね。
「では、子どもたちのためにも、これから魔物や”魔女の残り火”をどうするか話合いましょう」
「えぇ、そうですね」
教会の中で私たちはこれからの行動について話し合った。さて……私も子供たちにあんなことを言った以上頑張るとしますか……
一発(躱されなければ)カスダメを与えて、あとはお荷物になる主人公……
ちなみに裏話として混合魔法の設定を作っている時、「あれ、これって某忍者漫画の血継げんか(殴……」ということを思いました。
あと、松本。お前の声はこれからフリー素材な。




